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番外編 沙羅の過去と想い

 それはともかく「夏だし肝試ししよう!」と管理事務所で軽くシャワーを皆で浴びた後、突然思い着いたのは涼子。「いいですね~」と楓もノリノリのようです。


「「えっ・・・」」

「ルールは簡単、ここへ行くとき通った道が狭くなるとこがあったでしょ、あそこまで二人で往復してくる!!」

「私と涼子で行きますから、沙羅さんと未来で行ってください!私たちは後から行きます~」と楓もどんどん話を進めていきます。

「「ちょっと待って!!」」







 「結局二人になったね・・・」あの二人にはめられました。なんでさっき怪談したの~!!うなぎの話は怖くないけど。

 街灯もない暗くて狭い道を進んでいきます。もちろん熊鈴はつけていますが、幽霊とか野生動物がいそうだしスマホのライト以外真っ暗で怖いです。私は足がガタガタ震えています。


「何も出ないよね!?」とびくびくしている未来。

「ででで、でないよ!」

 怖すぎて二人とも黙って歩きます。

 川を越える小さな橋を渡り、だいぶ歩いたところで私は未来に声をかけました。


「未来、今日はごめんね迷惑かけちゃって、テント立てるときも料理するときも」

「別に気にしなくていいのに」

 怯えながらも私を元気づけようと笑顔でそう言ってくれる未来、やっぱり未来は可愛いけど・・・


「お前にはあの子の隣にいる権利はない、身の程を知れ」

そう言われているような、そんな感じが前から、ずっと前から心のどこかでしていて。


「私が未来の隣にいて、いいのかな・・・」

「え?どうしてそんなこと・・・」

 あれ、心の声が漏れてる!!まずい!

「ごめん、何でも・・・」と咄嗟にごまそうとします。




「今の話、何?沙羅、隠さないで言って」と優しく言う未来。

「い、いいよいいよ、今のは忘れて」

「沙羅、何かあるなら言って、・・・友達、でしょ?」私の目を見て真剣にそういう未来。いいのかな・・・

「私は迷惑かけてばっかりだし、絵描ける以外なんの役にも立たないし、もっと普通の人になりたかったなって、それだけだから別に気にしないで!」笑ってこの話を終わらせようとします。

「そんなこと・・・」

「私は昔からそうだったもん・・・」


 私は今はお母さんと二人暮らしですが、もともと小学生のときまでお父さんがいたのです。しかしお父さんは・・・


『なんで料理にそんな時間かかんだよ、もっと早くやれよ!!』また今日も顔を叩かれました。まあどこの家でも叩かれたり蹴られたりはきっと当たり前でしょうけどね。

「ごめんなさい!!」

『それはあっちだろ!?』

 そ、それ?あっち?え、どれのこと?え、えええっと・・・

『なんでわかんねえんだよ!!』


 お父さんはお母さんにさも自分が家事をやりましたみたいな顔して『もしお母さんに言ったら・・・どうなるか分かる?』と言ってくるのです。怖いから逆らえません。まあ、お父さんは私のためを思って言ってくれてるのですから正しいのです。お父さんは言ってました。「お前将来どうすんだ?そんなんじゃ普通の仕事はできねえし、体力も無いからスポーツも土方も無理だぞ」って。その通りです。私は何も出来ない無能なんだから。



「私は駄目な子なんだ、もっともっと頑張んなきゃ、ちゃんとしなきゃ、ちゃんとしなきゃ」

 私は出来るだけ頑張りました。でもやっぱり、どうしても駄目でした。

 なので休み時間はずっと絵を描いていました。私の絵はそんな感じなので画力だけはどんどん上達していきました。絵を描いているときだけは皆が注目してくれるので「自分にも出来ることあるかも」って思えるんです。お父さんも絵を描いてる時は静かなのが都合いいのか褒めてくれました。




 小学校4年生の時、お父さんとお母さんは離婚しました。これで私の生活も良くなるって思ったのですが・・・

『なんであいつ名字変わったの?』

『ずっと一人で絵描いてるし、毎日さっさと帰っちゃうし』

『変なやつだよなー』


 代わりにクラスで浮くようになりました。

その年の運動会のことでした。運動会では全員リレーをやるわけですが、私の所属する3組は練習からビリでした。

「はぁ・・はぁ・・」

 『ねえ、あんた本気出してるの?』と言うのは運動が得意なクラスの女子。

「え・・」

『クラスの足引っ張らないで、もっとちゃんとやって!』


 そっか、私は本気を出してなかったのかな。そう見えたんだ。足を引っ張らないように、もっとちゃんとやらなきゃ!

