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役立たずスキル再翻訳で追放されたけど、世界の概念を書き換える最強チートでした。辺境の貧乏村を最高の楽園に開拓します  作者: 黒崎隼人


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第1話「定義上、これは追放劇の始まりらしい」

登場人物紹介


◆カイリ: 本作の主人公。ユニークスキル【再翻訳】を持つ少年。エリート魔術師の家系に生まれるも、スキルの価値を理解されず追放される。皮肉屋でひねくれているように見えるが、根は優しく、仲間思い。自身のスキルを駆使して、辺境の村で新たな居場所を築いていく。口癖は「まあ、定義的にはそうなるけど」。


◆リリア: 辺境の村の村長の娘。明るく元気で、太陽のような笑顔が魅力の少女。よそ者であるカイリを最初に受け入れ、彼の良き理解者となる。行動力があり、カイリを引っ張っていく存在。カイリの起こす常識外れの出来事にも驚きつつ、一番に喜んでくれる。


◆ミナ: 銀狼族の獣人の少女。奴隷商人に追われていたところをカイリに助けられる。臆病で人見知りだが、心を開いた相手にはとても懐く。もふもふの尻尾と耳が特徴。カイリの作る温かい料理が大好き。

「本日をもって、カイリ・フォン・アルクライトを我がアルクライト家より勘当する。未来永劫、その名を名乗ることも、我が家の敷居をまたぐことも許さん」


 荘厳にして壮麗、悪趣味なまでに豪華絢爛な謁見の間で、僕の父親――便宜上そう呼んでおくべき男、アルクライト公爵は、まるで芝居の台詞みたいにそう言い放った。感情の欠片も乗っていない、マニュアルを読み上げるような声だった。


 その声を聞きながら、僕は床に敷かれた、やたらと毛足の長い絨毯の模様を数えていた。赤と金の糸で織られた、獅子だか何だかの紋様。17個目の獅子のたてがみの部分に、小さなほつれがあるのを見つけた。


『ああ、あのほつれ、半年くらい前からずっとあるな。誰も気にしないんだろうか。それとも、気にしないんじゃなくて、気づいてすらいないのか。いや、あるいは、気づいた上で放置するという高等戦術か。完璧なものより、少し欠点がある方が愛嬌がある、みたいな』


 そんな、心底どうでもいい思考を巡らせていた。だってそうでもしないと、やっていられなかったから。


 僕の目の前には、父親だけじゃない。母親、そして僕より2つ年上の兄が、まるで裁判官みたいにずらりと並んでいる。彼らの顔は、能面のように無表情だ。いや、よく見れば、その瞳の奥には侮蔑と、ほんの少しの安堵みたいな色が滲んでいる。


 面倒払いができてよかった、と。

 出来損ないを処分できてよかった、と。


 そう言いたげな顔だった。

 まあ、無理もない。この世界において、15歳で授かるスキルこそが、その人間の価値を決定づける。絶対的な指標であり、揺るぎない身分証だ。


 アルクライト家は代々、強力な攻撃魔法の使い手を輩出してきたエリート魔術師の家系。炎を操る【紅蓮の支配者】、氷を統べる【絶対零度】、雷を呼び寄せる【万雷の王】。兄のアルフレッドが授かったのは、その中でも特に希少とされる【時空干渉】だった。時間の流れを緩め、空間を歪める、まさに規格外のスキル。


 対して、僕が授かったスキルは、【再翻訳リ・トランスレート】。


 スキルの名前を聞いた鑑定士は首をひねり、父親は眉をひそめ、兄はあからさまに鼻で笑った。


 その効果は、「ある言葉を、別の言葉に置き換える」というもの。例えば、頭の中で「リンゴ」を「ミカン」に再翻訳すると、僕が「リンゴ」と言っても、相手には「ミカン」と聞こえる。それだけ。


 ただそれだけの、意味不明で、役立たずで、戦闘にも生産にも何の役にも立たない、ゴミみたいなスキル。それが、僕という人間の価値だった。


「カイリ。何か言うことはあるか」


 父親が、最後の慈悲とでも言いたげな口調で尋ねる。


 僕は絨毯の模様から視線を上げ、彼らの顔を順番に眺めた。誰も僕の目を見ようとはしない。まるで、汚物でも見るかのような視線だ。


『言うこと、ねえ。例えば?「今まで育ててくれてありがとうございました」とか?あるいは「どうか考え直してください、この通りです」と泣いて命乞いでもしろと?冗談じゃない』


 僕はゆっくりと立ち上がり、服についた埃を払うふりをした。


「いえ、特に何も。定義上、これは追放劇ということになるんでしょうから、僕はそれに従うだけです」


 僕の言葉に、兄の眉がぴくりと動いた。


「カイリ、貴様、その態度は何だ。自分がどういう状況か分かっているのか」


「分かっていますよ、兄さん。僕は出来損ないで、アルクライト家の恥だ。だから、こうして捨てられる。至極真っ当な、論理的な帰結じゃないですか」


 僕は笑ってみせた。多分、ひどく歪んだ、醜い笑顔だったと思う。


「まあ、安心してください。僕はもう2度とあなた方の前に姿を現しません。アルクライトの名も使いません。ただのカイリとして、どこかでのたれ死にますから」


「……」


 兄は何か言いたげに口を開きかけたが、結局、忌々しげに顔を背けた。父親は、そんな僕の言葉に満足したのか、小さく頷いた。


「よかろう。衛兵、こいつを屋敷から叩き出せ。持ち物は、今着ている服だけで十分だ」


「はっ」


 左右に控えていた鎧姿の衛兵が、無言で僕の両腕を掴む。抵抗する気も起きなかった。ただ、引きずられるままに、僕は謁見の間を後にした。


 最後に1度だけ振り返ると、母親が初めて僕の方を見ていた。その目に浮かんでいたのは、憐憫でも悲しみでもなく、ただ、得体の知れないものを見るような、そんな冷たい色だった。


