2026年3月 : 扉の向こう
【心の中の扉】
「今日の成果はこれだけか。」
窓口のラゼル・ラダニは呆れたように言う。
「仕方ねぇだろ、最近は荒らしも多いんだ、真面目に仕事してたら、取れるものも取れねぇんだよ。もっと稼いで欲しかったら、テリトリー確保ぐらいきっちりして置いて欲しいもんだね。」
マドウッソウ・ルチアーニは、悪びれることなく捲し立てる。
「分かった、分かった。言い訳はいっちょ前でも、働き分しか出さねぇからな。……ほら、261ビルだ。」
そう言ってラゼルは、マドウッソウに携帯端末を決済端末へ翳すように促す。
機械音が鳴ると、個人口座に入金額261ビルが加えられたことが表示された。
「ど、う、も。」
少し苛つきながら、マドウッソウは礼を言って、窓口を後にする。
「ノタハチ山の中腹に、墜落があったそうだから、行ってみると良いぞ。」
ラゼルは、マドウッソウの背中に向かって言うと、マドウッソウは後ろ手に片手を上げて応じ、扉を開けて出て行った。
ゼニジア星ゾツズ地区にある、廃棄物回収センターの建物から出てきたマドウッソウは、ドンヨリと曇った空を見上げた。
ここのところ、実入りが少なかった。一日働いて261ビルって、通常の三分の一にも満たない。
ラゼルにはあんな風に言ったが、実は実入りが少なかった理由は、浮上型自動車ゴナリッシのトランク内にあった。
マドウッソウは、このゴナリッシを運転して、寝床にしているアパートに向かう。
アパートの近くに借りているガレージにゴナリッシを入れると、表のシャッターを閉めて、照明を点ける。
手狭だが、小型のゴナリッシを停めるには充分なスペースがあり、仕事で使う道具なんかもここに揃えてある。
マドウッソウはゴナリッシのトランクを開けた。
「出てきて良いぞ。」
トランクの中から機械音でピピッと反応音がすると、アンドロイド型のそいつが上半身を起こした。
体長はマドウッソウよりもかなり低く、学童ぐらいで、胴体に手足が付いた人型ではあるが、あちこち損傷が激しく、一部欠損も見られる。更に、音声会話機能は完全に故障しており、反応もかなり鈍い。だが、こちらの言葉は理解出来、人工頭脳は生きていて、どうにか意思疎通は図れるようだ。
「ちょっと待ってろ。」
マドウッソウはそう言って、ガレージ内に備え付けてある整備用のクレーンを動かして、トランクからそいつを引っ張り上げ、作業台傍に置いた。
「えっと、外部接続端子は……。」
マドウッソウがブツブツ言いながら、端子を探していると、背中の方からガッ、ガッと音がした。
マドウッソウがそいつの背中に回り、ボロボロになっている服を剥ぎ取ると、中から端子ボックスの蓋が、何かに引っかかって開かないでいた。
「こいつが何かに引っかかっているのか。」
マドウッソウはそう言って、作業台から工具を取り出した。工具とエアーブローを使って蓋に掛かる埃やゴミを取り除き、歪みを直して、蓋をなんとか稼働させて開けることに成功すると、中から端子がいくつも現れた。宇宙標準の端子から、ゼニジア標準の端子までかなり幅広く並んでいた。
「かなり広範囲で販売されてたみたいね、あんた。」
マドウッソウがそう呟くと、ピピっとそいつが反応する。
「人気だったのかな。」
そういってマドウッソウはにこりと笑うと、ピピっと反応が返ってくる。
マドウッソウはそんなことを呟きながら、モニターとそいつをケーブルで繋いだ。
「まずは名前からだな。」
マドウッソウがそう言うと、〔私の名前はユヲン〕とモニターに表示された。
どうやらゼニジア語も表示出来るようで助かるとマドウッソウは思いつつ、次の質問をする。
「ユヲン、君の所属は。」
〔私の所属は、宇宙連盟射手座方面軍第六艦隊、隊長艦ヌヤルタブ号である〕
「第六艦隊だって?!」
マドウッソウは驚きを隠せなかった。第六艦隊と言えば、泣く子も黙る死の艦隊と呼ばれ、表向きは射手座方面の治安維持を司ってはいるが、その実態は、武力による鎮圧を得意とし、刃向かう者は容赦なく宇宙の藻屑にしてきた、別名〔悪魔の使者〕とも呼ばれているのだ。
