月は琴のように、星座は鍵盤のように
夏木立にそそぐ
樹雨のような
碧い陽射しが
瞳の中にはじけて
まぶしい光の
しぶきとなって
樹々の合間を
吹き抜けていく
風は夏の旋律
木洩れ日の波間に
煌めきゆれる
デルフィニウム
月草色のつぼみが
夏風にそよめき
見上げた空の海に
いるか雲が浮かんで
やがて夕陽が
杏色に熟しながら
大地に溶けて
世界を染めゆく
ブルーモーメント
夏色のひととき
青い瞬間を刻んで
星座は鍵盤のように
宙から季節を奏でて
ピアノの鍵盤と
同じ数だけ宙に
描かれた星座たち
白鳥と鷲が翔る光が
描く夏の大三角
その東に瞬く
ひしぼしは
いるかの姿をして
音楽という名の
星の光はやさしく
月は琴のように
星々と響き合いながら
星や花や草木も
そして人も
時の譜面の上で
日々その一音一音を
懸命に奏でながら
何度でも
リピートしたい
一小節があって
時が経っても
大切にしたい
一小節も
笑顔に音符さえ
軽やかに舞う
一小節もあれば
手探りのまま
必死にかき鳴らす
一小節も
涙で譜面が
見えなかった
一小節も
これから描く
まぶしいほど真っ白な
いくつもの小節も、
きっと
一人ひとり
自分という音を
奏でながら
その一音、一音が
違った音だから
大切な音だから
いくつもの音と響き合い
いくつもの旋律が生まれて
夢の水平線に
浮かぶひしぼしは
未来の航路へいざなう
いるか達のように
星が奏でる夜空は
夏色の、
ブルーモーメント
つぼみの形がイルカに似たデルフィニウムは、ギリシャ語で「イルカ」の意味で、青い花が咲き、「幸せをふりまく」という花言葉があります。
夏の星座の一つ、いるか座は、夏の大三角の東のひし形の四つ星「ひしぼし」が目印です。ムジカという星は、ラテン語で「音楽」の意味で、神話でイルカに助けられた琴の名手の名がつくアリオンとともに空にあります。
ブルーモーメントは、夏の夕暮れの後などに、空が辺り一面青く照らされる現象です。その夜空を彩る星座は88ありますが、これはフルサイズのピアノの標準の鍵盤数と同じです。
季節の星や花、音楽をモチーフに詩を描かせていただきました。お読みいただき、ありがとうございます。