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一 アルテリオ治療院の助手

 サーシャは夜明けとともに、寝台と机だけの狭い部屋で目覚める。臙脂(えんじ)色の長い髪をかきあげると、(はしばみ)色の瞳を寒さに細めた。冬も間近だが隙間風が多く、寒さで勝手に目が覚める。ぼろぼろの私服から数少ない仕事着に着替えると手早く髪をまとめ、日課にしている治療院の掃除にとりかかった。掃除の間には換気を行う。

 掃除が終わったら窓と扉はそのままに、続いて魔術具を順に立ち上げていく。換気用魔術具がふたつ、調合用魔術具がひとつ。いずれも大変に高額な品であり、サーシャの一年間の収入をまるごとつぎ込んだとしても、どれひとつとして買うことなど出来ない。しかしいずれもが治療や診察に必要不可欠なものばかり。サーシャは丁寧に立ち上げ作業を行っていく。

 それが済んだら備品や消耗品の補充を行い、予備の切れたものは配達を依頼する書き付けを残す。いつも昼にやってくる配達人に渡す予定だ。細々した作業の合間にも魔術具の立ち上げが適切に行われているか、時折確認に走っている。魔術具はいずれも、先の院長であるアルテリオ老師が導入したものだ。丁寧に扱っているため生きながらえているだけで、いつ不調になっても不思議ではない。修理さえもが高額なので、絶対に壊すわけにはいかなかった。いっそ、かんたんな不調であれば自分で治してどうにか使うこともあるほどだ。作業は慎重に行わねばならない。幸い、本日の魔術具はいずれも機嫌が良いようだった。サーシャはほっと息をつく。

 治療室、調合室、倉庫、待合室、休憩室の清掃、換気、魔術具立ち上げ、備品消耗品の在庫確認が全て完了し、ようやく早朝の準備が終了である。

 サーシャは自室に戻ると、昨日の残りのパンを取り出してもさもさと頬張る。堅さと歯ごたえで空腹を紛らわせながらサーシャは考えた。

(いつまで、助手の仕事をすればいいかな)

 サーシャ・ペルヴィス、十五才。五才のとき治療魔術師だった両親を事故でなくし、両親の師匠だった先代院長、アルテリオ老師に引き取られこの治療院に来た。アルテリオ老師はかつて王都で名を馳せた腕の良い治療魔術師で、患者も多く、また難病治療への助言を求めて多くの治療魔術師が来訪していた。サーシャはアルテリオ老師に育てられるかたわら治療魔術や人体、病気について多くを学び、ときには来客の対応なども任されてきた。ときには来客から治療について意見を求められ、発言のたびに「優秀なお弟子さんだ」と褒められて誇らしく育ってきた。当時は毎日が充実していて、両親のない天涯孤独の身だということなど気にもならなかった。アルテリオ老師のおかげで、診断魔術師になることができた。

 いつかアルテリオ老師のような、立派な治療魔術師になる日をサーシャは夢見ていた。治療魔術師は、診断魔術師のさらに上位にある身分である。弟子は師匠の元で学び、師匠から承認を得て、国王から首飾りを受け取るのだ。


 しかし、サーシャの幸せな生活は二年前に終わりを告げた。アルテリオ老師が持病で急死したのである。

 治療院はアルテリオ老師の息子であるバームフォーが継いだ。気性の荒い、痩せた中年男性である。バームフォーはサーシャの存在を持て余した。天涯孤独の子どもを放り出すのは、街中で開業する治療院として非常に外聞が悪く、やむを得ず助手として置いてやる、とサーシャ相手にはっきり言い放った。以降、サーシャは治療院の下働き兼助手として生きている。

 つまり、いまのサーシャには師匠がいない。アルテリオ老師はかつて、サーシャ以外にも多くの弟子を育てたそうだ。しかしバームフォーの妨害により、サーシャは兄弟子達の連絡先を知らない。他に師匠になってくれる人に心当たりもないため、治療魔術師になる道筋がサーシャには見えていない。


