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役立たずスキル再翻訳で追放されたけど、世界の概念を書き換える最強チートでした。辺境の貧乏村を最高の楽園に開拓します  作者: 黒崎隼人


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第6話「守護者とは、守るべきもののために立つ者である」

 王都での交易を終え、僕は忘れられた谷への帰路についていた。


 荷馬車は行きとは逆に、たくさんの物資で満たされている。塩、砂糖、薬、布地、新しい農具の予備。そして、リリアや村の子供たちへのお土産も少しだけ。


 僕の心は、不思議なくらい晴れやかだった。

 追放された故郷である王都に、何の未練も感じなかった。むしろ、一刻も早く、あの谷に帰りたいという気持ちでいっぱいだった。


***


 順調に進んでいた帰り道、事件は起きた。


 森の中の街道を走っていると、道の真ん中に、大木が倒れて道を塞いでいるのが見えた。


『……ん?』


 不自然だ。嵐があったわけでもないのに、こんな見事な大木が倒れるなんて。

 僕は馬車を止め、慎重に周囲を警戒した。


 すると、道の両側の茂みから、ガサガサと音がして、数人の男たちが姿を現した。

 薄汚れた身なり、ギラギラと貪欲に光る目、手には錆びた剣や斧。

 一目で分かる。盗賊だ。


「ひひひ、待ってたぜ、兄ちゃん。ずいぶんと景気のいい荷物じゃねえか」


 リーダー格と思しき、傷だらけの顔をした大男が、下卑た笑いを浮かべて言った。


「悪いが、その荷物、全部置いてってもらおうか。もちろん、その立派な馬もな。言うことを聞けば、命だけは助けてやってもいい」


 盗賊たちは、じりじりと僕の馬車を取り囲んでくる。その数、およそ10人。

 なるほど、街道に木を倒して獲物を待ち伏せる、古典的な手口か。


『面倒なことになったな』


 僕は、やれやれとため息をついた。

 もし僕が一人だったら、適当にあしらって逃げることもできる。しかし、荷馬車には村の大切な物資が積まれている。これを奪われるわけにはいかない。


 つまり、選択肢は1つ。

 ――こいつらを、全員、排除する。


「おい、聞いてんのか、小僧!さっさと馬車から降りろ!」


 盗賊の一人が、苛立ったように叫んだ。


 僕は、ゆっくりと御者台から立ち上がった。


「なあ、あんたたち。今すぐここから立ち去るなら、見逃してやってもいい。それが、最後の慈悲だ」


 僕の言葉に、盗賊たちは一瞬きょとんとした後、腹を抱えて笑い出した。


「ぎゃははは!なんだこいつ、寝ぼけてんのか!?」


「小僧一人が、俺たち相手に何ができるってんだ!」


 リーダー格の大男が、大斧を肩に担ぎ直し、僕を睨みつけた。


「ほざいてろ。お前みたいな生意気なガキは、痛い目を見ないと分からねえようだな!」


 大男が、雄叫びを上げて、僕に向かって突進してきた。

 他の盗賊たちも、それに続く。


『やれやれ。話し合いで解決できれば、それに越したことはなかったんだが』


 僕は、静かに目を閉じた。

 そして、スキルを発動する。


 対象は、僕の足元、街道の地面そのもの。


『【再翻訳】、発動。対象、この「固い地面」。翻訳後の概念、「底なしの沼」』


 僕が立っている場所だけを残して、馬車を取り囲んでいた盗賊たちの足元の地面が、ぐにゃり、と液体のように変化した。


「なっ!?うわあああ!?」


「足が!足が沈む!」


 盗賊たちは、突然現れた沼に足を取られ、次々とバランスを崩して倒れ込む。もがけばもがくほど、体は深く沈んでいく。


「な、なんだこりゃあ!?魔法か!?」


 大男は、かろうじて膝まで沈んだところで踏みとどまり、驚愕の表情で僕を見ていた。


「言ったはずだ。見逃してやると」


 僕は、冷たく言い放った。


「さて、どうする?このまま、沼の底に沈むか?それとも、武器を捨てて降参するか?」


 盗賊たちは、顔を見合わせ、恐怖に顔を引きつらせている。

 彼らにとって、目の前で起きている現象は、理解の範疇を完全に超えているだろう。