 それから私は毎日走る練習をたくさんして、学校の図書室にある走り方とかスポーツの本を見て、ご飯をたくさん食べました。そして本番。






 私のクラス、3組はビリでした。



『お前何もできねえな!』『全部お前のせいだ!!責任とれ!!』『あんたが遅いせいで負けたのよ!!』『・・・お前なんで生きてるの?』

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」


 なんで、なんでなんで?私頑張ったつもりだったのに・・・なんでこうなっちゃったの?

 いくら頑張ってても結局出来なかったんだから意味ないよね・・・私はやっぱり頑張っても何も出来ない馬鹿でどうしようもない子なんだ。


 それから私はクラスメイトに無関心から「遊ぶ対象」となりました。

男子トイレに上靴を放り投げられ限界まで水を飲まされモノを隠され教室の端に追いやられて。何度あの時死にたいと願ったでしょうか、なんど校舎の窓から下を覗いて「ここから落ちれば楽になる」って思ったでしょうか。でも死ねませんでした、そんな力は私に無かったんです。


 


 東京への修学旅行、そこでは2日目に自由時間がありました。私達の班は渋谷にやって来ました。

「ちょ、ちょっとお手洗い行ってくるね・・・」と駅で皆に声をかけます。

『待ってるよー(笑)』

 そして私がトイレから戻ってみると、班の子達は誰もいませんでした。うすうす予想はしていました。あの子達は『あいつみたいな変なやつは一人でいればいいんだ、勝手に迷子になって困ってろ』とでも思ったのでしょう。私はスマホなんて持ってませんし。しかし、今日は一人の方が嬉しかったのです。どうせ私はまた迷惑をかけちゃうんでしょうから。だったら一人の方がお互いのためです。


 私は一人で自由に工事現場や渋谷の景色を眺め、東京の電車を見てお土産買って普通に楽しみました。これは私が迷子にならないように地図を全部覚えていたのが役に立ちましたね。途中で迷子の子を新宿駅まで送ったりもしました。あの時あの子と話したのが修学旅行で一番の思い出です。そして一人で迷いもせず、時間も守って集合場所の東京駅へ移動。しばらく集合場所の近くで待っていると私の班の残りがやっていたので後ろにしれっとついていき、何食わぬ顔で合流しました。

皆『え、なんでこいついんの?キモっ』みたいな顔してて、あの時は面白かったですね...



 でもやっぱり、皆で楽しく巡りたかったな。そんなことをしても私の気は晴れません。まあこれも鈍くさい私のせい。私は永遠にあの時の運動会の失敗という重い十字架を背負い続けるんだ。




 小学校6年生も終わりという時期、さすがに教科書も体もボロボロになっているのは、お母さんにごまかしも通用しませんでした。お母さんに心配をかけたくなかったのです。

 そして私はお母さんと共にお母さんの故郷、この焼津市に引っ越してきました。だから私は生粋の焼津市民ではないんですね。




「ごめんなさい、こんなどうしようもない長い独り言聞いてくれて・・・話し始めたら止まらないのも迷惑だし重いよね。やっぱり私は何も貢献できてないし。社会の役にも立たないバカだから、本当にごめんなさ」気づけば自分の呪詛のような声は負の要素とともに止まらなくなっていました。

「違うよ!!沙羅は目立たないけどクラスで窓を開けてくれるし電気もつけてくれるし授業終わりに黒板も毎回掃除してくれてるよ!クラスの役に立ってるよ!!」


「あれは!!・・・私がクラスで何かやらないと自分の価値が本当になくなっちゃうから・・・自分の自尊心を上げるためにやってるだけで、未来が思ってるほど私はいい人じゃないよ・・・」


