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世の中が荒廃し、政府下の組織では広がり過ぎた悪を排除できなくなっていた。悪は人々の間に広まり、呑み込もうとしていた。しかしある一つの組織がその悪に立ち向かっていた。闇の住人と呼ばれる悪事を指示し、手伝う者たちに対し、白の塔と呼ばれる救済組織があった。元は貧富の差が生まれたときに貧困者を助ける目的で作られたものだったが、次第に悪を根絶する組織へと変化していた。その変化の途中で、闇の住人たちとの戦いが生まれていた。何度更生させても悪へ走る者たちは死刑とし、白の塔も苦渋の選択を選ばざるを得なかった。人々を守る側の白の塔が、人殺しなどしてはならないからだ。しかし、世の中からの後押しがあり、白の塔は死刑にしたという責任を背負う形で認められている。その為必要以上の干渉、介入を防ぐため、白の塔は親を失った子供たち、貧困者たちを抱え独立区へと身を潜めた。闇の住人たちも世の中へと身を潜め、白の塔壊滅を企んでいる。そんな時代の話だ。
暖かい夜、ある大富豪宅でパーティーが開かれていた。大勢の来賓を迎え、パーティーは始まっていた。老若男女様々な人々が参加していた。
『今日は我が社の発展のために尽くしてくれた者たちを称えるパーティーに参加していただきありがとうございます。今後も発展を遂げていきたいと思いますので、ご声援をお願いいたします』
主催者からの挨拶が終わり、パーティーは進んだ。いろいろな人たちが交流をし、互いのことを知りえる場として活用されるパーティーだが、今の時代では思わぬ事態を生むこともある。それがすぐ目の前まで迫っていた。
パーティーが中盤に差し掛かり、ほろ酔い気分の人たちが大勢会場内には居た。その時だった、急にパーティー会場の電気がすべて消え、暗闇へと変化した。
「どうした!」
「何があった!」
「どうして電気が消えたの!」
「何も見えないわ!」
悲鳴や喧噪が会場内に響き渡ると、急に空気が弾けるような音が聞こえ、ピィーンと変な音が部屋中に響いた。その途端、あの悲鳴や喧噪が嘘のように静まり、バタバタという音が続いた。
「終わったと思うんだけど」
「そうだな。終わっただろう」
「はぁ……って言うか今回ターゲットが多すぎるんだけど。一気に片付けろって言ってもこれは難しいわよ」
「それでもやらなきゃならなかった」
「まぁね。おこぼれはないの?」
「全員のはずだ」
男女数人の声が会場内に響くと、急に明かりがついた。その男女数人の周りにはバラバラになった人たちの四肢が散らばり、辺り一面血の海だった。その中に佇む数名の男女たちに返り血を浴びた様子もなかった。
「本当にバラバラにしちゃったね」
「こうしなきゃ無意味だ」
「もう……」
男女数名のため息が漏れた時、微かな息遣いが聞こえてきた。怯えているような息遣いが聞こえ、その場に男女たちが集まった。パーティー会場のテーブルの一つ。そこに蹲るようにみすぼらしい恰好をした子供が座り込んでいた。頭を抱え、震えて蹲る子供を見て、全員が怪訝そうな顔を見せた。しかし、その子供が何者かが気になった。
「誰?」
「知らないよ。っていうかどうして子供がこんな所に居るわけ?」
「参加者の子供じゃないのか?」
「それなら写真がリストにあるはずでしょ」
「確認すりゃいい」
男女数名のメンバーたちが言い合っていても子供は震えて座り込んだままだった。そのため男女数名の中の男性一人が子供の腕を掴み、引っ張り上げた。
子供は急に腕を掴まれたことと、引っ張り上げられたことに驚き、身を固めてしまった。その為男性は子供をしっかりと立たせた。その子供の前に男性が立ち、その場で子供をくるりと一周回し、姿を確認した。その様子を見るためなのか、他の人たちも側にやって来ていた。そのため子供は目の前にいる大人の男女たちに怯えたように体を強張らせていた。
「何その恰好」
様子を見ていたメンバーの女性の一人が子供の姿を見てそう言った。そう言ったのだが、女性は子供を見つめてため息までついた。
「どこかから紛れ込んだんじゃないの? そんな格好の子供居ないわよ」
「まぁそうだが……」
子供を見つめていたメンバー全員が言葉を継げない訳は子供の姿だった。女の子ということは、立ち上がらせ判明した。髪の毛は茶色がかっているが、長さはバラバラに切られている。女の子として見るも無残だった。それに、着ている服というと、淡いピンク色のワンピースはかわいいが、所々破け、何で汚したのか知らないが、茶色いシミや黒い筋などが目立っていた。それに、この時代としては珍しくもないのだが、首には首輪がされていた。奴隷として使役される者たちには、所有者が判明できるICチップ入りの首輪がされる。それが見えた。それに、足首には逃げないためだろう、足枷があった。
それを確認した男女数名のメンバーは、この子供が奴隷だったのではないかと判断し、一緒にパーティー会場から出た。その後一緒に歩き、その場から遠ざかりつつあった。
「本当に大丈夫かな……」
心配になったのか、男女数名のメンバーの一人が子供を見て言うと、側に居た男性が微笑んだ。
「戻ってから陽二に聞けばいいんだよ。この子供を生かすも殺すもあいつが決める」
「でも闇の住人だったらどうするんだ?居場所が知れてしまうかもしれないんだぞ」
「それは陽二次第だ」
男性がそう言うと、急に背後から爆音が響いた。先程まで居たパーティー会場が爆発し、轟轟と炎に包まれ、その炎で辺りが明るく照らし出されていた。その為その炎の明かりで、歩き去るメンバーの影が地面に伸びていた。子供は大きな爆音と、周りに居る大人たちに怯えを隠せなかった。手を握られ、連れて歩かれている為抵抗の余地はなかった。
パーティー会場があった場所から何十キロ離れた場所だろうか、一種の独立区域がある。そこには天高く伸びる塔があり、周りの人たちからは白の塔と呼ばれていた。その塔がある区域は、立ち入りが制限されている為、一般の人は入ることができない。しかし、その塔のある区域へ、男女数名のメンバーは迷うことなく入り、周りにいる警備員に呼び止められることはなかった。そのメンバーに連れられて入る子供も呼び止められることはなかった。
塔の中に難なく入ると、迷うことなくエレベーターのある場所へ行き、乗り込んだ。そして、この塔の最上階へと向かった。
「陽二になんて説明するつもり?」
エレベーターに乗るとすぐに、女性の一人が口を開いた。
「ありのままを説明するさ」
「信じればいいけど、失敗だと思われたら私は許さないわよ」
「わかってる」
「フン!」
言い合いをするかのように話される内容は子供を怯えさせていた。そのため子供はそれを気にしないようにするため、エレベーターの数字表示が大きな数に変わっていくのを見つめていた。エレベーターが最上階に着くと、エントランスを抜け、奥の部屋へと向かった。部屋の前に着くと、扉の前に立ちノックをした。そうすると内側から扉が開き、杖をついた老人の姿が現れた。
「戻ったようだな」
老人はそう言うと、メンバー全員を部屋の中に入れ、扉を閉めた。