 やがて、リーダーの大男が、悔しそうに歯ぎしりしながら、手にした大斧を沼に投げ捨てた。


「……くそっ!分かった、降参だ!助けてくれ!」


 他の盗賊たちも、それに倣って次々と武器を捨てた。

 僕は、それを見届けると、再びスキルを発動した。


『【再翻訳】、発動。対象、「底なしの沼」。翻訳後の概念、「元の固い地面」』


 沼は、まるで幻だったかのように消え去り、元の街道の地面に戻った。

 泥だらけになった盗賊たちは、這うようにして地面から脱出し、震えながらその場にうずくまっている。


「さっさと失せろ。2度と僕の前に現れるな」


 僕がそう言うと、盗賊たちは蜘蛛の子を散らすように、森の奥へと逃げていった。

 一人残らず。


『ふう。まあ、こんなものか』


 僕は、倒れていた木に手をかざし、「ただの枯れ葉」に再翻訳して道を確保した。そして、何事もなかったかのように、再び馬車を走らせ始めた。


 この一件で、僕は改めて自分の力の異常さを認識した。

 使い方次第では、人を傷つけることも、殺すことだって、容易にできてしまう。

 この力は、慎重に使わなければならない。

 守るべきものを、守るために。


***


 数日後、僕は懐かしい谷の入り口が見える場所まで戻ってきた。


 村の煙突から、夕食の支度だろうか、白い煙が立ち上っているのが見える。


『ただいま』


 心の中で、そうつぶやいた。

 村の入り口に馬車が差し掛かると、見張りをしていた村人が僕に気づき、大声で叫んだ。


「カイリ君が帰ってきたぞー!」


 その声を聞きつけて、村人たちが家から飛び出してくる。

 その中には、リリアの姿もあった。


「カイリ!」


 リリアは、僕の名前を叫びながら、全力で駆け寄ってくる。

 そして、馬車が止まるか止まらないかのうちに、御者台に飛び乗ってきた。


「おかえり、カイリ!」


「ああ、ただいま。リリア」


 満面の笑みを浮かべる彼女を見て、長旅の疲れが、すっと消えていくのを感じた。


 村に戻った僕は、英雄のような歓迎を受けた。

 王都で手に入れた物資を広げると、村人たちから大きな歓声が上がる。

 特に、生まれて初めて口にする砂糖の甘さに、子供たちは大はしゃぎだった。


 その夜、僕の無事の帰還と、交易の成功を祝って、また宴会が開かれた。

 広場には、僕が買ってきた塩と香辛料で味付けされた、美味しい料理が並ぶ。

 誰もが笑顔で、笑い声が絶えない、幸せな時間。


 僕は、そんな光景を眺めながら、この村を守るという決意を、改めて固めていた。


 しかし、この時の僕は、まだ知らなかった。

 この村の平和が、新たな脅威に晒されようとしていることを。

 そして、僕の力が、本当に試される時が、すぐそこまで迫っていることを。


***


 宴会が終わり、人々が寝静まった深夜。


 僕は、一人で村のはずれにある見張り台に登っていた。

 昼間の盗賊との一件が、どうにも心に引っかかっていたのだ。


『あの程度の盗賊なら、問題ない。でも、もし、もっと強力な敵が現れたら?例えば、魔物の大群とか、あるいは……国の軍隊とか』


 考えすぎだろうか?

 いや、備えておくことに、越ししたことはない。


 僕はこの村を守ると決めた。

 そのためには、何が必要か。


『そうだ。村そのものを、要塞にしてしまえばいい』


 僕は、眼下に広がる村を見下ろしながら、壮大な計画を思いついた。

 村の周囲に、高い壁を築く。

 入り口には、頑丈な門を設置する。

 村の至る所に、迎撃用の仕掛けを施す。


 僕の【再翻訳】スキルがあれば、それも可能だ。


『対象、「村の周囲の地面」。翻訳後の概念、「難攻不落の城壁」』

『対象、「村の入り口」。翻訳後の概念、「鋼鉄の城門」』


 次々と、新たな概念を構築していく。

 これは、村の再建ではない。

 村の「防衛」だ。


 僕は、静かな決意を胸に、夜空を見上げた。

 満月が、僕の計画を、静かに見守っているようだった。

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