表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救済の塔  作者: ユウカ
3/3

3

それからのハルカは少しずつ変わりかけていた。悪いことを仕出かすこともあったが、ちゃんと謝ることをできるようになっていた。その為ハルカは慶司たちと共にもう一度ちゃんと暮らして行こうとしていた。

「慶、下に行って来てもいい?」

ハルカが慶の服を掴んで言うと、慶司は横に居るハルカを見て首を傾げた。

「下ってどこだ」

「子供区」

「……俺も行く。ちょっと待ってろ」

慶司が作業していた手を動かしてそう言うと、ハルカは頬を膨らませた。その表情は子供ながらに不満そうだった。

「電球交換したら行ってやれる。だからちょっと待ってろ」

「今すぐ行きたい」

ハルカが駄々をこねるかのように体をゆすって言うと、慶司は微笑んだ。

「ダメだ。一人で出かけさせるのはもうちょっと後になってからだ」

「どうして?」

ハルカが不思議そうな顔を見せて慶司に聞くと、慶司は椅子から降り、ハルカを見つめた。

「ハルカも言ってただろ。ハルカを闇の住人の子供だとみんなが知ってる。陽二がみんなに理解してもらっていると言っても陰で悪口を言う奴らも居る。そいつらにハルカをいじめられたくないから一緒に行くんだ」

「……うん……」

ハルカが小さくうなずくと、慶司は微笑んだ。

「大丈夫だ。みんなが側にいる。俺たちはハルカが白だってことをちゃんと知ってる」

「慶……」

ハルカが不安そうな顔で呼ぶと、慶司はハルカの頭を撫でた。その後リビングへ向かうと、龍彦、龍哉がテーブルの上で何やら勉強らしきことをしていた。その側には仁が座り、そんな二人を見つめていた。友香はテレビを見つめて真剣そうだったため、慶司はため息をついた。

「出かけてくるぞ」

慶司が誰に言うわけでもないがそう言うと、勉強をしていた龍哉、龍彦が顔を上げた。

「子供区?」

龍哉が慶司を見て言うと、慶司はうなずいた。

「ハルカが行きたいらしい」

「じゃ仁も連れて行ってあげてほしいんだ」

「仁も? どうしてだ」

慶司が目を丸くしたように言うと、龍彦がため息をついた。

「子供区に立ち入れないからだよ。それに、仁もたまには同じ年の子供と遊びたいと思うからね」

龍彦がそう言うと、慶司は微笑み、嬉しそうにうなずいた。

「わかった。仁、ハルカと行くぞ」

「はい」

仁が立ち上がると、ハルカがウキウキとしているのか扉に走って向かい、扉を開けて先に外へ出た。廊下へと出ると、慶司はハルカの背中を見つめて微笑んだ。

「大丈夫なのかな」

仁が不安そうな顔で言うと、慶司は仁の肩を叩いた。

「平気だ。心配するな」

「……わかった」

仁がうなずき、ハルカが二人の元まで走ってくると、慶司の背後に隠れた。その為何事かと思って前を見ると、潤二と宏明がエレベーターを待っているのかエントランスに居た。

「ハルカ、どうした」

慶司がそう言ってエントランスへ入ると、潤二と宏明が気づいたのか慶司と仁を見た。

「慶司、また子供を連れて行くのか」

「ああ。俺は子供区へ出入り自由だからな」

慶司が二人に嫌味でも言うように言うと、宏明が肩をすくめた。

「そうだったな。子供たちに人気のお前だからな」

「まぁな。だから子供区へ行くんだ」

慶司はそう言ってエレベーターのボタンを押すと、ハルカがこそこそと隠れるように動いた。そのためそれを見た潤二が慶司を見つめた。

「慶司、陽二様からは聞いてるが信じられないぞ。疑う余地がある」

潤二がハルカのことを言っているということは聞いていた仁にもわかり、慶司を見つめた。慶司はハルカの肩を片手で抱き、動くなと示したかのようだった。その為ハルカはギュッと慶司に抱きついた。

「潤二、ハルカの歳を考えろ。幼い子供に何ができる」

「子供は大人が考えている以上に賢い。それは白の塔に居ればすぐに分かる。だからこそ疑う余地がある」

「俺はその必要はないと思っている。ハルカは白だ」

「それでも自暴自棄になったハルカは暴挙と化した。いろいろしでかしたんだろ?」

「そう思わせたのは尋問班だ。俺達もそうならないとは限らないだろう」

「そうだが……」

潤二が言葉を濁すかのように言うと、慶司はため息をついた。

「ハルカは白だ。陽二と藤十郎さんが確認している。それは確かだぞ」

「分かったよ」

潤二が喚くように言うと、慶司は肩を落とした。

「不承不承って感じだな」

「当たり前だろ。納得できるかよ。闇の住人の子供だって言うんだからな」

「闇の住人の子供でも、白く生まれてくる子供だって中には居るだろう。白の中に黒が生まれるのと同じだ」

「分かってる。だから、見せかけじゃないことを祈るばかりだ」

潤二と宏明は別の場所にあるエレベーターへ乗り込み、どこかへ消えてしまった。そのため慶司は仁と隠れているハルカを見つめた。

「守ってやるよ」

「うん」

ハルカがうなずき、やっと来たエレベーターへ乗り、仁は黙って慶司とエレベーターへ乗り込んだ。子供区へ着くと、ハルカは姫子の居る部屋に向かった。その為仁もそこへ向かうと、すぐにハルカが扉を開けて中に入った。

「こんにちは」

ハルカが元気よく挨拶をすると、姫子が目を見張り、子供たちが一瞬ギクッと強張ったのを慶司が見つけた。仁は慶司の側に立つと、姫子が微笑んだ。

「いらっしゃい。入りなさい」

姫子が慶司と仁にそう言うと、扉を閉め、教室とも思える部屋の中に入った。仁はこの部屋をぐるっと眺めていると、姫子が側に来たことに気づき、姫子を見つめた。

「こんにちは」

「こんにちは。仁君ね」

姫子がそう言うと、仁は目を見張り、慶司を見つめた。その為慶司は肩をすくめた。

「姫子さんには一応聞いてもらってる。お前やハルカの更生はどうしたらいいかとかな」

「そうなんだ……」

仁が驚いたような声で言うと姫子は微笑んだ。

「子供たちと遊びましょう」

「はい」

仁がハルカの居る輪の中に入ると、子供たちはハルカをちらちらと見ていることに気づいた。その為仁が首を傾げた。

「ハルカ、何かしたのかな?」

仁がハルカにそう言うと、ハルカは顔を上げて仁を見つめた。

「ううん」

「じゃどうしたんだろう。みんなが見てるよ」

仁がそう言うと、子供たちが仁とハルカを見つめたが俯いた。その為姫子がそんな子供たちを見て口を開いた。

「ハルカちゃんのことを心配してるのよ。前に来た時とてもおかしかったから、心配なの。悪い子になっちゃったんじゃないかって」

「姫子先生!」

子供たちが姫子に黙っていてとでも言うように集まると姫子は微笑んだ。

「ハルカちゃんに聞いてみなさい」

「……ハルカちゃん……悪い子になっちゃうの?」

姫子に促され、子供たちがハルカを心配そうに見つめると、ハルカは手に持っていた絵本をみんなの前に出し、微笑んだ。

「みんなで見よう。ねっ」

ハルカがそうした事に子供たちはパッと明るくなったかのように、ハルカの側に集まると、絵本を見始めた。その為仁は呆れたとでも言いたいような顔を見せて子供たちの中に混ざった。子供同士の仲直りなど些細な事で終わる。疑問もすぐに氷解する。それが今目の前で起きただけの話だった。

「良い子へ……白へ戻れるよう道ができたのね」

姫子がハルカを見て口を開くと、慶司がそんな姫子を見てほっとした顔を見せた。

「ああ。やっとな」

「苦しかったんじゃないかしら? 自分が白へ向かわせた子供が、黒へ落ちていたなんて」

「驚いたさ。悪さばかりするし、怪我するし……」

「そうね」

「でも今は良いんだ。白へ戻れると確信できる」

「慶司がそう言うなら戻れるでしょうね。見ものだわ」

姫子が嬉しそうに言うと、慶司は呆れたかのようにため息をついた。

それからハルカは慶司と出かけることが多くなった。しかし慶司にも仕事があり、その間は友香と龍哉が面倒を見ていたが、二人の言うことを聞いてちゃんと部屋で待って居られるようにもなった。夜も眠り、お風呂にも入るようになっていた。部屋でみんなと仲良く暮らせるようになるのはすぐの事だろうと誰もが予想できていた。

「ハルカが闇の住人の子供でも、白いハルカは闇の住人たちとは違う。ハルカが白いままずっと居てくれるなら、俺たちは何があってもハルカを守ってやる」

お風呂上り、慶司がソファに座るハルカを抱きしめて言うと、ハルカは慶司に抱きついた。ハルカが白の塔の住人として認められ、慶司たちと暮らしていけるように、陽二と藤十郎が決めていた。その為すぐにでもハルカは慶司たちとの暮らしを続けられるようになっていた。


白の塔を外から眺める人々の目がある中で、白の塔の変化を監視していた闇の住人たちは変化がないことに気づき、自分たちの住処へと戻った。どこにあるかはわからないが、どこかの場所に入ると、そこには闇の住人の幹部と頂点に立つ人が居た。

「閣下、白の塔に変化がありません」

男性が円卓を囲む人々に、部屋に入ってすぐの場所から言うと、円卓を囲む人々が入口を見た。

「そうか」

返事を返したのは、円卓の上の方に座るまだ若そうな男性だった。閣下を呼ばれたその人の声が部屋に響くと、入口に居た男性が円卓を囲む人々を見て口を開いた。

「白の塔に捕縛された者たちと口裏を合わせ行った白の塔壊滅作戦は失敗、合わせて行いました閣下のお子様の闇の住人化計画も失敗したと思われます。お子様をどうされますか」