〔ヌヤルタブ号艦長直属部隊部隊長が私の身分である〕
引き続いて表示された文字に、マドウッソウは更に驚いた。
艦長直属部隊の部隊長であれば、実質ナンバー2の地位であり、アンドロイドがその地位にいることにも驚きだが、このような子供型のアンドロイドであることも驚きである。
「ユヲン、君がおこなった最終任務を教えてくれ。」
〔任務については教えられない〕
「そうか。それは当然か。軍事機密だもんな。……それじゃ、質問を変えよう。ユヲン、君がこのような状況になった経緯を教えて欲しい。」
〔ゾグエヒテ星系外縁部における宙賊との戦闘により、ヌヤルタブ号が轟沈したことで、このような状態に陥った〕
「なるほど……って、ゾグエヒテ星系って、ここじゃないか。そんな話、聞いてないぞ。」
(まったく、どうなってるんだ。いくら軍事機密だからって、住民に知らせないって話はないだろう。)
ゾグエヒテ星系とはここゼニジア星が所属する星系で、その外縁部で戦闘がおこなわれたと言うことなのだ。ニュースでは戦闘のせの字もないし、風の噂も聞かない。
マドウッソウはそんなことを考えながら、次の質問をする。
「ここゼニジアまではどうやって来たの。」
〔ここゼニジアまでは、脱出ポッドに乗って艦長と共に脱出し、この星へ不時着した〕
「艦長はどうした。他の仲間は。」
〔この星への逃走中に敵艦に生命維持装置を破壊され、艦長及び他の乗組員は死亡、私は損傷が激しいものの、無事この星まで辿り着けた〕
「なるほど。脱出ポッドを狙うなんて、戦時条約違反だが、宙賊には通用しないか。」
マドウッソウは手を組んで、考え込もうとするが、考えたところで答えなんか出てこないし、学のないマドウッソウは、そもそも何を考えて良いのかも分からなかった。
「仕方ない。軍事機密の塊のお前をどうにかしようってのが大きな間違いだったのかもな。ユヲン、お前はどうしたい。」
〔私は、与えられた任務を熟さなければなりません〕
「その任務は軍事機密なんだろ。それじゃ、私が手伝えることはないな。」
〔いえ、お願いがあります。私を修理していただけないでしょうか〕
「修理するといっても、碌な部品は揃えられないよ。なんせ私はしがない貧乏なゴミ拾いだからね。」
〔そうですか。それでは、これを宇宙連盟に届けて貰えませんでしょうか〕
ユヲンはそうモニターに表示すると、頭部背面にある蓋を開けようとしていた。やはり、この蓋も何かが引っかかって開かなかったため、先程と同じように工具とエアーブローを使って開けてやる。
そこには、人工頭脳に付随したカプセル型のメモリが、半透明の扉の中に装着されていた。
「これが、届けてほしいものか。」
〔そうだ、そのメモリを届けて欲しい〕
「なんだか、心の中の扉を開けるみたいだな。」
マドウッソウはそう言って扉を開き、中からメモリを取り出す。
「誰か届ける宛先はあるのか。」
〔射手座方面軍司令部バルジャック長官宛てにお願いする〕
「直接渡せなくても良いのかな。」
〔いや、それは困る〕
「でも、私じゃそんな人に面識はないし、門前払いを受けると思うけど。」
〔では、私を連れて行ってください〕
「それは構わないが。……って、……それは無理……、でも、それしかないのか。……大丈夫かな……。」
マドウッソウは逡巡したが、ユヲンの言うことを聞くしかないと諦めた。まずは、宇宙連盟の事務所へ行くしかないが、ユヲンをそのまま連れて行っても仕方ない気がする。
「ユヲン、君をこのまま連れて行って大丈夫なのか。」
〔大丈夫〕
文字に感情を見ることはできないはずだが、どこか自信に満ちた言葉に見えた。
【分かり合える範囲】
マドウッソウは、あれから徹夜でユヲンを修理した。出来得ることは、まず全身を洗浄し、可動部分に油を注入した。その後モニターを胴体に取り付け、ケーブルで端子と接続し、意思疎通が図れるようにした。
