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ケープゼレット(Képzelet) ~SF短編小説集~  作者: 劉白雨
2024年4月 : 「最後のオアシス」
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「最後のオアシス」 ~ 参 : 【ポジティブシンキング】~


 数日後、エリカは作戦司令室にいた。

 この日は、先日の報告書にあった反乱分子の地下組織〔最後のオアシス〕のアジトに突入する作戦が実施されることになっており、エリカはその作戦を作戦司令官の後ろで見守っていた。

 〔最後のオアシス〕とは、砂漠化したこの地上において、ドームに依存することなく生活できる、オアシスのような場所がまだあると信じている狂信的な集団だ。

 彼らの活動は、サイオネクスによる支配体制をくつがえして、存在が噂される最後のオアシスに関する情報の開示をさせ、そこへと至るまでの旅の支援を勝ち取る事を旨としていた。

 それを実現するため、信奉者の獲得と広報活動はもちろんのこと、嫌がらせ程度のテロ活動も起こしていた。彼らにしても、システムやインフラに重大な損害を与えれば、苦しむのは自分たちであることは、重々承知しているのだ。結局たいしたことは出来ない、ただの狂信集団であった。


 なぜエリカがこの作戦司令室にいるかというと、サイオネクスと警察機構の癒着により、治安維持活動の監視も業務に組み込まれているからだ。

 今回は大規模作戦と言うこともあり、エリカが出張でばってきたのだ。

 

 エリカは彼ら〔最後のオアシス〕の気持ちを一応理解しているつもりだ。

 このような閉塞空間に居ては、息が詰まるし、サイオネクスの監視を意識してしまえば、そこから自由になりたいという気持ちが芽生えることも道理だ。

 エリカ自身本社の監視を受けている身、監視される気持ちは分かるつもりだ。

 しかし、治安を乱すのであれば事は違う。その芽は摘むしかない。野放しにすれば、他の人々が迷惑を被るからだ。

 理解するのと黙認するのはまったく違う、その結果が今回の作戦実施である。


 作戦には、突入に特化した特殊部隊を中心に、治安維持部隊のロボットが大量に投入された。都市内に分散しているアジトの周囲に、彼らはそれぞれ待機していた。

「突入準備、整いました!!」

作戦部隊のリーダーから報告が上がる。

「管理長官殿、作戦を開始してもよろしいでしょうか。」

作戦司令官が確認をしてきた。

「お願いします。」

エリカは作戦司令官に対し頷いた。

「これより〔オアシスドライ〕作戦を決行する。突撃開始!」

「突撃開始!」

作戦司令官の号令が下ると、部隊リーダーが復唱し、作戦が開始された。


 作戦司令室の大型モニターには次々と突入する特殊部隊とロボットの姿が映し出されていった。

 エリカはそれを見ながら、これでまた彼女に対する会社の評価は上がるが、他のドーム都市の管理官からは、適度にガス抜きが出来ていないことを揶揄する輩が出てくるだろうと、危惧した。

 面と向かっては何も言えないくせに、陰でこそこそ足の引っ張り合いをする。そんなやつらにエリカはうんざりしていた。

 いっそのこと自分もこの〔最後のオアシス〕とやらに入って、現状を破壊してしまおうかと言う邪な考えが頭をもたげたが、管理長官としてはそれも叶わない。

  

 監視衛星により、地球上にオアシスなど存在しないことは明白なのだが、彼らは本気で存在を信じているのだろうか。それともただ藁にも縋る思いなのか。

 エリカは彼らの心情に同情はしても、結局その発露を理解出来てはいなかった。


 環境破壊の進んだこの世界において、たとえ受け入れることが出来なくても、皆で協力して助け合わなければ生存できないことは明白で、この体制が気に入らないのならば、体制を離れ独立するか、体制のなかで体制を変える努力をするべきであり、体制を自分勝手に自分の都合の良いように無理矢理変更しようとするのは、ただのテロリストであり、暴虐であり、害悪の狂信集団でしかないのだ。

 体制を離れ独立することも、皆の同意を得て体制を変革することも出来ないのなら、ポジティブシンキングを実践すれば良いだけの話だ。現状を受け入れ、その中で自分の望みを叶えていけば良いだけの話である。

 物事の悪いことばかりを探して鬱になるよりも、物事の良い面を探してそれを享受する方が何倍もマシであるし、できないと言って逃げるよりも、困難に立ち向かってそれを克服した方が人生が豊かになるし、自己肯定感も高くなる。


 エリカにとっては、そんな簡単なことが出来ない彼らを、理解することは到底出来なかったのだ。

 モニターに映し出される、次々と逮捕されて出て来た人々を眺めながら、エリカはそんな事を考えていた。


<完>

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