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新幹線が存在しない世界線

 今日は5月のゴールデンウィーク、東京に遊びに行く日です。また見てしまった自分が死ぬ夢から起きると、お母さんが財布を出しました。


「せっかく東京に行くんだからお小遣い必要でしょ?はい」


 そこには1万円が。え、1万円!?


 もちろん私もお小遣いを貯金して3000円はありますけど、こんなに!?

「1,1万円もいいの!?」

「いつも生活費キツキツの家計を手伝ってくれて、ありがとね」

「お母さん、ありがとう!!」


 お母さんは私のために生活費きつきつなのに高い学費を払ってくれて私を私立の高校に通わせてくれるんですから、感謝しかありません。


 自販機でお茶を買って駅に着くと当然ですが平日朝と違って人は少ないです。


 西焼津発車が朝6時ぴったりの電車の一番先頭に乗ることをみんなで事前に決めていました。私は緑の服とスカートです。


<♪まもなく1番線に普通列車 熱海行きが到着します。危ないですから黄色い点字ブロックの・・・>



 乗ると未来がすぐ横に座っていました。未来は白くモコモコした上着と黒く短いズボンです。


「おはよう!」

「おはよう、まだ眠いー」

「未来の服、か、かわいいね!」


「え?ありがとー!お気に入りなんだ、この服」

 いつもの制服とはまた違う雰囲気・・・可愛い!!


「さて、旅行いくならこの曲だよね」

 私はイヤホンを取り出し、音楽を聴き始めました。


「あ、魔女の宅急便の曲だ」


 二人でイヤホンを半分こにして音楽を聴いていると次の焼津駅で楓さんが乗ってきました。楓さんはピンクの服と茶色のスカートです。


「楓おはよー!!」

「おはようございます~、楽しみで全然眠れませんでした~」


「お、おはようございます楓さん」


「おはようございますです~」

「沙羅も、もう友達なんだから楓って呼ぼうよ」

「そうだね、か、楓」

「こちらこそ~、LINEも交換しましょうね~では楓は沙羅ちゃんって呼びますね」

「あ、えとよろしくお願いします///」

「そんな緊張しなくても」


 朝6時20分の静岡駅。静岡始発の新幹線に乗る人で賑わっています。東京へ通勤する人もいるのかな。

新幹線乗換改札の前で涼子と合流です。


「涼子おはよう」

「おはよう、早くきちゃったよ」


「涼子の服探偵のコスプレみたい」

 涼子は茶色のインバレスコート(後で調べた)と呼ばれる服でした。


「乗り換え時間短いし早くいこっ」

「はい切符」


 切符を改札に通してホームに着くとN700S新幹線が待っていました。私たちが乗るのは四葉のマークの9号車です・・

って四葉だからグリーン車!?

「え、グリーン車だよ、自由席じゃないの?」

「いつもは普通指定席なんだけどお父さんがゴールデンウイークの新幹線はトラブルや迷惑な人が多いからっていつもグリーン車なんだよね」

「なんか申し訳ないよ・・・」



「せーの」


 車内は茶色の座席、足下にはフッドレストがついていてとっても豪華な雰囲気。私たちみたいな女子高生が乗っていいものなのかとも思いました。

 くるっと座席を回転させて向かい合わせに。


私と涼子、未来と楓が隣同士で座りました。修学旅行の気分です。


<♪今日も新幹線をご利用くださいましてありがとうございます。この電車はこだま号 東京行きです・・・>



 車内でこれから朝食をみんなで食べます。

新幹線はあっという間にすごいスピードになりました。ちらっと私達の通う学校が見えました。

「新幹線に乗る度思うんですけど、すごい速いですよね~」と楓。


「確かに、すごいよね!!」と未来が同意しました。

「本当に迫力がすごいよね」私も毎度驚きますもん。新幹線はカーブにさしかかり微妙に傾きます。


(もし新幹線がなかったらどうなってたんだろう)


