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日本が南北に分断された世界線9

 日本中央テレビをつけるとニュースが流れました。何だろう。


「南日本は女子学生の失踪を我が国が拉致した、などと言いがかりをつけて臨時境界線付近に軍の増援を派遣している、これは我々をおとしめるためにクズどもと南日本政府が起こした自作自演の事件である」

などと言っていました。よくもまあこんなみえみえの嘘がつけますね。

 そしてテレビコマーシャルに変わります。カメラを紹介しています。なぜ社会主義国家なのにcmがあるのかといわれると、国営企業には広告費のノルマがあり、ノルマ分のお金を消費しなければならないからです。それから物資不足をごまかすという一面もあったり。


 そして生活総和の時間です。この国では週1回必ず、自分の生活態度や職務の欠陥を反省する自己批判や隣人を批判する相互批判を行わなければなりません。やらなければ反逆者です。勝子の前で私達二人は自己批判。他者批判は二人ともやりたくないので自己批判だけです。勝子もそれをとがめはしないのが嬉しいです。

「私は絵を描くスピードが遅く、書記長様の期待に未だ添えておりません」


「あたしは汚れた大変悪い思想、資本主義にどっぷりと浸かっておりました、書記長様の、この国のお役に立てるよう努力いたします」と心にも思ってないことをいいます。私の絵の進みが遅いのは事実だけど・・・


 翌日、札幌の○○官邸の一つにやってきました。札幌には8つもの官邸があって、そのうちの一つだそうです。札幌を見下ろす藻岩山の中腹にあるので景色は本当にいいです。無駄に今日はすんだ青空で上空を飛ぶ2機のMig戦闘機の機影がよく見えます。

「うわー、広い」と感動してしまいます。

「大豪邸だね!!(刑務所にでも住んでろ)」

「初めて来訪したけどさすが書記長様のお宅ね」


 庭園には四季折々の花が綺麗に咲き誇っています。

「この綺麗なお花は何ていうの?」

「この花は○○書記長花と呼ばれるこの国のシンボルですよ!」

「「・・・」」

 この官邸には核戦争を想定した戦時本部、周辺には兵器がたくさん置いてあり、周りは電気柵や地雷原で囲まれた要塞施設です。なんと、地下には専用の駅まであるんだとか。そしてとても広い庭園には巨大な人造湖、射撃場や競馬場にゴルフコース、ウオータースライダー付きのプールに温泉とサウナ、宴会場まで備えています。こんな中川財閥みたいなお金持ち(独裁者だけど)実在するんですね。もはや、一つのテーマパークといっても過言ではありません。厳重な検査を受けて中に入ると大理石の床に敷かれた赤い絨毯、上には豪華なシャンデリアが。他にも「ダーチャ」と呼ばれる別荘とか持ってるのかな?


 そしてあの書記長様の趣味なのか、メイドがずらっと並んでいます。彼女たちは「喜び組」と呼ばれ○○一族や幹部達を楽しませる美女達です。容姿端麗で処女の18歳の女性から厳正な審査を受けて始めてなれるんだとか。


「メイドさんいっぱい!!すごい!!」

「では私は車で待機していますので」

「え、ついてこれないの?」

「残念ながら」

 軍人のおじさんに案内されて進んでいくと偉そうなおじさんが集まった部屋がありました。どうやらここでパーティーしているようです。喜び組の人たちがおじさんを接待しています。しかし私達はそこを通り過ぎて大きな部屋に行きました。そこにはゲームや巨大なスクリーンがあり、そしてその中心にいたのは書記長様でした。その中には南のゲームソフトやアニメのDVDが置いてありました。


・・・久しぶりに見たいな。あれも見たことあるし、あっちはまだ見たことないなー

あ、窓の外にちょうちょが二匹跳んでる。いいなー自由に動けるんだから。あ、もう一匹来た。全部色が違うけどどこ行くのかな?だんだん離れてっちゃう、追いかけたいな・・・


「お、来たか」と書記長様の声。またボーッとしてた!