部屋の中は質素で、部屋の中央にテーブルとソファがある。ソファは黒色で、テーブルの両脇にあった。部屋を入って右手奥に棚があり、いろいろな物が飾られている。左手には窓があり、外の景色が見えていた。そんな質素な部屋の中にもう一人待っていて、テーブルの側に男性が立っていた。そして部屋に入ってきた男女数名のメンバーを見つめて微笑んだ。
「第5区の依頼は無事に終わったみたいで良かったよ。帰宅を確認した」
若い男性の声が部屋に響くと、その男性は男女数名のメンバーの側まで歩いて来て、そっと視線を下に落とした。まだ若く、青年とも思われるその人は首を傾げ、スッと男女数名のメンバーの中にいる一人の男性を見つめた。
「慶、部屋に入って来た時から気になっていたんだが、その子供は誰だ?」
慶、と呼ばれた人は前に出てきて、そっと子供の背中を押し、青年の側へ連れて行った。
「5区の依頼現場に居たんだよ。依頼メンバーの中には居なかったし、写真もなかった。それに首輪があるところからして、奴隷だと思う。そうならあの場所に放置はまずいから連れてきた」
そう言って簡単な事情の説明を青年にすると、青年は老人を少し見つめた後、子供に手を伸ばした。子供は伸ばされてくる手に怯えたのか、その場に座り込み、頭を守るように手で隠した。その為それを見た青年は嬉しそうに微笑んだ。
「無害な、とても純粋な子供だな」
青年はそう呟くと、男女数名のメンバーを見つめた。
「状況は?」
青年は子供のことを気にしながらも、手をひっこめ、男女数名のメンバーに状況報告をするように促した。
「5区の依頼は完了。残党は居ないだろう。リストの連中はあの場にて殺害、処分した」
「そうか、それなら5区は安全区域だな」
「そうなる」
「この子はそこに居たのか?」
青年が再度聞くと、一番前に立っていた男性がため息をついた。
「そうだよ。テーブルの影になる所で蹲って、これと同じことをしてた。姿を確認して、ここに連れて来てみただけだ」
男性が子供のしていることを見て言うと、青年は子供を見てため息をついた。
「わかった」
青年がそう言って、子供の前に立つと、蹲る子供の手に触れた。手が触れた途端、子供は怖いのか震えだした。
「怖がらなくていい。ここは安全だ。君のことを知りたい。少し話をしたいから立ってくれ。嫌ならこっちが勝手に君のことを調べよう」
青年が優しくそう言っても子供は何もしないため、青年は哀しそうな顔をして子供の腕を掴み、立ち上がらせた。その時も子供は恐ろしいのか、身を固めていた。青年は子供をその場で一周クルリと回し姿を確認した。
「藤十郎さん、どう思う」
青年が急に老人に向かって言うと、老人は側に歩いて来て、子供をちらりと見た。
「首輪を調べれば早い。慶、それを取ってくれ」
慶、と呼ばれた男性は、首輪を難なく外し、老人に手渡した。老人はその首輪からICチップを取り出し、テーブルの上に置いてある黒い機械にチップを差し込んだ。その機械が動き出し、近くにあったモニターに情報が映し出された。
「陽二、5区の依頼に含まれていた人物の所有物だそうだ。主は死亡。首輪は意味を無くしている。その子供は灰色をしているな」
老人がそう言うと、青年は子供を見つめ、目の高さを合わせるため、目の前に座った。
「質問に答えなければ体に傷をつける。嘘を言ってはならない。本当のことを答えなければ、痛みを与える。答えられるな」
青年が急に優しさの欠片もない低い声を出して言うと、子供はびくつき、青年を怯えた顔で見つめてうなずいた。それを見た青年は目を細めて口を開いた。
「はい、って言ってみろ」
「はい……」
子供が小さな声で言うと、青年は子供を見つめている目を余計に細めた。
「名前は?」
「ハルカ」
「親は」
「知らない」
「親の居る場所は」
「わからない」
「どうしてパーティー会場に居た」
「大人の人に連れて行かれたの。でもハルカを叩いたり蹴ったりして痛かった……」
「パーティーに居た人たちを知っているのか?」
「知ってる人もいた」
ハルカと名乗った子供は問われることに小さな声を出してでも答え、問われることに怯えていた。嘘をついていると思われたらどうなるのかという不安を、見ていてもわかるほど顔に出していた。
「何をしていたのか知っているのか?」
「人をだましたり、傷つけることをしてた」
「知っているのか」
「はい……」
子供がうなずくと、青年は立ち上がった。その為子供は俯いた。
「灰色だな。更生に入る。藤十郎さん、着替えと足枷を頼みます」
「わかりました」
老人は子供の足枷を外し、子供用の服を壁だと思っていたクローゼットから取り出し、服のサイズを見ていた。その為青年は男女数名のメンバーを見つめた。
「この子供を白に変える。灰色から白に戻す。お前たちが子供の面倒を見て、白に戻せ」
ただその言葉だけが全てだった。この人からそう言われれば、守らなければならない。その為男女数名のメンバーは言われた通り、この子供の面倒を見ることになった。
翌日、目を覚ましたハルカは視界に映ったものを見て驚いて身を固めた。自分を見下ろしている大人の顔が七つもあったからだ。そのため、怯えた顔でその大人の顔を見ていると、大人たちはほっとした顔に変わった。
「目を覚ました」
「やっとお目覚めだね」
「さぁ、起き上がろう!」
ほっとした声で目覚めたことを確認され、周りにいる女性の中の一人がハルカの手を引っ張り、起き上がらせた。その為、ハルカは寝ていた場所から上半身を起こした。そこから見えたのは、大きな飾り棚、本が詰め込まれている本棚、クローゼット、木製の四角いテーブル、そのテーブルが置かれている綺麗な模様の絨毯、そして、自分が寝ていた大きなベッドだった。
ハルカはそのベッドに驚いたのか、周りの事に驚いたのか、急にベッドから飛び出て、絨毯の無い冷たい床に立った。その為周りの大人たちが目を丸くした。
「そこはダメだ」
大人たちの中から声が聞こえると、ハルカの側に男性が1人やって来た。人が側にやって来たためか、ハルカは俯いた。
「ハルカって言ったな」
男性がそう言うと、ハルカは顔を上げ、男性を見つめた。
「会話をしよう。話をしたいし、話を聞きたい」
男性がそう言うと、ハルカは頭を横に振って返事を返した。その為男性はハルカの前に座った。
「言葉を言わなきゃならない。ハルカにしゃべってもらわなきゃならないんだ。黙っているのはダメなんだよ。それに、俺たちはハルカに痛いことはしないし、痛い思いをさせない。だからここは安全だと思ってくれ。俺たちと話をしよう」
男性が優しくそう言うと、ハルカは小さくうなずき、口を開いた。
「ハルカもお話していいの?」
小さな声で言ったため、男性は嬉しそうに微笑んだ。
「良いんだ。声を聞かせてくれてありがとう。みんなにも聞かせてあげてくれ」
男性がそう言うと立ち上がり、周りを見ると全員の視線が集まっていた。
「慶、あなた子供にそんな優しかったの?」
女性の声が聞こえ、周りの大人たちから一歩前に出てきた人が慶と呼んだ男性を驚いた顔で見つめていた。その為、慶と呼ばれた男性は、少し怒ったような顔を見せた。
「俺が子供に優しくしてたら変だとでも言いたそうだな」