ふと気になりました。


「ねえ未来、あのタブレット貸して」


「いいけど・・・何するの?」

「お楽しみ」

「ちょっと二人でお手洗い行ってくるね」


デッキに出るとタブレットを未来から受け取りました。


「もし新幹線が存在しなかったら」


 新幹線が存在しない世界線というのが出てきました。


「確かにどうなるんだろう」


 画面を押すとトンネルに入ったはずなのに周りが光りました。

(さて、どうなるのかな)


1955年 次期国鉄総裁は|十河信二(そごうしんじ)氏ではなく別の人物が就任。新幹線計画は特に具体化することもなく、東海道線の輸送力増強は普通に線路を増やす複々線化で決定する。


「十河信二?」

「新幹線建設を進めた当時の国鉄の一番偉い人。建設費3000億円を1900億円と偽ってまで作ったとされるの」

「そこまでして作りたかったの?」


「このままだと鉄道はオワコンになる、だから変えようと考えたらしいよ。

 実際新幹線は世界を驚かせて、奮起したのかフランスのTGVなどが開発されたからね。

ただ大蔵省はこれ以降国鉄に貸すお金をさらに渋るようになって、国鉄崩壊の一因となったけどね(まあ産業計画会議を見るに十河さん自身は民営化しないと駄目だと思ってた節はあるけど)」



 目を開けると新幹線ではなく、古そうな急行列車のデッキがありました。くず物入れと書かれたゴミ箱が古さを際立たせます。


<この列車は急行東海2号 東京行きです。途中、清水、富士、沼津、熱海、小田原・・・>


「新幹線がないとこういう電車で東京へ行くんだね」

「やっぱり遅く感じるなあ」


 この世界ではブルートレインや食堂車を連結した特急列車もまだまだ走っているようです。


 座席に行くと二人が待っていました。楓は作ったサンドイッチ、涼子は駅弁を買っていました。

さっきより狭くなった気がする座席に座ります。窓からはさっき通り過ぎたはずの私たちの学校が見えました。



 私は朝ささっと作ったふりかけおにぎりです。


未来は手作りのお弁当でした。中にわかめご飯とシュウマイ、サラダとコロッケが入っています。

「うわー、おいしそう」と涼子。


「未来って料理うまいんだね」と褒めると

「半分冷凍食品だけどね」と照れくさそうに答えました。私は料理がすごい下手だから羨ましいな。


「はい沙羅、あーん」

「え!?」


 未来がコロッケをくれました。

挿絵(By みてみん)


「おいしい!」

「沙羅、おにぎりだけで足りるの~?」

「私は小食だから、はい、お返しのおにぎり」


「んー、おにぎりおいしい、ありがとう!」

「こちらこそコロッケありがとう!」


 こうやって電車の中でおかずを交換したりしてみんなでご飯を食べるのも楽しいです。


(それにしてもこの電車・・・)


 ふと疑問に思ったことがありました。電車はさった峠の海沿いを走っていきます。横の国1を走るクルマやトラックを抜かしてそろそろ左に「世界一列皆兄弟」と書かれた謎の建物が見えてくる頃です。すると683系特急電車とすれ違い。現実では名古屋・大阪と北陸の敦賀を結ぶ特急で使われている電車ですが、なぜか静岡の東海道を走っていました(まあ現実でも臨時列車で富士宮まで走ったことはあるみたいだけど)。


「この電車、人あんまり乗ってないね」と未来。

すると涼子と楓が答えました。


「そりゃそうでしょ。東京まで普通は安い高速バスか速い飛行機だもん」


「えっ」

 静岡市は新幹線で東京から1時間の場所のはずです。この世界では・・・飛行機!?