「放っておけ。あれは使い物にならん」

閣下と呼ばれた人が物を扱うように言うと、男性が顔を上げた。

「しかし……」

慌てたように男性が言葉をつなぐと、閣下と呼ばれた男性は手を挙げた。

「あの中で育っているのならば、闇へ戻ってくれば奴隷でよい。闇に染まれぬ者は全てそうなる運命だ。あれも例外ではない」

厳しいことを言うかのように言われ、男性は俯いた。

「……わかりました」

男性は不服そうな声を出して言うと、閣下と呼ばれた男性が苦笑いを浮かべた。

「そう不服そうな顔をしないでもよい。私の子供であっても、私の思いを受け継げぬのならば不要だ。この闇の世界に白など不要。わかるな?」

「よく理解しております」

男性が閣下と呼ばれた人の問いに答えると、閣下と呼ばれた男性は嬉しそうに微笑んだ。

「それならあれの事は放っておけ。あれは捨てたも同然の子だ。人々を苦痛に過ごさせられぬ子など私の子ではない」

閣下とよばれた男性が言い切るように言うと、入口に居た男性は一礼をして部屋から出て行った。その為閣下と呼ばれた男性は円卓を囲む人々を見つめ微笑んだ。

「閣下」

「あの塔は不要なのだよ。あれも私の子ならば塔を破壊するように動けるはずだ。それができぬのならば、白の塔もろとも消してしまえ。あの場に居る事自体が間違いだったのだと後悔させてやろう」

閣下と呼ばれた男性がそう言うと、円卓を囲っていた人たちが立ち上がった。

「閣下のご命令通りに」

「閣下のご命令通りに」

口々にそう言って部屋を出て行くと、閣下と呼ばれた男性は円卓の上を見つめた。

「私の子に白で生まれてきたことを後悔させてやろう。白のまま生き続けていることも間違いだと知らしめてやろう。白で生まれ落ちた自分が悪かったんだと知るまで苦しめ続けてやろう。白の塔と仲良くすればするほど己の首を絞めると思い知れ。私の子に白など要らぬのだからな」

閣下と呼ばれた男性は黒いオーラを纏い、円卓の上に置かれているハルカの写真にダンッとナイフを突き立てた。ハルカの顔写真の真ん中に刃が突き刺さっていた。


ハルカが白の塔を自由に動き回れるようになるまで、ハルカのスパイ容疑が沈静化し、安心して慶司たちはハルカを見守ることにしていた。ハルカはいろいろな人と出会い、いろいろな人や物と触れ合い、成長していこうとしていた。そんな中、ハルカはいつも通り廊下にある椅子に座り、周りを通り過ぎる大人たちを観察してイタズラを仕掛けようとたくらんでいた。

「こんにちは、何してるのかしら?」

急に横からハルカは声を掛けられたため、びっくりして立ち上がった。その為驚いた原因はなんだと横を見ると、女性が前かがみになってハルカを見つめていた。それを見たハルカはほっと胸をなでおろした。

「みんなを見てたの」

ハルカがそう言うと、女性はハルカの前に回り、その場に座った。目線が合う高さにしてハルカを見つめた。

「そう。ハルカちゃんね? いつもみんなにイタズラをして遊んでいるって噂が流れていたわ」

女性がそう困った顔を見せると、ハルカは微笑んだ。

「みんなと遊んでるんだよ。ハルカみんなと仲良くなりたいからね」

「そう。でもイタズラしていてみんなに嫌われないの?」

「うん。みんなハルカが元気な子だって知ってるから、またやってるなって言うんだよ。部屋に居る慶たちもほどほどにしなさいって言うけど、ハルカは楽しいから遊ぶの。みんな優しいからハルカ大好き!」

「そうなの。じゃ大切にしなきゃね」

「うん。大好きな人たちと離れたくないもん!」

ハルカはそう言ってその場から走って離れていくと、分厚いファイルを何個か抱えて廊下を歩いている人の手を引っかけに向かった。その人の手を引っ張り、ファイルを取り落させると、ハルカは面白そうに笑った。しかしその人はハルカの仕業だと分かると、ハルカに怒ったが、呆れた表情で一緒になって笑っていた。その様子を見ていた女性は立ち上がり、ため息をついた。

「ゆっくり過ぎてイヤね。本当に甘い場所。イヤになる」

女性はそう呟き、エントランスへ向かった。そこに着くと、携帯電話をポケットから取り出し、電話をかけ始めた。

「相原です。様子を見ましたが全くダメです。あの子からではなく周りから攻めて行くべきだと感じました。その為実行に移します」

女性が電話を切ると、すっと冷たい表情を見せた。白の塔では見るのもあまりない、暗い瞳だった。

ハルカが部屋へ戻って来ると、仁が珍しく出かける準備をしていた。その為ハルカが目を丸くすると、仁が微笑んだ。

「慶と陽二さんが一人で出かけて良いってOKを出してくれたから、下のショッピングモールまで買い出しに行くんだ」

仁が嬉しそうに言うと、ハルカはぽかんとした表情を見せたまま、慶司を見つめた。仁の隣に居た慶司は、そんなハルカを見て笑った。

「何か買ってきてほしい物あるか?」

「ううん」

ハルカは慶司の問いかけに頭を横に振って答えると、慶司は仁を見つめた。

「気を付けろよ」

「分かってるってば」

仁が少し鬱陶しそうに言って、部屋から出て行った。その為ハルカも慶司も心配そうに扉を見つめるしかできなかった。

仁がショッピングモールへ着き、順調に買い物を進めていると、前からどこかで見たことのある人が歩いてきた。しかし、こんな場所で見ることはない人だと思った為無視しようとした。だがその人は仁の側まで来ると、仁の腕を掴んで人ごみから離れた通路へと仁を連れ込んだ。

「私の事を覚えているかしら」

前方を歩いて来て、自分をここへ連れ込んだ女性がそう言うと、仁は目を見張り、その女性をまじまじと見つめた。見つめてその人が自分の記憶の中にある人だと分かったのか、ふっと怒った目を向けた。

「知らないね」

仁がぶっきらぼうな言葉で言うと、女性は微笑んで仁を見つめた。

「嘘つきは悪い子だって言わなかった? まぁ灰色……黒に近い仁には無関係な話だったわね」

そう言って女性は仁の頬に手を添えて微笑んだが、仁は敵意を剥き出しになった。

「なんでここに居るんだ!」

怒鳴るように仁が言うと、仁の口を手で塞ぎ女性は微笑んだ。とれも嬉しそうに、そして皮肉を込めたかのような笑みだった。

「あら、紛れ込んだだけよ。内部調査」

「スパイをしに来てるのか」

仁が怒った口調で言うと、女性は仁に微笑みかけた。

「ええ。私の事伝えるのかしら?」

「陽二さんに言う」

「そう。じゃ仲間が居るって言って。私が捕まったら、仁、あなたも捕まるのよ。私はあなたが仲間だって言うから」

女性がそう言うと、仁は目を見張り、信じられないという顔で女性を見つめた。その為表情を見た女性が嬉しそうに微笑んだ。

「それに、また手伝ってほしいことがあるんだけどしてくれるわね? 拒否したらあなたの事本当にしゃべるわよ?」

「何の話?」

仁が分からないという顔を見せると、女性は肩をすくめ呆れたと示した。

「逃げた時あなたは大切な情報を持って行ってしまったのよ。その情報を持っているってことは黒色確実な証拠になるってわけよ」

女性はそう言って仁を見つめると、仁は呆然とした表情を見せた。それを見ていた女性は、仁の手を握った。

「仁が手伝ってくれるならこのことは黙っているわ。それに私が本気になればどうなるか分かってるわよね? 分かっているならお願いを聞いてくれるかしら」

女性がそう言うと、仁は素直にうなずいた。

「ありがとう。あなたの仲間と出かけた時、小さな失敗をしてほしいの。私たちの仲間が少しでも傷つかないようにしてくれたらそれで良いわ。できるわよね?」

女性が仁を冷たい目で見つめて言うと、仁はうなずいた。

「分かった」

仁が素直にうなずくと、女性は嬉しそうに微笑んだ。

「じゃ期待しているからちゃんと働いてね」

そう言って女性が立ち去ると、仁は悔しそうに手を握りしめ壁を殴った。

「仁?」

 仁は急に声を掛けられた為、ビクッと体を強張らせた。前を見ると見たことのある人が立っていた。

「相原さん……」

 仁が名前を呼ぶと相原は仁に駆け寄って来て、仁の腕を掴んだ。

「何をしているの。今誰と一緒に居たの」

 相原は慌てたように言うと、仁は目を見張った。

「怪しい人を追っていたらあなたと会っていたのよ。あれは闇の住人でしょう。何をしているの」

相原がそう言うと、仁は俯ききつく手を握りしめた。

「仁、今回に限り黙っていてあげるわ。昔のこともあるでしょうし、今回だけよ」

相原がそう言うと、仁は相原を驚いたように見つめた。

「本当にいいの?」

「今回だけ。それにハルカちゃんの事で大変そうな第一部隊にこれ以上迷惑をかけたくないでしょう」

「うん」

「じゃ仁、このことは黙っていてあげるから、これ以上変なことをしないように」

「はい」

 相原に返事を返し、仁は買い物の続きをするためその場から立ち去った。相原はそんな仁の後姿を見送った後、振り向いた。そこには先程の女性が待って居たとでも言うように壁に背を預けて待って居た。

「ありがとう。これで仁はまた手を染めるわ」

 相原がそう言うと女性はため息をついた。

「まぁ私にはどうしようもないくらい恐怖心があるから成功でしょう。後は首尾よくしてよ」

 女性はそう言うと人ごみの中に紛れてしまった。相原はその人とは反対の方向へ歩きだし、人ごみの中に紛れた。


仁がその日の仕事中、転げるはずもない場所で転び、目的の人を一人逃がしそうになった。しかしカバーしてくれる人たちが大勢いるため、逃がすことはなかった。ただ、仁の行動がおかしくなったのはこの日だけではなかった。何回かに一回はこういった小さなミスを繰り返した。こけたり、狙撃を外したり、荷物を滑り落としたり、誰でもしそうな失敗を繰り返した。そのせいで仁以外の人たちの負担は増え、苛立ちが増えていた。仁に言っても「大丈夫」としか言わず、反省の色が無い。それも苛立ちを募らせる原因だった。それが白の塔へ帰って来ても現れるのは明らかで、お留守番をしている友香、龍哉、ハルカにも分かるほど険悪な雰囲気だった。

「慶、何かあったの?」

ハルカが心配そうに言うと、慶司は困った顔を見せため息をついた。

「仁に反抗期でも来たんだろう。今はそっとしてやるのが一番良いんだ」

「でもなんか嫌な風にみんながする」

「ちょっとの間だ。我慢してくれ」

慶司はそう言ってハルカをなだめようとするが、部屋の雰囲気は悪化する一方だった。そんな中、仁の事で衝撃の事実が判明した。それは陽二が部屋にやって来たことから始まった。