「変に見えるのよ」
「じゃ、沙羅、あんたがしてやればいい。それでも言っとくが、俺はこうだ」
沙羅と呼ばれた女性は、ハルカの側へ来て、視線を合わせるために座った。そしてハルカの顔を見て微笑んだ。
「はじめまして。沙羅というのよ。ハルカちゃんね? ここで一緒に暮らすみんなのことを覚えましょう」
沙羅はそう言って、ハルカをみんなの居る絨毯の上まで移動させ、周りにいる大人たちを見つめた。
「さぁ、自己紹介から始めましょう。慶、それでいいわね?」
沙羅が周りにいる大人たちを見て言うと、慶に確認を取るかのように聞いた。そのため、慶は神妙にうなずいた。それを確認した沙羅は、側に居た少年の肩を叩いた。
「仁、あなたからどうぞ」
「えっ! 俺から!」
仁と呼ばれた少年は目を見張り、大きな声を出した。しかし諦めたのかハルカの側に来ると、視線を合わせるために座った。
「初めまして。仁って言うんだ。この中じゃ一番年下だし、気軽に声をかけてくれていいよ」
仁はそう言うと立ち上がり、沙羅を見た。その為沙羅は微笑んだ。
「はい。順番に仁から左回りで進めて、自己紹介をして」
沙羅はそう言うと、仁が隣に居た女性の肩を叩いた。その為、その女性がハルカの前に座り、視線を合わせた。
「初めまして。唯香よ。唯って呼ばれてるの。よろしくね」
唯香は立ち上がると、次の人にバトンタッチするため、側に居た少年の肩を叩いた。その為、その少年はハルカの前に座り、視線を合わせた。
「初めまして。龍彦っていうよ。龍って呼ばれてるから、そう呼んでほしいな」
龍彦がそう言って立ち上がると、次の人にバトンタッチした。龍彦の隣に居た少年がハルカの前に座ると、ハルカが首を傾げた。その為ハルカは慶を見つめた。見つめられた慶は面白そうに笑い、龍彦を見た。
「龍、横に座ってやれ」
慶が龍彦にそう言うと、龍彦はハルカの前に座る少年の隣に座った。
「初めまして。龍哉って言うんだ。隣に座ってるこいつは僕の兄さん。で、よく似ている僕は弟。双子なんだ」
そう言って双子がハルカに微笑みかけると、ハルカは目を丸くした。その反応を見て、二人は微笑み、立ち上がった。その後、次の人にバトンタッチした。二人の隣に居た、女性が、ハルカの前に座り視線を合わせた。
「初めまして。友香っていうわ。よろしくね」
そう言って友香が立ち上がると、慶を見つめた。
「慶、あなたの番だけど」
「俺も必要か?」
慶がそう言うと、ハルカは慶を見つめて口を開いた。
「慶、って覚えたよ」
ハルカがそう言うと、慶は微笑みかけた。
「慶司だ。でも、慶って呼んでくれりゃいい」
「はい」
ハルカが返事を返すと、慶司はハルカの側へ行き、頭を撫でようとして手を出した。しかし、その手にハルカはびくっとして、頭を守るように隠し、座り込んで震えた。その為、慶司は一瞬驚いたが、ため息をついた。
「ハルカ、言っただろう。ここは痛い思いをさせる場所じゃない。安全だって言ったはずだ。なんでそんなことをする」
慶司がハルカの前に座って言うと、ハルカは慶司を恐る恐る見つめた。
「話をしようって言っただろ? 話してくれ」
ハルカは慶司を見つめていた目線を床に落とし、口を開いた。
「たたくもん……」
小さな声でそう言うと、慶司はため息をついた。
「ハルカ、ここにいる奴らは誰もハルカを叩かない。ハルカが悪いことを平然として、謝ったりしないなら叩くだろうが、今はそんなこと誰もしない。だから怖がるな」
慶司がはっきりとそう言うと、ハルカは頭を横に振った。それが否定だということはすぐにわかった。
「すぐにわかるとは思ってない。だが、わかってもらう日が必ず来ることを覚えておけよ」
慶司はそう言うと、ハルカの頭を撫でるために手を出した。しかし、同じように怯えたが、慶司は手を止めずに頭を撫でた。慶司の手がハルカの頭に触れると、ハルカの肩が目に見えるほどびくつき、震えていた。しかし、頭を撫でられていることに違和感でも覚えたのか、そっと慶司を見て、口を開いた。
「なっ……ん……なに……してるの?」
震える声でハルカが言うと、慶司は手を止めてハルカを見つめた。
「褒めてやってるんだ。よくできましたって言ったり、賢かったって言ったり、頑張りましたって言ったり褒める時に頭を撫でてやる。今はハルカが「はい」って答えたから褒めてやるためにしてるんだ」
慶司がそう言うと、ハルカは不思議そうな顔を見せた。その為慶司はその顔を見て微笑んだ。
「不思議そうだな。でも手を出しただけで叩かれると思うのは早とちりだ。褒めてやりたい時にそれは哀しいぞ」
慶司がそう言うと、ハルカは少し考えるように口を閉ざした。
「慶さん、陽二さんから伝言がなければこの子を見つけて通報するところだったんですからね」
友香と名乗った女性が慶司の側に来て言うと、慶司は困った顔を見せた。
「昨日俺たちが戻ったのは何時だった。お前も龍哉も寝てただろ。どうやってお前らに知らせることができたんだ」
慶司が呆れたと声に含めて言うと、友香はため息をついた。
「メモでもいいから置いてもらえたら驚かなくて済みました」
不平でも言うように友香が腰に手を当てて慶司に言うと、慶司はため息をついた。
「悪かった。俺も疲れてたんだ」
「もう。本当に警報装置押すところだったんですから……」
「陽二が来たのか?」
「いいえ。部屋に設置してもらってる緊急用スピーカーから声が流れてきたんです。子供は無害だから驚かすなと。灰色をしているから、慶さんたちに更生を任せたんだと言われ、通報を免れました」
「そりゃ……悪かったな」
慶司が申し訳なさそうな顔をして言うと、友香はため息をついた。
「出かけている間、部屋を管理するのは私と龍哉さんですよ。部屋に関係あることは伝えてもらわなきゃ困ります」
「わかった。気を付けるよ」
慶司がそう言うと、ハルカが慶司の服を引っ張った。その為慶司がハルカを見ると、ハルカが困った顔をしていた。
「言いたいことがあるなら声に出して言うんだ。服を引っ張っても、困った顔をしても、しゃべらなきゃ意味がないんだぞ」
「ハルカ、悪いことしたの?」
ハルカが慶司の耳に何とか聞こえる声で言うと、慶司はハルカの前に座り、微笑んだ。
「ハルカが悪いことをしたんじゃない。大丈夫だ」
「でも、友香さん怒ってる」
ハルカが友香をちらっと見て言うと、慶司はため息をついた。
「ハルカに怒ってるわけじゃない。俺に怒ってるんだ」
「慶に?」
ハルカが不思議そうな顔を見せると、慶司は微笑んだままうなずいた。
「ああ。俺に怒ってるんだ。だから気にしなくていい」
「……はい」
ハルカが困った顔のままうなずくと、慶司は立ち上がった。
「ハルカ、友香と龍哉が部屋にずっと居る。俺や沙羅、龍彦、唯香、仁は出かけることが多い。だから友香や龍哉に何かあったら言うんだぞ」
慶司がそう言うと、ハルカは小さくうなずいたが、慶司はため息をついた。
「すぐに慣れろとは言わないが、徐々に慣れてくれ。何日も居ないことがあるからな」
慶司がそう言うと、急に部屋の中にモニターが現れ、電源が入った。そこにどこかの部屋が映し出された為、全員の視線がモニターに集まった。
