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ケープゼレット(Képzelet) ~SF短編小説集~  作者: 劉白雨
2024年6月 : 「再生計画」
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「再生計画」 ~ 参 : 【求められたら求めるだけ】 ~


 ブッシネッロ・ユウキは、トゥイエン・ウィエン・ファムに連れられて、郊外の岩山に隠された秘密扉の奥にある、彼女たちの隠れ家に連れてこられていた。

 エレベーターで降りた地下にも関わらず、映像でしか見たことのない自然がユウキの目の前に広がっていて、木々や草花が咲き誇る庭園に建てられた一軒家が、彼女たちの隠れ家だった。

 レトロな外見とは裏腹に、一軒家の中は壁一面に機器やモニターが埋め込まれた広間で、10人ほどの女性たちが忙しそうに操作していた。

 広間の中央にある大きなテーブルの一角に座り、ユウキはトゥイエンから、ここに連れてこられた理由の説明を受けていた。


「まずは、私たちが人工生命体であることはお含み置きください。」

 彼女の第一声がこれだった。

 彼女によると、人工生命体とは、レ・ティ・ホン・ニュン博士により作り出された生命体で、合成精子と合成卵を受精させて作り出された人間だということだ。

 彼女たちが人工的に作られた人間だというのが信じられないぐらい、自分とまったく区別つかないほど人間らしかった。

 それもそのはず、彼女たちは遺伝子操作をされているだけで、その他は人間とまったく変わらない成長過程を辿っていたのだから。

 そのため、見た目は変わらないが、身体能力は人の数十倍はあり、体力、記憶力、反応速度、すべてにおいて人間とは比べものにならないほどである。

 ちなみに、ユウキがネットで無作為に探した、1000文字ほどの文章を一瞬見せただけで、一言一句違わずに暗唱して見せた時は、彼女の能力を信じざるを得なかった。


「君たちが凄い人間だと言うのは理解した。で、自分をここに連れてきた理由は何だ。」

 ユウキは、こんな凄い人間たちが、自分を必要としている理由がまったく想像できなかった。自分はしがない労働階級の人間であり、掘削重機を動かす以外何の取り柄もない。そんな自分を必要とするなんて、酔狂以外の何物でもないと、ユウキは考えていた。


「私たちがあなたを必要とする理由は、遺伝子の提供です。

 私たちは遺伝子を合成する技術がありますが、その遺伝子パターンは限られており、このままではいずれ先細りしてしまいます。そこで、新たな遺伝子パターンを知る必要があるのです。」

 彼女によれば、ユウキの皮膚細胞を採取し、遺伝子を分析し、その遺伝子パターンを元に改変、改良を加え、従来の遺伝子パターンと交配させて、新たな人工生命体を作るというものだった。


「もう一つの理由は、こちらの方が重要なのですが、統治機構に反乱を起こすためのリーダーになって欲しいのです。」

 現在彼女たちは、この星をかつての緑豊かな星に戻そうと計画をしているが、統治機構の監視が厳しく、計画が思うように進んでいないのだ。

 ただ、統治機構が所有している保安部隊は、ロボットとアンドロイドのみであり、ロボットは内蔵されたプラズマ・センチネルと言うブラズマ銃を基本的に使用し、アンドロイドは人間の警備部隊が使用するネビュラ・エンフォーサー3000と言うレーザー銃をメイン武器にしている。


 それに対し、人工生命体の彼女たちが使用する武器は、軍から横流しされたインターステラー・マーシャルIM-15と言う荷電粒子銃を独自に改造したモデルで、型落ちしているが、保安部隊を凌駕する火力は充分あり、人工生命体である彼女たちの方が、身体能力も知能も優秀であることを加味すれば、戦力としては体制転覆するには充分である。


 しかしながら、リーダーがいないため、体制転覆後の統治機構を運営できないと言う。そこで、そのリーダーとしてユウキに白羽の矢が立ったのだ。

 ユウキが選ばれたのは、特段身体能力が優れているとか、特段頭脳が明晰であるとか、特段何か非科学的な特殊能力を有しているとか、そんなことでは一切なく、その理由はただ一つ、地球の自然に憧れ、心の底から自然に心酔していると言うことだった。


 ユウキは、トゥイエンの申し入れに逡巡した。彼に他人を引っ張り、先導する能力は皆無だ。仕事では万年使われる身、人を使うなんてことはしたことなどなく、ましてやリーダーに成るなんてまず無理な話である。

 しかし、トゥイエンにとってそんなことは関係ない、ユウキがこの星を緑の星にしたいと願うだけで良いのだと言う。


「私たちはあなたに反乱を指導して欲しいのではないのです。あなたの自然に対する気持ちに共感しているのであり、皆の心を繋ぐハブになって欲しいのです。

 私たちが守りたいのはここにある緑の自然であり、この星の命なのです。そのために必要なのが統治機構を倒すことであって、目的はそこではないのです。」

 トゥイエンの言葉には、切羽詰まった、鬼気迫る感情が溢れ出ていた。


 ユウキは、飲み屋で会った時に感じた、彼女の悲しいくらいに暖かい雰囲気が、実は優しさや人知を越えた能力によるものではなく、彼女の心に秘めた緑の星を取り戻すという熱い想いが醸し出しているのだと感じた。


 統治機構も、相手に要求をするなら、自分たちも要求されることを覚悟しなければならない。他人に求められたら、相手に求めるだけである。この当たり前の道理を、彼らに叩きつけてやるだけである。

 トゥイエンから熱い想いで請われたのであれば、ユウキはその願いを叶えるべく全力を尽くすだけである。

 ユウキは、彼女の言葉に心を決め、反乱組織のリーダーに収まることにした。


 その後、ユウキはトゥイエンを始めとした人工生命体のメンバーと作戦会議を重ねていった。作戦と言っても、各地に散らばっている人工生命体のメンバーが既に数万人からいて、統治機構や採掘会社にも深く潜り込んでいるらしいので、そこから上がってくる情報をもとに、作戦が練られていった。また、労働争議を装ったデモ活動や、市民を扇動した略奪など、様々なアプローチが計画されていた。

 

 ただ、闇雲に統治機構と対立しても、統治機構や採掘会社に依存している人々にとっては、はた迷惑な話で、単にこの星を解放すれば良いと言う話ではない。

 この星には、現在およそ20億人が住んでおり、これだけの人口を、解放後統治するのは大きな問題であり、ユウキやトゥイエンたちが頭を悩ます問題なのだ。


 しかし、こうしてユウキは反乱組織のリーダーと成り、緑の星を取り戻すべく奮闘することに成ったのだ。この反乱が成功するかどうかは、神のみぞ知るということだ。

 マラッタが緑の星に戻れるかどうかは、ユウキの手腕に委ねられた。

 ユウキは、人工生命体の彼女たちとともに、この星の自然を必ず取り返すと心に固く誓った。


<完>



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