第1話「セルリアのフーディロード」9
そういえば、詠唱は?!
初めての本格魔導、すっかり忘れてたが、間に合うのか?!
ゼッピもストレイも魔導を放つには詠唱時間が必須だった。
もちろん魔族もだ。
だからバトルの前に詠唱しておいたり、相手の反撃を読みながら、さらには仲間の攻撃で時間稼ぎをしたりとか、行動のデッキを組む必要がある。
ゼッピがやたらと「作戦」を気にしていたのは「パーティ感」を意識していたからなんだろう。
って、勇者パーティで眺めていただけで、作戦立案に積極的に参加したことはないが......
そんな俺でも、ゼッピのいい加減さはわかった。
「もっと考えようぜ」なんていったら、怒るだろうな。
しかし、心配はいらなかった。
魔導名を叫んだ瞬間、横転していた魔導車両の周りに猛烈な風のフィールドが発生したようだ。
「なんだあ?! 浮いてる??」
そう、不思議と詠唱時間不要、すぐに効果が発現したのである。
そうか! いつの時代も主婦の味方は時短!
料理はスピードが命。
「食魔導」は、時短魔導ってやつなのかあ?!
これはひょっとすると、チートスキルなのかもしれない。
地面に風がびゅうびゅうと吹きつけて、俺の魔導車両は、高度を上げていく。
「くっ、ボディを安定させるにはどうすれば? こうか?」
ほぼ反射的にハンドルを回すと、ボディは正面を向いて、目の前には、コマンダーゴブリンと人質が見えた。
「マホトラ・フォートレス」と同じ高さまで上がる!
どうやら、「ガストラ・ウインド」は魔導車両に効いているらしい。操縦系統は変わらない。
よし! このまま巨大な魔導車両に突っ込んで、奴の詠唱を止める!
ジョセフィーナにぶつけないように、少し下に狙いをつけ、そのままアクセルを踏んだ!
ガムシャラだけど、少しは判断力がある!
しっかりとハンドルは握って、肩を硬くしながら、目をつむって、激突した!
ブオオオオオン!
ドグウウウウウウシ!
俺のガラスは割れているし、「マホトラ・フォートレス」は剥き出しだ。
正面から突撃したから、砦の粉塵が一気に侵入してきて、むせる。
「うえっ! なんだこのマホトラは! えっ!」
爆風の中、初めて、コマンダーゴブリンの生声が聞こえた。
やはり人間の言葉を話すのか。
セルリアのポンコツマホトラがまさか宙を舞うだなんて、予想していなかったのだろう。
躊躇の声がした方向、上目遣いに奴を見た瞬間、ジョセフィーナから手を離した!
煙が巻き上がり、何が何だか、視界は悪いが、ハンドルを勘で動かしつつ、アクセルを強く踏み切って!
ギリギリギリと10秒ほどは魔導車両同士組み合って、風の力を使いながらそのまま押し切り、
「マホトラ・フォートレス」の巨大な躯体を両断した!
「ぐわあああああああ」
ジョセフィーナは気絶しているから、響いた野太い声はコマンダーのボスゴブリン!
壁を打ち破り、急に勢いがついたので、慌てて、とっさにブレーキを踏む。
ハンドルを回旋させて、後ろを向くと、「マホトラ・フォートレス」の上部、ゴブリンコマンダー、ジョセフィーヌが落ちていくのが見える。
しまった!
多少の怪我はやむを得ないか?!
多少で済んでくれ......
俺が妥協しそうになった瞬間、街道で救われた光景を思い出す、救いの魔導が暗闇を制した。
『ピュア・バリアァァァァ』
鬱陶しい圧の強い声......ではなく、掠れた、弱々しい響き。
しかし......よし! ゼッピが意識を取り戻したらしい!
下を見れば、地面に這いつくばったまま、空に魔導を飛ばす姿。
ローブから伸びた細い手によって放たれた光が、器用にもジョセフィーナだけを包んで、ふんわり、落下の衝撃を和らげた!
そうか、ゼッピが詠唱予約していたのは、攻撃じゃなくて防御だったんだな。
ゴン!
不気味な音でコマンダーゴブリンは落下した。
これで、形勢は圧倒的に有利。
自警団たちにソルジャータイプのゴブリンを蹴散らしてもらって、紆余曲折、作戦は終了だ。
俺はゆっくりと風を操作して、魔導車両を着陸させた。
1冊分は書いておりますので、エタりませんが、投稿と続きを書くモチベーションになりますので、ブクマ、感想、レビューお待ちしております! 2話までなんとか読んでください! よろしくお願いします!