『ついたか? 慶、沙羅、私の部屋にハルカを連れて来てくれ。他の者は部屋で待機だ。これを聞き次第すぐに来てくれ。以上だ』
プツンとモニターの電源が切れると、慶司はため息をついた。
「ハルカ、お出かけだ」
慶司がハルカの手を取ると、振り向いた。
「沙羅、あんたも呼ばれたんだぞ」
「わかってるわよ。龍哉、友香、朝食の準備ができてるなら全員で食事を終わらせておいて。私たちの分は後でいいわ」
沙羅が慶司にそっけなく返事を返すと、龍哉と友香にそう言い、ハルカの側に歩み寄った。
「わかりました」
「了解」
友香と龍哉が返事を返すと、慶司と沙羅、ハルカは部屋を出て行った。その為残った人たちは各々すべきことを始めた。
ハルカは寝ていた部屋から出ると、別の部屋に出たことに驚いたが、連れて歩かれているため立ち止まることはできなかった。その為その部屋を素通りして部屋を出た。部屋を出れば長い廊下へ出た。そして少し歩けばエントランスに行けた。そこからエレベーターに乗り、最上階へと向かった。そこまでの道のりは、二人が静かだったため、ハルカには不安だけが募っていた。
最上階へ着くと、慶司と沙羅はハルカの手を取り、一緒に歩いた。
「昨日行った部屋を覚えている? お爺さんと若い男の人が居た部屋。そこに今から行くのよ」
沙羅が歩いている途中ハルカにそう言うと、ハルカは沙羅を見て小さくうなずいた。その為沙羅は微笑んだ。
「そう。覚えているのならいいの。その部屋に居た若い男の人が、部屋に来てくれって頼んだから来てるの」
沙羅がそう言うと扉の前に着いたのか、慶司が扉をノックした。そうすると、昨日と同じように内側から扉が開き、杖をついた老人が立っていた。
「来たな」
「ああ。呼ばれたから来たんだ」
「入れ」
老人に促されて部屋に入ると、昨日と同じように青年が部屋の中に居たがソファに座って待っていた。そこから入ってきた三人を見て、微笑んだ。
「慶、沙羅、向かいに座ってくれ。ハルカもだ」
青年に言われ、慶司と沙羅は青年が座るソファの向かい側に座ると、ハルカを二人の間に座らせたがハルカは慶司寄りに座って居た。それを見た青年は嬉しそうに微笑んだ。
「慶には多少慣れているみたいだな」
「まぁ……しかたねぇ。連れてきたのは俺だからな」
青年がハルカの行動を見て言ったのか、慶司に言うと、慶司は頭を掻いて言葉を返した。
「ハルカ、自己紹介が遅れていたね。陽二という。白の塔という場所を聞いたことはあるかな?」
陽二がハルカを見て言うと、ハルカは頭を横に振った。その為陽二は微笑んだ。
「知らないんだね。ここは悪いことをした人たちをごめんなさいと謝らせる場所だ。わかるね?」
陽二がそう言うと、ハルカはびくっとして陽二を見つめた。
「はい……」
ハルカが小さな声で返事を返すと、陽二は目を丸くした。その為その表情に慶司が目を細めた。
「なんだよ。文句のありそうな顔だな」
慶司がそう言うと、陽二は苦笑いを浮かべ慶司を見つめた。
「昨日の今日で、問われたことに返事を返すとは思わなかった。それもしゃべるなとでも教えられているかのようにしゃべらなかったハルカが「はい」と返事を返したんだから驚きもする」
陽二がそう言うと、慶司はため息をついた。
「しゃべらなきゃならないことと、会話をしたいということは伝えてある。それを覚えたんなら返事を返すだろ」
「それでもすぐにはできないことだ。時間がかかると思っていた」
「……すぐできたんだから文句を言うな」
慶司がそう言うと、ハルカは慶司を困った顔で見つめていたため、慶司はため息をついた。
「だから、喧嘩してるわけでもねぇし、ハルカのことでもめてるわけじゃねぇんだよ。心配するな」
慶司がそう言うと、ハルカはうなずいて陽二を見つめた。その様子を見ていた陽二は微笑みを隠せなかった。
「さてと、ハルカ。君は良いことと悪いことがどれかわからないだろう。子供ならそれは仕方ない。だけど君の場合、悪いことをしている人たちの側に居て、悪いことを多く知っているだろう。それを悪いことだとちゃんと理解してもらわなければならない。今居るここで悪いことをすれば、叩くことになる。それは嫌だね?」
陽二が分かりやすいよう言葉を選んでしゃべろうとしていることはわかった。その為慶司と沙羅はハルカを見つめ、その様子を見ていた。ハルカは陽二の言葉にびくっとして、身を固めた。
「だから覚えなければならないんだ。良いことと悪いことを覚えて、良いことのできる人になろう」
「はい」
「返事ができるんだからちゃんと覚えなければならない。いいね?」
「はい」
ハルカがしっかりとうなずくと、陽二は微笑んだ。
「良い子だ。慶、お前に任せておく」
陽二が慶司を見て言うと、慶司はうなずいた。
「ああ。わかってる」
「それで、目覚めてからの状況は」
「手を上げれば頭を抱え蹲る」
慶司がそう言うと、陽二は眉を寄せた。
「昨日確認済みだ。首輪があった以上、暴力を受けたという前提を持ち出している。それ以外には何かあったのか」
「今のところ確認できてない」
「そうか。慶、奴隷という認識も外せるよう教育できるな?」
陽二がそう言うと、沙羅が怪訝そうな顔を見せたが、慶司はため息をついた。
「できなくもない。だがまだできないぞ」
「今じゃなくていいんだ。長期的な問題で、回復を望みたい。できるな?」
「できる」
慶司がきっぱりと言い切ると、陽二は微笑んだ。
「ならそれも加えて頼む」
「わかった」
「陽二、慶にそれを頼むのは良いけれど、慶にそれができるの?」
沙羅が陽二を見て聞くと、陽二は微笑んだ。
「沙羅、心配しないでほしい。慶にはそれができるんだ」
「なぜ? 私たちは戦闘員よ。教育係じゃないわ」
沙羅がそう言うと、陽二は困った顔を見せた。その為慶司がため息をついた。
「沙羅、俺は黒でここに来た。ガキだったけどな。それで教育係に育てられたんだ。白になって、戦うことができるから戦闘員になった。だから俺は、両方の知識があるんだよ」
慶司がそう言うと、沙羅が目を見張った。その為陽二はため息をついた。
「沙羅、これを知らせなかったのは言うまでもなく偏見を持たせたくなかったからだ。黒から白になった者をよく思わない人たちも大勢いる。だが言うまでもなく慶は知識の中にある変貌者には当てはまらない。わかるな?」
沙羅が陽二を見てうなずくと、陽二はほっとため息をついた。
「それなら慶のこの話は心の底にしまっておいてくれ」
「陽二、慶は黒だったの? 本当に?」
沙羅が信じられないという風に言うと、陽二は微笑んだ。
「事実だ。真っ黒でここに来た。救いがないと判断すべきか迷うほどだった。だが、慶はそこから立ち直った。綺麗な白に戻れたんだ。それを維持し、今もなお綺麗な白のまま過ごしている。黒へ戻ることもなく、更生した」
「……わかったわ。慶のこの話のことは忘れる」
「ありがとう」
陽二がそう言うと、慶司がため息をついた。
「慶、いろいろと秘密を抱えている者は大勢居る。長年一緒に居てもそれは同じだ。暴露しあえればいいかもしれないが、難しいことだとは分かってくれるだろう」
陽二が慶司を見て言うと、慶司はうなずいた。
「わかってる」