 そう、私は善意でやってるんじゃなくて、自己満足のためにやってるだけで全然いい子じゃない。本当のいい子はそんなこと思ってない。


「それに私は小5になってようやく出席番号が名前のあいうえお順だと気づいたくらいだし、ひもの結び方も全然分かんないしモノをすぐ忘れちゃうし、普通の人なら3回で出来ることを私は10回かけても出来ない、私はそんな人間なの」

「・・・」


「未来や涼子や楓、皆は高速道路や新幹線の高架橋のように、社会の表舞台で、また土台としてすごく役に立ってるのに」

「私はこの橋、何の役にも立ってない」


 ここは肝試しの折り返し地点、道が広くなるところですぐ横にガードレールで封鎖された橋があります。この橋は、草に少し覆われていて使われた形跡もありません。


「何言ってんの!!工事中だから使えないってだけでしょ!!」

「布沢川ダム3号橋」


「あのキャンプ場近くには布沢川ダムという生活貯水をためるダムを作る計画があったの、それでこの橋や周辺の道路がダムの水没補償として作られたけど、ダム計画は2012年に中止になった(by涼子)、ここまでの道は使われているけどこの橋は・・・永遠に人も車も通らないの、やっぱり私には・・・この橋のように生まれた価値なんかないの」



 まさに未成ダム、いわゆる「幻のダム」というやつですね。有名なのは群馬の沼田ダムや千葉の大多喜ダムですが、静岡市にもあったんですね。

 私は折り返して元来た道を戻り始めました。


「・・・確かに沙羅は運動できないし結構おっちょこちょいだし不器用だよ」

そう、未来のいうとおり。やっぱそうなんだ。


「・・・でも違うよ!!沙羅は・・・沙羅は役立たずなんかじゃない!!」


 未来が大声を出すものですから驚いて振り向くと、未来が走ってきて私の手を握りました。

「確かにこの橋は使われてないよ、でも!!この橋を作ったときはきっと・・・たくさんの人の仕事になってお給料になったはず!!確かに誰かの生活を支えたの!!役に立ってるよ!!!」


「それに、運動会の話だっていじめっ子の言うことだからもしリレーで勝ってもなんか難癖つけてたよ、

てかずっとクラスがビリってそれ原因は絶対沙羅じゃないでしょ、他のクラスにだって足遅い子はいるんだからただのクラスの他の人の工夫と努力不足!!」

未来は真剣に、そう言ってくれます。



「それに自分のためだって言ってたけど結果的にクラスの役に立ってるんだから、沙羅だってちゃんとクラスを支える土台だから!!

 沙羅は絵以外出来ないと言うけど絵があんなに出来るんだから、小っちゃい子とすごい親しげに話せるんだから、普通知らないようないろんなことを知ってるんだから、あたしにいろんなことを教えてくれたから、あたしと違ってバイトして自分でお金稼いでて、沙羅は確かに普通の人じゃないのかもしれないけどそのままでいい!!!

今日だっていつの間にかお皿とか用意してくれてたじゃん!!ご飯よそってくれたじゃん!!沙羅はもっと自分に自信を持って!!

 沙羅はあたしを、痴漢から勇気を出して守ってくれた!!あのクソやろうからあたしをかばってくれた!!球技大会でしっかり点を入れてた!!沙羅はすごい子だよ!!!!!」


「でも未来は昔の私を知らないから、そういうことが言えるんだよ・・・」

「違うよ!!沙羅は昔からすっごく優しい子だったよ!!」

「なんで、なんで・・・未来はなにも知らないでしょ・・・!」

「あたしはっ!!小学生の時、修学旅行で沙羅に助けられたよ!」




2019年11月 渋谷駅

 こんにちはっ!わたし、すず木未来だよ!!今東京に修学旅行で自由行動中、なんだけど・・・

「ここ、どこなの?」

 班の子達とはぐれて自分が今、渋谷のどこに居るのかもよくわかんない。分かるのは小さい川が横にある、ということだけ。さいわいあたしはスマホを持ってるから連絡はできるけど、どこにいるのかわかんないからどうしようもない。しかももう少しで集合場所の新宿駅に戻らなきゃいけない時間になっちゃう。あたしが方向おんちなせいで・・・

 このままじゃ班の子達に置いてかれちゃうし、ずっと帰れないんじゃないかな。こんなところで一人なんてイヤ、怖いよ!だれか、だれか助けて!

