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171話 思い描いた終着点1

171話 思い描いた終着点1



「グループ……ですか?」


 アヤカとアカネさんは、所謂「個人勢」と呼ばれるVtuberである。


 Vtuberというのは大元を辿ると大きく二分することができる。一つはアヤカのような個人勢。そしてもう一つは一つの会社としてVtuber事業を行う企業勢だ。


 企業とは名ばかりではなく、大人数が一つのグループとなって集結しているこれは集客力も人気も個人とは比べ物にならない。当然全体として登録者数も多いし、なんといっても「〇〇だから見る」という、一度グループの人気に火さえついてしまえば他のメンバーにも視聴者が伝染していく流れによって、結果的に箱全体として個人では到達できない人気を誇るのだ。


 アカネさんは個人勢登録者ナンバーワンというだけあり、そんな企業勢の中で更に人気のライバーとも充分に戦っていける力がある。アヤカもその域までは達していないものの、最近の人気上昇のおかげで知名度はかなり高い。


 そんな二人のグループ結成。一視聴者の目線から言わせて貰えば、かなり興奮する話題だ。


「そう、グループ。Vtuber事業として起業するわけではないから、企業勢とはちょっと違うんだけどね。だから収益とかそういうややこしい話は基本今まで通り各自でって感じかな」


「な、なるほど……」


 企業、という言葉を使わなかったのはそれが理由か。


 これはあくまでグループ。要はユニットのようなものだろう。個人として人気のあるアイドル二人が手を取り合い一つのグループを結成し、力を合わせて活動していく。イメージとしてはそんなところか。


 悪い話だとは思えなかった。


 ただ……一つだけ悪い想像が頭をよぎる。


 企業勢というのはそのVtuber事業を立ち上げてからメンバーをオーディションなんかで募集し、デビューさせていく。それはいわばプロデュース業だ。会社とライバーの間には常に覆ることのない関係性がある。


 しかし今回の話はそうじゃない。アカネさんは赤羽アカネと柊アヤカをトップに据えたグループ、と言っていた。それはサキのことを考えて、ということで一番しっくり来はするが、もし違ったら。


 嫌味のような発想だ。だけどこれは絶対にサキでは口にできないこと。そして同時に俺が言わなければいけないことでもある。この場できっとこれを言えるのは、俺だけだから。


「アカネさん。俺から一つだけ確認してもいいですか?」


「ん、いいよ。言ってみて」


「サキを……柊アヤカを、利用するつもりじゃないですよね?」


「ちょ、和────お兄ちゃん、何言ってるの!?」


 分かってる。これが失礼な発言であることくらい。


 しかしこの申し出がもし、個人勢としての限界を感じたアカネさんがアヤカの人気を吸収し成り上がるためのものだとしたら。


 アカネさんがアヤカのことを大切に思ってくれてるのは知っている。だけど誰よりもVtuberに関して野望を持っているこの人がただの善意でアヤカに手を差し伸べるとは、どうしても思えなかった。


「失礼だよ、アカネさんはそんな人じゃ────」


「いや、いいんだよアヤカちゃん。お義兄様の言っていることは正しい。確かにこれまでの説明だけ聞けば、いくら口では平等を謳っていても私がアヤカちゃんの人気を吸収しようとしてると思われてもおかしくないからね」


 ずずっ、とお茶を啜って、アカネさんは物静かに言う。


 そうだ。こんな事を言いたくはないが、アカネさんとアヤカでは人気にまだ倍以上の差がある。アヤカも個人勢の中では秀でている方だが、トップのアカネさんには到底及ばない。


 それに一番最悪なのは、アカネさんがアヤカをただ吸収したと思われる事だけじゃない。逆にアヤカがアカネさんの人気に″乗っかった″と思われてしまう可能性があることだ。


 これはここまでアヤカが一人で築いてきた地位を揺るがしかねない事象。一人で頑張る姿に魅了されてきた人達からの失望すら買いかねない。


 アカネさんとのグループを組むというのはそれだけの″重圧″がかかる。ただ誘われて嬉しいからと二つ返事でOKしてしまっていいほど、簡単な話ではない。


「むしろ言ってくれてよかった。やっぱりお義兄様に同席してもらったのは正解だね」


 てっきり怒るかと思っていたのだが。アカネさんは静かに言葉を受け入れ、頷いている。


 想定内、ということか。俺のこの発言は。


「私がアヤカちゃんを誘った本当の理由。それを語るには、私の夢の話が必要かな。私が長年描いてきた、Vtuberとしての一つのゴール。アヤカちゃんにはそれを知っておいて欲しい」




 そう言って。アヤカさんは自らの夢を、語った。

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