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ケープゼレット(Képzelet) ~SF短編小説集~  作者: 劉白雨
2024年5月 : 「記憶の瞳」
9/41

「記憶の瞳」 ~ 参 : 【始まりの話をしよう】 ~


「アイラ先生。お話して。」

 コトネ・アイラは自身が開業した診療所の前で、町の子供たちに囲まれてしまい、口々にお話をねだられてしまった。


 セリューズの調査隊員を救助に来たのが、地球時間で今から34年前。セリューズ時間でも28年の時を経ていた。

 アイラが脳コピーをし、全身改造の手術を受けたあの後、術後の経過観察を見る間もなく、調査団とともにセリューズへと旅だったのだ。

 セリューズに到着後、まずは黒い霧の後遺症に苦しむ隊員たちの治療に取りかかった。

 幹細胞から作られた人工臓器を移植するのと同時に、脳に関しては、生き残っている脳細胞を元に修復治療を施したうえで、元の記憶を取り戻せる者には記憶修復治療を、記憶修復が不可能な者には、その人物の来歴を教え、初等教育からやり直すというリハビリを施した。言語の習得から始めたため、本人たちは相当苦労したようだが、10年も経てば高等教育相当の知識を得るまでに回復した。

 

 セリューズ本星に関しては、〔忘れじの瞳〕が生息する以上、大量入植は危険であると判断され、小規模入植に留まり、別の星系にある入植候補惑星を重点的に調査することとなった。

 その結果、セリューズの入植地は限定的なものとはなったが、入植者には全員、アイラが施されたものと同様の人体改造手術を施し、万一の事態に備えることで、調査を続行することとなった。


 そして入植地は調査基地をベースとして、周囲の植生を刈り取り、焼き払い、更地にした上で、現地の植生と緩衝地帯を設け、入植地を建設した。

 田畑を造り、住居を建て、調査隊員たちは擬似的な村落を作り上げた。隊員たちは日々の調査業務に併せて日常生活を営めるようになった。中には隊員同士で結婚し子供をもうけた者もいた。

 その子供たちも、一定の年齢に達すると人体改造手術を施されるが、それまでは行動がかなり制限されていた。


 こうしたかなり制限された入植生活も、セリューズ時間で10年が過ぎると、入植地は立派な村となり、居住者も1000人を数えるまでになった。

 調査部隊が運営する農場や工場が製造する食料や日用品を販売する商店もでき、簡単だが経済も回り始めた。

 上空には地球からの探査調査船をベースにコロニーが建造され、周回軌道上から入植地のサポートをしていた。


 アイラはすでに90代を迎えたが、人体改造手術が功を奏しているのか、いまだしゃんとしている。足腰は若い時ほどとは言えなくとも、生活にはなんら支障はない。

 アイラは持ち出してきた折りたたみ椅子に座って、集まってきた子供たちを見渡した。すでに30人ほどが集まってきていて、その後ろを大人たちが取り囲んでいた。

 午後のこの時間にアイラが子供たちに話をするのは、日課のようになってしまっていた。

「そろそろ皆集まったかな。今日は何の話をしようかしらね。」

 子供たちは期待に満ちた表情で、瞳を輝かせてアイラを見つめていた。

「では、今日は始まりの話をしようかな。」

 アイラはそう言って、このセリューズを人類が発見した頃からの話を始めた。

 地球からの期待に満ちた長い旅、そして絶望に沈んだ調査隊の事件、その後細々と始まった入植地開拓、短いが紛れもないセリューズの歴史である。

 そこには人類の営みが極小さく刻まれていた。

 子供たちには、これからのセリューズを背負って立つ上で、この星の開拓史を、その身に刻んだ記憶を後世に引き継いで欲しい、そうアイラは願うのだった。


<完>


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