 怖くて怖くて今までがまんしていた涙が一つぶ、地面に落ちた。

「あ、あの!大丈夫・・・ですか?」

 顔を上げるとそこにはあたしより小さい女の子がいた。髪はおかっぱで、目が大きくて全体的に可愛い雰囲気。オレンジの学年帽子をかぶってる。すっごい緊張しながら話しかけてくれたのか、顔は真っ赤。恥ずかしがり屋さんかな。


「えっとね、今修学旅行してるんだけど班の子とはぐれちゃったの、集合時間も近いしどうしょう・・・」

「・・・しゅ、集合する場所はどこにいつ・・・なの?」

「新宿駅東口の広場に14時半集合、乗るって決めてた山手線ももうすぐ出ちゃう・・・」今は14時5分を過ぎたとこ。

「他の子とは連絡できるの?」

「スマホ持ってるから連絡できるけど、さっきはハチ公の前に皆いるって言ってた・・・」

「・・・わ、私が新宿駅まで送ります!道分かるから!」

「えっ、いいの!?」

「い、いいよ、これから東京駅に行くとこだからそのついでに・・・とりあえず他の子には後から追いつくから先に新宿まで山手線乗って、って連絡できる・・かな・・・」

 とりあえずスマホで連絡して、先に行ってもらいます。


「じゃあ・・・行く?」

「あなたはなんでここにいるの?もしかして、渋谷に住んでるの!?」

「ううん、私も修学旅行なんです、ここには・・・えっと川とはい線を見に来たの」

「川・・・?普通の川じゃないの?」

「あ、あのね・・・この川、渋谷川が渋谷の地形を作ったんだよ」

「渋谷の地形・・・もしかして渋谷に坂が多いのって・・・」迷子になってずっとうろうろしてたから分かる。

「そう、この川があったから。昔、渋谷がいなかだったときは歌の「春の小川」のモデルになったんだよ。今は渋谷駅より北が下水道になっちゃって、ふたされて見えないけど今でもこの川は静かに生きてるの」

「そうなんだ」この子、物知りだなあ。好きなことを楽しそうに言うその子は輝いてた。

「はい線、ってなに?」

「あのね、ここにはね2013年まで東急東横線の電車の線路があったんだよ、廃止された線路だから廃線、今の東急東横線はこの地下を走ってるの、でもこことかに高架線の柱の一部を残してあるんだよ」

 確かにおんなじ長さでコンクリートの出っ張りが並んでて、柱だったみたい。


「へえ、ただの川や道だと思ってたけど・・・いろいろあるんだね」

「そうだよ、あ・・・ごめんね興味ないよね」と悲しそうになる。

「ううん、貴方がそういうの好きだって気持ちが伝わってきてあたしも楽しいよ!」

「そうかな?私変じゃないかな・・・小学生の女の子なのに川とか電車とか工事現場とか建物見るのが好き、なんて・・・」

「ううん!そんなことないよ!!いろいろ知ってて物知りなのってあたし、素敵だと思う!!」

 その子はとても嬉しそうに「ありがとう!!」って言ってくれた。


「ついた!」ビルに渋谷駅新南口って書いてある。

「じゃあ、他の班の子に追いつこう・・・!」

 切符を買って、改札を通って下に降りると来るとき乗った山手線が横を通ってく。

「あ、山手線が行っちゃう・・・」

「大丈夫だよ」とその子が言うと同時に、あたし達のいるホームにも緑とオレンジの電車がやって来た。

「湘南新宿ライン、この電車なら今の山手線より先に新宿駅に着くよ、たぶん・・・」


 電車に乗ってしばらくすると山手線の渋谷駅ホームが見えた。山手線のホームまで向かってたら間に合わなかったんだろうなって思った。私を助けてくれた小さな女の子はまどの外をじっくり見ている。後ろ姿はとても可愛くて、リュックについた黒猫のキーホルダーが揺れているのも、可愛いなって思った。