「安いしちょうどいいから電車使ってるだけで~、親と行くときはクルマ一択ですよね~」


 現実では富士山静岡空港から東京まで飛行機は飛んでいません。新幹線があるので飛行機があっても誰も使わないでしょう。そもそも空港の立地が静岡市や浜松市から遠くてあまり便利じゃないですし。


 この世界では「鉄道はオワコン」扱いです。安くもないし、早くもない、中途半端な存在です。ただ航空運賃がとても高い(LCC参入の空きが羽田や成田にない)ので私達は使えません。


 未来は最後にとっておいたのであろうコロッケを美味しそうに食べています。電車は富士川の鉄橋を大きな音をたてながら通過しています。富士山も綺麗に望めますね。

「沙羅、大丈夫?手止まってるよ」



「でも大体の便は茨城に行っちゃうから不便だけどね」


 東海道新幹線は1時間あたり最大で15828人が移動できます。それを飛行機に置き換えれば現在世界最大の旅客機A380が19機、高速バスにすると2秒に一台発車する必要があります。冷静に考えてさばけるわけがありませんので羽田空港は一杯になっています。東京は羽田、成田、茨城をフル活用しています。なので地方へ飛ばす飛行機はその分減らされて現実より不便になっていますし飛行機事故も多いです。道路は高速バスと一般車によりあっちこっちで渋滞が発生していて、高速道路整備が進められています。


 そして二酸化炭素の排出量も増えていて、エコとは遠ざかっています。というかこの世界では交通が不便なので旅行する人は多くありません。電車は身延線乗換駅の富士駅を発車して製紙工場が立ち並ぶ中を進んでいきます。このあたりの景色は格好いいですね。


 私はのどが乾いたのでペットボトルを取り出して開けようとします。・・・開かないよ


「そういえばさっきから全然普通の電車とすれ違わないね」と未来。言われてみればと私が言うと、楓はこういいました。


「まあ普通列車は1時間に一本ですからね~」


 

「え」

未来が固まっています。



 それも当たり前の話です。特急列車や急行が走りまくっている中で普通列車を増やすなんてできるわけないのです。東海道線の複々線化は国鉄の予算不足で東京~沼津、名古屋近郊(岐阜~大府、南方貨物線や城北線)と関西本線および中央本線の複線化、大阪~山科だけで対応したようです。東北でも常磐線や野岩線、丸森線など迂回ルートを使いましたが当然足りていません。車社会の進行と普通列車の削減で地方都市中心部は現実以上に完全に廃れ、郊外に流れています。新幹線もないので収入源が無い国鉄やJRは田舎の路線をどんどん切り捨てていました。


 その結果、現実の東海道線の興津~島田の静岡都市圏はおおむね日中10分間隔ですがこの世界では日中1時間間隔になっていました。ちなみに私の最寄り西焼津駅も存在していません(いつも通る安倍川駅や東静岡駅も)。どうやってここまで来たんだろう。なお国鉄の崩壊は変わりません。まああの惨状じゃあ・・・



 逆に都心部でも普通列車が増発できないため、大混雑が慢性的になっています。東京では埼京線や湘南新宿ライン、大阪や名古屋では新快速も存在していません。なので滋賀県内のベットタウンもありません。ベットタウンと言えば三島付近は新幹線通勤で賑わっていますがこの世界では逆に、人口減少が加速しそうですね。


 この世界はとても移動が不便な世界でした。

 電車は沼津の貨物駅建設現場横を走っていきます。この工事が完成すれば沼津駅の高架化事業が進捗するそうですが・・・今のところ完成は令和22年だそうですね。・・・いつ?

