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蜂蜜色の檻

作者: 咲良 ゆと

ねぇ、アールシュ様。きっと貴方には分からないでしょうね。

エキゾチックな整った鼻梁に暖かな小麦色の肌。蜂蜜色の瞳。太陽を写したような柔らかな髪…身分に関わらず女性の甘いため息が聞こえてくるわ。

この想いは嫉みでしかない。

でも私は…




聖クラウディア学園は貴族や裕福な平民の子息達が社交界前にマナーを学ぶ学舎である。王族が学園に通っている時には妃候補や主要な重職に着く子息達が切磋琢磨する場だが…リリィ達が通う代では王家や公爵家の子息と年代が重なっていなく、穏やかな日常が広がっている。


しかし貴族社会の縮図なのは変わらずで。学園内の勢力はそのまま社交界に反映される為学生達は社交に余念がない。

最近の噂は侯爵令嬢が家格は下がるが産業が上手くいっていると言われている子爵家の次男と懇意しているという話や、長期休暇に社交界の花と名高い公爵夫人主催のお茶会が開かれるという事。



そして魔女と呼ばれる伯爵令嬢が太陽の君と婚約したという話─



魔女と呼ばれる伯爵令嬢リリィ=ベラドンナは自分が周囲からどの様に思われているのかよく理解している。

辺境にあるベラドンナ伯爵領は広大な土地である。しかし10年程前に水害が起こり被害が絶大だった。主な産業を布製品の加工をしていたベラドンナ領は、建物、工場が全て水に浸かってしまい未だに復興しきれていない。

土地と技術自体は魅力的だが、圧倒的に金銭が足りない。貴族の家同士で繋がるにはうまみが少ない家柄だ。

それに加えてリリィ自身は社交が苦手で女性らしく話す事が苦手だった。言葉が直接的で怖いと周囲に思われている。もっとも見た目の影響も大きいだろうが。

黒髪にくすんだ灰色の瞳。陰気な雰囲気で誰が呼んだかいつの間にか『辺境の魔女』などと不名誉なあだ名で陰口を叩かれていた。




そんな折、久方ぶりに父から呼び出され自領に戻ったリリィは困惑を隠せなかった。


「お前に婚約者が決まった」

どこか硬い表情の父を凝視すれば次いで理由を話される。

「結婚を条件に復興の支援は惜しまないと打診があった。持参金はいらないと。我が家には持参金を用意するだけの余力はない…他に選択肢はないと考えている」


リリィが物心つく前に流行り病で妻を亡くして以来、亡き妻の忘れ形見である娘を父である伯爵はとても可愛いがっていた。


政略結婚などさせない、というのが伯爵の口癖だった。


伏し目がちな父をみて居たたまれなくなる。水害からずっと必死に父が復興に尽力を尽くしていたのをリリィは知っている。


「お父様、わたくしは貴族として育っております。家の為になるのならどんな方にでもお仕えする心積もりですわ」


笑顔が苦手なリリィは少し不器用な笑顔を浮かべながらそう言った。

本当は怖かった。自分より何十歳も上の老人か、後妻を求めている脂ぎった金持ちか。

それでも自領の領民達が潤うのならそれが役目なのだろう。


「どなたが我が伯爵家を助けてくださるのでしょう?」


「平民であり商家のバシン家だ。婿入りを条件にと申されている」


「バシン家…まさかアールシュ=バシン様からなのですか?」


「学園で知り合いだったのか。それなら少しは安心出来るな。バシン家はかなり手広く商売をしているからな…お前の耳にも入っているのだろう」


アールシュは平民でありながら華やかな風貌と社交性で学園内では有名ある。それに加えて弁えている所も貴族の子息達からも気に入られている一端だった。


「ええ、とてもありがたい申し出ですね」


同じ学園に通っていても天と地程にも違う相手を思いため息をついた。



***



「初めましてベラドンナ様、この度はこちらの不躾なお願いに快く返事を頂きありがたく思っています」 

昨今のだらけた貴族達より余程貴族らしい佇まいで挨拶に来たアールシュは、自身によく似合う金糸が縫い込まれた華やかな薄手の綿で出来た衣装を身に纏い、口元に笑みを浮かべながら登場した。