「ねえねえ、なに見てるの?」とボディータッチする。

「ひゃっ」とその子は小さく可愛い悲鳴をあげる。

「あ、ごめん驚かせちゃった?」

「ううん、私が臆病なだけだから・・・東京の景色だよ、こんなにビルやマンションでぎっちり埋め尽くされてるなんて東京ってすごいよね・・・」

「うわー、本当だね景色見るの好きなの?」

「うん、私街の景色見るの大好きなの・・・」


 その笑顔は眩しくて本当に好きなんだって思った。その子はいろんな話をしてくれた。そこに見える代々木公園は昔陸軍の練兵場でその後アメリカ軍の住宅地、オリンピックの選手村になったこと、公園の地下には地下鉄の車庫があること。原宿駅の古い駅舎は来年解体されちゃうこと。皇室専用のホームがあること。代々木の高いビルのこと。どれもこれもあたしの知らないことばかりで、勉強ってこんなに面白いんだって思った。



 新宿駅に着くと、他の班の子と通路で合流することができた。

「わざわざ本当にありがとうございました」

「あ、いえいえ」

「ありがとう!!」

「あ、時間ギリギリ・・・、バイバイ!!」その子は行こうとしちゃう。

「待って!最後に、名前だけでも教えてくれない?」

「え!?あ、えっと・・・内山さら、です・・・じゃあ・・・バイバイ!」

 恥ずかしそうにそう言ったあの子は顔を真っ赤にして、たくさんの人の中に消えていった。内山さらさん、あの子にまた会えたらいいな。




「そっか、思い出した・・・あの時の迷子さんって未来だったんだね」

「そうだよ!!あたしを助けてくれたあの時の沙羅の気持ちが嘘だったなんて思えないよ、きっとあたしのために勇気をだして話しかけたんだと思うから、私なんてとか言わないで、沙羅は昔から本当に優しくて素晴らしい子だよ!!」


 未来の言葉の全部がすとん、と頭の中に入っていきます。私は心のどこかで自分自身のことを認めてほしかったのでしょう。このままだといつか自己肯定感の底に到達して本当に死んじゃうって。


「・・・でも沙羅のホントに悪いとこは自分が困ってるとき誰かに助けを求めずに、自分で何とかしようとするか自分は無理だって諦めちゃうことだと、私は思うよ」と未来は優しく言いました。


 そういえば、今まで助けを求めたこと無かったな。他人が気づくか大事になるまで「迷惑かけちゃうかも」「自分でやらないと駄目」「人に頼るのはずるい」って考えてずっと一人でやって、もがき続けて、そして出来なくて諦めてきました。


・・・もっと皆に頼っていいんだ。


「未来、叱ってくれてありがとう」

「沙羅、私の気持ち分かってくれた?」

「未来のアドバイスだもん。それに私もあの時ね・・・」



「そうだよ、あ・・・ごめんね興味ないよね」何話してるんだろう私。こんな明るそうな茶髪の女の子が川や廃線に興味なんて示すわけないのに。きっと『は?なにこいつ』とか思われてて・・・


「ううん、貴方がそういうの好きって気持ちが伝わってきてあたしも楽しいよ!」

「そ、そうかな?私変じゃないかな・・・小学生の女の子なのに川とか電車とか工事現場とか建物見るのが好き、なんて・・・」皆にも変だって言われてきたし、でもやっぱり楽しいんです。初めて会った子だからこそ、その子がとても優しそうだからこそ、本音が出たのかもしれません。


「ううん!そんなことないよ!!いろいろ知ってて物知りなのってあたし、素敵だと思う!!」

 素敵・・・自分がそういうの好きって変だってずっと思ってた。でもこの子は私の話を聞いてくれてた。それもとっても嬉しそうに、楽しそうに。自分の好きな物くらいは好きでいても、いいのかな。



