第32話 討伐依頼 ガイア1817年8月19日~
加筆修正しました。その為、1話の文字数が6千字を越えたので2話に分割いたしました。
32話はギルド内でのやり取りまでとさせていただきました。後半の森の中の様子は33話の前半となります。修正部分は森の中でのやり取りになります。
申し訳ありません。
錬金工房に通いだしてひと月、ほぼ毎日ハンマーを振っていた。
『相変わらず朝から晩まで、ほとんど休憩取らずにハンマー振ってるのかよ。ヒロ、一体お前の魔力量ってどんだけ有るんだ?メルティングをそれだけ連続で使える奴なんて、儂を含めて誰も居らんぞ』
呆れた顔で錬金工房全体の棟梁であり、鍛冶錬金の親方でもあるマイケルが話しかけて来た。
『なんか、人より少し多いみたいですね。この短剣、さっき作ったんですがどうですか?』
『おお、良いじゃないか。お前の作る物は付与がしやすいって魔法陣工房の奴らが喜んでたぞ』
『そうなんですか?まだ魔法陣は習ってないので、付与しやすいと言われても違いが分からないんですが、喜ばれているんなら良かったです』
『そっか。まだ魔法陣を習ってないのか……。時期が悪いな。魔法陣を描くのにミスリルが必須なのに、どこも品薄だからな。余裕が有れば工房の在庫を融通してやっても良いんじゃが、無理だな今は』
『まあ、仕方ないですよ。マイケルさん、明日は気分転換にダンジョン潜って鉄鉱石取ってきます』
『ああ、分かった。その短剣も買取で良いか?』
『はい、口座に入れておいてください。じゃ、柄と鞘を作るので、またニスを分けて貰って良いですか』
『悪い。さっき、ニスを使い切ったんじゃ。自分でコパールからニスを作ってくれんか』
『作り方を教えてもらっても?』
地下の倉庫に材料を取りに行った。
『これが材料のコパールじゃ。これをディゾルブで溶かし、ピュリファイングしてセパレイティングで水分を調整すれば出来上がりじゃ』
『え?これ琥珀ですよね?メルティングじゃなくてディゾルブですか?』
『これは木の樹液が固まった物じゃ。これが1万年ぐらい掛けて固くなると琥珀に成るんじゃ。じゃから、メルティングじゃ炭になってしまう。爪を立てて見ろ、傷が付くぐらい柔らかいぞ』
『あ、本当だ。柔らかいですね。どんな木の樹液なんですか?』
『木こりギルドから仕入れているから、原材料の木の種類はよく分からんな。時々、触ると被れてしまう不良品が混じっている時が有るから気を付けてくれ。そいつでニスを作っても、なかなか乾かなくて使えないんだ。あ、あと松の木から採れるコパールは滑り止めに使える。触るとねちゃねちゃっと手に付くからすぐ分かるぞ。まあ、どっちも検品済みじゃから、こん中には入ってないと思うがな』
『分かりました。どれぐらい作ります?他の人も使うでしょう?』
『そうだな、これを使って、その容器一杯頼む』
マイケルは樹液の塊を5個選んで渡してきた。
翌日、久しぶりにダンジョンに潜り、鉄鉱石を採掘した後、冒険者ギルドに魔石とダンジョンの素材を売りに行った。
『あ!レインボーヒロ!』
俺の顔を見た受付嬢が妙なことを口走った。
『え?レインボーヒロ?』
『あ、いえ、なんでも有りません。ヒロさん、ちょうどお願いしたいクエストが発生したので待っていたんですよ。受けていただけませんか?』
『なんですか?レインボーヒロって?』
『サガタウンから、この町に来る時に峠を越えますよね?あの峠を越えずに、山沿いを北東に進んだ所でレッドベアーが出たんです。それを討伐してもらえませんか?木こりの人たちが怖がって山に入らないと依頼が来たんです』
視線を左に外し、受付嬢は話を続ける。
『レッドベアーですか?初めて聞く魔物なんですが、情報有りますか?で、レインボーヒロって?』
俺は体を右にずらし、彼女の視線の先に顔をねじ込む。しかし、彼女は反時計回りに見事なターンをして今度は右を向いた。
『はい、レッドベアーは黒毛で、胸に赤い三日月形の模様が特徴のクマの魔獣です。ランクはC1で、体長3m前後、体重800㎏ぐらいの大きさです。主な武器は爪と牙と体当たり。さらに体の大きさの割に俊敏だと云われてます。最高速は70km/hを超えると云います。しかも、最初の一、二歩で最高速まで加速できるそうです』
