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178話 アヤ凪オフコラボ2

178話 アヤ凪オフコラボ2



『いでっ! いででででっ!?』


 夕凪の小さなこめかみに、アヤカの拳がグリグリと押し付けられる。


 まるでお母さんが子供を叱るときのようなこの状況から必死に抜け出そうとする夕凪だったが、そもそも背後を取られて身体にいつでも覆い被せられてしまうよつな体勢なのだ。そう簡単に逃げられるわけもなく。


 されるがままに、頭を押さえながら叫ぶことしかできなかった。


『立場逆転だね、ママぁ? いっつもいっつも虐められてばかりだもん。こういう時にやり返しておかなきゃ!!』


『う゛お゛ぉっっ! やめ、ヤメロォォ!! 頭が割れるぅぅぅ!!!』


:突然の形勢逆転草


:いいぞ、もっとやれ ¥200


:たまにはこういうのもな!( ^ω^ )


:こんな調子に乗っていて大丈夫なのか? 後から報復される未来しか見えないけど…… ¥420


『くそぅ、背中に当たってるたわわの感触よりも痛いが勝っちまう!! 反抗期か貴様ァ!!』


『ふんっ。ちょっとは反省した?』


『した! したから離せぇ!!』


『ならよしっ。今日は態度を改めるんだね』


『ぐぬぬぬぬ……』


 むふんっ、と満足げなアヤカ。夕凪としては苦渋の決断だっただろうが、ひとまず胸を揉むことは断念したのだった。


 椅子が一つしか無いこと、体格的に夕凪が太ももの上に乗る構図が確定していたこと。ここまでは完璧だったのに、力という最もシンプルな手段で黙らされ、作戦はご破産となった。


 だがこの女、諦めない。目標を下方修正してしまうことになろうとも、このオフコラボで何かしらの得をしようと頭を回す。


 そして、こちらもまた。アドバンテージを一つ持っていることに気がついた。


『へ、へっ。それよりアヤカよ、これは腐っても配信なんだ。そろそら何かやらないか?』


『え? 何かって……やること決めてたんじゃなかったの?』


『いーや、こういうのは何も決めない方が面白いと思って、ぶっちゃけまだやることは決めてなかった。けど、今一ついい案が浮かんだからよぉ』


:お?

 

:ざわ、ざわざわざわ……


:その時夕凪に電流走る!


 ぞぞぞっ。生物として、反射的に危険を感じ取ったのか。アヤカに鳥肌が立つ。


 今夕凪にあって、アヤカに無いもの。それの力はある意味純粋な力よりも恐ろしい。それでいて、とても強いものだった。


『何をやるかは、安価で決めよう。さあ私のリスナー達! 私達にして欲しいことを書き込むのだ!!』


『なっ!?』


 それはズバリ、ファンの存在。


 今アヤカは自枠を立てておらず、夕凪の配信には当然夕凪のファン達が集う。


 当然その中にはアヤカのファンも混ざってはいるだろうが。その中で夕凪よりもアヤカのことを今この場で優先しようとする者は、きっと純粋な夕凪ファンの数には敵わない。


 そして同時に。アヤカのファンであればあるほど、こう思う事だろう。


 アヤカには劣勢でいて欲しい。夕凪にはいつものようにアヤ虐をして欲しい、と。


『ふっふっふ、何番にしようかにゃ〜?』


『ひ、卑怯だ! やっぱりママは卑怯だよ!!』


『おだまりなさァい!! 大人しく観念しろ、私達はファンに生かされている存在なんだからなァァ!!』


 ちなみに安価とは。打ち込むコメントの左側にあらかじめ数字を付けておき、〇〇番目にコメントした人への返信をした、という目印とすることを指す。


 配信者としてはそれを利用し、適当な数字を言う事で左側につけた番号とその数字が一致したコメントを拾うという文化が定着していた。勿論安価という言葉の意味はアヤカも理解済みだ。


『じゃ〜あ〜、五十二番! 君に決めた!!』




 そして、選ばれた番号に該当するコメントに書き込まれていた要望は────

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