宝石共鳴師は今日もキラキラな宝石の化身とクエストに行きます
「通信費、家賃、先月落札したピジョンブラッドルビーの分割代……」
スマホの家計簿アプリを確認し、私は深々と溜息をついた。画面に表示された残高は、私の心と同じくらい冷え切っている。
「……うん、よし。今すぐ宝採ギルドに行こう」
私の名は色斗。現代を生きる『宝石共鳴師』の一人だ。
宝石共鳴師――通称はニジマス――とは、宝石から特殊なエネルギーを引き出し、様々な事象を解決する専門職である。国が認める公的資格と言えば聞こえは良いが、その実態は往々にして『ただの石オタク』だったりすることも多い。あまり知られてはいないけれども。
「色斗様、ご安心ください! いざとなったら僕がどこかに身売りして、色斗様を億万長者にしてみせます!!」
自身の胸に手を当て、揺るぎない忠誠心を見せる彼の名は、アイオライトだ。薄茶色のサラサラな短い髪と、やや紫がかった青色の瞳を持つその青年は、宝石の化身――リトスアーム――である。
「イオくん、それ絶対にやめてね。もしそんなことになったら私も臓器とか何でも売って、必ずイオくんを買い戻すから」
通常、宝石共鳴師が宝石の力を借りる時は、当然だが石の状態からエネルギーを引き出す。きらめく宝石に力を貸して欲しいと呼びかけ、それに呼応した宝石がエネルギーを各種の能力として出現させるという訳だ。
しかし私の場合は、どうにも宝石への愛が重すぎるらしい。私が呼びかけた宝石たちは一様にして自発的な意思を持ち、自律行動可能な人の姿になって召喚されていた。
「そ、そんな……」
「ふっ、色斗の勝ちだな。イオはもっと自分を丁寧に扱え。それが彼女への愛の証明だ」
イオくんが項垂れる横で、何故か勝ち誇った顔をしているのは、リトスアームのチタナイト。キラキラした金色の短い髪と琥珀色の瞳を持つ、王子様のような青年である。因みにイオくんも、顔立ちはとても美しい。
「色斗さん、大丈夫ですよ。そんなに身構えなくても、ルース代くらいすぐ稼げます」
そんなやり取りに微笑むのは、三人目のリトスアームだ。ピンク色のふんわりした短い髪に、落ち着いた赤色の瞳をしているロードクロサイト。他の二人より背が低くて少年のようにも見える彼は、私にとって何よりの癒しである。
「ありがとう、ロサくん。とりあえず依頼こなさないと本当にヤバイから、一緒に宝採ギルド行ってくれる?」
「勿論です。頑張りましょうね」
ふわりと笑みを浮かべるロサくん、マジ天使。
「僕もお供致します、色斗様!」
「いつも通りだ、色斗。俺たちがついているのだから、何も心配する必要はない」
「あ、ありがとうございます……」
皆、優しい。本当に有難い。
きっと端から見れば、私はイケメン三人を侍らせた勝ち組なんだろう。
だが悲しいかな、そんな素敵な宝石たちの主人である人間は、会話が苦手なコミュ障陰キャの石オタクである。いつも一緒で慣れた三人のリトスアーム以外との対面は、たとえ最も通う場所の人々であっても、足取りが重くなってしまうほどだった。
この街の宝採ギルドは、市役所をもう少し気安い雰囲気にしたような感じだ。固すぎず軽すぎない丁度いい塩梅で、陰キャでも入りやすいのは大変助かっている。受付では今日も宝石共鳴師たちが、何かしらの依頼を受注していた。
「あ、あの、ええと……すみません。この依頼を受けたいんですが……」
精一杯の発声で受付の職員に声をかけ、私はスマホ画面を示す。映し出されているのはギルドの公式アプリで、受注したい案件の読み取りコードが表示されている。
「かしこまりました。少々お待ちください」
流れるような動作で対応してくれる職員は、サーディンさんと言う女性だ。にこやかで物腰の柔らかい人なので、いつもできるだけ彼女がいる窓口を選んでいる。