 開院時間が迫り、サーシャは玄関へ向かった。患者たちは皆朝の早い老人ばかり、玄関前に集まって喋りながら開院を待っているのだ。

「お久しぶりですね。ひざ、その後いかがですか」

「ありがとう。もうね、最近冷えて冷えて、全然歩けないの」

「すっかり寒くなりましたからね。さ、暖炉のそばにどうぞ」

 本日の先頭患者はなじみの老婆。元々悪かった足が加齢で症状が進み、今は定期的に治療を受けながらどうにか自力で歩いている。

「おはよう、サーシャ」

「おはようございます。今日はどうされましたか?」

 他にも何人かの顔見知りの患者に声をかけながら待合室を整え、順番を整えて治療室のバームフォーに声をかける。

「患者さん、いらしてますよ」

「おう、連れてこい」

 ドアにかかった看板を裏返して「開院中」にする。さあ、今日も治療のお手伝いをするのだ。まずは膝を痛めた老婆、続いて二日酔いの男性。足首を捻挫した若い女性はその後だ。


 午前最後の患者を見送るサーシャを、背後から呼び止める人があった。

「アルテリオ治療院にお手紙ですよ」

「どうも、お世話さまです」

 てっきりいつもの配達だと思って振り返ったら、妙に品のある紳士が手紙を差し出していた。手紙の外観は豪華で、封筒の紙は美しい型押し、さらに鮮やかな緑青色の蝋で封緘(ふうかん)がなされていた。こんなに気合いの入った手紙、もらったことはおろか見たことさえない。格のある貴族からの手紙と伺い知れた。こんな街中の治療院に、一体なんだというのか。封筒を表面に返してもバームフォーと治療院の宛名が書いてあるだけで、それ以上の情報はない。

 これは一体どちらの方から、と問おうとして紳士を振り向いたとたん、治療院の中から大声がした。昼休憩を待ち望むバームフォーだ。サーシャが扉の札を「休診中」にして戻らなければ、昼食が始められない。

「おい、サーシャ!早くしろ!!」

「今戻ります!」

 大声で中へと返事をする。

「すみません、戻らなくちゃ……あれ」

 再度紳士を振り向くと、今度はそこには誰もいなかった。一体さっきのは何だったのか。首をひねりながら院内に戻ると、昼食を待ち構えるバームフォーがお腹をすかせた熊のようにうろうろと休憩室を歩き回っていた。

「早く昼メシを……なんだこれ」

「わかりません。さっき貴族にでも仕えてそうな人が配達に来ていて」

「ほぉん」

 バームフォーが手紙の封を切る間に、サーシャは昼食の準備を急いだ。


 サーシャが早朝からバームフォーに呼び出されたのは、謎の手紙が届いた数日後のことである。突然だが、今日は治療院は休診になった。わざわざそんなことをして一体何事だろうか。サーシャは不審に思いながら呼び出しに応じた。バームフォーは言い放つ。

「俺は貴族付きの治療魔術師に雇われた。一刻も早く城に移り住めとのお達しが来ている。今日、この治療院を閉じて城に行くことにした」

「えっ」

「お前にも行ってもらうところがある、準備しろ」

 なにも治療院を閉じなくても良いではないか、それから治療途中の患者たちは一体どうなるというのか。先日の手紙がきっかけだと言うなら、もっと早くに説明がほしかった。そもそも、バームフォーも知るとおりサーシャは天涯孤独の身である。治療院を閉じられることは、住む場所がなくなることと同じだった。事態の重さに固まってしまっていると、バームフォーが人の悪い笑みを浮かべた。

「お貴族様から新しい仕事を頼まれた。うまくいけば、その後お前に治療魔術師の指導をできるかもしれんなぁ」

「!」

 サーシャがずっと助手の身に甘んじていたのは、サーシャに師匠がなく、治療魔術師の身分も得られないからだ。もしバームフォーに師事し治療魔術師の身分を得られれば、サーシャは自由の身になれるはずである。バームフォーの性格を考えると信用ならないのだが、長年の悲願である治療魔術師の身分をちらつかせられると、サーシャには拒絶できない。

