いつだって私は、姉を追う。
姉の背中を追い続けた少女の話です。
これは、誰かの剣ではなく、
自分の剣を見つけるまでの物語。
学校帰り、墓の前にしゃがみ、手を合わせた。
私の手にはマメができているのを感じた。
「カッコだけは一流なのにね。ま、頑張ってみるけどさ」
同じ道を辿れば、
いつかは、姉さんと同じ場所に立てるよね。
姉は、いつも私の先をいく。
試合でも、結果でも。
私はそれに着いていくので精一杯だった。
だけどもう、そこに姉の姿は見えなくなっていた。
それでも私は竹刀を握る。
道場での稽古。
私はひたすら打ち込む。
背中に濡れた何かを感じる。
天音「掃除、よろしく」
同時に笑い声が、遠ざかっていくのを感じた。
私は振り返らなかった。
姉も、きっとこうしていたはずだから……
帰宅後。
私は家の蔵で稽古する。
姉がしていたように……
いつものように竹刀を持って素振りしていると、
それは突然、私の手から離れた。
竹刀は勢いよく、蔵の中の物を倒していく。
「……ゲホッ。早く掃除しないと……」
蔵の中を見ると、背筋が凍った。
片付けているうちに、私はいろんな物を見つける。
私が取ったことのないトロフィー、二人姉妹の写真、
使い古された竹刀。
……ん? 見たことのないものが目についた。
「なんだろ? この箱」
何年、いや、何十年も前の物なのだろうか。
年季の入った木箱を開けると、石が入っていた。
よく見ると、文字が書かれている。
手に取ってみると、少し重い、ただ文字が刻まれた石。
――あれ?
ドンッ!
蔵の中に鈍い音が響く。
足元を見ると、石の破片が散らばっていた。
それと同時に、私の左手が表面から痺れるのを感じた。
なんだったんだろう、あれは。
持ち上げた瞬間、力が抜けていった。
私は何もわからないまま、朝を迎えた。
翌朝。
あれ、アラームが鳴ってない。
時計を見ると九時三十分。まずい、遅刻確定だ。
「よし、今日はゆっくり行こう」
学校に着くと、私はいつものようにノートへペンを走らせる。
「あっ……」
消しゴムが、左手から滑り落ちた。
放課後。
小林「珍しいね。いつも遅刻なんてしないのに。
なんかあったの?」
「ただの寝坊だよ」
小林「三崎さ、手ボロボロじゃん。最近、張り詰めすぎなんだよ」
そう言って、小林は私の頭を軽く叩く。
「痛いなぁ。大会の選抜、今回こそは選ばれたいからさ」
そんな会話をしているうちに、もう部活の時間。
「じゃあまたね」
二人は手を振り合う。
小林「あんまり思い悩むなよ、姉貴のことで……」
そして私は、道場へ足を踏み入れた。
カンッ、と複数の音が道場全体に響き渡る。
それもそのはず、今日は地区大会出場者を決める、
トーナメント式の試合だ。
上位三位以内に入れば、地区大会に出場できる。
対戦相手を見て、息をのむ。
天音さんだった。
天音さんは毎度四位。
姉がいなくなったことで、上位三位は余裕だと言われている。
「はじめ!」
師範の合図が道場中に響き渡る。
今回こそ――。
竹刀がぶつかり合う。
やっぱり強い。
一つ一つの技の威力、技術、すべてが私を上回っている。
しまった……隙を突かれた。
私は全力で避けの姿勢に入ろうとした。
――だが、それよりも早く、左手が動いた。
竹刀がぶつかり合う鋭い音が響き、
何かが床に落ちる音がした。
目の前を見ると、相手は何も手にしていなかった。
隙を見て、私は思い切り竹刀を振る。
師範「勝者、剣田三崎!」
周囲の視線が、一気に私へ集まる。
剣道部員「嘘でしょ、天音が負けた?」
「今回は四位どころか、初戦敗退って……」
帰り道、あの時のことを思い出していた。
あの瞬間、私は確かに避けようとした。
だけど急に、左手が反応し、相手の竹刀を弾き返したのだ。
その時、左手を動かした感覚はなかった。
昨日の蔵での出来事以来、やっぱり左手に
何かが起きている気がする。
しかし、天音が負けた時のことを思い出すと、
少し複雑だった。
まるで、自分が勝ったのではないような気がしてならない。
それに、剣筋は姉のものとは確実に違っていた。
「家に帰ってからも稽古だ!」
そう気合を入れ、私は自宅へと足を急がせた。
???「ちょっと待ちなよ」
聞き覚えのある声が、後ろから聞こえる。
振り返った瞬間、肩を掴まれ、壁に突き飛ばされた。
「ドンッ」
「痛い……天音さん?」
天音「よくもまぁ、恥かかせてくれたな」
「ごめん」
天音「姉が居なきゃ、何も出来ないくせに」
その言葉が、私の奥深くに突き刺さる……
――第一話・了
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