枢軸国がWW2で勝利した世界線3
「ふぅ」
教科書をやっと見終わったらいつの間にか12時半を過ぎています。
スマホを確認するとメッセージが2件来ていました。1件は5時間前に涼子からで
「ちゃんと喋れた?」
と心配する内容でした。とりあえず「なんとか大丈夫だったよ」と返信しました。
もう一件は10分前に来たメッセージで未来からでした。
「いやー今日はとても驚いたよ!日本が戦争に勝ってるしいろいろありすぎて疲れちゃった、お休み」
「お休み、私も疲れちゃった」
とメッセージを送った後に、あの鈴木未来さんとこうして繋がっているのが不思議な気分になりました。でも私が未来とちゃんとやっていけるのかな・・・今だって独り言だからスムーズに喋れてるだけだし。
「可愛いね!」駅の改札で急に言われたあの言葉がずっと心の中でぐるぐる回る。
きゃあああ!わ、私に可愛いって言ってくれた・・・えへへ、お世辞でも・・ちょっとうれしい・・かも。
まだまだいろいろと調べてみよう。
ベッドの猫さんのぬいぐるみを横に置いて、まだまだパソコンを見るのでした。
翌朝、ニュースを見ながら朝ご飯を食べます。眠い・・・昨日やりすぎたな・・・
<この天気予報は月夜グループの提供でお送りします。続いて全国の天気です>
天気には当然南洋や朝鮮半島や台湾も天気に載っています。
「沙羅、もう出る時間よ」
とお母さんに言われると、もうぎりぎりの時間でした。
「あ、ほんとだ急がないと」
「続いて各国の天気です」
満洲国や中華民国、アメリカの天気が表示されたところでテレビを消しました。
「今日も一日がんばるぞい!」
ちなみにこれは験担ぎというか気分を上げるために言ってるだけで特に他意は無いです。
今日もいつも通り電車に乗ります。あくびが今日は多いな・・・
「おっはよう!!」と急に後ろから未来が。
「わっ!!び、びっくりした・・・あ、えっと、おはようございます!」
「どしたの?眠そうじゃん」
「いろいろこの世界を調べてたら、3時になってた・・・」
「あはは、あたしは今日逆に早く起きちゃったから沙羅この電車乗るかなと思ったんだけどぴったり当たったよ」
「・・・ありがとう!!」
私のためにそこまでしてくれるなんて、未来はなんて素晴らしい子なんでしょう!!(何目線なんだろ?)
「何の感謝なのー、そんなことより想像してたよりこの世界普通だよね」
「え?」
「だって大日本帝国って聞くと規制が厳しくて軍人が偉そうにしてるイメージだもん」
「・・・大日本帝国っていっても大正デモクラシーとかあったんだから末期が戦争で異常だっただけだよ」
そう、価値観はなんだかんだで元いた世界と変わりません。アニメが規制されているということも特にないし、インターネットもニコニコ動画など日本企業が主流なこと以外は変わらず検閲もありません。国家総動員法は改正を繰り返した結果、新型コロナウイルスや地震など緊急時に使われる法律となったようです。特高は新興宗教や過激派組織取り締まりに力を入れていて、特高がなにか問題を起こせば国民から猛バッシングを受けるようです。なお、オウムや創価なんかは発足して特高によりすぐ潰されました。
天皇陛下が人間宣言を出してないから神話教育とかはありますけど。
「それもそっか、ところで大正デモクラシーってなんだっけ」
<静岡です、ご乗車ありがとうございました。富士、沼津方面は2番線から、新幹線東京方面は・・・>
乗り換えて大正デモクラシーの説明をしているうちに学校の最寄り駅に着いていました。
「おはようございます!!」
今日はあいさつ運動の日で校友会の皆さんが校門で挨拶しています。校友会は生徒会の前身組織で、現実では戦後にアメリカの影響を受けて自治組織として拡大した歴史があります。この世界では校友会のまま。
「おっはよー!!」と未来は名前が変わってることには気づかず校友会の子に元気に挨拶。
「・・・おはよう・ご、ございます・・・」私もちっちゃく挨拶。
校門を入ると、誰も居ないのになぜか皆が立ち止まってお辞儀をしている場所があります。もしかして。
「あ、えとみ、未来、一回ここであれに向かってお辞儀しないとじゃないかな・・・」
「え?なんで?ってかあれ何」
「せ、説明は後で」
未来と一緒に石製の建物に向かってとりあえずお辞儀しました。
「で、今の何だったの?」
「たぶん奉安殿じゃないかな・・・。戦前の日本には学校に天皇陛下の写真と教育勅語の写しが入った建物や部屋があったの」
教室に入ると
「あれ?おはよー未来、今日早いね」「しかも内山さんと一緒に登校してくるなんて初めてじゃん」
「そーなの結構仲良くなっちゃってさー」
と未来と他のクラスメイトが話し始めました。やっぱり未来は私と真逆でクラスの人気者です。
「それより一昨日見たんだけど韓国で最近」
「かんこく?どこそれ?」
「あ、えーっと、ソウルだよ!」