俺は職業猟師として爺ちゃんに師事していたけど、実はクマを撃ったことは一度しか無い。許されている猟期の大半、クマは巣穴に隠れている。いわゆる冬眠中だ。でも実際には巣穴で熟睡していることは少ない。うつらうつらとしているだけで、僅かな物音で起きてしまう。そうとは知らずに巣穴の近くに人が行くと、物音で起きたクマにいきなり襲われる。俺は爺ちゃんに「木に残された痕跡を見逃すな」と徹底的に教わった。
クマが爪で木に残す疵跡には二種類ある。ひとつは縦、もしくは斜めに残された疵だ。これはクマが木の上の木の実を食べるために木登りをする時、もしくは木から降りる時につける疵だ。特に降りるときは爪を立て、減速しながら滑り降りるため縦に長く疵が残る。
もう一つは水平に付けられた疵だ。木の右側に付けられていたら右方向に、木の左側に付けられていたら左方向にクマの巣穴がある。縄張りを主張するためだと云われているが、その方向を探ると木の幹を齧ったり枝を折った跡が点在する。その痕跡を辿っていくと巣穴がある。
爺ちゃんは人里近くで巣穴を見つけたときだけ穴熊猟をした。爺ちゃんは巣穴の正面に位置取り、俺は巣穴から出てきたクマを横から狙った。お互いの弾道が十字にクロスするように位置して、シロを嗾ける。クマは動物園のようにのっそりと歩いては出てこない。クマも命がけである。巣穴の中から勢いをつけ、飛び出してくる。入口に居るシロは無視して、正面の爺ちゃんを襲うか、横に逃げていく。犬の7~8倍の嗅覚を持つクマは鉄砲の匂いを知っている。1秒間で10m以上走れる脚力で襲い掛かって来る。それを急所の喉を狙って撃つのだが、急所に命中しても一撃で倒れることは少ない。死してなお、数秒間動いて襲ってくる。
それを俺は真横から喉を狙って撃つ。その時はまだライフル銃の所持許可が下りていなかったので、スラッグ弾を装填した散弾銃だ。爺ちゃんの2発と俺の1発でなんとか仕留めた。
仕留めたのは体長(鼻の先から尻尾の根元まで)160㎝、体重100㎏のツキノワグマだった。
今回の獲物、レッドベアーはその2倍大きいという。北海道に居るヒグマサイズだ。いや、ヒグマより大きい。ヒグマは体長2.0~2.8mで体重は250~500㎏だ。
そして、爺ちゃんの遺品でもある|ライフル銃《BEER MK3 HUNTER》で使用する銃弾 .308win弾はヒグマ相手には少し微妙な威力だ。ヒグマを専門にしている人は.30-06スプリングフィールド弾を使っているらしい。口径は同じ7.8㎜だが、薬莢のサイズが1㎝違う。つまり、.30-06弾は.308win弾より、火薬を多く入れ威力を上げる事が出来る。しかも、弾頭もより大きく、より重い物が使える。その様な改造をして尚、命がけなのに、ツキノワグマの2倍の大きさ、体重では6倍以上のレッドベアーには通用しないだろう。
『体長3mも有るんですよね?ちょっと俺ひとりじゃ無理そうです。で、レインボーヒロって?』
今度は左に体を動かして、受付のカウンターの上に身を乗り出す。すると彼女は時計回りにターンを決め、また左を向いた。そして、一瞬遅れて俺の顔を彼女の髪の毛が叩いて流れていく。
(ああ、良い匂い)
『あのヒロさんひとりで戦うのじゃなくて、いつも一緒のパーティーの皆さんで倒していただけませんか?』
『そうですね、他のメンバーは全員、屋敷の仕事をしているので行けるか分かりませんが、一度聞いてみますね。で、レインボーヒロって?』
再度、右に体を動かし彼女の顔の前に身を乗り出す。しかし、彼女のターンの発動を確認すると反復横跳びの要領で左に体を戻しカウンターの上に身を乗り出した。しかし、その時左足が滑り、体が前に倒れる。
ぽよんぽよん
何か柔らかい衝撃が俺の顔を襲った。
『ありがとうございます。お願いします』
受付嬢は最後まで視線を合わせないまま、しかし、笑いをこらえている顔で頭を下げた。
毎週 日曜日更新の予定です。
会話の「」内は基本地球の言語を、『』内は異世界での言語という風に表現しています。お互いの言語学習が進むと理解出来る単語が増えて読める様になって行きます。
youtubeで朗読させてみました。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLosAvCWl3J4R2N6H5S1yxW7R3I4sZ4gy9
カクヨムでも掲載しています。
https://kakuyomu.jp/works/16817330650840522521