「沙羅に知られたことが嫌だったのか?」
「いいや。誰に知れようが一緒だ。お前がお墨付きをくれた俺だ。それに藤十郎さんだって俺が白に戻って、ずっと白のまま生きてることの生き証人だ。黒だったと責められたら言う言葉はねぇけど、お前や藤十郎さんが終わった話だと言うならそこまでだろ。だから別にいいんだ」
「そういう顔はしてないんじゃないのか?」
陽二が座るソファの側から声が聞こえ、慶司が声の主を見ると、老人が立っていた。その為慶司はため息をついた。
「昔話が嫌いなだけだ」
「まぁいい。お前はずっと白い。だまされ黒に染まっただけで、お前の中にある根は綺麗な白だ。黒を抜いたお前は戻ることはない」
「藤十郎さんからお墨付きをもらうとはな……」
慶司が驚いたようにそう言うと、老人がそっとハルカの側に座った。その為ハルカはびくっと怯えるかのように強張った。その為老人は微笑んだ。
「藤十郎という名をしている。紹介が遅れていたな。怖がらなくてもよい。何もせんよ」
藤十郎がそう言うと、ハルカは小さくうなずいた為藤十郎は立ち上がった。
「陽二、徐々に進めればよいだろう」
「藤十郎さん……」
陽二が困ったような顔を見せると、藤十郎はハルカを見つめた。
「今はまだ何も変わらん。奴隷だったのなら特にな」
「……わかりました。慶、沙羅、ハルカのことを頼んだ」
「ああ」
「わかってるわ」
「それと、依頼が入った。依頼内容はこれだ。ターゲットも入っている。今夜実行だ」
陽二が封筒を慶司に渡すと、慶司は受け取り立ち上がった。その為ハルカも立ち上がり、沙羅と慶司に連れられて部屋を出ようとして足が止まった。
「ハルカ?」
ハルカの足が止まったことに気づき、沙羅が不思議そうな顔を見せた。そのハルカは陽二の側まで歩くと、陽二はハルカを見て不思議そうな顔を見せた。
「何か用かな?」
陽二がそう言うと、ハルカは陽二を見つめて口を開いた。
「陽二さんがハルカのご主人さま?」
ハルカがそう言うと、慶司と沙羅は目を見張り、陽二は問われることを分かっていたのか悲しそうな顔で頭を横に振った。
「ご主人様は居ないんだ。ハルカは自由になった。首輪も足にあった鎖もないだろう?」
「でもここがハルカのお家になるのなら、ハルカのご主人さまが居るんでしょ?」
「……ハルカ、自由ということを覚えよう。ご主人様の居ない生活をしよう」
陽二がそう言うと、ハルカは困った顔を見せた。その為慶司がハルカと陽二の側まで来ると、ハルカの側に座った。
「ハルカ、陽二も俺も沙羅も藤十郎さんも誰もハルカのご主人様じゃない」
慶司がそう言うと、ハルカは首を傾げた。
「どうして?」
「ハルカのご主人様になれないからだ」
「ハルカのご主人さまが居ないなら、ハルカはどうするの。どうしたらいいの?」
ハルカが泣きそうな声で言うと、慶司はハルカの頬に触れた。その時もハルカは怯えるかのように強張り、怯えた表情を見せた。
「怖がるな。ハルカのご主人様はハルカ自身だ。ハルカを使えるのはハルカだけだ。それを覚えよう。いいな」
「……はい……」
ハルカが小さくうなずくと、慶司は微笑んだ。
「いい子だ。じゃ部屋に戻るぞ」
慶司がそう言ってハルカの手を握ると、陽二が慶司を見た。
「慶」
「任せとけ。戻すさ」
「……わかった」
陽二がそう言うと、慶司はハルカを連れて沙羅と部屋を出た。その為陽二は深いため息をついた。
「陽二」
藤十郎がため息をついた陽二に声をかけると、陽二は藤十郎を見た。
「なんですか」
「心配しなくても、慶はハルカを白に戻せるよう努力する」
「知ってますよ。ただ自分が不甲斐ない」
「陽二……」
「何もしてやれないのかと……頼むしかできないんだと痛感しましたよ」
「お前を傷つけさせるわけにはいかないだろう」
「……一番上というのも辛いものですね。何度味わえば気が済むんでしょう……」
陽二がそう言うと、藤十郎は陽二の肩を叩いた。
「重荷は背負う。お前に背負わせるものは私も背負うと言っただろう。それで勘弁してくれ」
「藤十郎さん……」
「大丈夫だ。慶に任せておけばよい」
「知ってますよ。慶ならできる事だとね」
陽二は出て行った慶司と沙羅、ハルカを思い出すかのように言った。
部屋に戻る途中、ハルカが慶司の手を握り返したため、慶司がハルカを見た。
「どうした?」
「……ハルカのご主人さまはハルカ?」
ハルカが不思議そうな顔をして言うと、慶司は面白そうに微笑んだ。
「そうだ。自分は自分でしか動かせない。だから別の誰かがこれをしろ、あれをしろって言って動かすことはできないんだ」
「……」
ハルカが黙り込んでしまうと、慶司はため息をついた。
「すぐにはわからないだろう。だから今すぐにとは言わない。それにこの先ハルカが成長していけばこれをしろ、あれをしろとは言わない。ただ今はあれをしろ、これをしろと言うけどな。そうしなきゃハルカが動かないからだ」
「はい……」
ハルカが返事をすると、慶司はハルカの前に座り、しっかりと瞳を覗き込んだ。その為ハルカは恐ろしいのか視線を合わせられず、俯いた。
「……怖いか」
「うん……」
ハルカが小さくうなずくと、慶司はため息をついた。
「ハルカ、逃げるってことは、何かやったんだな」
慶司がハルカにきつい口調でそう言うと、ハルカは弾かれたように顔を上げた。その為沙羅が目を見張った。
「何をした。ここに来てからじゃないな。陽二にもそうやって逃げたからな。だから陽二もハルカが灰色だって判断したんだ。何をした」
慶司がハルカの顔をじっと見つめて言うと、ハルカは目線が泳ぎどうしようか迷っているような顔だった。その為慶司はハルカの腕を掴んだ。
「嘘をつくと怒るぞ。嘘だった場合、ハルカを叩かなきゃならない。本当の事だけを言えばいい。何をした」
慶司が怒った声で言うと、ハルカは俯いた。その為慶司はハルカの手をそっと握り、温めるようにさすった。
「言えないのか」
「……ご主人さまの言いつけ守れなかった……」
ハルカが小さな声で言うと、慶司はほっとしたような顔を見せ、長い息を吐いた。その為ハルカが慶司の指を握り、必死そうな顔を見せた。
「動くなって言われたのに、動いちゃった。どこにも行くなって言われたのに、ここに来ちゃった。言いつけ……守れなかったのっ……」
ハルカが涙を浮かべて言うと、慶司はハルカを抱きしめた。その為ハルカは咄嗟に慶司に抱きついた。
「よかった……。そんなことで悩んでたのか」
慶司がそう言うと、ハルカは頭を横に振った。
「悪いことじゃなくて良かった。だましたとか、人を傷つけたとか、人を殺したとか、闇の住人がしてたことを手伝わされたとかじゃなくてよかった」
慶司がほっとした声で言うと、沙羅が慶司を見つめた。
「慶、ハルカは……」
「心配ない。元主の言いつけを守れなかったことを知られたくなかったらしい。だから逃げてたんだ」
「次の主に渡される時に知らされる内容だからね? 罰をもらうかもしれないから黙ってたってところかしら」
沙羅がほっとした声で言うと、ハルカは二人を不思議そうな顔で見つめた。その為沙羅がハルカの前に座り、微笑んだ。
「ハルカ、私も慶も誰もご主人様じゃないから心配しないで。言いつけ守れなかったことは良いのよ。誰も罰を与えないわ」