「取り敢えずこれで良し。これで先方でも意思の疎通は図れるだろう。」
〔ミス・マドウッソウ感謝する〕
「どういたしまして。」
時間を見ると、まだ少し朝の早い時間だったので、取り敢えず仮眠をすることにした。
ゼニジア星時間で3時間程仮眠をとると、マドウッソウはゴナリッシにユヲンを乗せ、宇宙連盟のゼニジア星支部へと向かう。
このゼニジア星はゾグエヒテ星系にある居住可能惑星ではあるが、その気候は劣悪で、年中砂嵐が吹き荒れている。
また、交通の要衝でもあり、宇宙船の通り道でもあるため、事故は後を絶たず、最近でも死者1000人を超える大きな事故があったばかりである。そういった事故の残骸が、ゼニジア星の重力圏に捉えられ、落下してくるのだ。
マドウッソウは、そんな宇宙船の残骸から有用な資材を回収し、廃棄物回収センターに納品して日銭を稼いでいる。
一日働いて、大体平均900ビル、これだけあれば、ひとまず飯は食えて、生活出来るだけのものは賄える。仕事道具のゴナリッシの整備は自分でやらなければならないが、整備会社に依頼すると、数日分の実入りが飛んでしまうので、背に腹はかえられない。
お陰で機械弄りは得意になってしまった。
ゼニジア星宇宙連盟支部と書かれた門の前に来ると、衛兵に停められた。
「どのようなご用件でしょうか。」
「このアンドロイドをお届けに上がりました。」
隣の助手席に座るユヲンを指して、マドウッソウはできるだけにこやかに、受け答えする。普段は絶対にしない化粧も、慣れないながら見栄えの足しになればと施してきた。
「面会のご予約は取られていますか。」
ボロボロでドロドロのゴナリッシで乗り付けてきた女を見て、衛兵は引きつったような笑顔で、淡々と聞いていく。
「いえ、このアンドロイドがお届けしたいものがあるというので、急遽お伺いしました。」
マドウッソウは普段使わないような言葉遣いで、舌を噛みそうになりながらも、平静を装う。
「分かりました。身分証はお持ちですか。」
衛兵の言葉に免許証を提示する。
ダブルチェックをする為なのだろう、衛兵はマドウッソウの免許証を持って詰め所の窓口から中にいる衛兵に免許証を提示し、照会をおこなった。
どうやら、問題なかったようで、戻ってきた衛兵に免許証を返して貰い、行くべき場所を教えて貰う。
マドウッソウは礼を言ってにこりと微笑み、開けられた門扉を抜けて、敷地内に入っていった。
指定された場所にゴナリッシを停め、ユヲンを連れて、宇宙連盟の建物へと入る。
ここでも、警備員に誰何されるが、マドウッソウはとびっきりの笑顔で応じ、中へと入れて貰う。
そして、待たされること数分、担当者と思しき人物が奥から現れた。
「あなたが、ユヲン隊長をお連れいただいたマドウッソウ・ルチアーニさんですね。私は、宇宙連盟ゼニジア星支部支部長のツィスカ・ルハルトです。」
身形の良いツィスカ・ルハルトと名乗った女性は、そう言うと、マドウッソウの隣に立つユヲンを見た。
「あなたがユヲン隊長ですね。救難信号が途絶えておりましたので、心配をしていたのですが、ご無事で何よりです。詳しい話は、私の執務室でお伺いしましょう。……ルチアーニさん、ここまでありがとうございました。後はこちらで引き継ぎますので。」
そう言って、ツィスカ・ルハルトが踵を返そうとすると、ユヲンがツィスカの前に立ち塞がり、マドウッソウが取り付けたモニターに文字を表示させた。
〔ミス・マドウッソウも連れて行かなければならない〕
「その理由は。」
〔彼女は私の保護責任者であり、バルジャック長官の許へ私を届ける義務がある〕
「つまり、この方が一緒でないと、信用出来ないと言うことですか。」
〔そういうことだ。〕
「内部の人間よりも、外部の人間を信じると言う訳ですね。……致し方ありません。」
そうツィスカが言うと、突然奥から銃火器を持った警備員がワラワラと現れた。
「ちょっと、これどういうことよ。」
