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猫とキミとわたしとさくらの花の吊るし飾り

さくら さくら

なぜ そんなに儚かったのか

散ってしまったら何も残らないのに……



「どうしたんだ?」

とキミ


とても驚いて仕事の手を止めてわたしを見る


もう初夏もいいところなのに

桜の歌を突然歌い始めたわたしに、目をパチクリさせている


わたしは、少し寂し気に微笑む


「あのね。春の季節が来るぞって前に趣味の手芸で作り始めてたの。桜の花びらの吊るし飾り」

「ああ。そう言えば、せっせと材料買ってたな」


その桜のフェルトの吊るし飾りは未完成でわたしの手元にある


フェルトの優しい桜色、フレッシュピンク、(とき)色、フューシャピンク……。

様々な色とりどりのフェルトを集めて作ろうとした花びらは雑誌を見たときに印象的だったので、作り始めたのだ


その作りかけの桜の花びらたちは、形に切られたまま、まるで散ってしまった後の桜の花の様に

……まるで何も無かったかのように

わたしの手のひらの上にある


「にゃーん?」

―これなあに?


黒猫のあなた

フェルトを前足でちょいちょいと触れています


くんくん、と匂いも嗅いでいます



今年の春は、色んな意味で、大変だったから……



わたしはふと思い返して胸の辺りの服をきゅっと強く握る


「にゃ~ん?」

―どうしたの、どこか痛いの?


黒猫のあなたが心配そうにわたしの目元を覗き込む


キミもそっとわたしの傍らに座って

肩を優しく抱いてくれる


目から思わず涙がぽろりと零れました


ポロポロポロ……


ピンクのフェルトに次々と染みが出来てゆきます


「なーん、なーん?」

―どうしたの? どうしよう?


黒猫のあなたはオロオロ


わたしはそんな黒猫のあなたも抱き寄せます


あったかなあなたと

あったかなキミの手のぬくもり


……少し、暑いくらいね

今日の天気じゃあ


わたしはクスっと笑います


「泣いたり笑ったり忙しいな」

と微笑んでキミ


「にゃーん」

―そうだね


と黒猫のあなた


「吊るし飾り。ちゃんと最後まで作るわ」

と泣き笑いの顔でわたし




そうしたら、今度は……




初夏の梅雨前の陽気の向こうに

桜の花びらの残影を見た気がした




そんな今日この頃





久しぶりです。

皆様、如何お過ごしでしょう。


体調に気を付けてくださいね。



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