 「あの時未来があの言葉を言ってくれたから私は、今でもそういうのが好きなんだと思う!未来に私は救われたの」



「だからもうちょっとだけ自分に自信もてるように、SOSをちゃんと言えるように・・・頑張るね」

「それがいいと思うよ、沙羅はいつも頑張ってるんだから」


 小学生の私が少し報われた気がしました。なんでか、涙があふれてきました。


「さ、沙羅大丈夫!?ごめん怒り過ぎちゃったかな!?」未来は私の頭をなでてくれます。

「ち、違うよ・・・未来、私なんかの・・・ううん、私のために叱ってくれてありがとう!!」

「こっちこそ・・・あの時あたしを助けてくれて、ありがとう!!あたしだって昔自分のことが嫌だったの、それをあの時救ってくれた人が居るから今のあたしがいるの。だからいつか・・・誰か落ち込んでたらアドバイスしてあげてね!」

「うん、いつか自分に自信がちゃんと持てたら・・・そうするね」



私と未来はお互いぎゅーっと抱きしめ合いました。不思議と恥ずかしくありません。

 ちょうどそこに後から冷やかしのためか、涼子と楓がやってきました。

「お二人さん、調子は・・・なんで泣いてるの!?そんなに怖かったの!?大丈夫!?」

「どうしたんですか!?」と楓。

「ううん・・・何でも無いの、何でも・・・」皆が優しくて、それがうれしくて涙が止まりませんでした。楓はすっごいぎゅーっと抱きしめようとしてくれるし、涼子は「FXで有り金全部溶かしたの?」とか笑わせてくれました。


 その後涼子は真剣そうに続けました。

 「ホント、前々からずっと言いたかったんだよ沙羅の自己肯定感低すぎるって、そんなだから催眠術にすぐかかっちゃうんだよ」

「うん・・・ちょっと待って催眠術ってなに?」かけられた覚えないんですけど。

「もし自己肯定感高かったら自分のことを廃線になった姫路市営モノレールに例えないでしょ」

「確かに言ってたけどあれ、廃線だったんだ・・・」と未来。姫路市営モノレールっていうのは・・・今はおいとこうかな。


「じゃあ沙羅さんは何線だと思います~?」と楓は涼子に聞くと答えてくれました。

「沙羅はトウキョウリンカイコウソクテツドウリンカイラインだよ!!」

 ええ!?って二人で笑いました。後ろで二人がぽかーんとしてます。陰キャの悪いとこが出てましたね。


 私は知っています。この路線はかつて京葉貨物線の一部区間として建設されながらも途中で計画中止になって放置されたこと、開業のきっかけとなった世界都市博覧会も中止になったこと。それでもコミケへの足として活躍し続けて、羽田空港や中央区の地下鉄構想、京葉線直通運転計画などいろんなところへ繋がる未来への可能性があること。



「・・・で、催眠術ってなに?」

 私は誤魔化されなかったよ?


「え、ホントに覚えてないの?一回私が本気で心配して『自分のこと可愛いって思うようになる催眠』をかけたじゃん。そしたら自分のこと『私可愛いもんね!』とか言っちゃってすごい陽の人になってたよ、催眠じゃなんも解決しないなって戻したけどね」


 わ、私が・・・?教室でそんなこと言ってる自分を想像して顔真っ赤。


「///え!?そ、そんなことしてないよね!じょ、冗談だよね?」

「・・・ジョウダンダヨー」

涼子は目をそらしました。

「・・・」



 帰ってくると、私を慰めるためなのか楓が提案してきました。

「映画見ましょう!!何見ますか?」

 涼子はタブレットでアマプラの画面をみせます。

「怖いのは嫌だよね、皆で見れる平和なのがいいな」

「ならこれでしょ」と未来。

「そうですね~」と楓。


『俺の名前は高校生探偵・・・』

平和っていったい。でも皆、やっぱり優しいな。私はこんな素敵な友達に囲まれているという事実に胸が温かくなりました。小さく「ありがとう」を伝えました。

 映画を見ながら、たき火を囲んでマシュマロを食べます。

「美味しい!」と未来。

「始めてやったけど、これはなかなかだね!!」と涼子。その涼子は私にこっそり耳打ちしました。

「未来が寝てるとき、こっそりキスしちゃえ!」って。何言ってるの涼子!!恥ずかしいよ、ムリ!