(完璧な作り笑顔ね)

リリィは心の中で毒づいた。


「こちらこそありがたいお申し出に父もわたくしも嬉しく思っておりますの。バシン様…ふつつか者ではありますがよろしくお願いします」


儀礼通りカーテシーをすれば同じく儀礼通りの言葉が返ってくる。

彼にとって政略結婚など商売を発展させる手段でしかないのだろう。


「水害を思うと心苦しく…少しでも力になれたらと思っています」


「心遣い感謝致しますわ」


(美しい顔を歪めながら痛ましさを表現したところで酷薄な内面は隠せていなくてよ…)



***



休日明けに学園へ登校すれば既に噂のまとになっていた。

…正しくはアールシュと共に登校したところ噂が広まってしまった。

アールシュから一緒にと申し出があったもののまだ内密にしたいと返事をしたのだが、婚約者を大切にしたいと押し切られてしまい断りきれなかった。

一切熱を感じさせない瞳でもっと知りたいと言われてもなにも信用できない。しかし婚約者になってしまった以上は体面が大切になる事くらいリリィは理解していた。


周囲の説明はアールシュが行った様で、政略結婚ではなくアールシュ自身がリリィの事を気に入ったと触れ回っているらしい。


もちろん婚約者になってからは交流を深める為に週に1度会う時間を設けている。

毎回ちょっとしたプレゼントを持ってくるところもさすがは伊達男だとリリィは思った。


「リリィ様、今日は南方の珍しい髪飾りを持ってきました」

交流を始めてすぐに名前でお互い呼ぶ様になったが、どこかよそよそしく響く。


既に持ち物はアールシュが贈ってくれたもので溢れているが、何ひとつリリィには響かない。響かないと思いたい。

今回の髪飾りも黄金とルビーで装飾された豪華なものになっていた。彼の中では女性は華やかなものを好むと思っているのだろう。


リリィも華やかで豪華なものは好きだ。でも自分には似合わない。

婚約してすぐに豪勢な指輪を貰ったがリリィの手には石が大きすぎて指が貧相にみえた。自分に見立ててプレゼントを選んでくれているのではないと思った。

しかし、どれもセンスがよく流行の最先端を集めた品々は今まで資金繰りに困っていて自分のものを録に買えなかったリリィの心を躍らせるものばかりだった。


「花のモチーフで素敵な髪飾りですね。アールシュ様毎回わたくしのような者にありがたい限りですわ」


「リリィ様の黒髪によく似合うと思いまして」

一房髪を掴み上目遣いで様子を伺ってくる。切れ長な瞳に熱はない。ただの詭弁でしかないと理解している。


「わたくしを思って選んで下さってとても嬉しいですわ」


政略結婚でしかない婚約者とこんな茶番は果たしているのだろうか。毎回リリィは困惑しかしなかった。

行動自体は愛する婚約者にするもので、瞳の熱のなさは勘違いなのかもしれない。全ての行動に弁える様に言い訳をしても愛されている錯覚に陥りそうになる。


「少しづつ僕を知って貰えればと思って。次の歌劇にそれを着けてきてくれたら嬉しく思います」

リリィの心なぞ知らずアールシュはそう嘯いた。


学園で知らないものはいない、と口走りそうになる。

異国情緒漂う美貌も然ることながら、その社交性も含めて平民や低位の貴族、中堅貴族までも虜にしているのだもの。


ただの政略結婚であっても真摯的に向き合う姿に少しづつ絆されているのは否めなかった。



学園内でも一緒に昼食をとったり一緒に登下校をしているふたりを見て噂をするものは居ても、意地悪をする様な良家の子息達は居なかった。

不思議そうに遠巻きから見てはいたけれど。


真摯的な態度に、甘く心を溶かすような言葉の数々、増えていく贈り物。

結婚なのは分かっているのにリリィはアールシュに惹かれていった。


その日も一緒に昼食をとろうとアールシュを探していた。


「まさかお前がな…………」

いたずらっぽい男子の声が聞こえる

「いや?まさかでもないだろう?」

返ってきた言葉はアールシュのものだった。慌てて物陰にリリィは隠れて聞き耳をたてた。


「実際あの土地は使い方次第で莫大な資産になる」


いつもより抑揚のない声は初めて聞く声色だった。


「でもなぁ…相手はあの地味な魔女様だぞ」

「もちろん分かっているよ」

嘲笑に近い笑い声を上げ、片側だけ口元を歪めながらアールシュは続けた。

「魔女様だって女性には違いないよ?婚約者になって色々とちょっかいだしてみたら反応が面白くてさ………それに…………」


目眩がしてリリィはその場をそっと離れるしか出来なかった。

 




知ったところで何も変わらない。なぜなら政略結婚だから。

逆に気持ち悪い中年男性だったら余程納得がいったのかもしれない。


リリィは浮かれていた自身が恥ずかしかった。自分がどう見られるか分かっていたのに。蜂蜜色の瞳はいつも凍ったままでとろけるような熱はなかったのに。



それでも惨めだった。


部屋を見渡すと花に小物入れに女性好みな本、お出かけ用のドレスに髪飾り。前回は香水だったか。化粧類もアールシュから流行りのものが送られてそれを使うようになっていた。

どれも地味な自分には似合わないとリリィは思った。それでも可愛いそれらを見ると少し自分も可愛くなれている気がして。侍女たちがせっかくだからと出かける時に身に着けてくれると少し可愛くなれた気がしていた。


