ポイントの不正加算は止めましょう
わたしは大学の文芸サークルに所属している。その時、わたしはその文芸サークルの仲間達と学食でお喋りをしていた。途中までは普通に楽しく喋っていたのだけど、最近になってサークルに入会して来たある女の子の話になって空気が変わってしまった。
「いやぁ、ショックだったわ」
“被害”に遭ったうちの一人がそう言った。
「まさか、あんな事をする子だったなんて」
周囲の何名かはそれに頷き、一人がこう返す。
「物凄く大人しそうな子だものね。あんなおっとりした感じで、騙されたわ」
わたし達は文芸サークルだ。それで小説投稿サイトに作品を投稿している。ただ、新しく入ったその女の子は少々変わっていて、最近の子にしては珍しく、インターネットをほとんどやった事がないという。当然ながら、小説投稿サイトに参加してもいなかった。
それでわたし達は小説投稿サイトの存在を教えてあげ、アカウントの作成方法や投稿方法、作品の検索の仕方やポイントの入れ方まで教えてあげたのだ。
その子はそれをとても楽しそうにしていて、わたし達も嬉しかった。だから、まさかあんな事をするだなんて思っていなかったのだ。
「わたし達、みんなの作品に最低ポイントを入れるなんて。嫌がらせにしても、やり方が陰険よ」
初めに言った一人がそう言う。
そう。その子は、わたし達が投稿している作品を知ると、それら作品に軒並みその投稿サイトの最低評価である2ポイントを入れていたのだ。
どう考えても嫌がらせである。しかも、そんな事をしていながら、その子はその後も変わりない態度でわたし達に接して来るのだ。
ただ、わたしには不思議な点があった。
わたし達はとても仲良くしていたから、彼女がわたし達にそんな嫌がらせをするとは思えなかったのだ。
そして、想像をしてしまう。
もしも、彼女にそんな事をする正当な理由があったとしたなら……、
「あのさ、もしかしたら、あれってわたし達に抗議をしているのじゃないかな?」
わたしは気付くとそう言っていた。
そう言ったわたしに、その場にいた女の子達は全員、反感の目を向けた。
「抗議? 何が抗議だって言うのよ?」
一人がそう訊いて来たので、わたしはこう説明した。
「あの小説投稿サイトって、たくさんの人が小説をたくさん投稿しているでしょう? だから、小説にポイントを貰うのってとても大変だと思うの。
だけど、わたし達は文芸サークルに所属しているってだけで簡単にポイントを貰っちゃっている。これって、仲間内でポイントを入れ合う不正行為なのじゃないの?」
それを聞くと、「でも、わたし達は、そんなつもりでやっている訳じゃ……。偶々、仲間内で評価し合っているだけで」なんて一人が言って来た。
「そんな理屈、他の投稿者に通じると思う?」
その言葉に皆が黙った。
皆、どうやら少し反省をしているらしい。
ところがそんなタイミングだった。隣から話しかけられたのだ。
「あの……、すいません」
見ると、それは民俗文化研究会に所属している鈴谷という女生徒だった。少しだけ有名な人だ。
「何か?」とわたしが返すと、
「偶然に話が聞こえてしまって、それで差し出がましいとは思ったのですが、もし勘違いだったら誤解が広がって、なんか変な事になってしまうかもと思いまして」
なんて事をその鈴谷さんは言って来た。
「はぁ、何ですか?」
とわたしが訊くと、鈴谷さんはこう言った。
「その低い点数を入れた彼女ですが、もしかしたら、勘違いをしているだけなのじゃないでしょうか?」
「はい? 何を勘違いしているって言うのです?」
「その人、あまりインターネットに明るくないのですよね? それで、性格はおっとりとしていて、しかも、低い点数を入れた後も悪びれた様子がなかった」
「その通りだけど……」
「なら、その人は、低い点数の方が高い評価で、高い点数の方が低い評価だと思ってしまっているのじゃないでしょうか? そう考える方が自然に思えます」
わたしはそれを聞いて、その投稿サイトのポイント入力欄を思い浮かべた。星のマークで評価するようになっていて、見ようによっては星一つが一等級で、星五つが五等級を表現しているように思えなくもない……
「まさか……」と、わたしは思わず漏らしてしまった。皆の顔を見てみると、同じ様に思っているのが分かった。あの子なら、有り得るかもしれない……
――まあ、何にせよ、ポイントの不正加算はあまりよろしくないと思うけど。
低い点数ばかりをいれている人が時々いるみたいですが、もしかしたら、勘違いをしているのかもしれません……