 映画を見終わったらもう10時です。たき火に水をかけて消したらもう寝ましょう。テントは二つ、私と未来、涼子と楓のテントです。私はさっき言われたことを思い出していると、問いかけたくなりました。


「・・・もしかして私のこと何回も可愛いって言ってくれてたのも本当なの・・・?」


 ちょっとの沈黙が流れた後、未来の瞳孔が開いていて。

「ずっとお世辞だと思われてたの!?」

「・・・ごめんなさい!」

 未来は少し沈黙した後、小さくため息をした後諦めるように言いました。

「ま、沙羅のあの考え方じゃしょうがないかー、可愛いのはホントだから!!」


「え!・・・あの・・・私のどこが可愛いの・・?」

「・・・今のちょっと不安そうな顔可愛い」

「ええ!?///」

「その照れてる顔も可愛い!!白い肌も細い足も小さい指も大きい胸も黒い髪も全部可愛い!!」

「・・う、嬉しいな・・・えへへ・・・」

 って調子のらない私!!



 今日は珍しく未来が先に寝てしまいました。私はまだ寝付けません。

 最近よく見ていた「私が死ぬ夢」。あれは、「今日のことがなかった世界線」か「そもそもあのタブレットを拾わなかった世界線」の私だったのかもしれません。そう言われれば納得する自分がいます。恐らくあの夢は警告だったんでしょう。


 横から可愛い未来の寝息が聞こえてきます。

「ムニャムニャ・・・もう食べられない~」

 典型的すぎる寝言!!

「・・・沙羅も一緒に食べよ!」

 私が夢の中に出てきたようです。どんな夢なんだろう?


「ありがとう魔法使い沙羅!お菓子いっぱいくれて!」

 本当にどんな夢?・・・まあいっか。私は夢の中で未来の役に立ってるみたいだし。

「未来、ありがとう・・・」

 未来の寝顔は相変わらず幸せそうな顔。ちょっと口からよだれが出かけてて可愛い。


 気づけば私はそっと未来のほっぺにキスしていました。わ、私は今何を・・・!?え、なんで、どうしてキスしちゃったの!?未来はそんな私の様子に気づいてなさそうな寝顔。

「ううっ、やっちゃったよー」私は涼子にうまいこと乗せられてしまったようです。恥ずかしさに寝袋を深く被ると私もそのまま寝てしまいました。



 朝起きると空は明るくなっていました。時刻はもう朝の7時で今日もいい天気です。テントをでると楓は起きていて朝ご飯の支度を始めていました。涼子も今起きてきて、

「ああ良き天気 心安らかなり

日本の夏 蝉の声 今静かにして

木の下に宿れるなり 我が心

その宿れるなりと同じき 安き心にある」

となぜか突然鴨池構文を唱えました。

「ワー、リョウコカッコイイー」



それはともかく未来を起こさなきゃ。か、可愛い・・・昨日あんなことしちゃったから意識しちゃうよ・・・


「未来、未来、起きてー」どうにか体を揺すってみます。


「・・・沙羅可愛い、天使!!・・・」

何の夢なんだろう?恥ずかしいなってそうじゃなくって!

「未来、起きて!!」

「ふあっ!?・・・あれ、どうして沙羅がいるの?」

寝ぼけてるようです。

「今はキャンプ中でしょー」


 さてそうこうしてるうちに朝ご飯完成。これもアニメの再現料理、「生ハムとチーズのカナッペ」です。「映える!!」と写真を撮ってインスタにアップする未来。可愛い。

「おいっしい!」と涼子は言います。

「最高!!」と未来。私も美味しく頂きました。


 それから映画をもう一回見て、見終わったら涼子のお母さんが来たのでテントなんかをしっかり片付け。まるで私たちがいたのが信じられないほど元通り。

 片付けていると私の前を昨日と同じように3匹のちょうちょが跳んでいました。そこに1匹、私の後ろから白いちょうちょが加わって一緒に跳んでいきました。可愛いな。


「ちょっとさびしいですね~」と楓。もうキャンプ終わりなんだ、終わって欲しくないな、嫌だな。

車にしっかり荷物を仕舞って出発です。未来が涼子のお母さんに耳打ちしていました。何だろう?

