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役立たずスキル再翻訳で追放されたけど、世界の概念を書き換える最強チートでした。辺境の貧乏村を最高の楽園に開拓します  作者: 黒崎隼人


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第3話「出会いとは、未知との遭遇の別名である」

 忘れられた谷での生活が始まった。


 僕に与えられた寝床は、村の集会所の隅にある、藁を敷き詰めただけの簡素なものだった。でも、野宿に比べれば、比較対象にすることすらおこがましいほどの天国だ。屋根があって、壁がある。それだけで、涙が出そうなほどありがたかった。


***


 翌日から、僕は村の仕事を手伝うことになった。


 主な仕事は、畑仕事。村の数少ない食料源である、麦や芋を育てる手伝いだ。

 しかし、初日から僕は途方に暮れることになった。


「うわ……なんだこれ」


 リリアに案内されてやってきた畑は、想像以上にひどい状態だった。

 地面はカチカチに固く、ひび割れている。生えている麦の穂は、どれもこれも元気がなく、ひょろひょろと頼りない。これでは、十分な収穫など望めそうにない。


「すごいでしょ、この畑。どんなに耕しても、どんなに水をやっても、これなんだ。まるで呪われてるみたい」


 リリアは、クワを肩に担ぎながら、自嘲気味に笑った。


「村の年寄りたちは、『谷の土が、もう死んじまったんだ』って言ってる。昔は、もっと豊かな土地だったらしいんだけどね」


「……」


 僕は黙って、足元の土をひと掴みしてみた。

 指の間から、砂のようにさらさらとこぼれ落ちていく。生命力が、まったく感じられない。これでは、作物が育たないのも当然だ。


 村人たちが使っている農具も、ひどいものだった。

 僕が渡されたクワは、刃の部分が欠けて錆びついている。これでは、固い土を耕すことすらままならない。


『なるほど。問題は山積み、か。食料、道具、そして土地そのもの。まさに三重苦』


 でも、今の僕には、その三重苦を解決できるかもしれない力がある。

 僕は、自分の持っている錆びたクワを見つめた。


『試してみるか。まずは、手始めに』


 僕はリリアや他の村人たちから見えないように、こっそりと納屋の陰に隠れた。そして、手に持ったクワに意識を集中させる。


『スキル【再翻訳】、発動。対象は、この「刃こぼれした錆びクワ」。翻訳後の概念は、「新品同様の鋭いクワ」』


 スキルを発動した瞬間、手に持ったクワが、カシャン、と軽い音を立てた。

 見ると、刃こぼれしていた部分は滑らかになり、赤黒い錆は跡形もなく消えている。代わりに、鈍い鋼の輝きがそこにあった。まるで、たった今、鍛冶屋から受け取ってきたばかりのような、完璧な状態のクワだ。


