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天使とお願い

「はぐあっ!!?」


「......? あ、あれ? どこだ、ここ? さっきのスライムはどこにいったんだ?」


 スライムにまさかの敗北を喫した星空が目を覚ましたその場所は、現実世界の自分の部屋にあるベッドの上でもなければ、かといって森の中のゴツゴツとした大岩の上でもなく、古風な木造の建物の中に設置された少々ホコリっぽいソファの上であった。


「ここは......」

 

 もちろんこの建物は星空には知らない場所だ。辺りを伺ってもピンと来ない。この部屋も星空が眠っていたソファ以外に目ぼしいものは、天井にまで届くほど高い本棚が四台あるぐらいで、家具もほとんど置かれていない。


 念のため本棚にきっちりと陳列された大量の本(おそらく余裕で千冊は超えている)の背表紙を観察すると、タイトルが英文字のようなもので記されていた。どうやらほとんどが英語?で執筆されているようだ。


「まあ、漫画なんてここにあるわけないか...」


この男には緊張感というものは存在しない。例え見知らぬ建物の中で目を覚ましても、パニクることはまずない。


 なぜなら八雲星空はスリルが大好きな、ド変態だからだ。


「あら? 目を覚ましたのですね?」


「ふぁい!?」


 と、本棚をまじまじと観察していた星空に、これまでの人生で、一度も聞いたことがないような美しい声音が語りかけてきた。


 声音、いや聖音とでも言うべきだろうか?


 ふと、本棚から横に目をやるとそこには修道服を着たオレンジの髪の少女がいるではないか。パンと水の入ったコップが置かれたお盆を運んで、部屋の入り口近くに立っていたようだ。


「よくお休みになられましたか? 覚えていないかもしれませんが、森の奥で眠っていたのを親切な村の人が気づいてここまで運んでくれたんですよ? 」


「......」


「ところであなたの着ているそれ、この辺りでは見慣れない服装ですね...? ひょっとしてずいぶんと遠くの国からやって来たのですか?」


「......」


「? あ、あのう? ど、どうかしましたか? さっきからボーッとされていますが...?」


(......か、可愛いっ!!!!)


 忘れてはいけないが、彼はまだ思春期の高校生なのでかなり惚れっぽいのである。


(し、信じらねぇ!? 何なんだこの子は!? さいっこうに僕の好みにドストライクなんだけど!? めちゃくちゃ美人だし、スタイルもいいし、声も可愛いし、非の打ち所が全くねえぞ!? こ、こんなキュートな天使(エンジェル)がマジでこの世に実在していたとは...!!)


 正確にはここは異世界なので、この世に実在という言い方は語弊があるのだが、まあそんな細かいことを今の彼は気にしない。


「あっ、すいません! 自己紹介がまだでしたね。 ワタシはアンネと申します。着ている服から分かるかと思いますが、見ての通りここで修道女(シスター)をしております」


「教会? ここが?」


「はい、ここはワタシの生家でして、このハアト村の唯一の教会なんです」


(ハアト村...)


言わずもがな星空には知らない名前の場所である。名前からして日本ではないのは歴然だろう。いちいち考えても仕方のないことだが。


「っと、そういや僕の自己紹介がまだでしたね? 僕は星空って言います! どうかお見知りおきを!」


「ホ、ホシゾラ?ですか...? 何だか変わったお名前ですね?」


「えっ!? そ、そうですかね?」


 これは彼にとってわりとショックなことだった。星空なんてロマンチックで中々に格好いい名前だと自分でキモいほど自画自賛していたからだ。まあ可愛いから何言われても許しちゃうけど...。


「あ、それで一応お食事を用意して来たんですけれども......、今食べますか?」


「もちろん食べます!!!! ありがたく頂戴します!!」


「は、はあ...」


 美人からの頼みを無下にすることは星空にはできない。何より彼は自分でも気づかぬ間にずいぶんとお腹を空かせていた。餓死とまではいかないが、もう少しすれば空腹でまともに動くことすらできなくなっていただろう。


「おっとこれは!? いやぁ、実に美味しいパンですねぇー!! これってひょっとして自家製なんですか!?」


「え? いえいえ、それは村のパン屋で購入したものでして...」


「へぇ? この辺りのパンってもしかして有名なんですか? いやぁ、こんなに美味しい焼きたてのパンを食べたのは初めてですよ! はっはっはっ!」


「......」


「......あっ」


(ヤバい! これはまずい! 興奮のあまり彼女のまえでついはっちゃけてしまったが、さすがにこのテンションはうざかったか!? 急に静かになってしまった!も、もしかして嫌われちゃったか?)


 万事休すかと彼は覚悟したが、直後彼女から思いもよらない言葉が出てきた。


「あ、あのう...、ちょっとよろしいでしょうか?」 


「え?」


「その、知り合ってばかりなので不自然だとは思いますが、実はあなたに一つお願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「お願い?」 


「はい、そうです」


 お願いごと...、これはかれにとって予想外の発言だった。見ず知らずの赤の他人である謎の男にお願いをするというシチュエーション...、可愛い女の子に頼られること、無論これで星空が燃えないわけがない。


(キタキタキタ! これはついに来たぞ!? 僕の時代がキターーーッ!!!!)


「はっはっはっ!! お願いごとですね!? それならば僕にお任せください! なぁに、あなたの頼みならばどんなことでも叶えてさしあげますよ!! それで、お願いとは一体何でしょうか!?」


「えっ、じゃあ話してもいいんですか?」


「もちろんですとも!」


「本当に?」


「ええ、はい!」


「本当に? 本当に? 本当に?」


「ええ、本当です!」


「......」


「? あれ? どうしたんですか? 急に黙って?」


「...あなたの胸にナイフを刺してもいいですか?」


「え?」


 グシャッ!!


 この瞬間、部屋中に大量の血しぶきが飛び出ることとなった。

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