マドウッソウは、突然の展開に慌てふためいたが、銃口を向けられていては、両手を挙げて大人しくするしかない。
「第六艦隊は殲滅命令が出ていますので、ユヲン隊長は拘束、ルチアーニさんはこのままお帰りいただきます。さあ、ルチアーニさん、御出口へどうぞ。」
ツィスカはそう言うと、出口へ向かう道が警備員たちに作られ、そこへ向けて出て行くよう、マドウッソウに促した。
マドウッソウは逡巡した。一晩とはいえ、ユヲンとの会話を楽しみながら徹夜で修理した。人間とアンドロイド、庶民と軍人の違いはあれど、分かり合える範囲はそれほど狭くはなかった。
そのため、マドウッソウはユヲンを置いていくなんてことは、友と引き裂かれるような思いがした。
しかし、ユヲンを助ける手段を、平凡な一市民である自分が持ち合わせているはずもなく、ユヲンには悪いが、ツィスカの指示に従い、出口へ向かうしかないと、マドウッソウは泣く泣く諦めた。
マドウッソウが出口へ向かおうと、振り向こうとしたその時、突然その出口から軍服を着た人たちが、やはり銃火器を持ってワラワラと入ってきた。
そして、問答無用とばかりに、警備員たちを撃っていく。
ものの数秒で形勢を逆転させた軍服の人々は、ツィスカに銃口を向けていた。
その軍隊の後ろから、恰幅の良い御仁が現れると、ツィスカに向かってこう言った。
「ゼニジア星支部ツィスカ・ルハルト支部長だな。……貴様を反乱教唆の容疑で拘束する。」
そう言うと、その男は懐から手錠を取り出して、ツィスカを後ろ手に拘束した。ツィスカが抵抗する間もない、アッという間の出来事だった。マドウッソウには、その男の動きがまったく見えなかった。気が付いたら、ツィスカが後ろ手に拘束されていたのだ。
「あなたが、マドウッソウ・ルチアーニさんですね。この度は我が隊の隊長を助けていただきありがとうございます。私はヌヤルタブ号艦長直属部隊副部隊長ユスト・リーベルです。」
恰幅の良い男性は、そう名乗ると、奥に立っていたユヲンの許に行き、話しかけた。
「ユヲン隊長ご無事で何よりです。」
〔ユスト、助けてくれてありがとう。〕
「隊長、随分変わり果てた姿になってしまって。……このモニターはルチアーニさんが?」
〔そうだ。彼女が取り付けてくれた。彼女には感謝しても仕切れない恩がある。〕
「そうですね。……現在、第七、第八、第九艦隊が支援に駆けつけてくれてます。今回の第五艦隊の反乱は間もなく鎮圧出来そうです。」
〔そうか。それは良かった。色々と聞きたいこともあるが、まずはこの支部の制圧が先なんだろ。〕
「そうです。流石隊長、分かってらっしゃる。まずは、支部長の拘束、そして支部の掌握が我々の任務になります。」
〔分かった。私はこの状態だから、引き続き君が指揮を執ってくれ〕
「了解しました。では、このまま、支部長執務室へと向かいます。……ルチアーニさん、すみませんが、あなたもご同行願います。」
「えっ、私もですか。」
マドウッソウは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ええ。あなたには重要な任務が与えられていますよね。」
ユストは意味深ではあるが、有無を言わさぬような表情で言う。
「あっ、はい。長官の許へユヲンさんをお連れするってことですね。」
「そうです。最後までお願いしますよ。その代わり、あなたの護衛はこのユストにお任せください。」
ユストはそう言うと、どこか悪戯っ子のような表情で笑った。
【秘密基地】
〔ミス・マドウッソウ、巻き込んでしまって本当にすみません〕
支部長室へ向かう途中、ユヲンがマドウッソウに謝罪する。
「良いってことよ。気にすんな。それより、君を見捨てようとした私の方こそ悪かった。すまなかった。」
マドウッソウも、ユヲンを置いて逃げようとしたことを謝った。
〔それこそ、気にしなくて良いですよ。銃火器に対抗する手段を持ち合わせていないあなたが抵抗すれば、命の保障はなかったのですから〕
