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『不死』という言葉をご存知だろうか?
もちろんそのワードを知らない人は世界でも、ほとんどいないはずだ。
一般常識...、ではないが誰しも死なない身体に憧れや興味が湧くのは決して珍しいことではない。
恥ずかしながら彼もそうだ。八雲星空高校三年生の17歳、受験が迫る中で周りから少し遅れての厨二病発症中の哀れな青年である。
「ふっ、また勝ってしまったみたいだな...。やはり僕の右手の封印は普段は解くべきではないようだな。やれやれ」
などと戯言を申しているが、別に彼の右手が悪魔の手であるわけでも、謎の刻印が施されているわけでもない。星空の右手はいたって普通の人間の手である。
「ふっふっふっ、どうだ見たか!? 現世に蔓延る人間達よっ! この僕こそ最強! 絶対不死! 最高の存在なのだっ! さあっ、我が力を崇めたまえっ! そして知らしめよっ! この世の全てが誰のものであるのかをっ!」
俗に言う深夜テンションと呼ばれるものだが、それに加え厨二が混ざってしまうとまさに文字通り混沌と化すわけだ。
深夜一時、学生ならとうに就寝していてもおかしくないこの真夜中に、彼はス○ブラのオンライン対戦で、怒涛の十連勝を収めていたのだった。
単に運よく勝ちまくって、偶然手にした十連勝をわけの分からぬ未知の力で勝利したなどと喜ぶその姿は、高校生はおろかもはや3歳児並みの子供のようである。いや、どころか3歳児ですらこのような戯けた喜びかたはしないだろう。彼以外にはできないはずだ。
「さてさて、次の獲物は誰かな~?」
成長のない17歳、部活も特にせず学校も頻繁にサボり
ゲームに勤しむそのルーティンは、はっきり言って駄目中の駄目人間の典型例と言えよう。
だからこそだろうか? この後彼の身に起きる全てがある種の課せられた試練であるということを...。
そして破竹の勢いで手にした十連勝を心の中で誇りながら、続けて十一連勝目を手にせんと、キャラクター選択をしていたときであった。
プツッ!
「......ん?」
まさかの予想外のハプニングだ。せっかくの破竹の勢いに水を差すかのようにゲーム画面が突如としてブラックアウトになる。この瞬間星空の記録した連勝記録は十という区切りであっさり終了となったのだった。
「はぁーーーーっ!!!?」
深夜にも関わらずこの日一番の彼の声音が、近所迷惑など一切考慮などせず部屋中へと響き渡る。
「ま、まさかこんなときに敵襲かっ!? くそっ、夜中に襲うとは卑怯な!!」
言うまでもなく厨二病全快である。今の彼にとって突然のハプニングとは、バグなとではなく姿の見えない敵対勢力の奇襲攻撃でしかないのだ。
だがその考えは曲がりなりにも当たっていた。どういうわけか星空は正真正銘の馬鹿ではあるが、妙に勘だけは鋭い。
ザーーーーッ
「!?」
ブラックアウトして真っ黒に映っていたテレビ画面が突然スノーノイズ、つまり砂嵐の画面へと切り替わる。
「な、何だ...?」
当然星空はリモコンの類いは一切弄っていない。いや、それどころかこの昭和から遠くはなれた令和の時代に砂嵐が画面に映るチャンネルなどあり得るのだろうか?
「ま、まさかこれってアレか? 僕の親父が昔レンタルDVDで見ていた、いつの間にか井戸の画面が映っていてて、そこから女の人が出るって...」
星空は脳裏に誰もがよく知る懐かしの有名ホラー映画をふと思い浮かべたのだが、その予測は幸か不幸か大きく外れていた。
なぜなら次の瞬間、ザーッと大きなノイズを立てていた砂嵐の映像がパッと止み、そして瞬時に液晶テレビに大きく何か文字が映し出されたからだ。
その画面にはこう映っていた。
『GATE OPEN』
「????」
液晶画面に映し出されたのは大きく黄色い色をした『GATE OPEN』という謎の英文...、GAME OVERなら普段から見慣れているが、この英文のパターンは当然星空にとっても初めてのことだ。
「?? 何だこりゃ? このゲームにこんな画面なんてあっ......」
だが既に次の異変は起きていた。液晶に映し出されたその英文字に気を取られていて気づくのが遅れてしまった。果たしてこれは現実なのだろうか? 星空の足元にポッカリと1mはあろう大きな穴が開いていたのだ。
「!!!!うおおっ!?」
しかし星空も運だけは強い。普段は怠惰であるがこう見えて運動神経は悪くない。このまま穴に落ち奈落へとダイブをするはずが咄嗟に右腕を伸ばして、そのまま穴の淵を掴むことに成功し何とか落下を回避したのだ。
とはいえ、片腕だけで自らの肉体を支え続けることはやはり時間の問題であり、いずれ限界が来てしまう。星空は運動神経が良くてもスタミナがあるわけではない。助かるためにはこの状態で誰かの救援を待つしかない。
それにしてもこの大穴は一体何なのだろうか? いや、単なる穴というよりもこれは例えるならばブラックホール、漫画とかにあるような次元に裂け目ができたかのようなそんな形の大穴である。
既視感がないわけではない。なぜならこうした非現実的な衝撃的展開は彼も好きなライトノベルでも珍しくもない事象だ。
「うぐっ...、まずい! 手が痺れてきた! このままでは下に落下しちまう! こうなったら一か八か右腕の封印を解除するしか...」
タイムリミットが刻々と迫る中で、決してぶれない厨二病設定ではあったが、現実はいつでも非情なものだ。
「あっ」
右腕が限界を迎えるまでもなく、先ほどまで1メートル近くは広がっていた大穴が収縮し、人の手のひらほどまでに小さくなっていた。
「あーーーーっ!!?」
悲鳴も既に遅く、穴は完全に閉じられてしまい、星空の右腕も為す術なく離れることとなった。
「ぎゃあああああっ!!!?」
さすがの彼もこの瞬間に限っては完全な素になってしまっていた。
かくして自称不死の厨二病青年は、謎の穴の中へと力なく落下していったのだった。
『GATE CLOSE』
『WELCOME TO LIVEND』