第1話「セルリアのフーディロード」2
「それで、勇者パーティから追放されて、精根尽きて、ホームレス、ハウスレス、いや、今風にはノマド? 何はともあれさまよっていたわけね」
黒髪の「美少女風だった人」は、イメージとは違って、バシャバシャとした口調でカン高くまくし立てる。お姉さんタイプというか、豪快さも感じさせる。
口を挟む隙も見出しにくいくらいだ。
そう、ここはアグリガル共和国の菜食地方セルリアの村、宿屋。1階の酒場。
ゴブリンの攻撃で気を失ったところを、このピーキーな美少女【ゼッピ】に助け出されたわけだ。
魔導で村まで運んでくれたらしい。
「はあ、そうなんですよ、勇者っていうか、新任なんですけどね。なんの実績もない。俺みたいに戦闘能力がないのはダメだって。追放だって」
圧の強い恩人には、さすがに敬語から入る、勇者パーティで学んだ処世術!
「今までこき使われて、経験値も分配してくれなかったんだから、弱いのは当然じゃない?」
「なんですけどね、ま、俺に才能ないのが悪いので……」
「食糧危機に、新型ウイルスも来ちゃって、大不況な時代に難儀ね……」
「自分が不甲斐ないんですけど、俺、悔しくって……
でも、ほんっと! 助かりました! ありがとうございます!
何かお礼したいけど……何も手持ちが……うう、うええん」
キャラ変したわけではなく、空腹と疲れで、素早く酔っ払ってしまったので、こんなもんだ。
「何? 酒飲んでるからって、泣き上戸? 泣き上戸なの?
いーの! いいのよ。 旅は情けってね。
でもさあ、ほんと、酒場っていっても、なんだか貧相な食事よね……
ぜんっぜん! お腹膨れないわ」
「あら、悪かったね! 貧相というか、貧しいんだよ! この村は」
宿の女将がカットインしてきた。
貧しい……?
菜食地方は、疫病の影響は少なかったはずだが。
とはいえ、まずは場を取り持とう。
「うっわ、スミマセンスミマセン! ふおうら、そんな失礼なこと」
「ふん、昼に遭遇した【マホトラゴブリン】……ずいぶん組織だって動いているようね」
「こんな田舎道を爆走に暴走。たまったもんじゃないよ!
勇者様のパーティとやらも、自衛団も、なんの役にも立ちやしない!」
「勇者様? それって」
「なんだあ、オバサン! 俺たちが悪いってか!!」
今度は横で宴会をしている30代くらいの刈り上げ男がカットイン。
「あら、自警団長! 今夜は優雅に合コンかい? あんたらいっつも防戦一方なのに、夜だけは積極的なんだねえ!」
若手の自警団員と、村の女子たち、合計6人。
不幸なる疫病の時代に、なんだか楽しそうだ。
「なにおう! ババア! こちとらいっつもゴブリンの相手ばかりで疲れてるんだ! 息抜きも必要だぜ! ねー」
女の子に同意を強要する酔っ払い。最低な絡み。
「あのぉ、おかみさん、勇者って、ストレイって名前じゃ?」
「ん、ああ、そんな名前だったかね。ギャラが足りないとか、全然助けてくれなかったよ!」
「あいつらは......さすがの強欲」
「なに? 君を追放したパーティって」
「そうそう、ストレイは拝金主義者なので」
「ふうん、世知辛いわね。ま、魔族と人間で食糧を争う【食糧戦国時代】。
合理的理知的、コスパがいいってことかな。
話戻すと、ゴブリンに襲われて、食糧が足りてないのね!」
「フン! 食糧戦国時代っつったって、もう少しマシな飯はねえのかって話なんだよ!
肉! 肉を出せよ! せっかくのビールが台無しだぁ?!」
菜食地方の割に、肉が好きな人もいるんだなあ。
しかし、食糧戦国時代……俺は時代に負け、非力で、生き残ることすら許されないのか。
酒も回って、悔しさにハイテンションが混じってきた。
「くぅ! 俺に、俺にチャンスをください!」
「チャンスゥ?!」
「俺に、キッチンを貸してもらえますか?」
「そういえば、君のジョブ、シェフだったっけ?」
「なんだぁ? お前?」
「俺が! 元気の出る料理を作りますよ!」
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てなわけで、本当に役立つマドリーの料理コーナー。
最後に魔導を足すけど、それ以外は誰でも再現できるはず!
飲みながらの料理は最高だ。
メニュー:ワカモレのラズベリートッピング
スキル:キュリナリー、レベル1:分子融合基礎
①アボカド1個をボウルに入れ、レモンを大さじ1、それで柔らかくなるまでフォークで突く!
②みじん切りしたトマト・玉ねぎを①に混ぜる。
③塩胡椒に唐辛子、そしてラズベリーのフリーズドライを足して、できあがり!
④パワーを出すために、魔導を少し足したぜ。レベル1のへっぽこだけどな。
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「ほら、バケットに乗せて食べてみてください!」
「なんだよ、ただの野菜じゃねーか」
「あら、手際いいのねぇ!」
「あ、美味しい! し、なんだか元気が湧いてくる!」
「アボカドは『畑のバター』っていうくらい、たんぱく質が豊富で、肉の代わりになるんですよ! ベリーとアボカドはペアリングの相性がいいんです。お肌にもいいですよ。ゼッピさんも次の日ツルツルです」
「何よ! 私の顔がガサガサみたいじゃない?!」
「わ、スミマセンスミマセン! 失言が」
「なんだこれ! いつものアボカドじゃないみたいだ! 力が出る気がするぜ」
「すごいスキル持ってるじゃない!」
「や、これ、『キュリナリー』のレベル1で、素材の相性がわかるのと、少し魔導を足すくらいしかできないんですよ。だから『料理のセンスはいい』って、パーティに置いてもらって。でも経験値くれないから、新しいスキルも増えないし、うう......パーティの奴ら、いつも同じ料理ばかり要求する偏食家だったし、レパートリーも全然なんですけどねくどくどくどくど」
「ちょっと待って、『キュリナリー』ってなかなかのレアスキルだったはずよ……
伸ばしましょうよ! 私が手伝うわ!