「それでもさ。ユストが来なければ、危うく、友を見捨てるようなヤツに成り下がるところだった。」
〔友だなんて。……ミス・マドウッソウ、ありがとう〕
「こっちこそ、ありがとうな。」
二人がそんな会話を続けていると、支部長室の前に辿り着いた。
「ツィスカ・ルハルト、解錠しろ。」
ユストが手錠で拘束されたツィスカに命令し、扉の前に連れてくる。
扉の横にある端末に、ツィスカが瞳の虹彩を翳し、体内チップの情報を読み込ませると、重厚な扉が開いた。
「内部クリアー。職員のみです。」
兵士の一人が室内の状況を素早く確認し、声を上げる。
「よし、突入。」
ユストの号令で、隊員たちは、室内の伏兵を警戒しながら突入していく。
最後はユストに促されて、ユヲンと共にマドウッソウも室内へと足を踏み入れた。
そこは、執務室と言うよりも、まるで秘密基地のような様相であった。かなり広い室内正面には、大型モニターが設置され、各地のリアルタイム映像や、様々な情報が表示されていた。そのモニターの前には、数列に渡ってコンソールが並び、その前に職員が座って、端末で何やら作業をしていた。
「あなたたちは何ですか。ここは支部長室ですよ。関係のない者は直ちに出て行きなさい!」
大声を張り上げているひょろりと痩せ細った、秘書と思しき年配の男性が隊員たちを制止しようと立ち上がっていた。
しかし、銃口を向けられた無言の圧力に、両手を挙げるしかなかった。ただ、それでも口では抵抗を続け、「出て行きなさい」を繰り返していた。
「ケットー、大人しく従いなさい。」
後ろ手に拘束されたツィスカが首を横に振るのを見て、ケットーと呼ばれた男は大人しくなり、職員たちも大人しく隊員たちの指示に従った。
「ただいまより、このゼニジア支部は、宇宙連盟憲章第17章第1条第1項及び、宇宙連盟刑法第327条第6項、並びに宇宙連盟軍法第186条第2項の規定により、第六艦隊が接収する。異議申し立てのあるものはいるか。」
ユストは部屋中に響く大きな声でそう宣言をすると、部屋の隅に集められた職員たちを見渡す。
職員の何人かは何かを言いたそうにはしていたが、結局何も言わなかった。
「異議申し立てがないようなら、諸君らの身分は、現時点で一時凍結とする。疑いが晴れるまでは、拘束されるので、そのつもりでいるように。」
ユストがそう続けると、職員たちは項垂れながらも頷いた。一人ケットーだけが、反抗的な眼差しをユストに向けていた。
「ユール、準備は出来たか。」
ユストが通信兵の一人ユールと呼ばれた人物に声を掛ける。
「はい。準備出来ました。いつでも出来ます。」
ユールと呼ばれた男はコンソールの一つで作業をおこなっていたが、ユストを見て、大きく頷く。
「よし、繋いでくれ。」
「分かりました。」
ユールがコンソールから通信機能のスイッチを入れると、正面の大型モニターに宇宙戦艦の艦橋が映し出された。
「こちら、第六艦隊ヌヤルタブ号艦長直属部隊副部隊長ユスト・リーベルです。」
ユストはモニターに向かって敬礼をする。
「こちら、第七艦隊隊長艦艦長ミレーユ・シャルットです。」
「艦長にご報告申し上げます。ただいまゼニジア支部を制圧しました。ツィスカ・ルハルトは拘束、現在支部長執務室を占拠、職員の身分凍結をおこないました。」
「了解しました。ご苦労様です。ゼニジア時間、1500時を目処に担当者を向かわせるので、そのままで待機をお願いします。」
「了解しました。現状を維持し、到着をお待ちします。」
二人の通信が終わると、ユールに、館内にいる職員を大会議室に集まるよう、放送させた。そして、部隊から残留する3名を選び、他の隊員にここの職員を連れて大会議室へと向かわせた。
「さて、ツィスカ・ルハルト。ことの経緯を聞こうか。」
ユストは、床に跪いているツィスカを見下ろしながら、ニカリと笑う。
それを見たツィスカは、ゾクッとして身震いするも、覚悟を決めてポツリポツリと話を始めた。