「仁、ちょっとおいで」

「何?」

仁が部屋に入って来た陽二に呼ばれ、側に行くと何か喋っているのだが、小声で聞こえなかった。しかし陽二が仁に何か質問していることが明らかで、仁の表情が困っていた。そして部屋から仁が昔から持っているカバンを持って来ると陽二に渡した。その中身を見た陽二は仁の肩を叩き心配そうに見ているみんなに目線を移した。

「慶、悪いが仁を部屋から一歩も外に出さないでくれ。事情が判明すれば説明する」

陽二がそう言うと、慶司は目を見張った。その為陽二をじっと見つめて口を開いた。

「陽二」

「お前には逆戻りだと言えば通じるだろう」

「っ!」

慶司が驚いたようなひきつった声を出すと、陽二は仁を見つめた。

「自分が悪かったのかもしれないと反省していてくれ」

陽二はそう言って部屋を出て行くと、仁は俯いた。その為全員が心配そうに仁を見つめると、慶司が仁の側へ行き仁の頭を撫でた。

「仁、悪いが何をやらかした」

慶司がそう聞くと、仁は慶司を見るため顔を上げた。

「俺の持ってたカバンに白の塔の情報が入ったメモリーカードがあるんだって。俺は知らなかった。でも俺の昔のこともあるからちょっと複雑だってさ」

「……もしかしたらってことか」

慶司が心配そうな顔で言うと、仁はうなずいた。

「ハルカの時のアレもあるし一応ね。線を引いたって事だよ」

仁はそう言って周りを見ると、みんなが仁を見つめていた。

「慶、本当に俺はスパイじゃない。信じてほしいって言ってみたらおかしな話だけど、違うんだ。分かってほしい」

仁はみんなに聞こえるように言うと、慶司は仁を見つめて目を見張った。居場所を失うかもしれない行為を行ったからだった。当たり前のようにみんなは仁を心配するが、苛立ちの原因も絡み、仁との間に溝ができてしまった。もしかしたらと言う思いが生まれていたのかもしれない。そのため仁との関係はギクシャクしていた。慶司や沙羅が仁を信じて、違うと言ってまとめようとしてもまとまらず、分裂してしまっていた。

仁の事があってからハルカは部屋に居づらくなっていた。その為廊下の椅子でぼーっとすることが多かった。

「楽しかったのどうしてみんな仲良くしてくれないのかな」

ハルカが呟いて廊下を見ると、通り過ぎる大人たちがハルカの所在に気づいていた。

「ハルカの時にスパイが居るって言われたからかな。じゃ仁がしんどいのはハルカのせいなのかな……」

ハルカがズンと重たい空気を背負うかのように言うと、隣に人が座った。その為ハルカが隣を見ると前に声を掛けてきた女性だった。

「こんにちは」

ハルカが声を掛けると女性は微笑んだが、前回のように優しさがなかった。その為ハルカは立ち上がろうとしたが、女性がハルカの腕を掴み、その場にとどまらせた。

「お話しましょう」

女性はそう言ってハルカをもう一度ちゃんと座らせるとハルカを見つめた。

「仁の事心配かしら」

女性がそう言うと、ハルカは女性を驚いた顔を見せた。

「仁の事をなかった事にしてあげられるって言ったら、ハルカはどうするかしら」

「え? どういう意味?」

ハルカが唖然としたような顔を見せて言うと、女性は微笑んだ。

「私になら仁の事をなかったことにしてあげられるの。でも、それをしてあげる代わりにわたしのお願いを聞いてくれる?」

「何?」

ハルカが臆することなく聞くと、女性は嬉しそうに微笑んだ。

「あなたのお父様の所へ帰りましょう。こっちへ戻って来るのなら今回の件はなかった事にしてあげるわ」

女性がそう言うと、ハルカは目を見張った。

「お姉さん誰……」

ハルカが小さな声で言うと、女性はハルカを見つめた。

「闇の住人よ。ここには内部調査で来てるの。でも私はハルカを連れて帰るのが仕事。来てくれたら仁の事戻してあげるわ。どうする? それとも、私が闇の住人だってここでばらしたい? 誰も信じないわよ」

ハルカにそう告げ、女性はハルカの返答を待った。しばらくの間ハルカは考え込み、女性を見つめた。

「一緒に行ったら仁の事、ちゃんとスパイじゃないんだって分かるってことだよね?」

ハルカがそう言うと、女性は嬉しそうに微笑んだ。

「そうよ。スパイじゃないってことになるの」

「分かった。一緒に行くから仁の事ちゃんと白色なんだって教えてあげて」

ハルカがそう言うと、女性は微笑み、ハルカを連れてエレベーターに乗った。そしてハルカの姿は白の塔から消えてしまった。


ハルカの姿が消えたことは、すぐに判明した。その為白の塔内で問題が浮上した。ハルカはどこへ行ったのか、誰が連れて行ったのかが分からなかった。ハルカが白の塔から出られないように監視されているのは全ての人が知っていたからだ。正面玄関も搬入用出入り口も裏口も駐車場出入り口も全てにカメラがあり、その一台にでもハルカの姿が映ればそれをスキャンし、ハルカだと確定されれば出入り口は封鎖されることになっていた。それなのにハルカは姿を消した。誰かに連れ出された可能性しか見つけられない。しかしその人物が分からなかった。その為陽二は仁へ問いかけることにして、慶司たちの部屋にやって来た。

「慶、邪魔するぞ」

陽二がそう言って部屋に入って来たため、慶司は目を見張った。しかし陽二はそんなことに構わず、仁の側に向かうと、仁の腕を引っ張り、座っていた仁を引っ張り上げた。その為仁は驚いて立ち上がると、陽二が仁を見つめた。その表情に仁は内心凍りついた。

「仁、もうなりふりは構っていられなくなった。知っているだろう。ハルカが行方不明だ」

陽二がそう言うと、大人しく部屋で待機を命じられている慶司たちは陽二を見つめた。仁もハルカの行方不明には驚いていた。その為陽二の言葉に頷いた。

「はい」

「なら質問に答えなければならない。嘘をついた場合後はないと思え。二度と守ってもらえない場所に行くと思えばいい。良いな」

「はい……」

仁がうなずくと陽二は仁の顔をじっと見つめた。

「買い物に行って何があった。あの日から行動が変になっていたな」

陽二がそう言うと、仁は俯いた。その為陽二は仁の顔を上げさせた。

「逃げるな。素直に答えればいいんだ」

陽二がそう言うと、仁はため息をついて口を開いた。

「会いたくも、見たくも無い人と会ったんだ」

 仁がやっとの思いで口にした言葉は小さな声で伝わってきた。その為陽二は目を細めた。

「昔の事に関わっているのか」

「そうだよ」

 仁は陽二を悲しそうな目で見つめて言うと、陽二はため息をついた。

「何を言われた」

「カバンの中身の事を教えられた。メモリーカードが入っていて、それを持ってあの時俺は逃げたんだって。だからそれを持っている俺は黒色でスパイだと疑われる証拠になるって言われたんだ。そうなりたくないから黙ってた」

 仁が決意を持った声で言うと、陽二は仁の顔をじっと見つめていた。

「出会った人間に言われる前からカバンの中身の事は知っていたのか?」

「知らなかった。俺の荷物を入れていたカバンだったし、そんな物が入っているとは思ってなかったよ」

「カバンの事を知っていたのなら何か頼まれたのか? 行動がおかしくなったことも含めてだが、何を頼まれた」

「……出かけた先で失敗しろって。小さな失敗でいいから。仲間が少しでも傷つかないようにしてほしいって……」

「それで従ったのか。慶から報告があったがそんな事だったとはな」

仁が手を握りしめ、顔をそむけると、陽二は仁を見つめた。

「それで、その相手との関係はどういう関係なのか話してくれ」

「陽二さん、それをここで言うの? みんなの前で俺にしゃべれって言うの?」

仁が悲しそうな表情で言うと、陽二はうなずいた。その為仁は肩を落とした。

「あの悪夢の一か月間俺を恐怖のどん底に突き落とした教師だよ。逆らえないよう、逆らわないよう調教したあの教師だ」

仁が怒りをあらわにしたかのように言うと、陽二は目を細めた。

「それで逆らえなかったのか」

「そうだよ。怖かった」

「仁、分かった。ハルカの行方は知らないか」

「わからない」

仁が頭を横に振ると、陽二は仁をしっかりと見つめた。

「よろしい。他に誰かと会ったか?」

「相原さんと会って、調教した人と会っていたことを黙ってくれるって言ってたよ」

「相原が?」

陽二が不思議そうな顔を見せると、仁がうなずいた。

「そうだよ」

「分かった、質問は終わりだ」

「ごめんなさい。すぐに伝えられていれば良かった……」

「そうだな。慶、仁は白だ。スパイ容疑もこれでなくなった。荷物の件も白だ」

陽二がそう言うと、慶司はため息をついた。

「荷物って何の事だ」

「仁の昔の荷物、ここへ逃げてきた時に持っていた荷物の中に、白の塔の個人データが含まれているメモリーカードがあった。闇の住人たちが悪用しようと盗み出したものだというのはすぐに知れた。しかし、仁がなぜ持っていたのかと言う疑問があった。ただ、仁は闇の住人たちの手駒のように動いていた時期がある。その時期と重なっていると知れれば、知らずに持って来た可能性もあった。だからこそ荷物の件は白だ」

陽二がそう言うと、慶司以外の人たちは仁を見て唖然となってしまった。その為慶司はため息をついた

「分かった。仁の事白の塔内で問題になっていただろ。撤廃してくれ」

「分かっている。それと、ハルカの事だが捜索に入った。発見までおとなしくしていてくれ」

「ああ」

慶司が返事を返すと、陽二は部屋を出て行った。その為慶司は仁を抱きしめた。

「連れて行かれなくて良かったぜ」

「慶」

「ハルカの帰りを待つぞ」

「はい」

仁がうなずくと、慶司は沙羅たちを見つめた。そして仁の事を本当に意味で分かり合う為、仁は自分の事をしゃべり始めた。衝撃的な事実だが、沙羅たちは仁の事を深く分かることができ、今回の事が仁にとって恐怖であり、逆らえないことだということが分かったため、仲直りができた。

陽二からの指示があり、白の塔の総力をかけてハルカの捜索を開始するもすぐには発見できなかった。その為相原の事も含め、スパイを探すことも並行して着手した。仁に黙秘を約束していた相原はハルカ失踪日から休暇を取っており、本人も行方が分からなくなっていた。スパイ容疑もあり、相原を探すことも忘れることなく通達していた。