恥ずかしい。本当に恥ずかしい。全部表面的な付き合いだったのに。


全て捨ててしまいたい衝動に駆られて手に持ったが…捨てられなかった。




***



「リリィ様、プレゼントはお気に召さなかったですか?」

「いいえ、いつも素敵なものを贈って下さって嬉しく思っておりますわ」


次回の歌劇に、と言われていたが髪飾りは着けなかった。それだけでなくアールシュから貰ったものはひとつも身に着けずに今回のお出かけにのぞんでいた。

反応を面白がっているだけだと思ったらそれを身に着けるのは滑稽に思えてならなかったから。


「そうですか…今日は後で少し寄り道をしましょう」

同じ微笑みなのに剣呑な光が見えた気がした。

「構いませんが…まずは早くしないと歌劇に遅れてしまいましてよ?」


「そうですね、今日の演目は最近女性に人気のものらしくて。リリィ様も気に入ってもらえると良いのですが」


アールシュと出かける様になって、今まで入ったことのない桟敷席に座るようになった。

今日も二人がけのゆったりとしたソファーが並ぶ豪華な席に案内される。いつもより距離が近い気がした。



演目は貴族男性が政略結婚を強制させられるが本当の愛を見つけ町娘の為に身分を捨て、ふたりが結ばれるという恋愛物だった。

町娘が身を引こうとする健気な姿に胸をうたれ涙が浮かぶ。

それと同時に政略結婚の相手の女性がリリィ自身と重なる錯覚に陥った。その女性も可愛さや女性らしさとは縁遠い地味で爵位と財産だけが取り柄の女性だった。

きっとアールシュの中でも自分はこの女性と同じなのだわとリリィは独りごちた。

物思いにふけながら、ふと隣を見るとなぜかアールシュを目が合う。

にこり、といつも通り儀礼的な笑みを返された。こんな時でも完璧なのねと寂しい気持ちがよぎる。




物語は終盤に差し掛かり邪魔者の婚約者は落ちぶれて去っていった。



「素敵な演目でしたわね」

連れてきてくれたアールシュに感想を述べる。

「そうでしょうか?身勝手な男性の恋愛模様に見えましたが…女性は好みそうですね」


いつもは『そうですね』としか返さないのにやはり今日は機嫌が悪いのかもしれない。

そのまま無言で馬車に乗り込みアールシュがどこか行く場所を伝えた。



着いたのは女性の最近人気の洋品店だった。

「この後食事に行こうとおもっています。オートクチュールはまたにして、今日はプレゼントがまだでしたのでここで調達しようかと」


少ない友人のひとりが噂していた洋品店だ。フリルがふんだんに使われていてパステル調のワンピースが人気らしい。

「アールシュ様…どうでしょう…わたくしにはこのお店は少し可愛すぎる気がするのですが…」

確かに入る前からウィンドウに飾られてる服はとても可愛い。でも似合う気がしない。


「そんな事はないですよ」

動く気がなかったのを察せられたらしくリリィの手を取り強引に中に入れられた。


店内は噂通りふんわりした可愛いドレスや服たちが並べられており、どれも流行るだけあってセンスが良い。

可愛いからこそ似合う気がしない。


「これならこの前の髪飾りに合うと思いますよ」

その手には紅色のワンピースが握られていた。

