日本が南北に分断された世界線5
北日本に拉致されて二日、今は古い青函連絡船の上です。まあ青函トンネルとか絶対作らなそうですからね。鉄道連絡船なんて初めて乗りましたから、いつもの私だったら
「この船には線路があって、貨車を車みたいに運ぶことが出来るんだよ!!」
とか未来に言ってた気がしますが、状況がそうはさせません。
エアコンの効いていない暑い車内であれからいろいろなものを見ました。軍用車しか走っていないボロボロの高速道路、古くバラックのような家が並ぶ街、山の上まで木が一本も無く無理矢理開発した田畑とスローガンのポスター。同じデザインの団地群。木炭にするためはげ山となったところもありました。「偉大なる救世主○○様」の看板。高速道路なのにガタガタな舗装状態と明かりの付かないトンネル。ロシア製っぽい古そうな戦闘機。みすぼらしく灰色な港。
私達二人は厳重に監視されていて、未来ともまともに話せないしずっと恐怖しか感じません。私も未来もすっかり泣き疲れて、ボーっと何もする気が起きず呆然と個室に座っています。ここは幸いにも扇風機があるので少し涼しいです。一方、日本国内ではもう私たちが拉致されたことが分かって大騒ぎになっているようです(さっき男が言ってました)。それにしてもさっきから皆落ち着きがありません。そろそろ函館に到着するようですが、さっきから身だしなみを直したり、電話したりとやたらと忙しそうです。
ちなみに私たちの服は北日本製の物に着替えさせられています。意外と服は綺麗です。そして最高指導者二人の似顔絵が書いてあるバッジをつけてます。気持ち悪いとか言ったら死刑なんでしょうね。この国では旅行が自由に出来ないため、この船に乗っているのはほとんど貨物です。貨車も積まれていますし。この世界の北日本の鉄道は全てロシアに合わせて1820mm軌間になっています。
しかし私はこの部屋のハウスダウトが鼻に反応してくしゃみが止まらないことの方が問題です。ちゃんと掃除してるんですかこの船!!すぐにでも掃除機をかけたい気分です。
青函連絡船を下船して桟橋から降りると、何やら物々しい警備とともに前から太った中年男性が歩いてきました。あれ、この人って・・・
私たちが呆然としている中、その人は私に手を差し出して握手を求めました。
「ようこそよくいらっしゃいました、沙羅さん。私が○○正共書記長です」
そう、北日本という独裁国家の最高指導者であり、ここまでの道でプロパガンダポスターとしてたくさん見た本人です。
「あ、どどど、どうもこんにちは・・・」
(あ、もう一生帰れないんだろうな。でもなんで私たちを出迎えてるの?この国の一番偉い人でしょ?)
その後、函館駅へ向かうとロシア風の列車が止まっていました。日本人民共和国最高指導者専用列車だそうです。周りの国民(人民?)は皆泣き叫んだり、万歳と大声で唱えています。特別列車は緑色で、敷かれたレッドカーペットの上を歩いて車内に入ると真っ白なテーブルと椅子がある会議室のような部屋がありました。壁には巨大な南を含んだ日本地図があります。たぶん何かの視察ついでなのでしょう。
列車がゆっくりと発車しとりあえず座らされると、秘書や軍人がたくさんいる中でさっきの○○・・・書記長が入ってきました。この列車の中はさすがというべきか、まったく鼻がむずむずしません。
「君に確認したいんだが・・・」と書記長はパソコン(どう見てもアメリカ製品、密輸かな?)を開くと、ある画面を見せてきました。
「これは君が描いたんだよね?」
「え!?」
「な・・なんで・・・?」私より先にビックリしたのは未来。
それもそのはず、そこには私が大手イラスト投稿サイトに投稿した絵が表示されています。私たちの様子を見て納得したらしく続けます。どういうこと?
「書記長様はアニメ文化のさらなる発展を考えておられるのです」と秘書が続けます。あのニュース(この話の1)ってそういうこと!?つまり私の個人情報を入手して、私を拉致するために不正アクセスを!?
