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先生とこころ
いつだったか、小説家になりたいと思った。
たしか、夏目漱石の『こころ』を読んだときだった気がする。
則天去私。
漱石の思想を体現した「先生」に心を惹かれ、
小説家になろうと決意したはずだ。
『こころ』
きっと本が好きなものなら誰でも、
たとえ本が好きでなくとも読んだことのある人がいるではないかと、
思ってしまう、不朽の名作。
当然だが、
我が師である、先生も読んだことはあるそうだ。
暗くあるが、苦しくはならず。
深くありつつ、共感の思いは断ち切れず。
先生はこころをそう評した。
私も概ね同意だ。
私は「妻」を思うと、
こころが苦しくなってしまうが。
広くありふれた思いであり、どのような人でも共感をしてしまう物語。
尚且つ、その物語は決してありふれたものにはならない。
それこそまさしく小説家を志すものとして、
目指すべき、到達点の小説であろう。
今も日本のどこかで、私のように
新しき小説家がこの「こころ」によって生まれているに違いない。