その問題のハルカと言うと、地下の隠し部屋に相原と一緒にソファに座って居た。どこかの大きな家ということはこの家に来たときに分かったのだが、白の塔からどれだけ離れているのかはわからなかった。しかし、この部屋の内装をどことなく覚えているハルカは、心の中で少しだけ恐怖が頭をもたげていた。隣に座る相原は、ハルカの表情が変わっていくのに気付きながら、知らぬふりを続けた。

部屋の扉が開き、部屋の中に男性が数人入ってくると、相原が慌てて立ち上がった。

「閣下。自らお越しになるとは思っても居りませんでした」

相原がかしこまったかのように言うと、男性の中の一人が相原を見つめた。

「使い物にならんものがどんなものか見たくて来ただけだ。黒に染まるだけの賢さがあればいいがな」

男性がそう言うとハルカの前に歩き、ソファに座るハルカを見下ろした。

「二年ぶりに見るが全く変わっておらんな」

男性がそう言うと、相原はため息をついた。

「はい。しかしここに来た以上黒へ変わっていただかなければなりません」

「これに変わるという思いがあればいいがな」

男性がハルカを指さして言うと、ハルカは首を傾げた。

「ここに来たら友達を守ってくれるって言ったから来ただけだよ。ハルカもうここに来たんだから帰る」

ハルカがそう言って立ち上がると、相原も男性もハルカを見つめた。

「友達を助けてくれるって言ったよね? ここに来てるし、ハルカは友達がちゃんと助かったのか確認したいから帰る」

ハルカがそう言って一歩を踏み出すと、男性がハルカの頬を叩いた。その為ハルカは驚いて男性を見つめた。

「ここに来た以上逃がすわけにはいかんな。お前にはここで苦痛を受けてもらおう。こちらの仲間になると誓うまでな」

「ハルカは黒になんてならない! みんなと約束したもん! ハルカはずっと白で居るって約束した。だから黒になんてならない!」

ハルカが怒ったかのように言うと、男性はハルカの頬を数回叩き、ハルカの胸ぐらを掴み上げた。

「覚えておけ。お前が白であること自体間違いであり、白の塔と仲を深めれば深めるほどお前には苦痛を与えてやろう。お前の父である私に逆らった罰だ」

男性はそう言うと、ハルカの頬を何度もたたき、ソファに倒れ込んだハルカの体を蹴り飛ばした。ハルカは泣きじゃくり、必死に逃げようとじたばたしたが服を掴まれ体を殴られた。

「やっ……止めてっ……叩かないでっ!」

手を必死にじたばたと動かし、逃げようとするが大人と子供の力の差は歴然だった。その為ハルカは男性の気が収まるまで暴力を奮われ続けた。男性の手が止むと、ハルカは泣きじゃくったまま頭を抱えて体を丸めて守っていた。それを見た男性は、ハルカの腕をきつく掴み、立ち上がらせると、ハルカの顎を掴んだ。

「しっかりと覚えて込ませただろう? 逆らえばこうなることをお前は嫌ってほど知っているな? もう叩かれたくなければ言うことを聞けばいい。簡単な事だと昔にもお前に説明した。それなのにお前は理解もしなかった。だがもう理解できるだけの頭があるだろう。ここにお前の仲間は居ない! 助けてくれる奴も仲良くしてくれる奴も誰一人居ない。もし助けてほしいと思うのなら、この父に従え。父に従えば痛い思いはしなくてもいい」

男性がハルカの顔をしっかりと見て言うと、ハルカは頭を横に少し振った。その為男性はハルカの顎を放し、頬を力一杯叩いた。

「まぁいい。少し時間をやろう。白の塔でのことが間違いだったとしっかり理解してもらうぞ」

男性がハルカにそう言うと、側でその様子を見ていた相原を見つめた。

「相原、これが自分の立場を理解できるまで何をしてもいい。私の子であり、父に従うと誓い、黒色であるとしっかりと言葉にできるまで教育しろ。お前が責任を持ってこれに教えろ」

「ご命令承りました」

相原が返事を返すと、男性は怒りを露わにしたまま部屋を出て行った。それに続いて部屋に入って来ていた他の男性たちも一緒に出て行った為、またハルカは相原と二人になってしまった。その後の事は同じであり、ハルカは黒になれという考えを植えつけられる洗脳をされることになった。そこでもし白でありたいなどと口に出せば、心からごめんなさいと謝っていると、相原に伝わらなければ伝わるまで謝らされるか、暴力の嵐だった。その中でハルカが相原にお願いをしていた。

「白の塔にサヨナラを言いたいの。電話を掛けさせて」

必死の形相でお願いを続け、二日かけて粘ると何とか電話を掛けさせてもらえるようになった。その為ハルカは心の中で喜んでいた。

「電話よ。早くしなさい」

相原が冷たくそう言うと、ハルカは嬉しそうに子機を受け取った。

「ありがとう」

受けとった子機に電話番号を打ち込み、電話をかけ始めた。長いコール音が途切れると懐かしい声が聞こえた。

『公衆なんて誰だ』

慶司の声が聞こえ、ハルカは嬉しそうに笑みをこぼした。

「ハルカ」

ハルカがそう言って名前を名乗ると電話の向こうで息を呑む音が聞こえた。

「慶、ハルカは自宅に戻って来てるの。それで家族と仲良くしてる。それに遊園地に連れて行ってくれるんだって。だからもう大丈夫。探さないでね。バイバイッ!」

ハルカが言いたいことを言いたいだけ言うと、すぐに電話を切り、相原を見つめた。

「さよならしたからありがとう」

「遊園地になんて連れて行かないわよ」

相原が不機嫌そうな声で言うと、ハルカは微笑んだ。

「うん。みんなを安心させたいから嘘ついたの。仲良くしてるって言わなきゃ怒っちゃう」

「そうね」

相原は冷たく返事を返し、子機を持って部屋から出て行った。それを見たハルカはため息をつき、俯いた。

「慶、ごめんなさい。でも一日一回だけの嘘つきになって良いって教えてくれたもん。ハルカ嘘ついたよ。違うって気づいて。遊園地の事にも気づいて。ハルカは必死に戦うから、ここに居るって気づいて」

小さな声で自分を奮い立たせるかのように言うと、少しだけ心の中に居場所を伝えられたかなと言う不安が生まれていた。

相原が部屋に戻って来ると、後ろにはハルカの父であり、この闇の住人の根城では閣下と呼ばれる男性が居た。その為ハルカは自分がさっき電話を掛けたことがばれていると気づかされた。そんなハルカの表情の変化を見て、閣下は嬉しそうに微笑んだ。

「自分が何を仕出かしたのかを分かっているではないか。愚かなことをしたと反省でもしているのか、はたまた達成感でいっぱいなのか……だな」

閣下はハルカの側へ歩むと、ハルカの髪を掴み、側にあったテーブルに頭を打ち付けた。テーブルの角で頭を強打させられたハルカは痛みで泣き出したが、閣下はハルカの髪から手を放し、顎を掴んだ。

「覚えていたとはな。ここが以前お前を奴隷として出した家だったと覚えていたのか。それになぜお前が遊園地と言うことを知っている!」

閣下がハルカに怒鳴ると、ハルカは閣下を涙目で見つめた。

「ここに居るみんなが、次は遊園地へ移動になるだろうって言ってた。だから遊園地って言っただけ」

ハルカが落ち着いた声でそう言うと、閣下はハルカの顎から手を放し、頬を殴った。

「黒へ変わるつもりがないのならそれでもいい。お前がどんな姿になろうが私たちには関係のない話であり、お前が白でありたいと願った結果だと嘆けばよい話だ。それを見て私たちは笑ってやろう」

閣下がそう言うと、側に居た相原が目を見張り、驚いた顔で閣下を見つめた。その為閣下は相原を見つめたが何も言わず、ハルカを見た。

「遊園地などいくらでもある。割り出すだけでも相当な時間がかかるだろう。この話はまだよい。ハルカ、せいぜいこの中で苦しみぬくがいい。黒へ変わらぬものは死ぬしかないからな」

閣下はそう言って部屋を出て行こうとして足を止めた。

「相原、お前も部屋を出ろ。一緒に来い」

「はい」

相原が閣下の後追って部屋から二人して出て行くと、ハルカは呆然とその場に取り残された。打ち付けた頭は、たんこぶができていたが、誰一人手当てしてくれる人は居ない。傷を負ってもそれを治す治療薬さえここにはないのだ。その為それを自然に治す以外ハルカにはなかった。

翌日、ハルカの部屋に青年が入って来た。部屋の中でソファに座って居たハルカは首を傾げた。青年はそんなハルカを見つめて微笑んだ。

「俺を見るのは初めてだな。ハルカだろ」

青年がそう言って近づいてくると、ハルカはうなずいた。

「誰?」

「俺はお前のお兄ちゃんになる。将だ」

将と名乗った青年はハルカの兄だという。その将はハルカの元にそれから何度か来ることがあり、ハルカと遊ぶことをしてくれていた。その為初めてできた友達とも思える青年にハルカは心を寄せていた。その将が部屋を出て違う場所で遊ぶと言い出したため、大きな窓のある部屋へハルカを連れて行った。

「ここは何?」

ハルカが周りを見て言うと、窓の側にスイッチが五つほど並んでいて、外には大きな空間があり、下を見れば穴の開いた場所がいくつかあった。そのスイッチを数人の人が押して遊んでいた。上からは穴が開き、ボールが下の穴へ吸い込まれていった。それを見て数人の人たちが楽しそうに笑っていた。

「ボールをどこから落としたらどこへ落ちるか見てるんだ。楽しいぞ」

将がそう言ってスイッチを押すと、奥の穴が開き、赤いボールが下を落ちて行き、二番の穴へ落ちて行った。五つのボタンをポコポコ押すと赤や白、黄色、青、緑のボールが一番から五番の穴に綺麗に吸い込まれていった。それを見ていたハルカに将が移動式のスイッチを見せた。

「押して見ろよ。ボール出してどこに入るか賭けよう」

「でも……」

ハルカがスイッチを怖がって遠ざけると、将がボタンを押した。

「一番だな」

将がそう言うと、白いボールは将の予想通り一番の穴へ落ちて行った。その為ハルカが一回だけスイッチを押すと、緑のボールが出て来た。

「四番だな」

「三番」

将が四番、ハルカが三番と賭けると、ハルカの予想通り三番の穴へ吸い込まれていった。その為ハルカがもう一回スイッチを押すと、バコッと今までにない音が鳴り、外の穴の一番大きな物が開き、人が降ってきた。降って来た人の首に縄があり、それが落ちることを拒むかのようにグンと人の首を絞めつけ空中にその人を留めた。留めたがために降って来た人の首の骨が折れたのか頭が前に垂れ、手足がだらんと垂れ下がった。