「どうして?」
ハルカが不思議そうな声で言うと、沙羅は嬉しそうに微笑んだ。
「だって、ハルカは誰の物でもないからよ。ハルカが言いつけを守れなかったのは、ハルカがハルカになったから。誰かの物じゃなくなったからなの」
「……」
ハルカは沙羅の言っている言葉が理解できないのか黙り込んでしまった。しかし沙羅はそんなハルカを見て微笑んだ。
「自分で考えて行動しましょう。自分のしたいことをしましょう。もうそれをしてもいいの。我慢しなくていいの」
沙羅がそう言うと、ハルカは抱きついている慶司にきつく抱きしめられた。
部屋に戻って来ると、ハルカは慶司に抱き上げられていた為床に降り、慶司の指を握った。その為慶司はハルカの手を握り扉を開けた。
「お帰り」
友香が帰ってきた三人を見て言うと、慶司はため息をついた。
「戻った」
慶司が部屋に入ると、ハルカは戻ってきた部屋を見て唖然となった。広々とした部屋が見えたため、ハルカは口が開いたままになった。部屋の中は、奥にはダイニングがあるのか壁があり、その側に棚が備え付けられている。そしてそこにはいろいろなものが置いてあり、ぐちゃぐちゃだった。その側には絨毯が敷かれ、ソファがある。コの字に置かれているソファは、その向かい側にある壁にテレビがあるため、そんな形で置かれていることが分かった。扉を入った右隣には観葉植物が置かれてあり、左側には棚があった。その為ハルカは部屋中を見回して慶司を見つめた。
「どうした」
「広い……」
ハルカが驚いたような声を出すと慶司は微笑んだ。
「当たり前だ。ここには大勢の人が住んでる。広くなかったら住み辛いからな」
「慶さん、沙羅さん、ハルカちゃん、朝食を食べてください」
友香がそう言うと、慶司はハルカの手を握り、友香を見つめた。
「今日は誰の番だ」
「今日は智弘さんが作りに来てくれる日です」
友香がそう言うと、慶司は少し考え込むような顔を見せたが、友香がため息をついた。
「智弘さんにハルカちゃんのことは伝わってます。消化にいいものを揃えてもらってますから心配ないですよ」
「それならいい。ハルカ、ご飯食べに行くぞ」
慶司がそう言ってハルカを連れて奥へ向かうと、沙羅も続いて奥へと向かった。慶司に連れられてダイニングへ入ると、テーブルの上に朝食が置いてあった。その為慶司がその朝食を確認して、ハルカのために椅子を引いた。
「ハルカ、ここに座って食べろ」
「はい……」
ハルカが椅子に座ると、沙羅が向かい側に座った。その為ハルカがびくっと強張ったのを慶司は横目で確認した。しかし何も言わずに朝食を食べるため食器に手をかけた。
「いただきます」
慶司と沙羅がそう言って用意されている日本食を食べ始めると、ハルカはじっと見つめているだけで手を付けようとしない。その為沙羅がハルカの隣に座る慶司をじっと見つめたが、慶司は小さく首を横に振った。その為沙羅はハルカを心配して困った顔になった。
「ハルカ、飲み物要るか?」
慶司が急にハルカに声をかけると、ハルカはびくっと体を強張らせ、怯えた顔で慶司を見つめた。その為慶司は微笑んだ。
「飲み物は要るか?」
慶司がもう一度聞くと、ハルカはこくっとうなずいた。その為慶司は立ち上がり、キッチンからコップとお茶の入った容器を持ってきた。それをテーブルの上に置くと、コップにお茶を注ぎ、ハルカの前に置いた。
「ほら」
「ん……」
ハルカが小さくうなずくと、慶司は朝食をまた食べ始めた。その為ハルカがお茶を見つめてじっとしていた。それを慶司は横目で見つめ、心の中でため息をついていた。しかし沙羅も慶司ももうすぐで食べ終わりそうだという時になって、ハルカが何かに気づいたのか朝食に手を付け始めた。その事に慶司が気づき、目を細めた。ただそれにハルカが気づくことはなく、黙々と食べていた。
「食べ終わりましたか?」
友香がそう言ってダイニングに入ってくると、ハルカが食べていることに気づいて微笑んだ。
「まだだったんですね」
「ああ、ハルカがまだ食べてる」
「じゃ待ってようっと」
友香がそう言ってハルカの側に座ると、沙羅が向かい側に座る慶司を見つめていた。それに気づいた慶司はため息をつき、ハルカに気づかれないよう沙羅と部屋に隅へ移動した。
「慶」
沙羅の非難したような声を聞いた慶司は落胆したような顔を見せた。
「ハルカの事だろ」
「そうよ。どうして食べようって言わなかったの」
「……言っても一緒には食べないだろ。確認したが一緒には食べなかっただろうな。拒絶したはずだ」
慶司が確信したかのように言うと、沙羅は目を細めた。その為慶司はため息をついた。
「奴隷だったのなら、ありえなくもない話なんだよ。すべての人間が食べ終わってからじゃなきゃ食わせてもらえないのはな。それを一緒に座らせ、食べて見せたが手を付けなかった。それなら最後に食うって思うしかねぇだろ。まぁ今まさにそうだったけどな」
「一緒には食べないってこと?」
「まぁ今は無理だな。一緒に過ごしていく中で、一緒に食べてもいいんだって教えるしかねぇ。それ以外じゃハルカの中にあるものは、最後だってことになるからな」
「……わかったわ」
沙羅がうなずくと、慶司はテーブルを見つめた。ハルカが食べ終わり、食器を重ねると、友香がそれを横から奪う形で持ち上げた。その為ハルカはアッとしたかのような顔を見せた。それを見て、慶司が友香に口を開いた。
「友香、置いてやれ」
「えっ……でも……」
友香が慶司の言葉に驚いたのかオドオドすると、慶司は首を横に振った。
「良いから置いてやれ。ハルカが持って行きたいらしい」
「はぁい」
友香がハルカの食器をテーブルの上に置くと、ハルカは食器を持ち上げ、椅子から降りた。その為友香が沙羅と慶司の食器を持つと、キッチンへ入って行った。その後を追うようにハルカが向かった為、沙羅が慶司を見た。
「あれも一緒だ。後片付けは最後の人間のすることだろ」
「……そうね」
「教えるしかねぇんだ。一つ一つ見つけて、直していくしか道はねぇんだよ」
慶司はハルカが座っていた椅子を見つめてそう言った。
沙羅と慶司がリビングへ来ると、他の者たちがのんびりくつろいでいた。
「龍、今夜実行だそうだ。プランを立ててくれ」
慶司がそう言って封筒を龍彦に渡すと、龍彦は封筒を見てため息をついた。
「どんなもの?」
「俺は見てない。2区らしいけどな」
慶司がそう言うと、龍彦は肩をすくめた。
「企業区域の件か。わかったよ」
「頼んだ」
慶司は龍彦にそう言うと、リビングに友香とハルカが戻ってきた。
「慶さん、片付け終わりましたけど……」
友香がそう声をかけると、慶司は振り向いた。
「わかった」
「ハルカちゃんはこれからどうするの?」
「ちょっと散歩だ。昼食には戻る。ハルカ、外を見に行こう」
慶司がハルカを手招きして呼ぶと、ハルカは慶司の側に駆け寄った。その為慶司はハルカの手を握り、沙羅を見た。
「沙羅、後は頼む」
「はいはい」
沙羅は呆れたとでも言うように返事を返すと、慶司とハルカは部屋を出て行った。その為沙羅はため息をついた。