「どこ?」「ソウルww魂ってことかw」
「えーっと」
「けけ、京城のことだよね!京城は昔日本になる前、現地でソウルって呼ばれてたから。ちなみに韓国は大韓帝国のことだね」
困っていたのでとっさにフォローしました。
「へえー、でもなんで未来そんなの知ってんの?」
「さ、沙羅に聞いたんだよ、あえて昔の呼び方を使ってみよう的な?」
ふーんと周りは流して別の話を始めました。未来は私に「ありがとう」のジェスチャーをとりました。
可愛い。
ちなみに朝鮮半島は長い時間をかけて完全に日本に同化していて(独立論はネットの一部にわずかにあるくらい)、K-POPはJ-POPの一部として扱われています。差別も長い時間をかけて、日本人として同化したためにほぼ消えています。まあ5chなんかでは未だに目の敵にされてますけど。釜山はふざん、平壌はへいじょうと読みます。でもこの世界でも慰安婦訴訟や徴用工訴訟はあるようです。国内問題ですからこじれたりはしないようですけど。
「おはよう沙羅、鈴木さんと一緒に登校までするなんてどうしたの?」と涼子に声をかけられました。
「は、話してたら意外と仲良くなって・・・」
その後の朝礼ではキリスト教のいつものお祈りに加えて、国歌斉唱や宮城遙拝がありました。
「さっきの国歌はともかく、なんで皆で東を向いて礼したの?球場ヨーハイっていってたけど」
「きゅ、宮城遙拝だね。野球場のことじゃなくて宮城・・・皇居の方角を向いて礼をするんだよ」
「てかさっきの奉安殿といいキリスト教の学校なのにいいの?」
「戦時中はこれらをカトリックの教会がやってたっていうし、日本はもとから宗教面では何でもありだからいいんじゃないかな・・・」
それにしてもいつもと全然違う日常を過ごす中で、この世界が元と違うところを探すのが面白いです。台湾や韓国企業が日本企業として扱われていますし、PC9800というNECのパソコンが普及しているのも違うところです。横須賀には戦艦武蔵が保存されていますし(2013年の宇宙人地球侵略映画で大活躍してましたね、ちなみに大和は呉に保存)、空襲が無いから古い建物も多いです。ぱっと見、勝っているので前の世界よりも良さそうに見えます。
だけどこの世界にも問題は当然あります。まず少子高齢化でこれは残念ながら変わっていません。むしろ財閥寡占や社会保障の少なさ、台湾や朝鮮半島が加わったことでより解決が大変になっているみたいです。
その財閥の寡占も問題で、三井三菱住友安田鮎川浅野といった十代財閥から豊田、西武、三星といった新興の財閥もありますが、財閥以外の企業との所得格差が激しいみたいです。
東京の大学に入学するため受験競争がかなり激しく(7割が推薦入学)、親が子どもを塾や私立の学校に入れることが多いみたいです。ですが貧困世帯では塾や私立学校に学費を払えないために、貧困から脱出できない「貧困の連鎖」が問題となっているそうです。元の世界の韓国と一緒ですね。
他にも「世界の警察」を維持するために多額の軍事費が使用されており、国家財政は破綻寸前との噂もあります。イラク戦争などの「テロとの戦い」は現実のアメリカ同様、失敗に終わっています。日本軍人が駐留先で事件を起こすことも多いです。日本軍は核兵器やICBMは当然保有、原子力空母赤城や戦略爆撃機新高を保有しています。どういうのかはよくわかりませんけどアメリカ軍みたいなのを持ってるんしょう。
そのツケとしてインフラの整備の遅れも。いくらお金があっても土地が広すぎて携帯の圏外エリアはあちこちにあるらしいです。弾丸列車は鹿児島にも新潟を除く北陸にも伸びていないし、弾丸道路(高速道路のこと)が建設されていない場所も多いようです。四国と繋がる陸路は瀬戸大橋だけです。明石海峡大橋やしまなみ海道は無いわけですね。空襲はないけど戦後復興もないから都市計画も遅れがち。
それから核兵器への意識が低く、冷戦の脅威が薄まった最近は「強い爆弾」くらいにしか思われていないようです。あの有名な警察官のギャグ漫画では主人公に核兵器が投下されるも黒焦げになるだけというギャグシーンがありました。もちろん原爆投下など大東亜戦争での日本軍の行動は全て正当化されています。
大麻の横行、移民の受け入れを巡る衝突や女性の売春など他にもいろいろあります。最近は日伊対立が激しくなっていて、イタリア動画サイトの使用禁止法案が出るなど「新しい戦前」と呼ばれる時代に入っているようです。
奉安殿
https://tokyowanyosai.com/soft/edu/hoan.html
CHRISTIAN TODAY「戦時中のミッションスクール、弾圧に耐えて過ごした日々 残されたキリスト教主義」https://www.christiantoday.co.jp/articles/16781/20150824/mission-school-yokohama-wartime.html