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80話 ミーさんとお買い物

80話 ミーさんとお買い物



 アカネさんの財布を持ったミーさんと俺は、エレベーターでマンションのエントランスへと下り外へと出た。


 昼に外へ出た頃とは違い日が落ち始めた外はそこまで暑くはなく、半袖でちょうど心地いいほどの気温だった。……まあそれでも、やはりミーさんの格好は暑そうだが。


「そういえばミーさんってなんでスーツ着てるんですか? 絶対暑いですよね?」


「ええ、まあ。もちろん半袖の方が涼しいでしょうし、楽ではあると思いますよ。でもアカネさんの家でラフな格好になりすぎると、色々と危ないので」


「……なるほど」


 先程までの光景を見ていた分、その言葉には説得力がある。サキに対してよりもミーさんへの方がアカネさんの好き放題ぶりは強いようだし、そんな相手の前でラフな格好など確かにしてはいられないな。


「では和人さん、まずはピザ屋さんに行きましょう。そこで注文をしてから待ち時間でスーパーに行って、その他諸々の食材を」


「はーい」


 マンションからしばらく歩き、二回ほど信号を渡ってさらに数分。飲食店などもいくつか並んだ大通りへと出ると、すぐに目の前にピザ屋が見えた。


 名前は「ABCピザ」。ピザ屋の中でもかなり有名なチェーン店の一つで、俺もピザを頼むと言えばまず頭にこの店名が浮かぶ。デリバリーも行っているが、直接取りに行くのと配達してもらうのでは二倍ほど値段が変わってくる。アカネさんがピザを「頼んで」ではなく「買ってきて」と言ったのはもしかしたらそれが原因なのかもしれないな。まあ正直サキと二人きりになりたかっただけの気もするが。


「和人さん、何か好きなピザなどありますか? アカネさんの好物だけを買ってしまうと、初めて見る人にはかなりクセのあるラインナップになると思うので」


「え、アカネさん一体どんなのを頼むんですか?」


「あの人、チーズが大好きなんですよ。ABCピザにはチーズの量を二倍にするというトッピングがあるんですけど、実は裏メニューが存在してまして……」


「裏、メニュー……?」


「はい。チーズの量三倍です。もうチーズ以外の味は何もしません」


「わー……」


 なるほど、それは確かにまずいな。俺もサキもチーズは嫌いではないしむしろ好きだが、チーズの味しかしないというのはキツすぎる。なら、せめて俺はチーズが一切乗らないようなピザを選ぶべきか。


「じゃあチーズピザとは別で照り焼きピザとか貰えると嬉しいです。サキのやつが大好物なので」


「分かりました。では頼んできますね」


 そう言って店に入りレジへと進むミーさんに、俺もなんとなく後ろからついていく。マルゲリータピザMサイズの裏トッピングチーズ三倍、照り焼きピザMサイズを注文するとアカネさんの財布を開き、お金を取り出す。


 黒く質素で、それでいて薄い長財布。ハッキリ言ってあまり高級そうでもないように見えたが、中には何枚もの諭吉さんが。それを見て開いた方が塞がらないでいると、ミーさんはすぐに会計を終え、俺の方を見て不思議そうにキョトンとしていた。


「ど、どうかしましたか? 和人さん」


「え? あー、いえ……すみません。一瞬財布の中身が見えちゃって、その……凄い額入ってるなぁ、と」


「ああ、そんなことでしたか。アカネさんは自分の足では仕事のこと以外で外に出ることはほとんどないので、私に買い出しに行ってもらう時のために多めに入れてるみたいですよ。……というか、ATMからお金を引き出すのも額だけ伝えて私に行かせてますし」


「えっ、まじですか。凄い信用……」


 ATMの引き出しを任せているということはつまり、銀行の暗証番号も教えているということだろう。


 それはつまり、自分の全財産を預けているようなものだ。財布の中にだって保険証とかクレジットカードとか、きっと大事なものばかり入っているだろうし。ミーさん、そんな重大なものを全て預けられているなんてどれだけ信用されているんだ。


「まあ私も不用心すぎるとは思うんですけどね。でも一度教えられたら忘れてあげることもできませんし……。ならせめて、信用され続けるようにするしかないですから」


「……ミーさん、アカネさんのこと本当に大事に思ってるんですね。なんかちょっと感動しちゃいました」


「なっ……どういう意味ですかそれは。何か変な意味が含まれてたりしないですよね?」


「してないですよぉ。ほら、次はスーパーですよね? 早く行きましょー」


「あっ、ちょっと!」


 

 無意識にばら撒かれた糖分をしっかりと補給したところで、俺はミーさんを先導するようにしてピザ屋を出たのだった。

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