未来「沙羅、貸してご?」

 私はまだペットボトルの蓋を開けられていませんでした。指に傷が出来て痛いくらいです。もう私の力じゃ無理かな。


「・・・ありがとう!」

 自分一人でペットボトルすら使えないなんて、自分ってほんと役に立ちませんね。




「元に戻ろうよ、不便すぎるよこの世界」


「うん、そうだね・・・」


「ちょっと二人でご飯のゴミ捨ててくるね」涼子と楓のゴミも回収して再びデッキに向かいました。


<まもなく沼津です。出口は右側です。御殿場方面はお乗り換えです。沼津の次は・・・>


 静岡発車から40分たちましたが、電車が走っているのは沼津手前でした。

 二人で画面を押すと周りが光ります。





 目を開けるとドアの窓から向こうに新横浜のビルが近づいていました。早いものです。

「新幹線ってすごいね」


「ヤッパシンカンセンダッタンジャナイスカネー」

とはこのことかと、ふと笑ってしまいました。


「鉄道がオワコンをぶっ壊した十河さんすごいね、新幹線が交通を変えたんだね」


「新幹線を作るときには、そんなの誰も使わない、世界4大馬鹿とまで言われたんだからね」


「やっぱり何事もすぐ否定から入るのはよくないね」


「ま、、まあセグウェイみたいに革新的とか言われながら生産終了したのもあるけどね・・・」

私みたいな物です。


「あれ生産終了してたんだ・・・でも実際いらないよね」


 しっかりゴミを捨てて元の席に戻りました。

「遅かったじゃん」と涼子。


「思った以上にゴミが多くて」


涼子と楓は「「ありがと~」」と二人そろって言ってくれました。


 新幹線は新横浜を出て慶応大学の直下をトンネルで抜けていきます。周りには丘の上まで住宅やマンションが建ち並んでいます。建物もドンドン高くなりこういう景色を見ると東京が近くなったと実感できますね。

「あ、そういえば新幹線に乗ったらあの曲を聴こうと思ってたんだっけ」


「え、何の曲?」


「これこれ」

「あ、この曲ですか~」

「あ、えーと業者の人じゃなくて漁師だっけ農家だっけ」と未来。

「あの人達はアイドルでしょ、この曲といえばアヤヤトゥーヤーだね」と涼子はとぼけます。


「その呼び方笑っちゃうからやめて」

 新幹線は品川駅の手前までやって来ました。大崎の高層ビル群が間近に並びます。

「あれ、なにあのでっかい穴!!」未来の指さす車窓向かって右側に、工事の機械が並んだコンクリートの穴が。

「あれは・・・リニアの工事現場じゃないかな?」

「リニアですかー、でもどうしてあんな穴を掘るんですか~?」

「リニアは大深度地下法という法律に基づいて地下40mより下にトンネルを掘ってる、そのためには工事の機械を入れる穴がいるからその縦坑だよ」

「涼子詳しいねー、新幹線ができて日本は変わったけどリニアが出来たら日本はどう変わるのかなー?」



<♪まもなく、終点 東京 です。中央線・・・>


「それにしても沙羅と未来、静岡と新横浜の間は新幹線にすごい興奮してたよね」と涼子。


「まるで初めて乗ったみたいでした~」と楓。


あはは、(実際向こうの私達はそうだったんだろうな)

と笑いながら降りる準備をしました。

現実の新幹線車内(静岡~新横浜間)

未来「見てみて外!!すっごい早いよ!!!」

沙羅「わー!すごいこんな早いのに全然揺れないなんて!」

沙羅「これが夢の超特急、新幹線なんだね!!」

涼子&楓(すごい初めて乗った子どもみたいにはしゃいでるけど、新幹線乗ったことあるよね・・・?)



産業計画会議・・・1956年に発足した私設シンクタンクだが、池田勇人などの政治・経済・技術の大物が集い戦後日本の再建について国に対して政策提言した。その第4次勧告で「国鉄の分割民営化」が提言されており、シンクタンクメンバーに国鉄総裁十河氏や国鉄技師長島秀雄氏も入っていた。

電力中央研究所 松永安左エ門の足跡

https://criepi.denken.or.jp/intro/founding_recomlist.html


ヤッパシンカンセンダッタンジャナイスカネー JR東日本のcmが元ネタ。YouTubeに動画があるので気になる人は見てほしいです。

ちなみに急行列車は185系電車という設定です。特急は681系やE353系、E257系あたりでしょうか。


聴いていた曲:在来線の中 ルージュの伝言

新幹線の車内 AMBITIOUS JAPAN!!


次回は箸休めとして東京観光をお送りします。どこの世界線に飛ぶわけでも無いので、興味ない方は飛ばして下さい。

↓参考にした物

https://www.youtube.com/watvh?v=YqmARX-eSeo 迷列車で行こう 歴史編新幹線開業前夜 番外編「もし新幹線がなかったら」

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