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お払い箱にされた私は後釜の第一王妃を認めない

作者: 佐松奈琴

 私は貧しい平民の出だ。

 

 けれど、幼い頃からとびきり美しかった。


 姉たちに、お前は母さんのお腹にいる時に悪魔と契約したんじゃないかと言われるほどに。


 そして、美しい大人の女に成長した私はあいつに見初められたのだ。


 その頃の私はとにかく舞い上がっていた。

 

 平民の娘が毎日、妃殿下ひでんかと呼ばれるのだから舞い上がらない方がおかしいだろう。


 あいつは私に夢中だった。


 なにしろ私はとびきり美しかったのだ。


 あいつは私より20も年上だった。


 はっきり言ってそんな年の離れた男にときめくはずがなかった。


 それでも夜の相手はしなくてはならない。


 そして、毎回満足させてやらなくてはならない。


 それは苦痛以外のなにものでもなかったが、それでもあいつを満足させられているうちは私のこの地位が揺らぐことはないのだと思えば堪えることもできた。


 あいつの目を盗んで、若い使用人と関係を持ったこともあった。


 それが明るみになって、その使用人が処刑された時、私の心は一度死んだのだと思う。


 なぜなら、私はその使用人のことを本気で愛していたのだから。


 しかし、その使用人の命を奪ったのは私でもあるのだ。


 その後悔の念でもう少しでおかしくなってしまうところだった。


 だから、私は自分の心を殺すしかなかった。


 私は心を殺して、あいつの夜の相手をし続けた。


 それは永遠に続く地獄のように思われたが、ある日突然終わってしまったのだった。


 私はすぐに部屋の姿見で自分の姿を確かめてみた。


 そして、驚いたのだ。


 私の美貌がひどく損なわれていることに!


 私だって馬鹿じゃない。


 いずれお払い箱になることくらいは予想していた。


 貧しい平民出身の私が第一王妃になれたのは、若さと美貌のおかげだったのだから。


 だが知らぬ間に、あんなに美しかったブロンドヘアにはコシもツヤもなくなり、あれほど魅惑的だった瞳も、シャープだったフェイスラインも皺や脂肪で台無しになってしまっていた。


 潮時だな。


 自分でもそう予感していた。

 

 だから、かつての私のような若さと美貌を持った小娘に第一王妃の座を奪われるのなら私だって納得できたのだ。


 それなのに、私の後釜としてこのミーゼンツ城にやってくるのは、名門シュテファン公爵家の令嬢で私より2つも年上の行き遅れの地味女だというのだから、初めてそれを知った時は呆れて声も出なかった。


 シュテファン公爵家がこの国でどれだけ力を持っているかは私だって理解している。


 それでも私は自分の女としての一番大事な時期をすべてあいつに捧げたというのに、この仕打ちはないだろう。


 それを知った夜、私は怒りに震えながら眠った。


 そして、朝目覚めて部屋の姿見で自分の姿を見て心臓が止まるくらい驚いたのだ。


 なんと、私は一番若くて美しかった頃の自分に戻っていたのである。


 私は姉たちの言っていた通り、本当に母親のお腹の中にいる時に悪魔と契約したのかもしれない。


 それほどに私は完璧に若さと美貌を一夜にして取り戻していたのだ。


 そんな私の姿を初めて見た時のあいつの顔は本当に傑作だった。


 もう老年に差し掛かっているというのに、あいつは一瞬で、私のことを狂ったように毎晩抱いていた頃の《《男の顔》》に戻っていたのである。


「シュテファン公爵家には断りの書簡を送るから、また第一王妃としてわたしの側に居続けてくれ!」


 若さと美しさを取り戻した半月後、あいつにそう言われた私は笑顔でこう返したのだ。


「わたくしはすでにお払い箱になった身! 予定通りこのミーゼンツ城から出ていかせていただきます。……でも、すでに隣国、ルシャマンテ帝国の次期皇帝でらせられるエドマン皇子おうじに見初めていただいたので、私のことは何も心配なさらないでくださいね!」


 皇帝になる頃には、あの若い男は確実に私の虜になっているだろうから復讐も思いのままだ。


 私は()()()を殺したミーゼンツ王国を滅ぼす悪女になるのだ。


 私はそんなことを思いながら、かつての夫の顔をまじまじと見つめていた。


 すると、あいつは私に向かってこう言ったのだ。


「このわたしを裏切るというのか? 身分の低いお前のことを第一王妃にしてやったのはわたしだぞ! いい思いをたくさんさせてやっただろう? 恩を仇で返す気か? ……もう一度だけ言う! わたしの第一王妃に戻ってくれ!」


 あいつにそう求められた私はすぐにこう返したのだった。


「いいえ。貴方にどう思われようと私の気持ちは変わりません。だって、最初から貴方のことなど少しも愛していなかったのですから!」

 

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