慶司がハルカの手を握って部屋から出ると、ハルカは慶司を見上げた。その為慶司はハルカの視線に気づいたのかハルカを見て微笑んだ。
「ちょっと散歩だ。ずっと部屋にいるのも暇だからな」
「散歩……」
ハルカが小さな声で言うと、慶司はうなずいた。
「ああ。さぁ、行くぞ」
慶司がハルカを連れて歩き出すと、ハルカは周りを見て目を見張った。長い廊下が続き、右手には大きな窓が見える。廊下を進むとこの建物の中心に円を描くように壁があるのか塔のようなものが天高く伸びていた。その中に移動用のエレベーターや廊下がある。それを使って上や下に移動できる。その為ハルカは中央にある塔のエレベーターに乗り下に向かうことになった。
「怖がらなくていいぞ。俺と一緒ならどこへ行こうが怖くねぇ」
慶司がそう言ってハルカの前に座ると、ハルカの顔を見て微笑んだ。
「大丈夫だ」
「うん……」
ハルカが小さくうなずくと、慶司は微笑んでエレベーターに乗り込んだ。ハルカも乗ると扉が閉まり下へ移動し始めた。その為ハルカは慶司の足にしがみつき、動くエレベーターに驚いていた。それから少ししてエレベーターが止まると、人が入ってきた。
「あ、慶司さん」
「おっ、慶司か。珍しいじゃねぇか! 朝から出かけるなんてよ」
エレベーターに乗り込んできた男性二人に慶司が声をかけられると、慶司は額を押えた。
「宏明、潤二、俺が出かけるのが珍しいからってそう大声出すな!」
エレベーターが動き出すと、慶司が二人に怒鳴った。その為二人は目を細めた。
「珍しいからついな。でもえらく早いじゃねぇかよ。それとも陽二様に任されたことの一環か?」
潤二がそう言って足元のハルカを見ると、慶司はハルカを背中に隠すように手で後ろに隠した。それを見ていた宏明が慶司を見つめた。
「慶司さん、その子供は白じゃないのか」
「灰色だ。でも陽二が戻せると願って俺らに託したんだ。怖がらせるな」
「灰色か。でもまぁ、初めから俺らに恐怖心があるのなら早い話だ。子供区の子供連中は刃向ってくるんだからな。あれには驚いたぜ」
「そっちの方がいいだろう。元気があるだけ良い方だ」
「まぁな。さてと、じゃ慶司、子守してろよ」
そう言って二人はエレベーターを降りてどこかへ向かって行った。その為慶司はハルカの前に座り、困った顔を見せた。
「悪いな。俺もちょっと有名でな、よく声をかけられる」
「うん……」
「さて、着いたな」
慶司がそう言うと、エレベーターが止まり、扉が開いた。その為慶司はハルカの手を握り、エレベーターから降りた。そこは騒々しく、慌ただしい雰囲気があった。その為ハルカが慶司の手をしっかりと握ったため、慶司は微笑んだ。
「平気だ。怖い連中は居ない。こっちだ」
慶司がそう言って歩き出すと、ハルカは周りから聞こえる声や音に怖がっていた。廊下を歩いていると、周りから聞こえる声はまだ幼く、子供の声だということはよくわかった。壁の向こうから聞こえる声は甲高い声や叫び声、笑い声などが響いている。時折扉を勢いよく開け、廊下を駆け抜けていく子供たちの姿を目にして、ハルカは身をこわばらせた。その様子を慶司が横目で見ていたが、ある一つの部屋の前で止まり、扉を開けた。
その中はフローリングの床を部屋の半分以上を絨毯で隠し、そこにテーブルを何個か置き、子供たちがテーブルに向かって何かをしていた。部屋の一番後ろには棚があり、そこに荷物が詰め込まれている。個人個人に割り振られているのか、個々に荷物が入れてあった。その為慶司が部屋に入って来たことを、部屋の中に居る唯一の大人が気づいた。
「慶司、いらっしゃい。今日は何の用だい」
年配の女性が慶司を見て言うと、慶司は足元に居たハルカを女性に見えるように前に出した。
「ハルカだ。陽二に面倒を見ろと頼まれた。俺らで面倒を見るんだが、大人ばかりだからな……気分転換にと思って連れてきた」
慶司がそう言うと、女性はハルカの前に座り、ハルカの手を握って微笑んだ。
「いらっしゃい。ここにはあなたのような子供たちがたくさんいるのよ。みんなで楽しく遊んでいるところ」
「遊ぶ……?」
ハルカが首を傾げると、女性は慶司を見上げた。
「慶司、この子は?」
「元奴隷。推定でも五歳から六歳だ」
「……子供の頃から遊びを知らないなんてね。まったく、この頃の世の中を恨むよ」
女性は憎々しいとでも言うように吐き捨てると、ハルカに微笑みかけ、目をじっと見つめた。
「いろいろと覚えていこうね。ハルカちゃんがしていいことと、してはいけないことを覚えよう。さぁおいで」
女性がハルカを連れて部屋の中心部へ向かうと、子供たちが初めて来たハルカに気づいたのか全員の目がハルカに向いた。そして部屋の入口に居る慶司にも視線が向かうと、全員が慶司に向かって走り出した。
「慶だ!」
「慶が来た!」
口ぐちに子供たちが慶司の側ではしゃぎまわると、慶司がため息をついた。
「わかった。わかったから部屋の中に戻れ。入口で俺を囲むな」
子供たちが慶司の声を聞いて部屋の中心部へ戻ると、慶司は扉を閉め部屋の中心部へ向かった。絨毯の敷かれてある場所には椅子があり、その一つに慶司が座ると子供たちが集まってきた。その為慶司は女性を見て肩をすくめた。
「姫子さん、遊ばせてやりたいんだよ」
「わかっているよ。みんな、慶と一緒にハルカちゃんが来ているのよ。みんなで遊びましょう」
姫子と呼ばれた女性が子供たちに言うと、全員の視線がハルカに向いた。その為ハルカは怖いのか姫子の後ろに隠れてしまった。それを見た子供たちがハルカの手を引っ張り、前に出した。
「ハルカちゃん?」
「ハルカちゃんね」
「遊ぼう」
「何して遊びたい?」
「いろいろあるんだよ。トランプにおもちゃにお絵書きにいろいろ。何したい?」
「お外で遊ぶことはできないから、部屋の中で遊べるものなら何でもあるよ。何したい?」
子供たちが口ぐちにハルカに問いかけるため、ハルカは恐ろしいのか慶司の側に駆け寄り背中に隠れた。その為子供たちが慶司を見つめた。
「ちょっと待ってやれ。ハルカは最近まで奴隷だったんだ。だから少しずつな」
慶司がそう言うと、子供たちがハルカを見つめ微笑んだ。その為その中の一人がハルカの手を引っ張り慶司の後ろから出してきた。
「怖くないよ。みんな怖くない」
「……痛いこと……しないの?」
ハルカが小さな声で言うと、子供はうなずいた。
「うん。そんなことしない。だってハルカも痛いけど、私も痛いもん。だから痛いことなんてしない。楽しいことするの」
「……」
ハルカは言われた事が分からない為黙り込むと、引っ張ってくれた子供がハルカに微笑んだ。
「こっち来て。みんなと遊ぼう!」
手を引っ張られ、子供たちの輪に無理矢理と言っていいほどの勢いでハルカが連れて入られると、慶司はため息をついた。
「慶司、あの子は怖がりだ」
「ああ。でも奴隷だったのなら仕方ない。いつから奴隷なのかだ」
「……厳しい主だったのかね。暴力的な主だったのか……恐怖心がある」
「しゃべるようになっただけ良いことだ。会話が成り立たなかったからな」
「おやまぁ。しゃべるようにできたんだね」
姫子は驚いた声を出したが慶司にうれしそうな顔を向けた。その為慶司は姫子を見てうなずいた。
