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第1話「セルリアのフーディロード」3

 俺は作戦に同行しなくても良いのでは、と後悔したのは、次の日の朝だった。

 作った料理を、血気盛んな人たちで持参して、勝手に戦ってくれた方が、安全だ。


 俺はシェフ、後方支援だろう、そういえば...... 


 酒の勢いに任せ、なんとなく周囲のモチベーションを上げる発言をしてしまう……

 勇者パーティで身につけた処世術。

 特に二日酔いが、ダウナーな気分を加速させていくんだぜ。


「っはうあぁ!」

 少し偏頭痛がする。

「はあ、飲み過ぎた朝はいつもこんな風だ......」


 酒による己の軽薄さを嘆きつつ、料理道具の入った袋を手に1階へ降りると、すでにゼッピが朝食を摂っているところだった。


「あら、遅いのね。せっかく天才シェフ様のモーニングがいただけるかと、楽しみにしていたのに」

「まだ昨日の酒が抜けなくて......」

「だらしないわね、『フードトラック攻城作戦』は今夜決行なのよ」

「それなんですけど、やっぱり俺、行かなくていいんじゃないかな?」

「ナニ? 自分から提案したのに! 男がぐだぐだしてるんじゃないわよ」

「いっや、時代遅れのレトリックじゃ俺は納得しないから」

「っもう、だから捨てられたんでしょ! パーティなら、『みんながんばれ』が、当たり前じゃない!」


 くっ、会話がつながっているようなつながってない

 ような。しかし妙に押し出しが強く、論破できない……

 そもそもこいつがなんで一人旅をしているか、とか魔導師の能力とか、いまいち聞き出せなかったな。

 さっとゴブリン数匹を撃退してくれたので、なかなかに実力者なんだろうが。

 パーティ結成が本当なら、チェックしておくべきだったか。

 すっかり酔ってしまって、それどころじゃなかったんだが......


「さぁすが、新生パーティ! 朝から作戦会議とは、精が出ることねぇ!」

 ぶつぶつと痛い頭の片隅で思考を繰り広げているところ、女将が酒場のキッチンから連日のカットイン。

 顔を出す。

 女将と表現したので、恰幅のあるおばさんのイメージを抱かせてしまったかもしれない。

 実は、独身か既婚かは知らないが、妙にドライな色気のある雰囲気で、俺は、ついつい目線をやってしまっていた。

 こいつ私を見ていたな、とバレたら嫌なので、いざカットインされると、なんとなく逆方向に顔を向ける。


 そう、俺は妙齢な年上好きなのだ。


「あら、おはようございます。ほら、挨拶くらいしなさいよ!」

 顔を不自然に背ける俺に気づくと、ゼッピが注意してきた。

 うるさい女だ。

「ううっ、おはようございます!」

 急いで首の角度を戻し、二日酔いでムカムカとする胸から、挨拶を捻り出すと、頭の回転と呼応するように頭がズキッとした。

 

 ゼッピは、戦闘モードなのだろうか、昨夜のリラックスした服装とは違い、俺を救ってくれた時のローブを着ている。

 フードは外しているので、キメの細かい黒髪は露出している。

 何歳くらいなんだろうな?


「聞いてる? 目撃情報を元に考えると、砦のゴブリンたちは多くて10匹。私がしょっぱな全体呪文で吹き飛ばして、自警団5人でとどめを刺す」

「あぁ、ハイハイ! 聞いてます! 聞いてますよ! 

 でも俺は戦闘は関係ないっしょ!」

「感じ悪いわね! 君を壁打ち相手に、考えをまとめてるのよ!」

 

 うーん。圧が強い。

 

「全体呪文は詠唱に時間かかるから、しとめきれなかったゴブリンが問題ね。

 2体なのか、3体なのか」


 ま、俺の役割は決まっているわけで......


「だーかーらー、君はバックアップ要員、『みんながんばれ』よ! 

 撃ち漏らした奴はよろしくってこと!」

 

 顔に出ていたのか、噛み合わないどころか、先回りだ。

「てっきとうな作戦ですね......」

「最後はテンションだから! テ・ン・シ・ョ・ン!」


「ま、レベル1の魔導で操縦くらいはできるので、自警団の負担を減らせはするのか......」

「あ、そうね! 前向きじゃない!」


 ギギーー!


 宿の入り口で軋んだ機械音がした。

「あ、来たみたいだね」

 ロングヘアを後ろで束ねた女将はもしかしたら未亡人だったりして?

「ほら、いくわよ」

 ほのかな妄想はゼッピの声に遮られ、外へ出てみると、魔導車両(マホトラ)......らしきオンボロ車が停車したところだった。

 乾いた砂煙がヤな感じ。

 

 元は白かったのだろうが、灰色に燻んでしまっているし、あちこち凹んでいる。

 タイヤはボロボロだ。

 荷台は剥き出しで、当然料理なんてできそうもない。

 フードトラック、じゃあないな......


「あら、ずいぶん汚いのね」

「もう長い間、誰も使っていなかったんで!」

 運転席から2人の青年が降りてきて、答えた。

「団長はどうしたんだい?」

「いやー、まだ起きてこないっすね」

 奴も二日酔いか......人命がかかっているのに、のんきな連中だ。人のことはいえないが。俺は、この村の住人じゃない。

  

「うーん、これじゃ、中で調理は、無理かなあ」

「あら、なんとかしなさいよ」

「5人も男を乗せるんじゃ、ギュウギュウですよ」

「えー、食事の鮮度が落ちるじゃない!」

「って、こっから3時間とかですよね!? ね?!」

 

 自警団がうなずく。


「フードトラックってよりは、食べてから出発って感じ

 ですね。ますます俺がいる理由ないな……」

「ちーがーうーだろ! 操縦するんでしょ! 

 あ、とりあえず作戦の名前は変えないわよ!」

 そうそう、昨晩謎なテンションで作戦名を提案したのはゼッピだったんだ。

 妙なところで自己顕示欲を発揮されてもな、とスルーして。

 5人分程度、夕方からさっと料理するか。

 それまでにこの頭痛よ、止まってくれ……

 女将の胸元をこっそりチラ見しながら、祈っていた。

1冊分は書いておりますので、エタりませんが、投稿と続きを書くモチベーションになりますので、ブクマ、感想、レビューお待ちしております!

2話まで読んでもらえるとありがたいです!

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