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174話 夕凪という女1

174話 夕凪という女1



『と、いうわけでさ。早速なんだけどアヤカちゃんにはスカウトに行ってもらいたいんだ。輪を広げていくにあたって一人、誘いたい人がいるの』


 アカネさん曰く。今後私と二人でグループの顔となり進めていくつもりらしいこの計画には、どんどん人を呼び込む気らしい。


 当然誰でもいいと言うわけじゃない。主な条件は三つ。


 一つ、その子が可愛い子であること。


 二つ、アカネさんと私、そしてミーさんの全員が加入に賛成できる子であること。


 三つ、Vtuberとして活動していること。


 要するにアカネさんは、自分の気に入った可愛い子たちを呼び込み、楽しく可愛いをモットーにしたグループにしたいんだと思う。


 そしてどうやら声をかける一人目は、既に決まっていたようだった。


「えっと……ここ、かな」


 私たちの住んでいる街から電車でおよそ一時間。アカネさんから送られてきたマップをもとに辿り着いたマンションの前で、立ち尽くす。


 白の壁に包まれた見栄えのいい外観。決して大きいとは言えず階も五階までの至ってシンプルなマンションだが、どうやらここの三階にお目当ての人はいるらしい。


「うぅ、一人じゃ心細いな……」


 本当は和人にも来てもらいたかったけど、彼女は大の″男嫌い″。いずれは和人とも仲良くしてもらいたいけれど、初対面からいきなり連れていくわけにもいかなかった。


 アカネさんとミーさんは用事があるらしく、加えて私にこれも一つの経験だと。結局こうやって私一人で来てしまった。


 相手は私の″もう一人の″憧れの人。アカネさん同様、私はこの人をずっと尊敬し続けている。


 配信でのコラボとかチャットでのやり取りは何度もしたことがあるけれど、こうやってリアルで会うのは初めてだ。アカネさんみたいに良い人だといいな……。


 エントランスに入り、「302」の部屋番号を入力する。すると程なくして向かうの部屋ではチャイムが鳴り、人がいれば応答してくれる仕組みだ。


 五秒……十秒。少しだけそわそわしながらそこで待つと、部屋の主が受話器を取った合図であるランプが光る。


『はい? どちら様で』


「あ、あああのっ! アヤカです! 柊アヤカですっ!」


『お゛〜っ、早かったな。開けるから入ってきて』


 ああ、いつも通りの声だ。


 姿は見えなくともその声を聞けただけでちょっと安心した。この部屋はちゃんとあの人の部屋なんだって。


 少し待つと、エントランスから中に入るための自動ドアが開く。ここからエレベーターで上がって、三階で扉の前まで行けばいよいよ対面だ。


「どんな人なんだろう。夕凪ママ……」


 柊アヤカの産みの親であり、今も衣装の制作などを依頼している私にとっての専属イラストレーターさん。彼女自身も配信活動は行なっていて、Vtuberとして何度かコラボ配信もしたことがある。


 印象としては、個性的な人。自分の中に強い芯とこだわりがあって、絵に関しては常に本気。私に対しては当たりが強くて散々ドスケベだとかゲーム音痴だとか言ってくるけれど、なんやかんやで遊び終わると必ずLIMEで「ありがとう、またやろうね」と言ってくれる、優しい人でもある。


 アカネさんは配信での印象とリアルでの印象が全く違ったけど、夕凪ママはどうなのだろう。少し怖いけれど、同時に少し楽しみだ。


「……よしっ」




 気合いと期待を胸に。私は、エレベーターへと乗り込んだのだった。

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