「きゃぁぁぁっ!」

ハルカが悲鳴を上げて窓から顔をそむけると、将がハルカの肩を掴み、窓を向かせた。その為ハルカは手で顔を覆うと、将がその手を掴み、ハルカの視界を塞がせなかった。

「よく見ろ。あれが誰か分かるか」

将がそう言うと、ハルカは恐る恐る首をつられている人を見ると、目を見張った。

「お姉さん……」

ハルカが呆然とした顔を見せると、将は微笑んだ。

「あいつもバカだ。口車に乗せられ、外に情報を漏らさせるような真似をしたから殺されることになったんだ。言われたことをしてりゃよかったのによ」

将がそう言うと、ハルカが将を見つめた。

「どういう……どういう意味っ!」

ハルカが慌てて将の服を掴んで聞くと、将はハルカを見つめた。

「お前に電話を渡し、白の塔へ連絡を取らせた。それも居場所が分かるようなことを伝えられ、失敗したんだよ。お前があいつを殺す理由を作ったってわけだ」

「!」

ハルカが目を見張ると、将はハルカの手を握り、スイッチを持たせた。その為ハルカはそのスイッチを慌てて放し、スイッチは床の上にガチャンッとけたたましい音と共に落ちた。

「持っておけよ。今からそれが必要になるんだからよ」

将がそう言ってスイッチを拾うと、ハルカを見つめた。ハルカはうろたえたような顔で将を見つめた。

「分かったか。俺がここにお前を連れて来た理由。これをやらせるためだ。ボールの遊びなんて初めっから存在しない。全員協力してくれてたってわけだ」

将がそう言うと、周りでスイッチを押していた子供たちが集まると、ハルカを見て微笑んだ。

「馬鹿だね」

「馬鹿だよ」

「この部屋が何か知らずに来てるんだから馬鹿だね」

「本当だね。悪いことした人を殺すところだって知らないなんて馬鹿だ」

口々にハルカを見てそう言うと、将がハルカの肩を掴み、窓を振り向かせた。そこにはまだ宙吊りにされたままの相原の無残な姿がある。

「あれはお前がしたんだ。このスイッチを押し、相原を殺したのはハルカ、お前だ」

「違う! ハルカじゃない!」

将の言葉にハルカが怒鳴って否定したが、将は頭を横に振った。

「どこが違う。ボールを出して遊んでいたんだろ? ボールだと思えばいいんだ。あれはボールなんだよ」

将がそう言うと、ハルカは窓の外にある姿を見て頭を横に振った。

「違う! 人だもん」

「でも殺したのはお前だ。お前がスイッチを押さなければ相原は落ちてこなかったんだからな。ハルカがスイッチを押したから相原は落ちてきた。そして首をつられる結果になった。誰が悪いんだ」

将がそう言うと、ハルカは悲鳴のような息を呑んだ。スイッチを押したのはハルカだ。そして相原が落ちて来て、首をつられた。ハルカがスイッチを押さなければ相原は落ちなかった。それを将はハルカに突き付けていた。

「ハルカ、お前がスイッチを押したんだ。相原を殺したのはお前だ。認めろ。お前が殺したんだ」

将がそう言うと、ハルカは俯き、涙を流した。その為将が窓際へハルカを連れて行き、ハルカの顎を掴んで顔を上げさせた。その為ハルカには相原の姿がはっきりと見えた。首が垂れ下がり、目も舌も飛び出している。赤黒い顔が恐ろしく、手足もだらんと垂れ下がり、着ている服からは水がしたたり落ちていた。それをまじまじと見せつけられたハルカは気持ち悪くなり、その場で胃の中の物を吐き出した。

「ゲボォッ……ウッ……ゴォボォッ……」

ハルカが吐き出すと、将はハルカの後ろから声を掛けた。

「あんな姿にしたのはハルカ、お前だ。お前が相原を殺したんだ。ここに居る俺たちが証人だ。嘘だったとは言えないんだぞ」

将がそう言うと、ハルカは床にへたり込み、呆然と床を見つめた。その床を見つめていたハルカの視界に足が見えた。その為ハルカが呆然としたままその足から視線を上げて行くと、自分の父が立っていた。


白の塔で電話をもらった慶司は、ハルカの一方的で、何の説明もしないまま切られた電話を見つめてしばし固まっていた。それを周りで見ていた沙羅たちが心配そうに見ていた。

「慶?」

「慶、どうしたの」

「慶、誰からの電話だったんだ?」

友香や沙羅、龍彦の声が聞こえ、慶司は慌てて現実に戻って来たのか親機に近づき、録音されていることにほっとして再生ボタンを押した。

『慶、ハルカは自宅に戻って来てるの。それで家族と仲良くしてる。それに遊園地に連れて行ってくれるんだって。だからもう大丈夫。探さないでね。バイバイッ!』

スピーカーからハルカの元気な声が流れてくると、全員が親機に慌てて駆け寄って来て再生ボタンを押した。何度も何度も聞いて、ハルカだと確認するしかなかった。

「慶……」

沙羅が心配そうな声を掛けると、慶司は電話の近くにある赤いボタンを押した。それは陽二に直接通じる緊急サイン。その為すぐに陽二が部屋に駆け込んでくるのは分かっていた。

「何があった!」

陽二が部屋に駆け込んでくると、慶司は再生ボタンを押した。そこからはハルカの元気な声が流れてきた。しかし、ハルカが言っている内容を陽二は目を見張って聞いた。

「どういう意味だ」

「ハルカは生きている。これは確実に言える事だ。でも自宅ってどこだ。それに家族って誰の事だ。遊園地ってこともわからない。大丈夫じゃないのに大丈夫だと言っている。探すなって誰に言ってると思ってる。全てを含めこの電話の内容は、嘘だと思うほかねぇな」

慶司がそう言うと、陽二は何度も再生を繰り返し、ハルカの声をじっと聴きこんだ。それでも何も収穫が得られない。その為陽二はため息をついた。

「いつだ」

「さっきだ。急にここに電話があって、これを言うだけ言って切りやがった。こっちの声も聞かせられなかった」

慶司がそう言うと、陽二はその事に引っかかったのか眉を寄せた。

「言うだけ言って切った」

「ああ」

「……こちらと長い間しゃべることができない状況下ってことかもしれないな」

陽二がそう言うと、慶司は険しい表情を見せた。その為陽二は手を組み、少し黙り込んだ。

「自宅……自宅か。ハルカの自宅ともいえる場所はここだ。だがもし別の場所があるとするならどこだと思う」

陽二が分からないことを質問すると、慶司たちはため息をついた。

「俺らに聞くな。分かるわけねぇだろ!」

「慶司、ここ以外だ。ハルカにはあるだろう。あり得ない場所だ」

陽二がそう言うと、沙羅が目を見張った。その為陽二が沙羅を見つめた。

「どこだ」

「闇の住人たちの居場所」

沙羅がそう言うと、慶司は目を見張り、陽二はうなずいた。他のみんなも目を見張り、陽二を見つめた。

「そうだ。ハルカの親の居る場所だ。家族と言っているならそうだろう。闇の住人の家へ戻り、家族と一緒に居る。遊園地に連れて行ってくれると言っている。だが遊園地にあの者たちが行くとは思えない。ならどこだ」

「でもハルカは親の所に戻ったって居場所が無いんじゃなかったっけ? 奴隷だったんでしょ?」

唯香がそう言うと、陽二は肩を落とした。

「そうだ。だから意味が分からないんだ。なぜ仲良くしていると見せかけなければならないのか、元気だと言わなければならないのかがな」

「それを言わなきゃならないからじゃないのかな」

「それを言わなきゃ電話なんてできなかったんじゃないのかな」

龍哉、龍彦がそう言うと、陽二はため息をついた。

「それならなぜかけてきた。言いたくないのならかけては来ないだろう」

「それを言わなきゃ電話を貸してくれなかったっていうのはどう?」

沙羅がそう言うと、陽二はため息をついた。

「それならなぜもっと具体的に居場所を言えない」

「周りを見てないのかもしれないな。連れて行かれ、どこへ来ているのか不明なのかもしれないぞ」

慶司がそう言うと、陽二は肩を落とし、額に手を当てた。

「ならなぜこんな冒険的なことをする。もっと情報を得てから掛けて来ればいいはずだ。こんなことをもし闇の住人たちの中ですれば、すぐに見つかり、どうなるか分かったものじゃない。それなのになぜ今だったんだ」

陽二が声を荒げることはなかったが、感情だけは爆発的に怒っていた。その為慶司はため息をついた。

「ハルカが自宅だと思える場所を探すまでだ。それに家族と言っているなら闇の住人たちだろう。陽二、親は闇の住人だったな」

慶司が確認するかのように言うと、陽二はうなずいた。

「そうだ」

「それならそっち路線で探せばいい」

「慶、どこをどう探す。無暗に手を出せない場所だ」

陽二がそう言うと、慶司は地団駄を踏むかのように悔しそうな顔を見せた。

「ならどうする。せっかく生きてるって分かった情報だぞ。決死の覚悟で送って来たことを無視するって言うのか!」

「情報が少なすぎる」

陽二が肩を落とすと、仁が立ち上がり、慶司の手を引っ張った。

「仁、どうした」

「……陽二さん、俺をスパイだって思わないでほしいんだ。ハルカの電話内容を俺は理解できる」

仁がそう言うと、全員が目を見張り、仁を見つめた。

「どういう意味だ。なぜ分かる」

陽二が仁の肩を掴んで言うと、仁は慶司を見つめた。

「慶、ハルカに一日一回嘘をついてもいいって言ってたよね。自分を守るための嘘なら1日一回だけ許すって。だんだん更生してきたハルカにご褒美だって言ってさ」

「ああ。言ってたな」

慶司が何のことはわからなかったみたいだが、思い出したのかうなずいた。

「だから嘘をついたんだと思う。自宅に戻ってるって言うのと、家族と居る、遊園地に行くって言うのは本当だと思う。でも大丈夫って言うのは違う。探さないでって言うのも違う。バイバイも違う。だから決死の覚悟で電話をかけて来たんだって分かるんだ」