食糧戦国時代に、貴重なサバイバルスキルよ!」
「え、ええ? 何を突然」
「あら、パーティ結成かい? めでたいじゃないの」
ドッババアアアアアアアアアアン!!!!
突然、爆音とともに「何か」が店に突っ込んできた!
「キャアアアアアア!」
自警団長たちのテーブル横から壁が崩壊して、女子たちの悲鳴が店に響く。
阿鼻叫喚の酒場。
壁を打ち破ったのは、あのゴブリンたちの魔導車両だ!
魔導操手を残して、弓と棍棒の奴が荷台から飛び降りてきた。
「くっ、こんな時間に! ってあんたたち酔っ払って腰抜かして! 防御戦すらまともに!」
「おかみさん! 私の魔導で!」
さっと仁王立ちしたゼッピが詠唱を始めると、細長の手に火球ができ始める。
しかし、一足早く、棍棒のゴブリンが行動を起こしていたことに、俺は気づいた。
「待ってください! 女の子(2)が人質に!」
「ジョセフィーナ!」
という名前だったのか。自警団長が叫んだ。
ゴブリンたちは、自警団長とゼッピを交互に見ながら、ニタニタと笑い......魔導車両にぶら下がって、猛然とバック、あっという間に立ち去っていった。
棍棒は女子の首元を締め付け、弓の奴は女将にロックオンしていたから、ゼッピも動けなかった。
壁が崩れ、瓦礫でボロボロの店内で、人々が呆然としている。
泣き叫ぶ声すら、まだ、少ない。
「ジョ、ジョセフィーヌ!」
「自警団長さん、大事な人なんですね......!」
「いや、部下の友達の女の子が連れてきた女の子、要は初対面だ」
「あらら」
「『ジョセフィーナ』、じゃなかったかい?」
「あ。フ、フン......しかし、殺戮の前に、人さらい。知恵をつけてきたようだな、ボスゴブリンの司令か! 俺たちをおびき寄せよせて、一網打尽かよ!」
「そりゃ、あんたたち、いつも受け身だからね」
惨事を前に女将は冷静である。
「ボ、ボスゴブリン......!」
俺が呟くと、ゼッピが答える。
「魔族は、知恵のある【コマンダータイプ】と、本能で動く【ソルジャータイプ】に分かれるから。ボスゴブリンは、コマンダーね」
「受け身じゃねえ、終わりのないディフェンスって、大人の所作よ! ……フン。
そうだ! 新生『勇者』パーティさん、マホトラゴブリンの根城は、随分とお宝も溜め込んでるはずだぜ。初陣にちょうどいいんじゃねえか」
「なんだい、あんた、偉そうに! この役立たずが!」
「ふむ、私の魔導でいけるか・・・」
「ちょっと! マホトラゴブリンって、数もわからないし! ゼッピさんの魔導だけじゃ危険ですよ!」
「何よ! 魔導の力を否定するの?」
あぁ、ストレイといい、ゼッピといい、魔導師って奴はなんで謎のプライドを抱え込んでいるんだ......
とはいえ。
ゼッピの能力も未知数。俺も戦闘はダメだし。
せっかく助けてもらった命。無謀なバトルで落としたくはない。
よし。
「そうだ! 俺が料理するんで、『みんな』で戦いましょう!」
「はあ? なんだと?」
「俺の『分子融合』で強化した食糧を、供給します!」
「そうか! 勇者パーティのシェフ、まさにサポートの達人よね!」
「サポート……そう。サポートです。俺にはこれくらいしかできないんです」
「う……俺らに、ゴブリンの根城を攻めろ、っていうのか?」
「あんたら......彼女がさらわれたんだよ! たまには、男気、見せなさいよ!」
「彼女じゃねえって!」
「そうだ! 自警団の魔導車両がある!
全然使ってないけど、そこから食糧を補充すれば!」
合コンに参加していた自警団員が声を上げた。
自警団長より若め、細身で自信がなさそうな男だ。
「ゴ、ゴブリンの根城はかなり遠い。だから奴らも魔導車両で攻めてくる」
魔導車両......それなら!
「フードトラックで、俺が『分子融合』フードを作って、新鮮なまま、みなさんに提供します!」
『フードトラックゥ?!』
「なんだい、心強いじゃないか」
「だ、団長......! 負けっぱなしじゃ、嫌ですぜ!」
「そうよ! 根を絶たないと、あなたたち、ずっとチンケなままよ!」
自然と、俺、ゼッピ、女将......をはじめとする店内の村人たちに、体格のいい自警団長が追い詰められる構図になった。
さすがは守るばかりの自警団長、攻めに弱い。
「よし! 【フードトラック攻城作戦】ね!」
「くぅっ、そこまで俺らを頼るなら......やってみるやろうじゃねえか・・・! 待ってろ! 俺のジョセフィーネ!」
「......ジョセフィーナじゃなかったかい?」
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