 目を見開いたサーシャを見て満足そうに笑うと、バームフォーは手を振ってサーシャを追い払った。

「この後すぐに迎えが来る。さっさと準備をしろ」

 サーシャは慌てて自室へ戻る。この部屋や治療院、アルテリオ老師との思い出との別れが惜しい。アルテリオ老師の遺品は全てバームフォーが継いだため、サーシャは父代わりである師匠の形見を何も持っていない。持ち物も少なかったので荷造りはあっという間に終わった。

 できればアルテリオ老師の墓前に立ち寄りたかったが、バームフォーが細々とした用事を言いつけるため、その時間も、なじみの患者達に挨拶するような時間も見つけることはできなかった。用事の合間に貴族と数人の使用人が来たらしい。サーシャが雑用に追われる間に、使用人たちの人手や整頓魔術であっという間に荷造りが終わってしまった。アルテリオ老師が生前揃えた専門書や治療設備は荷馬車に詰め込まれ、治療に使う消耗品はどんどん捨てられて、治療院の建物はすっかり空っぽになってしまった。

 アルテリオ治療院の看板が外される。使用人とバームフォーが先頭の馬車、貴族と側仕えは二台目の立派な馬車。その後に荷馬車がつづき、そしてサーシャは荷物番として最後尾の荷馬車に乗せられた。見慣れた景色が遠ざかる。

(わたし、どこへ行くんだろう)

 不安が募る。急な移動に対して何も聞き出せなかった。せめて、何という貴族のもとで仕事をするとか、数日前からその予告をするとか、それぐらい教えてくれたっていいのに、と思うとやりきれない。上手な訊き方をすれば良かったのだろうか。もちろん、バームフォーのみならず貴族側も強引な可能性は往々にして高かった。平民相手に仕事をしていた治療院なのだから、多少強引に連れてきても宜しかろう、と思われていた可能性がある。それとも、あらゆる治療魔術師を集めてでも癒やしたい、病状の差し迫った患者がいるのだろうか。背景については何も分からなかった。

 それでもいい、バームフォーの補助で治療魔術師らしき仕事がきっとできるはず、そしてその新しい仕事がうまくいけば、きっと今度こそ治療魔術師の夢に向かっていけるはずだ。根拠のない漠然とした希望にすがって外をぼんやり眺めているうちに、荷馬車は街の出口を通り抜け、サーシャが五才からを過ごしたマスマロウの街をあっさりと離れた。涙も出なかった。感傷に浸る間もない、本当に唐突な別れだった。街を外から眺めるのも初めてで、それが別れのときなのが悲しいと思った。

 いつか、アルテリオ老師の墓参りに来られる時が来るだろうか。治療魔術師になって独立し、アルテリオ老師が建てた治療院を再建することは叶うだろうか。その時を願いながら、街が見えなくなるまでサーシャは後ろを眺めていた。


 数台の馬車は縦に連なって街道を進む。路面が悪いのか揺れがひどく、話していたら舌を噛みそうだった。同じ荷馬車に乗っている人はおらずサーシャひとりで、御者の男はサーシャを振り向きもしない。話し相手も特段話すこともなく、サーシャは心置きなく周囲の景色を眺めていられた。