「人民の太陽であられる書記長様、私の絵を気に入って頂いてありがとうございます」


「私も以前謁見した際に暴言を吐くなどという大変な粗相を働いてしまい、申し訳ございません、またあのような仕打ちをお許し頂きありがとうございます」


 この言葉は昨日のうちに布団の中で決めてあった言葉です。もちろんこいつを尊敬など一ミリもしていませんが。なお未来が前言ったような(失言?)ことは「マル反動」と言われるそうです。

「まあまあそんな固くならなくても、君の絵はやっぱり素晴らしいよ、これからも励んでくれ」

「あ、ありがとうございます!!」となんだかんだ絵を褒められるとうれしくなってしまう私がいます。

「さて、私とともにパーティーへ行こう」


 パーティー会場に戻ると幹部達が一斉に拍手をして出迎えてくれます。私にでは無いとわかりつつも、どこかお姫様になったような気分です。すると書記長様が私と未来にささやきました。




「君たち、さっきの賞賛の言葉は嘘だろう」

・・・!?

 ばれた?え、なんで!?


「え、なんで?みたいな顔をしているな。顔に出てるぞ。冷静に考えてわずか2週間でここまで従順になったら逆に怖いだろ、本当は帰りたいんだろ」

全部当たってる。帰りたい・・・か。それにしても私顔に出やすいんだな。

「でも大丈夫。今周りで拍手している連中の賞賛も嘘だ」

・・・え?


 独裁者は誰も信用できない孤独な人間だと誰かが言っていました。これもそういうことでしょうか。彼の父も母ももう亡くなり、信用できる親しい友人と呼べる人もいないのです。独裁スイッチを押したメガネの少年もそんな気分だったのでしょうね。同じ作品で言えば2022年の映画の敵も人間不信でしたし。この人にはあのロボットも有能指揮官もいないのですからほんの少しだけ可愛そうに思えました。まあこいつ拉致犯罪者なんですけどね。それはともかくあの映画また見たいですね。




 私にはお母さんもいるし、友達も、未来もいます。けど・・・

「さて、気を取り直してパーティーするぞ」

 次々と豪華な食事が運ばれてきます。寿司、中華、洋食、とにかくいっぱい。

 寿司といったら、無限くら寿司とかでお母さんと一緒に行ったくら寿司を思い出しちゃうな。びっくらぽんのゲーム、またやりたいな。


「うわー、すっごいおいしい!!」

「一流のシェフがいるんだろうね」

未来が袋をもらうとパンを中に入れました。

「あれ、未来何やってんの?」

「勝子の分、パンとかなら後で食べられるかなって」

「そうだね、私も持って行こう」


 パンを袋に入れて持っていくと言えばあの探偵漫画の古城の事件(アニメ133話)を思い出します。あの回はYouTubeの無料公開で見たことあるんですけどお婆さんがホラーですよね。また見たいな。


 書記長様がどこか変な目で見ていました。きっと他人を思いやるとかそういう心が欠けているのでしょう。というかそういう教育すら受けてないんでしょう。


「ここで我が国の軍人精鋭部隊、神風軍団によるショーを行います」

 すると窓の外に屈強な男達が、ずらっと並びます。男達の前にはレンガが置いてあります。まさか・・・

「ハア!!」

 次々と男達が手でレンガを割っていきます。頭で割る人もいます。次に別の男達は自らを縛る鎖や手錠を破壊、さらに別の男達は足でガラスを割ったり、もはや超人ショーの域です。

 パチパチパチと皆拍手していますが、私と未来はドン引きしていました。なにこれ・・・


 気を取り直してご飯を食べます。悔しいですがやっぱりまともな食事は美味しいです。

「沙羅、君はこんな可愛いんだ、さぞかしモテるんだろうな」

 突然書記長がそんなことをいうんだからびっくり。未来はすごい顔で書記長を睨みます。まあただのセクハラですよね。私も未来に言われるのとは違って全然嬉しくないです。そもそもなんで呼び捨てなんだろう・・・


「わ、私が・・・!?モテてる・・・!?そ、そんなことないと思います・・・

私なんておどおどしててドジばっかりで、体育なんて全然出来ないし・・・未来さんみたいにキラキラしてる人と比べたら私なんて・・・未来はすっごいモテモテでしょっ!!」


「へっ!?あたしなんかいつもうるさすぎて『元気すぎ~!』って笑われてるし全然だよー!!」と頑張って顔引きつりながら作り笑いする未来。


 書記長はなんとも言えない顔で私たち二人を見つめていました。ちょっとにやって笑ってて気持ち悪いです。というかなんで私たちは友達みたいにこいつと接しなきゃいけないのかな。



 パーティーもお開きの時間です。

「沙羅、次は札幌の高層ビル群を背景に子ども達が楽しそうに遊んでいる絵を描いてもらえるかな?」

 ・・・今までとテイストが違うけどこれってもしかして・・・プロパガンダ?



