第1話「セルリアのフーディロード」5
自警団長が書いた地図を見ながら、延々と蛇行する山道。
か細い「ピュア・フラッシュ」頼りに2時間ほど。
ようやくそれらしき場所に到着した。
「ふう」
誰か褒めてほしい。オートマとはいえ、疲れる。
道中ゼッピの圧が強い世間話でも聞かされるかと戦々恐々だったが、さすがの緊張感で、操縦席では沈黙が続いた。
荷台からは時折会話が聞こえてきたが、昨晩のようにふざけた雰囲気はない。
2回ほど遭遇したゴブリンたち、手強かったからなあ。
自警団の気も引き締まっているのだろう。
「ピュア・フラッシュ」と月明かりだけでは全容はわからないが、砦は、想像よりは大きいようだ。
第一次食糧大戦の名残で、各地に魔族の砦が残されており、その規模と不釣り合いな少数の魔族たちが根城にしていたりするのだ。
砦一杯のゴブリンたちとか、お手上げなわけだが。
「オッケー! 着いたわ! さあ、魔導車両で突っ込むわよ!」
「おうよ! 作戦開始!
……と燃え上がりたいところですが。
冷静に考えると、人質の救出から始めたほうがいいんじゃないかな......なんて」
「へ?」
作戦とか偉そうに語ってるし、二日酔いだったしで、ゼッピにまかせっぱなしで、あんまり深く考えないようにしてたが。
いざ砦を前にして、まともにシミュレーションしてみれば。
正面突破は無茶だろ。
ゼッピも自警団も......こいつら何も考えてないな。
いや、俺もだが。
正面突破して、ゴブリンが想定より多かったら詰む!
人質を盾にされたら、それこそ叩けなくなるのでは?
マホトラゴブリンにコマンダータイプがいるのであれば、裏があってもいい。
俺たちはまんまと誘い出されたわけで。
なんだか、もうシェフの領域とは関係なくなってきたが、俺はまだ死にたくない。
悟りなんてほど遠いからな。せっかく助かった命だ。
最初に提案したのは俺だしな......
・PLAN①
別働隊がジョセフィーヌを救出する。
では、誰が?
実際、今回の攻城作戦はゼッピの魔導ありきだ。
ゼッピと誰かが潜入したとして、自警団の連中だけで、ゴブリンたちに勝てるのか?
逆に、自警団の連中だけで人質まで辿り着けるのか?
そもそも、ゴブリンたちにとって肝は、人質だ。守りも固めているだろう。
それに、砦の内部も把握できていない。
危険性の高いプランだ。
・PLAN②
コマンダータイプの魔族は人語を解すると聞く。交渉を呼びかけるのはどうか?
これは......アリな気がするな。人質救出作戦の王道だろう。
まずは人命を尊重して、交換条件を提示する。
ただ、ゴブリンたちからは何もメッセージはないわけで、先手を取られる可能性もある。
陣容も不明で、下手したら、包囲されて、一方的に攻撃されたりして。
うーん、知的にゼッピを制してみたものの。
決定打に欠けるぞ。
ここは。
・PLAN③
正面突破。正面というか、砦の側面がいいと思うが、ブッコミかけて、壁を破壊し、敵が慌てた隙に、ゼッピの広域魔導、自警団が各個撃破、並行してジョセフィーヌを救出する。いやごめん、「ジョセフィーナ」でしたね。
結局最初の計画しかないのか?
名案、思いつかないなぁ。所詮俺はシェフだしな。
とはいえ、少しプランは変えよう。
「ちょっと! 何がダメだっていうのよ」
「いや、正面ではなくて、意表を突きましょう。もちろん形容詞としては『正面』なんですが」
「っていうと?」
「まずは魔導車両であらぬところから突っ込んで、先手を取り、ゼッピさんの広範囲魔導で敵にダメージを与えて、自警団のお兄さんたちが、ゴブリンを倒します」
「あー、わかった。それなら、マホトラに【ピュア・バリア】かけときましょ。砦をボロボロにできるはず」
「さすが! 高位の魔導師様!
あとは、広範囲魔導で人質まで殺してしまわないか、不安ですが......」
「何よ、そんなの目視すればいいじゃない」
「それもそうか、そのタイムラグが不安ではありますが......」
「不安不安じゃあ、始まらないわよ」
「おーい、オフタリサン! まだかよ!」
荷台から催促が飛ぶ。
「あーもう、めんどくさい! じゃあとにかく臨機応変に! 『いのちだいじに』でお願いしますよ!」
「わかってるわよ!」
流れを、自警団たちと確認して、「ピュア・フラッシュ」を細く伸ばし、突入角度も定めた。
「ピュア・バリア!」
ゼッピの小声な詠唱に応えるように、自警団たちは荷台で武器を構えた。バリアーの制限時間は3分。
続けざまに、広域魔導の詠唱に入る。
不安は不安だが、やってみなくちゃ、はじまらない。
いよいよ、「フードトラック攻城作戦」開始だ。
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