「……よし」


 僕は小さくガッツポーズをした。

 これならいける。


 僕は何食わぬ顔で畑に戻り、そのクワを思い切り地面に振り下ろした。

 ザクッ、という小気味良い音と共に、刃がカチカチの土に深く食い込む。今まで村人たちが苦労していたのが嘘のように、簡単に土を耕すことができた。


「えっ!?カイリ、あんた、すごい力持ちなんだな!」


 僕の様子を見ていたリリアが、目を丸くして驚いている。


「いや、力持ちっていうか、道具がいいだけだよ」


 僕はそう言って、クワをひらひらと振って見せた。


「道具?それ、あたしが貸したやつと同じじゃん。刃、欠けてなかった?」


「ああ、石で研いだら、案外きれいになったんだ」


 とっさに、そんな嘘をついた。

 リリアは「へえ、器用なんだな」と感心したように頷き、それ以上は追及してこなかった。素直で助かる。


『よし、次は他の道具だ』


***


 僕はその日のうちに、村にある農具を片っ端から「再翻訳」していった。


 刃が欠けたカマは「鋭い切れ味のカマ」に。

 歯が抜けたスキは「頑丈な歯を持つスキ」に。

 柄が折れかかったクワは「丈夫な柄を持つクワ」に。


***


 翌日、生まれ変わった農具を手にした村人たちは、誰もが驚きの声を上げた。


「なんだこりゃ!すげえ、土が楽に掘れるぞ!」


「このカマ、雑草がスパスパ刈れる!」


 畑仕事の効率は、劇的に向上した。村人たちの顔にも、少しずつ笑顔が戻ってきた。


「カイリ、あんた、本当に何者なんだ?ただの家出少年じゃないだろ?」


 休憩中、リリアが僕の顔をじっと見つめながら言った。その瞳は、真剣そのものだ。


「さあ、どうだろうな。定義上は、ただの家出少年だけど」


 僕は肩をすくめて、おどけてみせた。


「またそれだ。その『定義上』って口癖、なんなのさ」


 リリアは、ぷうっと頬を膨らませる。

 その仕草が、なんだか年相応で可愛らしいと思ってしまった。


***


 農具の問題は解決した。


 次は、家だ。この村の家は、どれも老朽化が進んでいる。壁には隙間風が吹き込み、屋根は雨漏りする。これでは、冬を越すのは厳しいだろう。


 僕は村長に申し出て、村の家々の修繕を請け負うことにした。

 もちろん、村人たちは半信半疑だ。大工仕事の経験もないような少年が、何十軒もの家を修理できるわけがない、と。


「カイリ君、気持ちはありがたいが、無理はしなくていいんだぞ」


 村長さんは、困ったように笑った。


「大丈夫です。僕に考えがありますから」


 僕は自信たっぷりにそう言うと、手始めに、一番ボロボロだった集会所の屋根に取り掛かった。


 梯子を登り、屋根の上から全体を見渡す。

 穴だらけで、瓦は割れている。ひどい有様だ。


 僕は、屋根全体を自分の認識範囲に収めるように、意識を集中させた。


『【再翻訳】、発動。対象、この「穴の空いたボロ屋根」。翻訳後の概念、「雨風を完璧にしのぐ頑丈な屋根」』


 僕の足元で、ミシミシ、と木が軋むような音がした。

 見ると、割れていた瓦がひとりでに繋がり、空いていた穴がみるみるうちに塞がっていく。まるで、時間を逆再生しているかのような、不思議な光景だった。


 数分後、そこには新品同様の、美しい屋根が出来上がっていた。


「……できた」


 僕は屋根の上で、仁王立ちになって宣言した。

 下で見ていた村人たちは、あんぐりと口を開けたまま、言葉を失っている。


「……な、なんだ、今の……」


「魔法……か?」


「いや、でも、あの子は詠唱なんてしてなかったぞ……」


 ひそひそと交わされる会話が、風に乗って聞こえてくる。

 その中で、リリアだけが、キラキラとした目で僕を見上げていた。


「すごい……すごいよ、カイリ!あんた、もしかして、伝説の『聖大工ゴッド・カーペンター』なの!?」


「なんだその変な二つ名は」


 思わずツッコミを入れてしまった。

 聖大工て。もう少しマシなネーミングはなかったのか。


 その日から、僕の村での立場は一変した。

 「不思議な力を持つ少年」として、村人たちから尊敬と、少しばかりの畏怖の念を向けられるようになった。


 僕は次々と、村の家を修繕していった。

 壁の隙間を「存在しないもの」に。

 腐った柱を「百年の風雪に耐える柱」に。

 ガタつく扉を「滑らかに開閉する扉」に。


***


 数日もすると、忘れられた谷は、まるで新築の村のように生まれ変わった。


 村人たちの喜びようは、大変なものだった。夜には僕のために宴会まで開いてくれた。

 そこで振る舞われたのは、相変わらず硬い黒パンと味の薄いスープだったけれど、みんなの笑顔が、最高のスパイスだった。


「カイリ君。君は、この村の救世主だ」


 宴会の席で、村長さんが涙ながらに僕の手を握った。


「大げさですよ。僕は、僕ができることをしただけです」


「いや、君がしてくれたことは、我々が何十年も諦めていたことだ。本当に、ありがとう」


 感謝されるのは、少し気恥ずかしかったけれど、悪い気はしなかった。

 アルクライト家にいた頃は、感謝されるどころか、存在を疎まれるばかりだったから。


『居場所、か』


 生まれて初めて、そんなものを手に入れたような気がした。


***


 宴会が終わり、僕は夜空を見上げるために、一人で外に出た。


 満月が、生まれ変わった村を煌々と照らしている。


「カイリ」


 不意に、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、リリアが立っていた。


「どうしたんだ、こんな時間に」


「んー、なんとなく?カイリ、あんた、本当に何者なの?今度こそ、教えてよ」


 リリアは、まっすぐな目で僕を見つめてくる。

 その瞳から、僕は逃げることができなかった。


「……僕は、ただのカイリだよ」


「嘘だ。ただの人が、あんなことできるわけないもん」


「……僕のスキルは、物事を少しだけ『良くする』力なんだ。そうとしか、説明できない」


 それは、嘘ではなかった。

 【再翻訳】は、悪い概念を良い概念に書き換える力。ある意味では、その通りだ。


 リリアは、僕の答えに納得したのか、していないのか、しばらく黙り込んでいた。

 やがて、彼女はふっと微笑んだ。


「そっか。まあ、いいや。カイリがカイリであることには、変わりないもんね」


 彼女はそう言うと、僕の隣にちょこんと座った。


「ねえ、カイリ。道具も家も、あんたのおかげで立派になった。でも、一番の問題がまだ残ってるの、分かる?」


「……ああ。畑、だろ?」


「そう。あの土地だけは、どうしようもない。あれさえ何とかなれば、この村は……」


 リリアの言葉は、期待と、そして諦めが入り混じっていた。


 僕は、夜風に吹かれながら、遠くの畑に目をやった。

 道具や家といった「人工物」は、比較的簡単に再翻訳できた。

 だが、土地という「自然物」、それも広大な範囲にわたるものを書き換えることができるだろうか。


 それは、僕の力にとって、初めての大きな挑戦になるだろう。


「大丈夫だ」


 僕は、隣に座る少女に、そして自分自身に言い聞かせるように、つぶやいた。


「なんとか、してみせるよ」


 僕の言葉に、リリアは嬉しそうに笑った。

 その笑顔を守りたい、と。

 柄にもなく、そんなことを思った。

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