 街道の周囲には草原と林と牧草地が広がり、合間に小さな建物が点在していた。かなり小さいので、たぶん、家ではない。ただの作業小屋と思われた。身体のどこにどんな筋肉や骨、臓器が存在するかサーシャはよく知っているが、地理に関してはからきしだった。この国のどこにどんな領地があって誰が治めているとか、貴族に仕えているわけでもないので全く知識がなかった。正直なところ、今向かっている方角さえ怪しい。日は高いからそろそろ昼だろうか。日のある方向に向かっているから南……で、よいのだろうか。分からない。でも、目的地ははるかまだ遠くであることだけは分かった。先頭馬車のさらに先を見ても、隣の街らしき何かさえ全く見えてこなかったからだ。その先頭馬車が、不意に速度を緩めた。二台目の馬車と並列して進む間に、御者たちと、おそらくお貴族様が会話をしたらしい。やがて、先頭馬車が左に向きを変え、二台目からがそれに続いた。サーシャの乗る荷馬車がこれに続き、林の近くに着いた頃、サーシャも休憩らしいと気がついた。


 一団が休憩場所に選んだのは、街道のすぐ近くに設けられた広場だった。揺れが止まって、サーシャもほっと息をつく。まだ揺れているような気分がして頭がふらふらした。

 広場は、林の端を切り拓いて作られたもののようだった。広場の中は草のない地面で、その周囲に小高い木々がまばらに生え、広場の地面に木陰を落としている。木々の足下にはまだらに下草が生えていた。林の奥は鬱蒼(うっそう)とした森で、真昼が近いのにほんのりと薄暗かった。

 広場の真ん中にはたき火の跡があった。貴族の使用人らしき、揃いのお仕着せを着た人たちがここで作業をはじめた。発火魔術や調理魔術を使える人が混ざっていたのだろうか。あっという間に新しくたき火が燃え上がるのが見えた。

 広場の外側、森の手前には小川が流れていて、数頭の馬がそこで水を飲んでいた。御者たちは馬を監督する者と、水を補給する者などに別れて作業をしている。周囲を警戒するために立っているだけの者もいた。

「おおい、そこの飼い葉を取ってくれんか」

 周囲をきょろきょろと見渡すサーシャにかける声があった。馬に水を飲ませていた御者だった。荷馬車には草っぽい匂いの柔らかい塊がいくつもあって、こっそり疲れたときの背もたれに使っていた。そのひとつを抱えて、荷車の真下にいる御者の男に手渡す。かさばる割には、心配するほど重くはなかった。

「これですか?」

「おう、それだそれだ。ありがとな。馬たちにはまだまだ走ってもらわんといかんからな」

 御者は馬車の近くに飼い葉を小分けに置いていく。水を飲み終えた馬がこれを目当てに定位置に戻っていき、飼い葉を食み始めた。御者は手早くその首を馬車につないでいく。

 荷馬車の壁にもたれてぼうっとそれを眺めていると、他の作業をしていた別の男が戻ってきて、これを手伝い始めた。会話が聞こえる。

「えらい細いな」

「そりゃ、お前と比べりゃなんでも細いだろうがよ」

「そういうことじゃねぇよ。あれでレクトゥム様のお相手が務まんのか、って話だよ」

「いやぁ……あー、まあ……レクトゥム様だから、なぁ。……ここだけの話、むしろそういう方がお好きだとかなんとか聞いたことはあるぞ。噂だけなら」

「うっそだろ?!」

「馬鹿野郎、声がでかい」

「すまんすまん。だってさ、あんなに小っちゃいんだぞ。それが、なぁ。かわいそうに」

「成人間近って聞いたけどな」

「尚更酷じゃねぇか」

 レクトゥム様とは誰だろうか。これから向かう貴族の城に居る人だろうか。この人を治療することになるのだろうか。バームフォーは確かに痩せてはいるが、かなりの長身で……と思い、やがてサーシャは、男達の会話の対象が自分であることに遅まきながら気がついた。

(わたし、売られる?!)