その話によると、事の発端は第五艦隊が補給のために、ゼニジア星上空に浮かぶ宇宙ステーションに立ち寄った時、第五艦隊の隊長艦艦長が、ツィスカにクーデターを持ちかけたのだ。
その計画は、まず、宙賊を装った第五艦隊の部隊が、ゾグエヒテ星系外縁部で騒ぎを起こす。それを制圧に来た艦隊を壊滅に追い込み、その後このゾグエヒテ星系を拠点に勢力を拡大し、中央政府を叩く。そんなシナリオが練られていたようだ。
事実第六艦隊は壊滅に追い込まれ、隊長艦のヌヤルタブ号は轟沈、艦長は戦死した。
ツィスカによると、第五艦隊の真意は不明だが、中央政府の遣り方に不満があったことは確かで、政治的な信念なのか、単なる不平不満なのか、クーデターを起こそうとするまでのことだから、いずれにせよ余程の鬱憤が溜まっていたのだろう。
そして、ツィスカはその口車にまんまと乗せられたと言ったところなのだろう。
「大まかな話は分かった。黒幕については、お前に聞いても分からないのだろう。」そうユストは大きく溜め息をつき、「まあ、良い。お前には相応の罪を償って貰うからな。」そう宣告した。
ツィスカは何も言い返すことが出来ず、黙り込むしかなかった。
一方、ユヲンに付き添っていたマドウッソウは、通信兵のユールがユヲンに説明するこれまでの経緯を、傍らで聞いていた。
彼らは部隊専用の脱出ポッドで、ユヲン同様、轟沈したヌヤルタブ号から脱出し、戦火を掻い潜り、一路ゼニジアへと向かっていた。
しかし、ゼニジア上空の宇宙ステーションに助けを求めた途端、撃墜されたのだ。当然であるゼニジアは第五艦隊の手に落ちていたのだから、待ち構えられていたと言っても良い。
為す術もなく撃墜された脱出ポッドはそのままゼニジアの重力圏に捕まり、ノタハチ山の中腹に墜落した。
ただ、途中で全隊員318名がパラシュートで脱出したため、部隊が壊滅することなく、全員無事にゼニジアへ不時着することが出来た。
その後は持ち出した食料を食いつなぎ、助けを待った。漸く第七、第八、第九艦隊が到着したのが3日前。そこで、指示を仰ぎ、今回の制圧任務を与えられたというわけだ。
廃棄物回収センターのラゼル・ラダニが、ノタハチ山の中腹に墜落があったって話をしていたが、まさか、それがこの人たちの脱出ポッドだったとは、漁りに行かなくて良かったと、マドウッソウは胸を撫で下ろした。もし、行っていたら、それこそ生きては帰ってこられなかっただろう。
「ねえ、ユヲン。私はこれからどうしたら良いの。あなたを長官のところまで届けるのは構わないのだけど、それでおしまいなんてことはないんでしょ。」
マドウッソウは、ユヲンとユールの会話が一段落付いたところで、口を挟んだ。
〔何を言っているんだよ。君はもう既に私の相棒だよ。そんな配達員みたいに届けて終わりなんてことは嫌だろ〕
今のユヲンには表情が作れないようだが、その顔にはどうだと言わんばかりの、得意げな表情が、マドウッソウには見て取れた。
この秘密基地のような場所で、マドウッソウは友達と呼べるアンドロイドと永遠の絆を結んだのだった。
<完>
【後書き:2026年3月】
ご一読いただきありがとうございます。
2026年3月に提示されたテーマは【心の中の扉】【分かり合える範囲】【秘密基地】です。
また難解なテーマだなと嘆きましたが、この三つから考えられるのは、脳内情報をリーディング出来る機械を使った物語か、なにか秘密を抱えた人物が心を開いていく話になるかとも思ったのですが、そんな話では満足いかず、結局色々と考えた挙げ句、廃棄物回収の主人公と、アンドロイドの友情を描いてみました。
最初はゴミの山から拾ったロボットの頭脳から機密情報を取り出すなんて話を考えていたのですが、結局、今のような話に落ち着きました。
今回も少し強引な設定になってしまったかなと思いますが、なかなか良い感じに出来たかなとも思います。
この作品をあなたはどう感じましたでしょうか。
この作品が思索のきっかけになれば幸いです。
次回は4月になります。よろしくお願いします。