 立ち去ろうとした書記長は何かを思い出したようでおっと、と言いながらあることを告げました。

「未来・・はもっときちんとした教育を受けてもらおうと考えている」

「は、はい」

「なので来週豊原の教育機関に引っ越すこととなった」

「え・・・?」

「は・・・?」


 その絶望をたたきつけた言葉の後、私の耳にはもう何も入ってきませんでした。




 帰りの車の中は御通夜状態でした。

 来週から私と未来は離ればなれに・・・?そんなの、そんなのって・・・あんまりだよ。あの未来の笑顔も声も、もう2度と見られないかもしれない。その絶望からか今まで麻痺していた感情とか感覚とかがあふれ出してきました。


 帰りたい、南日本に、本当の日本に帰りたい。お母さん、涼子、楓、クラスの皆、先生に・・・もう一度会いたい。


『本当は帰りたいんだろ』


 この言葉がずっと心の中で回っていたのかもしれません。あるいはこれまで我慢し続けた反動でしょうか。

 窓の外を見るとスラムのように廃れた住宅地が見えます。住宅地とは思えないほど真っ暗で汚く、クルマは土煙をあげて走っていきます。遠くには高層ビルの綺麗な明かりが見えますが、まるで誰もいないのにつけているかのようで不気味です。この国は自由の一切無い地獄のような国なのだという事実を改めて突きつけられました。そもそも軍人優先の国なのに軍人のご飯が家畜の餌って・・・

 アルコール依存症でしょうか、道路上で酒瓶を持って寝ている人がいます。


 そもそも私が拉致されたのも今生きながらえているのも、私の絵目当てなんだよね。きっともう自由に絵を描くことはできないんだろうな。プロパガンダとか、そのうち書記長の要望に合わせて描いたことのないエロい絵やらも描かされるのかな?私は絵を「描きたいから描く」のであってやらされてるんじゃ楽しめないよ!・・・「そんな絵誰にでも描けるんだから、もっと別の絵をかけよ!」という暴言がどこかから飛んできました。思い出したくない物を思い出してしまいました。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!


 それにこの国で私は未来と結ばれるなんてことは絶対出来ないし・・・いや元の世界でも私なんかが出来るわけないんだけど・・・そもそも未来はどうなるの?ずっとこのまま?

 ・・・お願いだから私からもう、何もとらないで・・・


「・・・沙羅、大丈夫!?」

「・・・あれ、なんで未来泣いてるの?」

「え、なんで?・・・沙羅こそなんで・・」



 本人も気づいていないようでしたが未来も涙を流していました。まあ私も今泣いているんですけどね。

「元の世界に帰りたい・・皆に会いたい!!」

 私の言葉を聞いた未来も続きます。

「ずっと我慢してたけどもう駄目、お母さん、お父さんに会いたい・・!!」

もう私も未来も止まりません。

「自由にアニメみたい・・絵だって自由に描きたい・・普通な生活したい・・」

「コンビニでお菓子買って、ハンバーガー食べて、面白い映画見たい・・・」

「学校で普通に皆と一緒に授業受けて・・愚痴とかどうでもいいこと話したい・・」

「USJ行きたい、修学旅行行きたいし自由に海外行ってみたい、家に帰りたい・・」

「「ホントの世界に・・帰りたい・・!!」」

 そっか。私は未来と一緒だったから安心してたんだ。そしてたぶん未来もおんなじ。




「・・・じゃあ、南に戻る?」

勝子がいきなりそう言いました。

「「え?」」と私は思わず未来と顔を見合わせてしまいます。

越南(えつなん)しようよ、私も一緒に行く」

越南・・・南など西側諸国の言葉で言えば「脱北」です。

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