「受注希望は……『公園で紛失した石の捜索』、報酬は依頼人の『お小遣い一ヶ月分』の案件で宜しかったでしょうか?」
「あ、はい。そうです。合ってます」
「ご確認ありがとうございます。ではこちらで、確定させて頂きますね」
無事に依頼が取れてホッとしていると、後ろから聞こえよがしの声が響いた。
「ねえ、あの子さあ。リトスアーム三体も連れてる癖に、落とし物探しに行くらしいよ」
「はあ? 馬鹿なの?」
「マンティコア仕留めて素材提供すればいいじゃん。一生暮らせるだろ」
「リトスアームが居る意味とは」
思わず眉をひそめたが、何とか取り繕って契約書を受け取る。
うっすらとリトスアームたちの憤りも肌に感じるが、堪えてくれているようだ。私は可能な限り目立ちたくないし、衝突は元より、他者との関わりを持ちたくなかった。
「宝石の力を借りる価値があるかどうかは、心の在り方だよ」
ギルドの建物から出た私は、誰にも聞こえない声で呟く。
そんな私を冷静にしてくれたのは、契約書の中に記された依頼人の直筆メッセージだ。
――友だちになった石をさがしています。ニジマスさん、たすけてください。
私にとって、これよりも大事な依頼があるだろうか。
件の公園に到着すると、保護者の女性に連れられた小さな女の子が待っている。
失くしたのは、石英の小石だそうだ。ぱっと見でも何となく透き通っているのが分かるような、綺麗な個体なのだという。
「大丈夫だよ、すぐ見つかるからね」
人見知りなのか、女の子はこちらをじっと見つめてから小さく頷く。
私はそれにちょっとだけ親近感を覚えたけど、ちゃんと反応ができる時点で私よりずっとコミュ力が高いなと思い直した。
「さて、ようやく出番かな」
チタくんがすっと前に出て、こちらを振り返る。
「うん。チタくんとイオくんは、公園全体の波長探査を。ロサくんは植物への聞き取り調査をお願いします」
「承知した」
「お任せください、色斗様!」
「分かりました」
私が指示を伝えると、三人のリトスアームは頼もしい笑みで応えてくれた。
チタナイトとアイオライトという宝石は、強い多色性を持っている。多色性とは見る方向の違いにより、色が変わって見える性質のことだ。その影響で、チタくんとイオくんは『異なるモノ』に対するエネルギー操作が得意なのである。つまりは石英の波長とそれ以外を判別できるので、公園のどこに石英があるかが分かるのだ。
そしてロードクロサイトは、名前の由来が薔薇を意味する言葉から来ている。ゆえに植物に関係する能力が高く、植物と共鳴して対話することも可能な訳だ。
「あそこだな」
「間違いないね」
「皆さんもそう言っています」
ほどなくして、リトスアームたちは女の子の小石を見つける。
そこは太く長い葉の草が密集する場所で、小石は隠れるようにして落ちていた。
「わあ、綺麗」
「ほんと?」
私が小石を拾い上げながらつい漏らした言葉に、女の子が尋ねてくる。
「うん、とっても綺麗だよ。素敵なお友達だね」
「ありがとう、ニジマスさん!」
手渡した小石を握りしめ、女の子は頷いてお礼を言ってくれた。
そのキラキラした笑顔に、心が救われる。
そうして依頼を完了した私たちは、女の子から報酬である数枚の硬貨と、宝石みたいなキャンディを受け取った。
「それはそれとして、マンティコア案件どうしようかな……」
優しい味のキャンディを舐めながら歩く、夕暮れの帰り道。
私の脳裏には、家計簿の残高表示が蘇ってくる。
「俺たちは構わないが、ああいう見た目の獣は平気なのか?」
「……ごめん。やっぱり、やめとく」
「駆除のような緊急性がある案件じゃないからね。色斗様が無理する必要はないよ」
「うん……ありがとう、イオくん」
「とりあえず、今日は温かいものを食べましょう」
「そうだね、ロサくん。何にしようか」
そんな風にして、今日も私のリトスアームたちとの日々は過ぎていくのだった。
―おわり―