「仁、説明は後でもいい。何が言いたいんだ」

陽二がそう言うと、仁は微笑んだ。

「奴隷だった時の家に戻ってます。家族と居ます。闇の住人の組織の支部へ今度連れて行ってもらいます。大丈夫じゃないの。探してほしい。そう言ってるんだと思う」

仁がそう言うと、救援信号にも近い電話内容だとみんなが目を見張り、仁を見た。

「仁、どうしてそうなるんだ」

慶司がそう言うと、仁は俯いた。その為慶司は仁の肩を掴んだ。

「仁、答えてくれ」

「俺が黒だった時、そうだったからだよ。白の人があの中でできることは嘘をつくことだけなんだ」

「仁……」

慶司が驚いた声を出すと、陽二は仁を見つめて口を開いた。

「仁、遊園地って言うのが支部なのか」

「うん。でも今開園してる場所じゃない。つぶれて、跡地や更地に戻った場所にあるんだ。俺もさすがにそこまで深く教えてもらえなかったけど、呼び方だけは知ってる。遊園地って言うんだ。あいつらは、地下支部を遊園地の地下に作ってたから、遊園地って呼んで隠語にしたんだよ」

仁がそう言うと、陽二は仁の頭を撫で、肩を軽く叩いた。

「仁、ありがとう。ハルカを探せる」

「ううん。俺が馬鹿なことをしてたからだよ。それに、伝えなかった」

「それは今は良い。ハルカを探すことが先決だ」

陽二はそう言って遊園地の跡地や更地になった場所を割り出すためすぐに取り掛かった。時間はかかるだろうが、ハルカを見つけるための一歩を踏み出していた。


ハルカが顔を上げ、視界の先に自分の父親の姿が見えた。その為ぼやけた視界にしっかりと顔が見えたと思った時、ハルカの頭を撫でていた。

「将、お前に任せて正解だった。よくハルカにスイッチを押させたな」

閣下がそう言うと、側に将がやって来て、閣下を見つめた。

「遊ぶのが好きなのは相原のデータで知ってる。だから遊びだと思わせてやればいいんだって気づいたんだよ」

「さすがだ」

「それより使い物になりそうかな。ちょっと衝撃が強かったかもな……」

将が心配そうな顔で言うと、閣下はハルカを抱き上げ、側にあった椅子にしっかりと座らせた。ハルカは呆然としたまま、動こうともしなかった。

「ハルカ、よく聞け。この先お前は人を殺したという罪を背負っていくんだ。分かるな?だが、もし救われたいのならこの私に従えばいい。お前の罪を代わりに背負ってやろう」

閣下がそう言うと、ハルカは目を動かし、閣下を見つめた。

「私に従うか?」

「ハルカ、悪いことした。相原のお姉さんを殺しちゃったっ……」

ハルカが悲鳴のように言うと、閣下はハルカを抱きしめた。

「そうだ。お前が殺した」

「お父さんに言われたことしてたらハルカ悪いって言われないの?」

ハルカがそう言うと、閣下はハルカを放し、しっかりと顔を見つめた。

「そうだ。ハルカを悪いなどとは言わせない」

「……ハルカ黒くなっちゃった……」

ハルカが自分の両手を見つめて言うと、閣下は嬉しそうに微笑み、立ち上がった。

「将、通達だ。支部へ移動する。遊園地へ行くぞ」

「分かった。ハルカが黒になったからね」

「そうだ」

閣下が返事をし、部屋を出て行くと、将はハルカを抱き上げて部屋を出ると、すぐに慌ただしい雰囲気になっていた。

ハルカが相原を殺したということは闇の住人たちの間ですぐに広まり、ハルカが黒へ変わったことが分かった事でもあった。その為に数年前に閉園し、今は更地となった遊園地跡地の地下へ来ていた。そこにある闇の住人たちの第五支部でハルカは過ごすことになった。衝撃がすぐには抜けなかったハルカだが、徐々に自分がしてしまった事を受け入れ始め、将と共に閣下の元に居る事が多くなっていた。

「閣下、そろそろ準備が整う頃です」

円卓に座って居た閣下に側に居た人が言うと、閣下は微笑んだ。

「良かろう。拠点地を変えてから混乱していただろう。潰しにかかろう」

「はい」

「首尾よくしろ。失敗すれば命はないと思え」

「承りました」

部屋から人が出て行くと、ひっきりなしに人が出入りし、慌ただしい雰囲気が流れていた。そしてテレビ画面に映されている映像は、どこかのビルが瓦礫と化す映像だった。それを見て全員が歓声を上げた。

「白の塔の住人達め、我らの跡を追えると思うな!」

「あの馬鹿どもを始末できたか」

「我らが正義だ」

テレビ画面を見つめていた人たちが口ぐちにそう言うと、将が微笑んだ。

「白い連中たちを殺したんだよ。俺たちを懲らしめようとしてる奴らだ」

「知ってる」

ハルカが返事を返すと、将は微笑んだ。

「そうだな。もし捕まったら今度こそただじゃすまされないぞ。人を殺したハルカを、生かしておくとは考えにくいからな。守ってやれるのは、父さんと俺だけだ」

「うん」

ハルカが力強くうなずくと、将は嬉しそうに微笑んだ。

「閣下!」

部屋に慌ただしく人が入ってくると、駆け寄って来た。その為閣下は目を細めた。

「どうした」

「小野顧問から通達が」

「どうした」

閣下の様子が一変したのを見て将が目を細めた。その為ハルカが心配そうな顔を見せると、閣下がテーブルを叩いた。

「あの連中め!ここを嗅ぎ付けたか!」

「閣下」

将が声を掛けると、閣下は将を見つめて口を開いた。

「幹部どもを逃がせ。良いな」

「分かりました。ハルカはここに居ろ」

将が駆け出していくと、ハルカは閣下の側に置いて行かれ、閣下がハルカを見つめた。

「ここに居ろ」

「はい」

ハルカはうなずくと、閣下はおつきの人たちとその場を立ち去り、慌ただしい部屋に一人取り残された。その為ハルカは廊下へ出ると、てくてくと歩き始めた。どこへ向かっているのかわからないが、気の向くまま歩いた。所々で呻き声や悲鳴が上がり、攻防戦が繰り広げられていることは分かった。その為ハルカは恐怖が心を鷲掴みにしても気力で足を進めた。そして視界の先には将の姿があり、老幹部たちを先導して脱出口へ向かっていた。

「居たぞ!」

後ろから大声が聞こえ、バタバタと人が走ってきたため、将は老幹部たちを置いて走って脱出口へ向かった。その扉を閉め、開かなくしてしまった。その為袋小路に詰め込まれた老幹部たちは敢え無く白の塔の人間に確保されることになった。そばにいたハルカも同じように捕まるはずだったのだが、大人しいハルカを拘束せず、連れて歩かれるだけになっていた。その為ハルカは連れて歩く人の手を振り切り、駆け出した。

「待ちなさい!」

制止の声が聞こえたと思うと、前から慶司たちが走ってハルカの元にやって来るのが見えた。その為ハルカが目を見張った。

「ハルカ!」

慶司がハルカの名前を叫び、近づいてくる。ハルカは立ち止まり、どうしようかと迷った風にキョロキョロとした。その為それを見た慶司は歩幅を緩め、ハルカの側まで向かうことにした。

「慶?」

沙羅がそんな慶司を心配して声を掛けると、慶司は口を開いた。

「ちょっと待っただ。様子がおかしい」

「分かったわ」

沙羅が引き下がると、慶司はハルカの側に近づき、声を掛けた。

「ハルカ、誰か分かるだろう」

慶司がそう言うと、ハルカは俯いた。その為慶司は何かあったとすぐに感づいた。こうやって俯いて逃げることは一番初めにした事だからだ。顔を見ない、顔を見せたくない、表情を隠すのは何かやましいことをしたからだ。それを知っている慶司はハルカを見つめた。

「ハルカ、何をした」

慶司が怒ったような声で言うと、ハルカはぐっと手を握った。

「人を殺しちゃった」

ハルカがそう言うと、慶司は目を見張った。しかし、ハルカは顔を上げ、慶司を見つめた。

「相原のお姉さんを殺しちゃった。ハルカ……黒くなっちゃった……」

ハルカが悲しそうな声で言うと、慶司はハルカを抱きしめた。

「分かった。陽二に聞いてからだ。ハルカが人を殺してしまったって報告しよう。大丈夫、ハルカを殺したりはしない。殺させない。良いな」

慶司がそう言うと、ハルカはうなずき、一応と言う意味でハルカの手を紐で縛り、連れて帰ることにした。ハルカが黒へ染まってしまっていると感じた慶司は、陽二が下す決断が恐ろしくてたまらなかった。


ハルカを連れて白の塔へ慶司たちが着くと、入口で一度立ち止まった。その為沙羅たちが慶司の側で立ち止まり、慶司を見つめた。

「慶?」

「ちょっとな」

慶司が心配そうに声を掛けた沙羅に困ったような声で言うと、ハルカの前に座った。その為ハルカは俯き、表情を隠した。

「ハルカ、嘘をつきたいだろうが、嘘がばれた時お前を殺さなきゃならなくなるかもしれない。だから陽二の前だけでは正直に、真実だけを話せばいい。あいつは闇の住人たちがどんな連中で、どんなことをするのかも俺たち以上に理解してくれている。だからこそ子供に無理意地をして、間違った方向へ連れて行かれたと判断して償う時間を与える。嘘をつけばそれもなくなり、償う意思がないと思われてしまう。だからハルカ、陽二には嘘をつかないでくれ」

慶司が真剣な声で言うと、ハルカは俯いたままうなずいた。その為側に居た沙羅たちがハルカの周りに集まり、ハルカを見つめた。

「ハルカ、お願いなの。陽二に嘘をつかないで」

「そうだよ。陽二さんには嘘つくとまずいんだ」

「陽二さんに嘘ついたら戻ってこられなくなるから嘘言うとダメだ」

「嘘つきになったらダメなの。ハルカは正直に言えばいいんだよ」

沙羅も仁も龍哉も唯香も口ぐちに言うとハルカは顔を上げ、みんなを見つめた。

「一日一回の嘘つきはダメって事?」

ハルカがそう言うと、慶司はハルカの手をそっと握り、ハルカを見つめた。

「そうだ。あの約束を今は守れないって事だ」

「分かった」

ハルカがしっかりとうなずいたため、慶司はハルカの手をしっかりと握り、立ち上がると白の塔へ入った。慌ただしく動き回る人たちの間をすり抜け、エレベーターへと乗り込んだ。静かなエレベーター内でみんながどんな心境だったのかはわからないが、ピンと張りつめたような空気だけは広がっていた。エレベーターが最上階に着くと慶司がハルカを連れてエントランスへ出ると、みんなが続いて出た。しかし慶司は数歩歩いた場所で振り向くと、手を突出し待てと言うように示した。

