第1話「セルリアのフーディロード」1
第1話 セルリアのフーディ・ロード
1
受け身の人生は今日で終わりかもしれない。
「パーティを辞めて欲しいんだ」
衝撃的な言葉を聞いている俺はマドリー。
勇者パーティで働くシェフだ……った。
そう、つい先日までは。
孤児として救貧院にいたところ、色々あって、勇者オルステに拾われ、はや7年。
「7年目の浮気」って言葉があるが、まさにその「7年目」に、俺は追放されてしまったんだ。
「なあ、マドリー。もう偉大なオルステはいない。
私が勇者に就任したからには、方針を変える。冒険者の本分は魔物退治。
バトルだ。その目的のために、無駄はできる限りカットしたいと思うんだ」
暫定勇者【魔導師のストレイ】は俺をなだめるように語りかけた。
芝居がかった自己演出が得意な、狡猾な男。
こんな口調に、仲間たちはみな籠絡されている。
「お前の料理センスは認める。だけどな、戦闘に貢献できなきゃ意味がない。
いいたくないが、みんな思っているんだ。お前はパーティのコストだと」
「みんな」はストレイお得意の言葉だ。
「だけど、俺の料理があったおかげで、「みんな」五体満足に戦えたんじゃないのか!?」
「お前の料理は確かに美味しいよ。でも、いつまでたってもスキルはレベル1のまま。レアスキルっていったって、戦闘には使えない、料理しかできないじゃないか」
俺のスキルは【キュリナリー】。なかなかのレアスキルのはずだ。
だって、いまだに同じスキル持ちに出会ったことがない。
「そ、それは経験値を配分してくれなかったから……!」
「ふん、オルステの方針は知らない。今は私が勇者だ。勇者亡き今、パーティ一丸となって生き抜くしかないんだよ。食糧は時短で便利な【携帯魔食】があるしな」
俺は知ってるんだ。経験値を一切分配してくれなかったのは、ストレイの入れ知恵だと。
先代勇者のオルステは人格者だった。だが、お人好しすぎた。
「良きリーダーは仲間を信頼し、仕事を任せることができる者だ。私もそれを目指したい」
オルステはよく語っていたな。
もちろん経験値の分配は勇者の仕事。しかし、裏ではストレイがそそのかしていたはず……。
そんな強欲ストレイが勇者に成り代わったのは、オルステが【草墨の魔王竜】に敗れ、死んでしまったからだ。
「くっ、【携帯魔食】なんかじゃ、フルパワーは出せないぞ!」
「なんだと! 魔導の力は絶対だ! 愚弄するのか!」
魔導へのプライドが人一倍高いストレイが激昂した。
すぐに、調子を戻して、芝居がかった口調になる。二重人格みたいだな。
「コホン! とにかく、これは決定方針なんだ。私だって辛い。
でもパーティの総意なんだ。オールフォーワン。ワンフォーオール。
明朝までにパーティから立ち去ってもらいたい」
「うう……わかった。お前らなんか、栄養失調で全滅してしまえばいいんだ!」
ーーーーーー
そんなこんなで、7年ぶりの根無し草。
戦争直後で荒廃したガストロノミアも酷かったが、今も酷い。
食糧事情は相変わらず逼迫し、新型の疫病まで大流行している。
外出禁止令で大半の飯屋が閉店してしまった地方もある。
幸い、近くの菜食地方では疫病の猛威が少ないと聞く。
何か仕事が見つかるとよいが……
戦闘能力もない、スキルもレベル1な追放冒険者の俺を雇ってくれるパーティなんかなさそうだから、レストランにでも就職できれば……!
一縷の希望を胸に、パーティ時代に貯めたなけなしの金を使いながら、【セルリアの村】付近まで辿り着いた。
「くっ、さすがに体力がなさすぎるな……徒歩じゃ、もうヘトヘトだ。セルリアの村で食糧にありついて、なんとか就職活動をするか……」
グギッ!!!
背中から衝撃が走った。
砂にうっぷしたのか? 鼻に衝撃が走ってジンジンする。
上目がちに前を見れば、機械の横でゴブリン達がニタニタと笑っている。
……ように見えた。
ーー【魔導車両】!
この世界ーー【ガストロノミア】では魔導の力と機械の力が使われている。
魔族が発明した【魔導】、人間たちが発展させた【機械】。
魔導車両は魔導で動く機械の車だ。
今では、人間も魔族も魔導車両に乗って旅をする。
魔導車両から出てきたゴブリン2匹と運転席に1匹。
そういえば、聞いたことがある。
セルリアの村付近ではゴブリンによる収奪が頻発している、と。
うちのパーティにも討伐依頼が来たが、ストレイが断ってたな……
ギャラが見合わない、とか。
激痛に耐えながら、ゴブリンたちを観察してみたところ、1匹は弓を構え、1匹は棍棒をナデナデしている。
背中を叩いたのはアレだな……!
「くっ、俺は何も持っていないって!」
しかし、ソルジャータイプの魔族なのか、言葉は通じなさそうだ。
「うっ、希望がなくても、やれることをやってみるのが人間ってか……!」
戦闘能力のないマドリーが唯一持っている刃……
キッチンナイフに手をやるが、ゴブリンがピンポイントに弓を放って。
「つぅ!!」
矢は手をかすめ、キッチンナイフはあらぬ方向へと飛んでいった。
棍棒を持ったゴブリンはニジニジと近づき、もう1匹はグヒグヒと次の矢に手をかけた。
「くそぅ! 俺もここまでか……ツキに見放されたのかね……オルステの死からずっと、下り坂だ……」
『ピュア・ファイヤ!』
矢が放たれた瞬間、透き通った声の詠唱が響いた!
ローブを目深にかぶった魔導師の姿!
走りながらゴブリンに火炎の衝撃波を放つ。
黒いローブからはサラサラとした長い黒髪がのぞいている。
儚げな美少女に似合いそうな黒髪を脳裏に刻みつけながら、マドリーは痛みと諦めのせいか、意識を失ってしまった。
連載開始ですが、既に文庫本1冊分は書いてます!
投稿続きを書くモチベーションになりますので、ブクマ、感想、レビュー、お待ちしています!