「いえ…でも…」

「後この蜂蜜色のドレスも。渡した香水に合いやすいかなと。どちらも試着してきて下さい」


リリィは遠慮しようとしたが勧められるままにどちらも試着した。


「どちらも購入しましょう。それとこれは作らせていたので…」

先程のドレスと近い色のワンピースを渡される。

「このまま着て行きましょう」


結局3着も服を購入してもらい、その後レストランで食事をして帰宅した。


乙女なら憧れるデートコース。だけど解せない。どうして好きでもない地味な魔女にここまでしてくれるのだろう。

油断させたいのかもしれない。




…服は、着ないことにした。




次の週はお茶を一緒にとバシン家に呼ばれた。

南国を思わせる邸の造りは見事で廊下の隅々まで掃除は行き届き、調度品は南国の雰囲気を損なわない程度に置かれていて、センスの良さが滲み出ている。

アールシュの両親は別邸に出かけているらしく挨拶は出来なかった。


「…リリィ様ようこそ」

「お招き頂き嬉しいですわ」


靴を脱ぎ優雅な絨毯がひかれ所狭しとクッションが並べられた客間に踏み入れた。

地べたでお茶を嗜む異国風のお茶会らしい。

アールシュは慣れた雰囲気で片脚を立てこちらを見ていた。


「前回の服も気に入って頂けませんでしたか?」


珍しく苛立った口調でアールシュから聞かれた。

馬鹿にされているみたいで着れなかった。可愛いけれど本心を知ってしまっているから。


「いえ…アールシュ様、必要以上の贈り物はよろしいかと…」

「なぜ?」

「…もったいないですし」


アールシュの笑顔が怖い。


「この前…ベラドンナ領に行ってきました。水害の地域の支援額は軽く億になるかと…バシン家で全額負担をすると契約してきました」


突然支援の話をされてリリィは困惑を隠せなかった。


「…僕に嫌われない方が良いと思いますよ、姫君」


脅されていると気付いた瞬間震えが走る。忘れていた。政略結婚なのだと。


「と、とても贈り物が気に入ってしまって…もったいなく思ってしまいまして。次からは大切に身に着けさせて頂きます…」


「楽しみにしていますよ」


リリィは乾いた口を潤す為にお茶を含んだ。異国のお茶は風味豊かなはずだったが何ひとつ味がしなかった。



***



逃げれない。

でも身に着けると心が苦しい。


そう、苦しい。


いつの間にか惹かれていた。私の事は想ってもくれないのに。

優しいと勘違いして。


可愛くない自分が厭になる。

華やかなアールシュ様。一緒に居るだけで惹かれてしまう。分不相応なのに。


自分が嫌いで嫌いで嫌いで。


魔女と呼ばれる程地味じゃなければ。


こんなにも好きなのに。


今日の贈り物はポプリだった。香りが充満してて部屋に居るだけで考えてしまう。目線を漂わすとそこら中に贈り物。


好きなのに。


作り物な感情じゃなくてほんの少しでも私の事を好きになってほしい…無理だと知っている。


どうしてなの。


せめて放っておいてくれたなら。こんなにも苦しい思いをしなくてすんだのに。


アールシュ様は何も想ってないくせに。



嫉妬と恋情で食事に手がつかない。眠るのもままならない。いっその事…