「慶」

沙羅が驚いたような声で言うと、慶司はため息をついた。

「大勢で行って陽二に威圧を掛ける気か?」

「ハルカを心配してよ。威圧なんてかけないわ」

沙羅が慌てたように言うと、慶司は頭を横に振った。

「ダメだ。甘やかせる状況じゃねぇ。最悪ハルカの生死を決める結果にもなる対面だ。陽二にその決断を揺るがせるような真似をしてほしくねぇんだ」

慶司がそう言うと、沙羅はぐっと手を握りしめ慶司を睨むように見つめた。

「耐えられるの! ハルカが死刑を言い渡されるような結果になったとしても、慶は耐えられるって言うの!」

沙羅が叫ぶように言うと、龍彦や唯香が痛みを堪えるかのような顔を見せた。仁は表情には出さなかったがきつく手を握りしめ、我慢していることは分かっていた。その為慶司はハルカの手を握っていない手をきつく握りしめた。

「耐えるしかねぇんだ。もしハルカにそんなことを言われたときは、耐えるしかねぇ。俺らを最悪殺す結果になるんだからな。ハルカを生き延びさせれば、闇の住人を引き入れかねない事態になる。それを考えれば、痛みを堪えるしかねぇんだ!」

慶司が怒鳴るかのように言うと、沙羅は慶司を睨み、頬を平手で一発叩いた。その為慶司は沙羅を見つめた。

「よくもそんな事言えるわね。心が冷たすぎるわ。ずっと一緒に居たハルカを、殺すかもしれないのよ。それなのに悲しみが無いの! あなたは冷血なのね」

沙羅が吐き捨てるかのように言うと、慶司は抑え込もうとした感情が表に現れ、沙羅を睨んだ。

「俺がどれだけ苦渋の選択をしてると思う。今からどこへ向かうか一番知ってるのは俺だ。ハルカがやっちまったことがどれだけ悪いことなのか、あいつに伝えなきゃならないのは誰だ。救いだし、仲間だって暮らしていたハルカを黒に染め上げられ、戻ってきたら殺せと言われないか俺が今日までどれだけ不安だったか分かるか。今もこのままハルカを連れてここから逃げれば生きられることは俺だって十分分かってる! でもな、そんな真似してハルカを生き延びさせてもハルカは本当に幸せになれるのか! 人を殺したことを償いもせず、あやふやな状況下で生き延びさせて、同じ過ちを繰り返させたらどうする! それなら今償える状況にあることを理解して、償えばいい。もしそれができないのなら、ハルカを殺したって言う罪を俺は背負う。誰にどんなことを言われようとも、俺はハルカを救ってやるって決めたんだからな」

慶司が言葉を荒げながらも沙羅たちに言うと、沙羅は慶司が同じ様な気持ちなのが分かったのか肩に入れていた力を抜いた。

「分かったわ。部屋に戻っていればいいのかしら」

沙羅がそう言うと、慶司はほっと体に入れていた力を抜き、うなずいた。

「そうしてくれ」

「最悪の結果にならないことを祈っているわ。でももし、最悪の結果になったら教えて。私もハルカを救えなかったと背負うわ」

沙羅がそう言って背中を見せ歩き出すと、慶司は口を開いた。

「分かった。仁、お前は一緒に来い。陽二がハルカが見つかればお前も一緒に連れて来いって言ってたからな」

慶司がそう言うと、仁は慶司の側まで歩き、龍哉と唯香も辛そうな顔で沙羅と一緒にエレベーターに乗って消えてしまった。今の会話を聞いていたハルカは、慶司たちがどれだけ心配してくれていたのかが少し分かった。その為ハルカは陽二に何を言わなければならないのかが少し分かった気がしていた。

陽二が居る部屋まで歩き、扉のノックをすると内側から扉が開き、藤十郎が出迎えた。

「戻ったか。連れて来られた見たいだな。入れ」

藤十郎がハルカの姿を確認してそう言うと、部屋の中に入った。部屋の中で待って居るはずの陽二は電話をかけているのか忙しそうに何か指示を出していた。テーブルの上に散らかされている紙を手に取っては放し、手に取っては放しと電話の最中でもそれを繰り返していた。その為慶司は藤十郎を見た。

「忙しかったか」

「移送班が大勢の老幹部を地下の牢獄へ連れ込んだからな。割り振りや身分証明などいろいろと問題が生じている。それの収拾をつけるためにしているだけですぐに終わるだろう」

藤十郎がそう言うと、陽二は紙をまとめだし、テーブルの隅へ置くと部屋に入って来た慶司に手招きした。その為慶司はハルカと仁を連れてソファまで近づくと、陽二が微笑んだ。

「それで良い。そのままの割り振りで一人一人を投獄だ。後で聴取を取り、情報提供を求めろ。拒否した場合はいつもの処理を行え。幹部への対応と同じことを行えばいい。年寄だと言っても幹部は幹部だ。いつも通りでいい。慶司、座れ。仁は隣だ。藤十郎さん、ハルカに一応手錠を。逃げられても困ります。……っとこっちの話だ。そうだ。そのままでいい。こちらの事が終われば視察に向かう。どう足掻こうがそいつらを逃がすことはできない。施錠は厳重に行え。良いな」

陽二が電話の最中に慶司たちへ言葉を言うと、電話の向こうが異変だとでも気づいたのか慌ただしくなったのだろう陽二が困った顔を見せていた。しかしすぐに電話を切り、陽二は藤十郎に手錠を掛けられ、ソファの側に立たされたままのハルカを見つめた。

「縛ってこられるとは最悪の結果だ」

陽二がそう言うと、慶司は口を開いた。

「陽二」

「お前の口からの報告は良い。事前知識を与えるな」

陽二が慶司に厳しい口調で言うと、慶司は口を閉ざした。その為ハルカは陽二を見つめたが、陽二の視線がハルカに向くと、俯いた。

「さてと、仁、遊園地と言う情報提供はありがとうと伝えておこう。お前にも質問しなくてはならないな」

陽二がそう言うと、仁はしっかりと陽二の顔を見つめた。

「全部しゃべるよ。なんでも聞いて」

仁がそう言うと、陽二は微笑み、慶司を見つめた。

「慶、何を聞いても今は口を出すな」

「分かってる」

慶司が呆れたとでも言うように言うと、陽二はうなずいた。

「ハルカ、黙ってそこに居ればいい。座ることも許さない。良いな。藤十郎さん、見張りを頼みました」

陽二がハルカを見て言うと、藤十郎へハルカの事を頼み、陽二は仁を見つめた。

「仁、お前が知っていることで、これまでにしゃべっていないことを話せばいい。何を知っている」

陽二がそう言うと、仁は首を傾げた。しかし仁は陽二を見つめ、口を開いた。

「この中にもスパイが居る。闇の住人たちの側に居た時、会ったことがある人たちを見かけた」

仁がそう言うと、陽二は数人分の写真をテーブルの上に並べ、仁を見た。

「全員居るか」

陽二は仁を見つめて言うと、仁は写真を見て大きくうなずいた。

「全員だよ。相原さんを除けばね」

仁がそう言うと、側に居たハルカの肩がビクッと大きく揺れた。それを陽二も藤十郎も確認したが何も言わず、仁を見つめた。

「仁、黙秘したことへの処罰は与える。ちょっとの間苦しい思いをするかもしれないが、二度としないと誓ってくれたらそれで良い。白へ戻るという思いを大事にしてくれ」

「はい。もう闇の住人たちの所へは行きたくないよ。暖かい場所を知ってしまった」

仁が陽二にそう言うと、陽二は嬉しそうに微笑み、慶司を見た。

「追って連絡する。仁の処罰は後だ」

「分かった」

慶司はうなずき、ハルカに視線を移すと、陽二は立ち上がり、ハルカの前に座った。その為ハルカは陽二を恐れているのか俯いた。それを確認した陽二はハルカの頬に手を添え、顔を上げさせた。

「逃げるな。逃げるということはいけないことをした証拠だ。何をした」

陽二がハルカの頬に手を添えたまま聞くと、ハルカは陽二の顔をしっかりと見た状態で口を開いた。

「あい……相原のお姉さんを……殺しました」

ハルカが震える声でそう言うと、陽二は目を見張った。その為ハルカは言葉を続けた。

「お兄ちゃんに遊びだって言われてスイッチを押したら相原のお姉さんが落ちてきた。首に縄が引っかかって死んでしまったの。ハルカはしたくなかった。ハルカがしたくてしてないって言ったのに、お兄ちゃんもお父さんもハルカのせいだって言って……。でもハルカがスイッチを押して落ちてきちゃったからハルカが殺しちゃったんだって分かってる。ハルカ黒色になっちゃったんだって思った。ごめんなさい……」

ハルカが必死に伝えようとしていることが分かるほど必死に言葉を探し、陽二に伝えた。陽二はそんなハルカを見つめ、言葉を聞き、ため息をついた。

「そうだな。人一人の命を奪ったハルカは黒色だ。事故だったにせよ、故意だったにせよ人を殺したことに変わりはない。でもハルカはそれが悪いことであり、してはならなかった事だと知っている。しかし、黒色になっている為償いが必要だ」

陽二がそう言うと、ハルカはビクッと強張った。

「慶、ハルカはしばらく間教育へ出す。お前たちの元へ返すかはそれからだ」

陽二がそう言うと慶司はほっと表情を緩め、肩の力を抜いた。ハルカは呆然とした顔で陽二を見つめていた。

「分かった。殺せと言われなくて良かったぜ」

「たて続けて人を殺していればハルカに死刑を言い渡しているが、それはなさそうだ。命の重さを知り、償うという意味を教えて、その意思を見せればこの塔内で償ってもらう。それがこの塔の本来の姿だ」

「ああ」

慶司がうなずくと、陽二は藤十郎を見た。

「藤十郎さん、教育準備をお願いします。それと、調書の準備も」

「分かりました」

藤十郎が準備を始めると、陽二は慶司を見て口を開いた。

「ハルカの事は全てが終わるまで伝えられないことは分かっているな」

「分かってる」

「それなら大人しく部屋で待機だ。仕事は回ってくるため失敗しないようにしろ」

陽二はそう言って慶司にきつい言葉をかけると、慶司はため息をついた。

「分かってる。お前の負担をふやさねぇよ」

「それならいいがな。戻れ」

「あいよ。仁、戻るぞ」

「はい」

慶司と仁が立ち上がると、ハルカが二人を見つめた。しかし二人は何も言葉を掛けられず、部屋を出て行くことになった。その為ハルカは辛そうな顔を見せると、陽二がハルカを見つめて口を開いた。

