先生
「すべては、書き出しから始まる。」
それが一番最初の先生の教えだった。
設定こそ最初だと思っていたわたしは
その先生に師事することをその時はじめて決意した。
先生にあったのは、大学の入学式のことであった。
先生は右端に座っており、
古めかしい着物と羽織をしていた。
真正の国語の先生なのか、
それともただの和服好きであるのかは見当もつかない。
第一印象がそれであったから、
大学の講義で先生を見たときは、
誰もがまとも授業をするとは思はなかったに違いない。
その予想は正しく、多くの生徒にとってその授業は、
お世辞にも画期的な最高な授業ではなかっただろう。
私は違った。
岡潔のようなその授業は
私にとって人生最高の授業で、
きっと湯川秀樹翁もこのような衝撃だったのだろうか。
と思わせるほどの良い授業であった。
その先生の授業は、やはり国語であった。
ある日、先生に個別に授業をしてもらおうと、
先生の研究室に足を踏み入れた。
その部屋は、古本屋であった。
所狭しと並べられた本。
無造作に置かれているわけではなく、シリーズごとに分けられて置かれて居る。
本と本棚によって埋められた壁がうねった道を作り出していた。
そこに先生はいた。