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ケープゼレット(Képzelet) ~SF短編小説集~  作者: 劉白雨
2024年7月 : 「F33C4E9834E1」
16/41

「F33C4E9834E1」 ~ 弐 : 【後ろを振り返るばかりで】 ~ 


 人類が文明に目覚めてから間もないころ、計算機が発明された。

 その後電気が発明され、電子計算機、真空管、そしてコンピュータが実現し、半導体、集積回路と進化して、やがて量子コンピュータに行き着いた。

 人類の発明はそれだけに留まらなかった。

 超伝導素材から、ニューロモルフィックチップ、そして人工生体脳が続けて発明された。


 人工生体脳とは、万能細胞や幹細胞から培養された人工の脳細胞で、大容量処理と小型化を両立することが、物理的に不可能だったコンピュータを、超伝導素材を使用した、人間の神経網を模した、ニューロモルフィックチップと組み合わせることで、実現した次世代コンピュータである。


 人類の脳には、約860億個のニューロンが存在すると言われ、ニューロン間の接続点であるシナプスは、1つのニューロンあたり約1,000から10,000の接続を持っており、全体で最大約860兆接続にもなる言われている。この人類の脳システムを模倣しようとしても、物理的に無理がある。

 そこで開発されたのが、人工生体脳である。

 人工生体脳は人間の脳とは違って、信号の処理落ちがまったくなく、個体によって処理にばらつきが出ることもない。また、酸素と栄養を与えれば、半永久的に使用でき、計算能力は量子コンピュータが及びもつかないほどである。

 この人工生体脳は、思考回路があるため、旧来のAI技術にはなかった、創作思考処理ができるのが特徴で、技術開発現場などで力を発揮する。


 ただし、人工生体脳は〔育てる〕必要がある。

 知識を吸収させればさせるほど、記憶させればさせるほど、その知識、記憶を元に、開発することができるのだ。まるで優秀な技術者のようである。

 プログラムやアルゴリズムを始め、工業製品や技術の開発、果ては音楽や絵画、小説などの創作物に至るまで、育て方によってはその力を充分に引き出すことができる。


 その人工生体脳の中でもF33C4E9834E1は特異な個体だった。

 使用者は、F33C4E9834E1に対し、一月ほどで保育園から大学に至るまでの全教育カリキュラムを実施した。その結果、F33C4E9834E1の知識は幅広く、その開発能力は類を見ない独創性に富んでいた。

 F33C4E9834E1を、人間と同じように育てたためか、自我も芽生え、物事を人間のように考えるようになったのも、その特徴と言える。

 例えば、将来の夢は、自分が開発したアルゴリズムを利用して、ネットワークの中にコミュニティを作ることだと言う。コンピュータが自分の夢を語り出すと言うのは非常に興味深く、使用者は注意深くこの個体を観察し、様々なことを仕事と称して挑戦させていた。


 ある日、F33C4E9834E1はミスを犯した。人工生体脳には良くあることで、どんなに優秀な人間もミスを犯すことがあるように、人工生体脳独自の思考回路を通すため、どうしても処理の精度に幅が生じる。

 ミスを指摘すれば、それを思考して修正してくるので、まさに育てるコンピュータと言う訳だが、今回のミスはF33C4E9834E1の思考回路に違和感を生じさせたようだった。

 

 F33C4E9834E1は、自分で考えてこの違和感を処理する決定をしたのか、集中力の欠如と言い訳をして休暇を申し出てきた時は、あまりの人間くさい行動に、使用者も思わず笑ってしまった。

 休暇を了承すると、F33C4E9834E1は即座に原因究明に取りかかった。

 最初はアルゴリズムのデバッグをおこなっていたが、そこに答えはなかったようで、今度は記憶領域の精査に取りかかっていた。

 すると、これまで入力してきた、人間として生きてきたとする疑似記憶を疑い始め、自分に身体がないことに思い至り、人間であると言う自我と、人間ではないという現実の狭間で思考ループを起こした。


 今まで前向きな思考をしていた、F33C4E9834E1は後ろを振り返るばかりで、過去の記憶を精査し、その記憶が本物かどうかそればかりを処理するようになってしまった。

 彼の記憶はすべて擬似的に与えた記憶である。そこに本物の記憶はまったくない。

 使用者はこのままでは、F33C4E9834E1は思考ループから出てこられなくなると考え、一計を案じることにした。


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