空回りの絆
川沿いの町に住むふたごの兄弟、拓也と悠斗。
お互いに似ているところもあれば、全く違う部分もある。
ある日、流れの占い師がこの町にやってきた。
拓也と悠斗は、興味本位で占い師のところに行ってみたところ、
「二人の絆は、深くて強い。でも、道を間違えると分かれてしまう」
と告げられ、どういうことかと頭をひねる。
生まれてからいつも一緒。
小さい頃は同じベッドで寝ていたし、二人同時に風邪を引けば同時に治る。
絆が深くて強いのは何となく分かるとして、道を間違えると……?
よく分からないが、その言葉に二人は強い印象を覚え、「自分たちの絆を守らなきゃ!」と、それぞれ違った方向で翌日から行動を始めた。
拓也は、幸運を見つければ絆が深まると信じ、町のあちこちを歩き回って四葉のクローバーを探し始めた。公園や空き地、ありとあらゆるところで草をかき分け、毎日のように四葉のクローバー探しに没頭した。
一方の悠斗は、虹色の魚は幸運の象徴だといつか聞いた話を思い出し、虹色の魚を捕まえれば絆を強くできると信じて、川に入るようになった。店で網を買ったり、自作の罠を仕掛けたりと、来る日も来る日も川に通った。
数日が過ぎ、雨が降った日の翌日、二人はとうとう鉢合わせた。
優斗はいつも通り川で魚を探していて、拓也が川沿いの土手に四葉のクローバーを探しにやってきたのだ。
「おい悠斗! 何してるんだ、危ないだろ! 昨日は上流でも雨降ったんだぞ!」
拓也が川の中に悠斗の姿を見つけて声を張り上げれば、
「お前こそ、そのへんの土、ぐちゃぐちゃだろうが!!」
と、悠斗は叫び返す。
言い合いながら拓也が悠斗のほうに少し身を乗り出した瞬間、足がぬかるみに滑ってバランスを崩した。
「おっと……! っと、うわああああ」
と叫ぶや否や、そのまま川の方へと転がり始めた。
「あ、おい、拓也!!」
悠斗は慌てて拓也の方へと移動し、見事に拓也をキャッチ!
だが、そこで止まることはかなわず、二人は大きな水しぶきを立てながら川へと転がり落ちた。
お互い全身ずぶ濡れの姿に、顔を見合わせて、今度は笑い転げた。
ひとしきり笑った後、ふと拓也が尋ねる。
「悠斗、お前さ、虹色の魚を探してたんだろ?」
「拓也こそ、四葉のクローバーを探してたことくらい、俺にはお見通しなんだよ」
「「……俺たち、ふたごだもんな!」」
意見が合ったところで、肩を寄せ合った。
「あの占い師の人、何だったんだろうな。もうどっか行っちゃって、いないんだろ?」
「うん……でもさ、いつか大人になったら、道が分かれるのだって当たり前だよな。……そう考えると、俺たち何してたんだろうな」
「何だか、無駄なことしてた気がするな」
「まあな。でも、俺たち今はこうやって一緒にいるわけだし」
「道が分かれるどころか、むしろどんどん一緒に転がり落ちてる気がするな!」
二人は顔を見合わせ、あははと声を上げて笑った。
気付いたらすっかり西日になっていた。
川から上がり、土手を登り、二人は家路につく。
拓也はずっと手に握りしめていたクローバーを眺めながら、ぽつりと言った。
「……これ、全部三つ葉だった」
悠斗も空っぽの網を見つめ、
「俺も、虹色の魚、結局見つかんなかったし」
とつぶやく。
「でもさ、これが俺たちってやつじゃねえ?」
「違いない!」
信じていた幸運は見つけられなかった。
それでも、不思議と二人の心は晴れやかだった。
夕暮れの川辺、水面を跳ねた魚が夕日を受け不思議な色の光を反射し、風に揺れる土手の緑の中で、ひときわ目を引く葉がふわりと踊った。
ふたご座は陽気