 考えてみれば、バームフォーは自分を治療魔術師の助手として残すなど一言も言わなかった。彼は父の拾った子を捨てれば体面が悪いからサーシャを置いているだけなのだ、と常々公言してはばからなかったし、嫌なら出て行けばいい、ともよく口にした。バームフォーとの生活は苦しかったし、絶対服従が辛いときも多々あった。それでも耐えていたのは、自分の中に残るアルテリオ老師の教えを大切にし、これにすがって治療に関わり生きていけると思っていたからだ。今回もそうで、貴族の治療の手伝いをするつもりだったし、いずれ治療魔術師の指導を受けられると思っていた。だからこそ、生まれ育った街にとどまらずに着いてきたはずだったのだ。

 でも、とんでもない思い違いだった。

 バームフォーの言うことはやはり信用してはならなかった。サーシャをレクトゥム様とやらに売る以上、バームフォーはサーシャに治療魔術師の指導を行う気などさらさらないのだ。急な話に驚いて悪魔のささやきに乗ったが、もっと落ち着いて考えるべきだった。

 墓前でアルテリオ老師に詫びて、ずっと暮らしていたマスマロウの街でさっさと違う生き方を選べば良かった。あの街にはサーシャを知っている人も、一晩と言わず数日泊めてくれるぐらいこちらを心配してくれる人もたくさんいる。治療魔術師の道を諦めるなら、彼らに頼って、新しい生き方を選べたはずだった。

 治療魔術師の道を諦められる気は、しない。でも思い切って諦めていたら、このように身の危険を覚えなくてもよかったはずなのだ。

(どうしよう)

 過去の選択を悔やんでいる時間は正直ない。レクトゥム様の人となりは分からないが、噂だけを聞けば間違いなくこのままでいいはずはないのだ。男達の死角になるよう、そうっと荷馬車を降りる。川から遠い方で警備をしていた男に声をかけた。

「あの」

「どうした」

「水、飲んできていいですか。ちょっと具合が悪くて」

 サーシャは荷馬車の向こう側を指さす。サーシャと男がいる場所からは、荷馬車が邪魔で水場は見えないが、意図は通じたようだった。兵士らしい格好の男は眉を下げた。厳つい顔が急に優しげになる。

「ああ、いいぞ。疲れたよな。もう少ししたら出発だから、早めに戻って来いよ」

 サーシャはぺこりと会釈を返すと、荷車に沿って川側に回り込む。さきほどレクトゥム様の話をしていた男達は、先頭馬車の近くで別の男と話していて、こちらを見ている様子はなかった。

(いまだ)

 そっと川沿いに走り込み、太い木の幹の裏に身を潜める。サーシャの様子を見とがめたり、誰かに声をかけられたりすることもなかった。だが、警備をしている男達は数人いて、彼らの目がいつこちらに向けられるかも分からない。

(ここまで乗せてきてくれたのに、ごめんね)

 足下の丸い石を拾う。そしてそれを、荷馬車につながれていた馬めがけて投げた。石は馬の首をかすめ、そして馬が暴れ出した。警備や御者の目線が馬に集まる。そのすきに、サーシャは川沿いを後ろに向かって走り出した。馬のいななきや、馬を宥めたり、荷物を心配したりする喧噪はすぐに聞こえなくなって、息が上がるまでサーシャはそのまま真っ直ぐ走り続けた。


(逃げてきたのは後悔してないけど、ここ、どこだろう)

 サーシャはそのまま見つかることなく逃げ続けた。鬱蒼とした森の中を逃げ続けたため、見通しも効かず、目指す場所もない。今日まで住んでいたマスマロウの街には、もしかしたら追っ手がいるかもしれない。簡単に探し出されて連れ戻されそうで、戻ることはできなかった。せめて前に進んで、少しでも休憩を取った広場やマスマロウの街から離れるしかなかった。

 朝から激動すぎて、しかもいつものようにろくに食事をとっておらず、サーシャは疲れ切っていた。周囲を見回しながら歩くと木の根や蔦に(つまず)くので、目線はずっと足下である。止まりそうな足を叱咤激励しながらとぼとぼと歩くが、やがてがっくりと膝をついてしまった。そのまま草の上に倒れ込んでしまう。

(ああ、だめだ。もう歩けない)

 サーシャの意識はそのまま遠ざかった。


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