***



「アールシュ殿、我が愚女が不甲斐ないばかりに申し訳ない…」

「いえ…最近気候が悪いですし、体調を崩されるのは仕方ないですよ」


アールシュは持ち前の美貌を崩しゆるりと微笑んだ。

どこか作り物めいたその美貌は微笑むと更に胡乱げで伯爵の背筋に薄ら寒いものが走る。


常識であれば婚姻前に淑女の部屋に男性が入るなど許さないが、バシン家に伯爵家の立て直しを全て任せてしまった為両家の力関係は歴然としている。

部屋に入ってきたアールシュの声を聞いてその事実を思い出し…更に檻の中に閉じ込められた様な心境にリリィはなった。


「リリィ様、体調はいかがですか?」


「…お気遣いありがとうございます。横になっていたらだいぶ良くなりました。アールシュ様を煩わせる程ではありません」


空気でアールシュが笑ったのが伝わる。

「随分と僕は嫌われたものですね」


蜂蜜色の瞳がドロリと濁ってみえた。いつもは太陽を映すように輝いているのに。


「何が不満なんです?僕は良い婚約者でしょう?家の問題解決も、可愛いものが好きな貴女に似合いのものも、好みのデートも全て与えましたよ」


そういうところだと。

気持ちが一切入っている様に見えないそういうところだとリリィは唇を噛んで俯いた。


「これ以上何を望みますか?宝石?土地?珍しい生き物でも?」


「バカにしないでっ…!」


ずっと我慢してきたのに。涙が溢れる。

違うの。アールシュ様、貴方の心が欲しいだけ。

それなのに。


「こんなにも…こんなにも好きなのに!貴方は物や表面上の事ばかり」


分かっている。政略結婚なのだからそれでもありがたいと。


「私に微笑んで欲しいだけなの。何も望んでない。せめて駒の様に扱わないで…」


想いが溢れて止まらない。遠くから見た時から憧れていた。近くにいたら眩しくて。

好きで好きでしかたない。


言ってしまったら身体が急激に冷えた。政略結婚なのに何を言っていると言われたら。また張り付いた様な笑顔で対応されたら。

涙が次から次に溢れて止まらない。


その瞬間、清涼感のあるスパイシーな香りと共に全身を包まれた。


「なんで勘違いしたかなぁ」

「地味な魔女様って話していたじゃないっ」


「…あぁ、なるほど。話を聞いていたんですね…そして最後まで聞かなかったと」

腕の力が少し緩まる。アールシュの角ばった手が頬をなでた。


「最後はとても可愛いところを惚気ていたのに」

「…嘘」


「この部屋を見渡して嘘だと言えますか?すべて僕が与えたものなのに」

「それは…」


「信じるかは自由ですが…どうせもう逃げられないでしょう?」


不穏な言葉に顔を見つめると初めて瞳に執着を含む色が見えた。

どちらにしても檻の中。


それなら。


「逃げられないわ。物理的にもだけど…心を囚われたから」


そう伝えるといつもの仮面の笑みは剥がれ、肉食獣の様な獰猛な笑みに変わった。その瞳は蜂蜜というより猛禽類のそれで。私は獲物だったのだと思い知る。

 


嗚呼。もう逃げられない。

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