キャンプ場を車は出発、私たちは遠ざかっていくキャンプ場をずっと見ていました。


 そしてあの「布沢川ダム3号橋」の横を通ると道は広くなりました。

「あ、止まってくれませんか?」

 涼子のお母さんは車を止めて、未来はドアを開けて降りました。

未来「ここの景色綺麗だよねー、沙羅も来て」

「うん」


 すると未来はあのタブレットを取り出しました。え?

「な、何するの?」

「ねえ沙羅、どうしたらこのダムは完成してたの?」

突然ー、えっと。


「公共事業批判がなかったら、かな。このダム事業中止は民主党政権下の事業仕分けによる国交省のダム見直しで行われたからね」

「事業仕分けって何?」

「2001年から2012年くらいの間(小泉政権から民主党政権まで)はこの国の中で『コンクリートから人へ』とか言われて公共事業、特に田舎の工事は「税金のムダ」って敵視されてて、多くの工事が計画変更や中止されたの」

 このダムもそうだし、圏央道なんかの多くの道路が建設中止に追い込まれかけました。この近くを走る新東名高速道路もそうです。しかし、私達静岡県民にとっては渋滞対策と由比など災害に脆弱な東海道を支え、老朽化する東名高速を支える重要インフラです。東名高速道路が開通した時点で調査が始まってたくらいには重要な道路なんですけどね・・・


「そうなんだ、でも今はそんな話聞かないよね」

「東日本大震災で防災のためにもインフラの整備は重要だって言われるようになったからだよ、それより前は酷いバッシングがあったからね」

「工事のおじさんの仕事が減っちゃったんだ・・・嫌な目で見られるなんて大変だったんだね」


「そう、あの時代は本当に大変だったの!」と振り返ると涼子。なんで?まあ物流企業でたくさんのトラックを走らせ、建設事業を傘下に持つあの会社が味方になるはずないですよね。

「せっかくあの時代の前までは政治家さんにお金渡して当選して貰って、うちがそれで道路作るという感じだったのに・・・」

「え?」

「このように、そもそも公共事業が縮小された背景には政治とカネ、癒着という問題があったんだよ」

「なるほどー」

「い、今のは半分くらい冗談だから!!」

半分・・・?


「結果、多くの会社が倒産や規模縮小を余儀なくされて、建設業界は人手不足になったの」

 タブレットが光り目を開けるとそこにはー





 水を蓄えた堤高59.5mで2016年度に完成したダム、布沢川ダムの姿がありました。横の「布沢川ダム3号橋」も道がその先までずっと繋がっていました。


「ダム・・・綺麗だね」

「そうだね」と未来はいいながら写真を撮りました。ここで写真を撮っても元の世界では見れませんけど、気づいたら私もなんとなく写真を撮っていました。それからじっくり目に焼き付けます。


 涼子が「そろそろ行こー!!」と手を振ってきたので、私たちは車に乗り出発しました。


 そしてタブレットで元の世界に戻りました。

「まあ、ともかく沙羅はいらない人間じゃないよ!」

「ありがとう!!」


 これからもっと頑張ろう、そう思ういろいろあったキャンプなのでした。

布沢川ダム計画(静岡土木事務所ホームページ)

http://doboku.pref.shizuoka.jp/desaki2/shizuoka/nunozawagawa/


姫路市営モノレール

【VOICEROID解説】迷列車で行こう:姫路市営モノレール【廃線探訪】

https://www.youtube.com/watch?v=gG4sxQ19yYI

次回は国共内戦で中華民国が勝利した世界です。

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