そんな理由で?本当に?絵がうまいってだけならもっといろんな人や最近はAIだってあるだろうし、アニメ文化をやりたいならただの高校生じゃなくてちゃんとしたアニメーターを誘拐するよね。まあアニメをプロパガンダにっていうのは日本やアメリカも戦時中やってたから分かるけど。
「あるとき君の絵を見てね、大変気に入った!!だから私のもとに来て欲しいと考えたんだ」
・・・なるほど趣味、ありがたいけどいらないです。今だけは私の唯一のいい面を恨みます。未来はわなわなと震えてます。
「・・・そんな理由で沙羅を拉致したんですか!?」
未来が怒って大声で立ち上がると同時に銃口が向けられます。
「貴様、偉大なる書記長様に楯突くのか!?」と横の軍人は言います。
しかし未来は負けずに続けます。
「そりゃ沙羅はすっごく絵うまいし、いつも頑張ってて真面目で可愛いけど、こんな太った中年男に従うなんて、ホントにバカじゃないの!!」
「なんだと!!」
太った中年男・・・じゃなかった書記長が顔を真っ赤にして怒りました。周りに立つ軍人が銃口の引き金を引きそうになったその時。
「やめて!!殺さないで下さい!!」
私はとっさに叫びました。みんなも自分でもびっくり。本当にどこからこんな大声出たんだろう。
「み、未来を殺すなら、わわわ、私は、もう一生、絵を!描きません!!!」
体がとても震えながら、精一杯の大声で言いました。私のせいで未来が一緒に連れ去られて殺されるくらいなら私も死ぬ。そう覚悟しました。太った中年男は軍人に「待て」と言ってしばらく考えた後、
「・・・ハッハッハッ!!君たちのその態度、気に入ったよ!銃を下ろしなさい」
不服そうに軍人がゆっくりと銃を下ろしました。
「まあその彼女もせっかく連れてきたんだ、工作員養成なり使いどころはあるだろう」
「それでは君を応援しているよ、いい絵を待ってる」と言われた後、私達は部屋を連れ出され、職員が寝るような寝台スペースに案内されました。
「・・・怖かった~死ぬかと思ったよー!!!」
二人で抱き合ってもう監視があるとかどうでもよくなって、泣きました。
「ありがとう未来、私のために怒ってくれて」
「沙羅だって私のためにあんなことを・・・ありがとう!!」
「ごめんね、私のせいで巻き込まれて・・・」
「いや、そもそもこの世界に来ようっていったのはあたしだから・・・」
どれくらい泣いたか、車窓から海がきれいに見えます。そういえば私、こんな形だけど人生初北海道なんですよね。さすが北海道といった風景です。こんな上陸でなければ素直に喜べたのに。
海を眺めているとその寝るスペースに軍服を着た人が入ってきました。その人は私が思わず(アイドルみたい)と思うほどスタイルが良く黒髪の長い綺麗な女性でした。
「こんにちは。今日からあなたたち二人の監視と世話をする北野勝子と申します、年齢はあなたたちと同じ17歳です」
人民軍入隊証とやらを見せながらニコッと笑ったその顔はとても綺麗でした。
「あ、えーと、う、内山沙羅といいます!!どうかよろしくお願いします」
いやよろしくお願いしちゃ駄目でしょ私。
「鈴木未来です」
かなりふてくされた顔で未来は言いました。
「明日の朝には札幌に着くから、あなたたち二人を案内して我が国と○○書記長様がいかに素晴らしいか、知って欲しいの」
あ、この人も綺麗だけどこの国の軍人なんだね。
「とりあえず私たちの歴史の教科書よ、これで米国傀儡の嘘ではない本当の歴史を知ってね」
と教科書と、○○語録と書かれた本を持ってきました。毛沢東語録みたいなものでしょうか。
金正日は韓国の女優雀銀姫を立ち遅れた北朝鮮の映画を復活させると称して拉致したことがあります。拉致されて港で出迎えられた際、金正日が言ったとされる言葉も引用しています。
次回はまた年表です。