「もう一度、この白の塔内で自由に生きて行きたければ償いを行えばいい。知っている事、居なくなった日から今日までの事を我々に教え、自分が何をしたのかをしっかりと理解し、償えばいいんだ。そうすれば慶や仁も声を掛けてくれるだろう」

陽二がそう言うと、ハルカは俯いた。

「この白の塔は闇の住人たちを更生させることを目的として動き出した物だ。元は違う目的があったが、変化の途中で更生させることを目的としたんだ。だからあちらのやり方も知っている。ハルカのされたことを伝えれば、罪を軽くだってできる。私たちはあいつらをよく知ってるからな。黒に染め上げられ、罪を犯した者たちを救うのがこの白の塔の役目だからしゃべるんだ。喋らなければ罪を増やすぞ」

陽二に言われ、ハルカは自分のしてしまった事、されたことをしゃべる決意をこの時決めていた。

慶司はハルカの事と仁の事を部屋に戻ったと沙羅たちに伝え、我慢して待つしかないということを伝えていた。ハルカが無事に自分たちの所へ戻ってこられるのかは陽二次第であり、ハルカがちゃんと自分のしてしまった罪を償うかが不安だった。しかしハルカが自分のしてしまったことを悪いことだと言っていたのをみんなが聞いている。その為償うことはできると思って居るが不安だけはぬぐえなかった。待つしかないという状況をハルカ失踪時から引きずっている慶司たちは心痛が募っていた。

ハルカはと言うと、陽二と藤十郎の二人に挟まれ、事情を聴かれていた。自分がどこへ行っていたのか、誰と居たのか、何をしていたのかを事細かに聞かれ、ハルカは必死に記憶を遡って伝えていた。事情を話すハルカを藤十郎が見つめ、慶司たちの元へ戻りたいんだという思いが伝わってくるほどハルカは自分たちにちゃんと答えてくれていると分かっていた。何日もかけて事細かに事情を聴きだし、陽二は調書を見つめ、ソファに座るハルカに視線を移した。

「ハルカ、勉強を始めよう」

陽二がそう言うと、ハルカはしっかりとうなずき陽二を見つめた。

「ハルカが殺めてしまった相原の事だ」

陽二がそう言うとハルカはビクッと肩が揺れ、俯いた。その為隣に座って居た藤十郎がハルカの肩を叩いた。

「受け止めなければならない。ちゃんと殺してしまった人の命を受け止めなければならない。逃げていてはダメだ」

「……はい……」

ハルカが弱弱しくうなずくと、陽二はハルカを見つめ少し和やかな顔を見せた。

「ハルカ、相原がハルカにした事は大人がすべきことではない。それはハルカも知っているな」

「はい」

ハルカが陽二を見つめてうなずくと、陽二は微笑んだ。

「しかし相原はハルカに電話を貸してくれた。それでハルカは慶に連絡を入れた。相原が優しいんじゃないかと気づいたんだな」

「!」

陽二の言葉にハルカが驚いた顔を見せると、陽二は目を細めて嬉しそうに微笑んだ。

「それなのに闇の住人たちはそんな相原をハルカに嘘をついて殺させてしまった。優しいことを知っていたハルカが、相原を殺してしまった。それが辛いんだろう」

陽二がそう言うと、ハルカは慌てたように口を開いた。

「相原さん、相原さんがあんな事になるなんて知らなかったの! ずっと一緒に居てくれて、電話貸してくれて、ハルカとずっと一緒に居た相原さんをハルカが殺しちゃうなんて思わなかったの! ハルカとおしゃべりしてくれる人が居なくなっちゃったと思って、どうしたらいいのかわからなくなって、辛かったっ……」

ハルカが悲鳴のような声で言うと、陽二と藤十郎は微笑んだ。

「それが人一人の命の重さだ。そばに居てくれていた人、話をしてくれる人、話ができる人、その人が目の前から居なくなる。それが周りの人たちにとってどれだけ深い傷を与えるか知らなければならない。その人が居るだけで周りの人たちにしてみれば助かっていたこともある。それを奪ってしまったことは許されない事だ。大事にしていた人を失うことはとても辛く、苦しいことでもある。ハルカはそばにいた相原を殺してしまって気づいただろう。たとえ相手が悪い人であっても側に居てくれるだけでハルカには心強かったと」

「!」

陽二がそう言うと、ハルカは何かに気づいたかのように表情が驚きで固まった。その為陽二はハルカを見つめて微笑んだ。

「それを失って辛く悲しかっただろう。それを二度としてはいけないんだ。ハルカに関わりのある人だけじゃなく、生きているすべての人にそれをしてはいけない。自分以外の誰一人として生きていることを奪ってはならない。難しいこと言えば自分自身も殺してはいけないが、ハルカには難しいだろう。ハルカ、人を一人殺してしまうということはとても重たいことだ。分かるか?」

陽二がそう言うと、ハルカは俯いた。その為藤十郎が微笑んだ。

「理解している。大丈夫だ」

「藤十郎さん……」

陽二が心配そうな声を出すと、藤十郎は微笑んだ。

「ちゃんと理解できている。ハルカ、どうしてそんなにも辛かったのか分かったのだろう? 自分が何をしてしまったのか、理解できたからこそ泣きたいんだな」

藤十郎がそう言うと、ハルカは隣に座って居た藤十郎にしがみつき、声を出して泣き出した。ずっとごめんなさいと謝り続けて泣いていた。


独立区への入口付近に怪しい人影が数人分ある事を藤十郎が報告で受けていたため、ため息をついてその場に向かっていた。何日もその人影が訪れる為、警備の人間たちも困っていた。それを解消するために藤十郎が現場に着くと、数人の男女を連れて来ていた。

「やはり来る頃だと思って居た」

藤十郎がそう言って独立区の入口に姿を現した人に言うと、その人は藤十郎を見てため息をついた。

「お前か」

「報復でもしに来たんだろう。老幹部どもを大勢見殺しにして逃げたお前たちだ。身動きが取れなくなり、最低限の行動しかできなくなって困惑しているってところだろう」

「そうだ。返してもらおう」

独立区へ来たその人が怒ったかのような声で言うと、藤十郎はため息をついた。

「今すぐ闇の住人たちをどうこうしようとは思っておらん。数年身動きが取れんだけで、お前たちなら復活できるであろう。いがみ合っても闇の住人と白の塔は切っても切れん存在だ」

「藤十郎! お前に何が分かる」

藤十郎の名を叫び、怒ったかのようにその人が言うと、藤十郎は連れて来ていた人たちを前に出した。

「小野、そいつらを連れて今すぐこの場を去れ。今すぐ潰しにかかるわけではないため安心しろ。お前たちの居場所を突き止めたわけでもない。それに、ハルカの事をこれ以上追いかけるな。ハルカは白へ戻った。黒へは染まらせんぞ」

藤十郎が小野と呼んだその人は、藤十郎の言葉を聞きため息をついた。

「分かった。その言葉は信じてやろう、だが藤十郎、もし貴様らに隙が見えればハルカを攫いに来てやろう。私の孫でもあるハルカだからな。一緒に居たいと思うのは当たり前だ。阻止したければせいぜい守り抜け」

小野はそう言って藤十郎が連れて来ていた数人の男女を連れてその場から立ち去った。その為藤十郎は立ち去った方向を見つめてため息をついた。

「お前の孫でもあるが、私の孫でもあることを忘れているな。ハルカは私の孫でもあるのだからな。悪事など二度とさせぬさ」

藤十郎はそう呟いて塔へと戻る為小野が立ち去った方へ背を向け歩き出した。


藤十郎が塔へ戻って来ると慶司たちの部屋へと向かった。そこに陽二が居る事を知っていたからだ。慶司たちの部屋の扉を開け、中に入ると慌ただしい雰囲気があった。

「ちょっとハルカ、それは私のよ!」

「イヤだ。ハルカがしてるのっ!」

友香とハルカがゲームを巡って争っている姿が目に入り、藤十郎は微笑んだ。その為部屋に入って来た藤十郎に全員が気づいた。

「藤十郎さん、用事は終わったんですか?」

陽二がそう言うと、藤十郎は微笑んだ。

「終わった」

「そうですか」

「ハルカは元気そうだな」

藤十郎はそう言ってソファ近くへと歩むと、陽二はうなずいた。

「当たり前でしょう。償う意思を見定めたため慶たちの元へ戻したのですからね」

「それはそうだ」

藤十郎がそう言うと、慶司たちが藤十郎と陽二を見つめた。そこにはハルカも友香も交じっていたため、二人は目を丸くした。

「陽二、藤十郎さん、俺らはちゃんとハルカと一緒にハルカがしてしまったことを償おうって決めたんだ。ハルカのやっちまったことを全員で知り、償おうってな。それにハルカにこれ以上罪を犯させないよう教えていくし、心配しないでくれ」

慶司がそう言うと、藤十郎は嬉しそうに微笑んだ。陽二も全員が考え出した答えがそれならいいと思ったのか微笑んだ。

「分かった。だが一応念の為に月一回の確認には来ると思え」

陽二がそう言うと、慶司は呆れたような顔でうなずいた。

「分かった」

「陽二さん、藤十郎さん、ハルカを慶たちの所へまた来させてくれてありがとう。もうどこにも行きたくないから、ハルカちゃんと相原さんの事ごめんなさいって覚えて行く。忘れたりしない」

ハルカがしっかりと陽二と藤十郎を見て言うと、2人は微笑んだ。

「それならいいんだ」

「はいっ!」

ハルカが元気な声で返事を返し、二人は穏やかな表情でハルカを見つめた。

ハルカが慶司たちの元へ戻り、元気に育って行こうとしていた。それを支えて行こうと慶司たちも決意し、ハルカと仲良く暮らして行こうと団結していた。これから先どうなるかわからないが、慶司たちとハルカは笑い合って過ごそうとしていた。ここに居るすべての人が大事であり、大切な仲間なんだと誰もが知らなければならない。誰一人として要らない人は居ない。ハルカはそれを慶司たちと共に知ろうとしていた。


高校生の時に応募しようとして描いた作品であり、諦めたことをお伝えしていました。

そしてこのようなサイトがあることを知らずにいました。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

未熟で、拙くて、支離滅裂なことになっている部分もあったかと思います。それでも読んでくださった方、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