『ああ、そっか。僕はもう、息子ですらないんだな』


 その事実が、やけにすとんと胸に落ちた。


 屋敷の重厚な扉が、僕の背後で無慈悲な音を立てて閉まる。衛兵たちは僕を地面に突き飛ばすと、さっさと門の内側に戻っていった。


 僕はしばらくの間、地面に突っ伏したまま、空を眺めていた。貴族街の、切り取られたような四角い空。ついさっきまで僕がいた世界と、今僕がいる世界を隔てる、絶対的な壁。


 ポケットを探ると、幸運なことに、銅貨が数枚だけ入っていた。今日の昼食を抜いて、こっそり買ったお菓子の残りだ。こんなことなら、もっと高いお菓子を買っておけばよかった。


『さて、どうしたものか』


 立ち上がり、服の汚れを払う。当てもなく歩き出す。貴族街のきらびやかな街並みが、やけに目に痛い。すれ違う人々が、汚れた僕を見て、ひそひそと何かを噂している。その視線が、針のように突き刺さる。


 僕には何もない。家も、家族も、金も、そして価値のあるスキルも。

 あるのは、この役立たずな【再翻訳】のスキルと、着の身着のままのこの身体だけ。


***


 王都の門をくぐり、僕は振り返らなかった。もう、振り返るべき場所など、どこにもないのだから。


 日が暮れ、夜になり、また日が昇る。


 僕はただひたすら、街道を歩き続けた。時々、親切な行商人の荷馬車に乗せてもらうこともあったが、ほとんどは自分の足で歩いた。


***


 銅貨は3日目になくなった。そこからは、地獄だった。


 空腹が、身体の内側から僕を蝕んでいく。最初は胃がキリキリと痛むだけだったのが、やがて思考そのものを鈍らせていく。


『ああ、これが飢えか。なるほど、理性が削られていく感じがする。思考が「食べ物」という一点に収束していく。面白い。面白くはないけど』


 森に入り、食べられそうな木の実を探したが、知識のない僕に見つけられるはずもなかった。川の水を飲んで腹を膨らませるが、すぐにまた空腹が襲ってくる。


***


 追放されてから、1週間が経った頃だろうか。


 僕はもう、自分がどこにいるのかも分からなかった。ただ、獣道をふらふらと歩いていた。足は鉛のように重く、視界は霞んでいる。


 ごろり、と無様に転んだ。地面に転がっていた、ただの石ころにつまずいて。


「……あ、はは」


 乾いた笑いが漏れた。もう、起き上がる気力もなかった。仰向けに倒れたまま、木々の隙間から見える空を見上げる。青い空に、白い雲がゆっくりと流れていく。


『ああ、ここで終わりか。まあ、悪くない終わり方かもしれないな。誰にも看取られず、静かに、世界の部品に還っていく。うん、詩的だ』


 空腹で、もう何も考えられない。意識が遠のいていく。

 その、本当に最後の瞬間に、ふと、僕のスキル【再翻訳】のことが頭をよぎった。


『役立たずスキル。ゴミスキル。でも、僕に与えられた、たった1つの力。最後に、何か面白いことでもやってみるか』


 僕は霞む目で、すぐそばに転がっている石ころを見た。僕をつまずかせた、憎き石ころ。


『例えば、そうだ。「石ころ」を、「焼きたてのパン」に……再翻訳』


 スキルを発動する。いつもなら、ただ頭の中で言葉が置き換わるだけ。何の現象も起きないはずだった。


 なのに。


 ふわり、と。

 香ばしい、小麦の焼ける匂いが鼻をくすぐった。


『……幻覚、か。いよいよだな』


 しかし、匂いは消えない。それどころか、どんどん強くなっていく。

 僕は最後の力を振り絞って、首を動かした。


 そして、見た。


 さっきまでそこにあったはずの、灰色で、冷たくて、無価値な石ころが、こんがりと焼き色のついた、ほかほかと湯気の立つ、丸いパンに変わっているのを。


「…………は?」


 声にならない声が、喉から漏れた。

 何かの間違いだ。疲労と空腹が見せる、都合のいい夢だ。


 僕は震える手で、そのパンを掴んだ。

 温かい。柔らかい。間違いなく、パンの感触だ。


 おそるおそる、それを口に運ぶ。

 ちぎって、口の中に入れる。


「……う、ま……」


 サクッとした歯ごたえの後に、ふんわりとした甘みが口いっぱいに広がる。

 涙が、ぼろぼろとこぼれた。空腹のせいか、安堵のせいか、それとも別の何かなのか、自分でも分からなかった。


 僕は夢中で、そのパンをむさぼり食った。

 今まで食べたどんなご馳走よりも、それは美味しかった。


 胃に食べ物が収まると、鈍っていた思考が少しずつクリアになっていく。

 そして、ようやく、僕は理解した。


『まさか。僕のスキルは、言葉を置き換えるだけじゃなかったのか?「石ころ」という『存在』そのものを、「パン」という『存在』に、その『概念』ごと書き換えた?』


 だとしたら。

 だとしたら、なんだ?

 この力は。


 この、世界中の誰もがゴミだと笑ったスキルは、本当は。


『世界の理そのものに干渉する、とんでもない力なんじゃないのか……?』


 僕は、自分の手のひらを見つめた。

 追放され、全てを失ったと思っていたこの手の中に、とてつもない可能性が眠っていることに、今、ようやく気づいたのだ。


 まあ、定義上、これは追放劇の始まりだったのかもしれない。

 でも、あるいは。


 これは、僕という人間の、本当の人生の始まり、なのかもしれない。

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