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デビル・ミーツ・ブルーハート ~ 悪魔の第二ボタン ~  作者: Otaku_Lowlife
第三話 黒波 隼
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「ヤンディラデュマセランだってよ」




 話は再び遡り、セラと出会った去年の八月。

鬱屈とした、あの雨の夜。


「ほほ~、ここがキミの家か~。」


 あの後、家に着く頃には既に、俺は「何かマズいものを拾ってしまった」と思っていた。

自転車を押して自宅のアパートまで向かう途中、その外人の女は、終始ビトっと身を寄せて来たからだ。

キミが濡れてしまうよ、そう言ってビニール傘を差し、俺の隣を歩きながら、ベタベタと。

それはまるで、悪魔のように。


「思った以上に、しょぼい家だなぁ。」


 六畳の1K。

男の一人暮らしならそれで充分だが、生意気な野郎だ。

なんなんだコイツ。


「うるせぇよ。」


 思わず「アーユーオーケー」とか言いながらバカみたいに傘を充てがったものの、びしょ濡れの日本語ペラペラ外人女(多分ロシア人)に「行く宛てがない」そう言われて困った俺は、ひとまず家に連れていく事にしたのだが。


 一人暮らしの大学生。

そして、若い男女。

確かにそんなシチュエーションも少なからず気にはした。

けれど、何しろこんな雨の夜だ。

関わってしまった以上、あのまま放っておくのも気が引けたからだ。


「ほら、タオル。からだ、拭けよ。」


「うお。」


 そして恩人の家に入るなり生意気な事を言うので、テキトーにキッチンの床に落ちてたバスタオルを顔に投げてやった。


「これ、ちょっと濡れてないか?」


いかにも気に入らなそうに女が顔をしかめる。


「いちいち文句を言うな。」


「フ~ん。」


 不満げに女は顔をそむけた。

言動の一つ一つが癇に障る野郎だ。


「はぁ。」


 思わずため息がダダ漏れる。

さて、これからどうしたものか。


 濡れネズミ一匹、我が家に上げたものの、行く宛てがないという。

朝にはこの雨も止むはずだが、今日は泊めてやった方が良いのだろうか。

それとも警察に連れて行くべきか。


 そもそもコイツ、一体何者なんだ?

どうみても外人だが――まさかどっかの御令嬢とかか?


「お前、名前は?」


「そういう君は?」


「ち……。いいから名乗れよ。」


「ヤンディラデュマセラン。」




……。




「は?」


 いや、どうやらまじだ。

冗談を言っている顔ではない。

答えながら、女は淡々と白い髪を拭いている。


 ヤン……なんつった?

何語で、どこ人だ?

コイツ……一体……。


「すまん、もっかいだけ頼む。」


「ヤンディラデュマセラン、だよ。頑張って覚えてね。」


「おう。」


 俺は、諦めた。

元々物覚えはあまり良くない。

けれどそれにしたって、やたらに長いし、意味不明だし、馴染みがなさすぎる。

まさか宇宙人じゃあるまいな。


「ヤン……か……。」


「え、その呼び方、好きくないんだけど……。」


 熟考の末に「ヤン」と、そう呼ぼうかと思ったのだが、ヤンは不満げに眉をひそめた。


「もう、セラでいいよ。そっちの方が、さわやかな感じだ。」


「そうか? なんか悪魔っぽいぞ。」


「悪魔だよ。」


「言ってろ。」


 俺はバカにするつもりで言ったのだが、俺の冗談に気分を害するでもなく、ヤンは平然と乗って来た。

生意気なヤツだと思ったが、それなりに冗談は通じるらしい。


「だから"ヤン"はやめてってば。」


「は?」


「今思ったろう。聞こえてるからね、心の声。」


タオルを肩に掛けてそう言いながら、ヤンは勝手に俺の部屋の方へ入って行った。


「だーかーらーさぁ。」


「あ?」


なに怒ってんだコイツ。


「もういいよ。」


 さっきからなんなんだ。

まじで意味が解らないぞ。


「……。」


いや、まさかとは思うが……本当に……。




――試して、みるか……。




「……。」




――ヤン。


「ぅおい!!」


 や、やっぱりだ。

何だコイツ、面白い。


 思った通り、どうやってかは知らんが、確かに俺の心の中を読んでいるらしい。

俺が心の中で「ヤン」と呟いた途端に振り返り、ヤンは声を張り上げて苛立たしげに叫んだ。

面白い。


「解ってるなら言うなってのにさぁ!! 次言ったらもう容赦しないからね。」


「お、おう……。」


――まったく、どう容赦しないと言うのか。




――さてと……。



ヤ――


――キッ!!




セラは、俺を睨みつけて牽制した。




「うん、よろしい。」


いやはや、驚いた。


「お前、何者なんだ。まさか、ほんとに宇宙人か?」


「さっきも言ったろう、悪魔だって。なんだ宇宙人て。」


「……。」


「ところでハヤト君。お腹が空いたんだけど、なにか食べるものは無いかな。」


――いきなり図々しいな。


「悪魔だからね?」


「……。」


 なんか、やりづれぇな。

て、あれ……俺、名乗ったっけか。

いや、名乗った覚えはない。


「ふふっ。」


思考の乱れた俺を嘲笑うかのように、セラは口元に手を当てて悪戯に笑った。




――やりづれぇ……。




「そういやお前何歳なんだ? 見た目俺とそんな変わんなそうだが。」


「む、お前とはまた失敬なっ。私はキミより遥かに先輩なんだけど?」


「んで、何歳なんだよ、先輩。」


「たぶん4000歳くらいだっ。」


「お前ほんといい加減にしろよ。」


「ふふ、悪魔だからね?」

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