表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
役立たずスキル再翻訳で追放されたけど、世界の概念を書き換える最強チートでした。辺境の貧乏村を最高の楽園に開拓します  作者: 黒崎隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/15

第13話「再翻訳戦争とは、言葉で世界を救う物語である」

 王国軍が撤退してから数日後、希望の谷には、穏やかな日常が戻ってきた。


 いや、以前よりも、もっと活気に満ちた日常、と言うべきだろうか。

 村人たちは、自分たちの力で、強大な敵を退けたという自信に満ち溢れ、その顔は、誰もが誇らしげに輝いていた。


「カイリ様!おはようございます!」


「賢者様、今日も良いお天気ですな!」


 村を歩いていると、あちこちから、そんな声がかかる。

 いつの間にか、僕には「様」付けや、「賢者」なんていう、大げさな二つ名が定着してしまっていた。正直、むず痒くて仕方がない。


「もう、カイリもすっかり、この谷の英雄だね」


 僕の隣を歩くリリアが、楽しそうにからかってくる。


「やめてくれ。僕には、そんなガラじゃない」


「またまたー。照れちゃって」


 リリアは、くすくすと笑っている。

 その隣では、ミナが、僕の服の袖を、ぎゅっと握りしめていた。

 彼女も、もうすっかり、この村の生活に慣れたようだ。僕やリリアのそばを、片時も離れようとしない。


 あの戦いは、後に「再翻訳戦争」と呼ばれるようになった。

 誰が名付けたのかは知らないが、言い得て妙だと思った。

 血を一滴も流さず、ただ、言葉の、概念の力だけで、戦争を終わらせたのだから。


 この一件は、行商人たちの口を通じて、瞬く間に、大陸中に広まった。

 『辺境の谷に、王国軍を退けた、謎の力を持つ賢者がいる』

 『その谷は、地上の楽園であり、あらゆる望みが叶う場所だ』


 噂は、尾ひれがついて、どんどん大きくなっていった。

 その結果、希望の谷には、以前にも増して、多くの人々が訪れるようになった。

 新しい技術を求める職人、安全な土地を求める農民、そして、僕の力を一目見ようとする、好奇心旺盛な冒険者たち。


 村は、日に日に、その規模を拡大させていった。

 僕たちは、移住を希望する人々を、厳しく審査した上で、受け入れていった。

 この谷の平和を乱すような人間は、たとえ、どんなに優れた技術を持っていようと、受け入れるわけにはいかないからだ。


***


 ある日、僕は、リリアとミナを連れて、村を見下ろす丘の上にいた。


 眼下には、もはや「村」とは呼べないほどの、大きな町が広がっている。

 活気に満ちた人々の声、槌を打つ音、子供たちのはしゃぐ声。

 それらが、心地よい音楽のように、僕の耳に届いた。


「すごいね。カイリが、この村に来てから、まだ、1年も経ってないのに」


 リリアが、感慨深げに言った。


「ああ。本当に、色々なことがあったな」


 追放されて、森をさまよっていた、あの日のことが、まるで、遠い昔のことのように感じられる。


「カイリは、これから、どうするの?この谷を、もっと大きくしていくの?」


「さあ、どうだろうな。僕は、ただ、みんなが、笑って暮らせる場所であれば、それでいいと思ってる」


 僕の答えに、リリアは、優しく微笑んだ。


「うん。あたしも、そう思う。この谷が、大好きだもん」


「……カイリ」


 不意に、ミナが、僕の服の袖を、くいっと引っ張った。


「どうした、ミナ?」


「……ずっと、いっしょ?」


 ミナは、不安そうな瞳で、僕を見上げてきた。

 その銀色の瞳には、また、いつか、独りぼっちになってしまうのではないかという、かすかな恐怖が揺れていた。


 僕は、そんな彼女の頭を、優しく撫でた。


「ああ、もちろんだ。ずっと、一緒だ。僕も、リリアも、村のみんなも、ずっと、ミナのそばにいる。約束だ」


 僕がそう言うと、ミナの表情が、ぱあっと、明るくなった。

 彼女は、安心したように、僕の胸に、こてん、と頭を預けてきた。

 その温かさが、僕の心に、じんわりと染み渡る。


 僕には、もう、帰るべき家はない。

 でも、僕には、守るべき「家族」がいる。

 リリアも、ミナも、そして、この谷で暮らす、全ての人々が、僕の大切な家族だ。


『これで、良かったんだ』


 僕は、心の底から、そう思った。

 アルクライト家に生まれていれば、僕は、きっと、こんな幸福を知ることはなかっただろう。

 追放されたことは、僕にとって、最大の不幸であり、そして、最高の幸運だったのかもしれない。


「ねえ、カイリ」


 リリアが、何かを思いついたように、言った。


「なんだ?」


「この谷ってさ、カイリのスキルがなかったら、生まれなかったわけじゃない?だったら、この町の名前、カイリの名前にちなんだものにするのは、どうかな?」


「はあ?僕の名前?」


「うん!例えば、『カイリの都』とか、『カイリア』とか!」


「……却下だ」


 僕は、即答した。

 そんな、恥ずかしい名前、たまったもんじゃない。


「えー、なんでよー!いい名前だと思うけどなー」


 リリアは、不満そうに、頬を膨らませる。

 その横で、ミナが、「カイリア、いい……」なんて、つぶやいている。


「お前まで、何を言ってるんだ、ミナ」


 僕たちは、顔を見合わせて、笑い合った。

 こんな、他愛のない、穏やかな時間が、これからも、ずっと続いていく。

 そんな、確信にも似た、予感がした。


 ふと、僕は、自分のスキルについて、考えていた。

 【再翻訳リ・トランスレート】。

 それは、世界の理を書き換える、神にも等しい力。

 でも、本当に、そうだろうか。


 僕がしてきたことは、ただ、「悪いもの」を「良いもの」に、書き換えてきただけだ。

 「不毛」を「豊穣」に。

 「壊れたもの」を「使えるもの」に。

 「恐怖」を「安心」に。

 「戦意」を「郷愁」に。


 それは、世界を創造するような、大それた力じゃない。

 ただ、そこにあるものを、少しだけ、良い方向に、解釈し直す力。

 物事の、見方を変える力。

 それこそが、僕のスキルの、本質なのかもしれない。


 だとしたら、この力は、誰にでも、使えるのかもしれない。

 スキルなんてなくても。

 絶望的な状況にあっても、そこに、希望を見出すこと。

 憎しみの中に、愛を見つけ出すこと。

 それもまた、一つの、「再翻訳」と言えるのではないだろうか。


「……なんてな」


 僕は、小さくつぶやいて、空を見上げた。

 どこまでも、青く、澄み渡った空が、広がっていた。


 僕の物語は、ここで、一つの区切りを迎える。

 でも、僕たちの人生は、これからも続いていく。

 この、希望の谷で。

 大切な仲間たちと、共に。


 定義上、これは、ハッピーエンド、ということになるのだろう。

 まあ、悪くない。

 いや、最高に、悪くない結末だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