「ああ。何とかな。でも俺だけだ。沙羅や友香、唯香にはまだなんとなく無理だ。仁や龍彦、龍哉にもあまりしゃべらない。慣れだといいけどな」
「今すぐには無理だろうね。暴力的な主の所に居た子供は回復が難しい」
「それでも戻さなきゃならない。陽二からの命令だ」
「まったく。慶司、久々に顔が見られてよかったよ。長い間ここに来なかったからねぇ」
姫子がそう言うと、慶司はため息をついた。
「来れねぇだろ。第一部隊に俺は居る。出動回数もほかの隊とは比べ物にならないくらい多い。知ってるだろ」
「知っているけれど、ちょくちょく顔を出してくれていたのに来なくなるからだよ」
「ったく……。賢一郎先生は元気か」
慶司が呆れたような声を出した後姫子にそう聞くと、姫子は微笑んだ。
「爺さんなら元気よ。まだあの人を先生と呼ぶんだね」
「……俺を元に戻してくれた人だ。それに、ここで生きられるよう手伝ってくれた人だからな。俺の先生だ」
「まったく……。相変わらずだね」
姫子が呆れたと言う顔を見せると、慶司は子供たちの輪の中に居るハルカを見てため息をついた。
「ったく、おら、俺も混ぜろ」
慶司が子供たちの輪の中に入ると、一緒になって無邪気に遊びだした。それを見ていたハルカが慶司の隣で嬉しそうに遊び、慶司が少し離れても子供たちと遊びだした。その様子を見ていた姫子は微笑みを隠せなかった。
子供たちと遊んでいた慶司がふと時計を見ると、昼食の時間が迫っていることに気づいた。
「さて、戻るか」
「昼だね」
「ああ。メシ部屋で食わねぇと」
「そうだったね。さぁ、みんなもお昼御飯よ!」
姫子が大きな声で言うと、子供たちの目が時計に向き、時間を確認した。
「お昼だ」
「お昼になってる」
「ご飯だ!」
子供たちが口々に言うと立ち上がり、自分のカバンを取りに向かった。その為ハルカは呆然としていると、慶司が隣に座った。
「部屋に戻るぞ」
「戻っちゃうの?」
「ああ。ご飯食べに戻るんだ」
「はい」
ハルカが立ち上がると、子供たちがハルカと慶司の側に駆け寄ってきた。
「慶、戻るの?」
「ああ。メシ食いにな」
「昼からは?」
「俺にもやることがあるし、ハルカ一人で来させることはできねぇ。だから昼からは来ない」
「なんで? 仲良くなったのに」
「無理なものは無理だ。また今度だ」
慶司がそう言うと、子供たちは不満そうな顔を見せた。
「慶のいけず」
「そんなことわかってる。ハルカが真っ白になったらな。今はまだ駄目だ」
「はぁい」
子供たちが諦めたのか不満そうに言うと、姫子がハルカの前に座り微笑んだ。
「いつでもおいで。みんなハルカちゃんのお友達よ」
「はい」
「いい子ね。さぁみんな、昼ご飯を食べましょう。慶司、またおいで」
「おう」
慶司とハルカが部屋を出て行くと、部屋の中からは食事をする音が聞こえてきた。
「楽しいだろ? ここには子供がたくさんいる。また来ような」
「はい」
慶司はエレベーターに向かいながらハルカに言うと、ハルカは嬉しそうに返事を返した。
エレベーターに乗り、部屋に戻ってくると部屋の中が慌ただしい雰囲気があった。その為慶司はハルカを背中に隠し扉をそっと開けた。
「智弘さん、昼食内容が違います!」
「陽二さんから変更だと聞いてきたんだ。ほら、これが通知文」
「……知らせを受けるのが遅すぎる! 楽しみにしていた食事がないなんてイヤ!」
何やら友香と智弘という男性が言い合っているらしい。それが分かり、慶司はほっとして扉を開け、ハルカと中に入った。
「だいじょうぶ?」
ハルカが心配になったのか不安そうな声で聞いてきたため慶司は微笑んだ。
「ああ、大丈夫だ」
慶司とハルカがダイニングに向かうと、友香と知らない男性が一人言い争っていた。その為慶司がため息をついた。
「何してるんだ」
慶司がそう言うと、全員の視線が慶司に向いた。その為友香が駆け寄って来た。
「昼食内容が変更になって、知らせを受けたのが今なんです」
「知らせを持ってくるのは誰の役目だ」
「事前に決まっていれば前日の人。でも急に決まったら作る人が持ってきてくれます」
友香が慶司を見て恐々言うと慶司はため息をついた。
「急に決まったことなんだろう。ハルカのこともあるしな。智弘、悪いな」
慶司が友香の肩を軽く叩き、男性に声をかけた。その為智弘を呼ばれた男性はほっと肩に入れていた力を抜いた。
「慶が帰って来なかったら帰れないところだった。サンキュウ」
「陽二からか」
「ああ、子供が一人加わってる。内容を変更して全員一緒の物を用意してやってくれとのことだ」
「わかった」
「じゃ俺はこれで」
智弘が慶司の横を通り過ぎて部屋から出て行くと、慶司はため息をついた。
「食うぞ」
慶司がそう言って全員が席に着き食事を始めた。しかし、ハルカは全員での食事に慣れていないため、手を付けなかった。その様子を全員が見る結果になったのは言うまでもなく、慶司に視線が集まっていた。
「黙って食え」
慶司が視線に耐えかねたのかビシッと言うと食事に視線が戻り、食べ始めた。しかし、ハルカは相変わらず全員の様子を見ているだけで、手を付けなかった。黙々と食べるみんなを見つめ、ハルカは慶司を見た。
「どうした?」
慶司がハルカの視線に気づいて聞くと、ハルカは食器を見つめた。
「……食べてもいいの?」
ハルカがそう言うと、慶司は微笑んだ。
「良いんだ。食べろよ。ゆっくり食べていいんだ」
慶司がそう言うとハルカは恐る恐るスプーンを手に取り、食器を引き寄せて食べ始めた。その為周りで見ていた沙羅たちはほっとした雰囲気になった。その為食べ終わった沙羅たちもハルカの様子を見たいのか、席を立つ人たちは居なかった。
「龍、陽二からの封筒の中身見たのか」
慶司が食べ終わっていた龍彦に聞くと、龍彦はコップを手に持ったまま慶司を見つめた。
「見終わって、一応のプランは立ててある。けど今回の時間制限は短すぎるし、やることが多すぎるよ」
龍彦が悔しそうな声を出すと、慶司はため息をついた。
「後で聞く。友香、後頼むぞ」
慶司が立ち上がると友香がうなずいた。その為慶司はハルカと友香以外をリビングへ移動させることにして、ハルカが静かに食べられるようにした。
リビングへ移動した慶司はソファに座り、テーブルの上に置いてある封筒を手に取り、中から書類の束を出した。その中にある一枚の紙を見つめた。
「……まったく、陽二もきついことを頼むよな……。まぁ……仕方ねぇか」
慶司はそう呟くと、龍彦を見つめた。
「プランは?」
「これだよ」
龍彦がそう言って側に置いてあった紙の束の中から一枚出してきた。それを慶司に渡すと、龍彦はため息をついた。
「標的は総数二百。その内企業幹部、取締役など総勢十人を拘束し、その企業形態が分かるものを持ち帰れとのことだよ」
「おいおい……」
慶司が呆れたとでも言いたそうな声を出してプランの書かれた紙を見つめた。その為龍彦は慶司が聞いていても聞いていなくても言葉を続けた。
「それも制限時間は翌朝五時まで。開始時間は十一時から。絶対無理な話だよ」
「……全員居るんだろう?」
「今夜は従業員すべてを会社に居させて、次回開発する物の説明会のパーティーらしい」
「……それなら実行だな」
慶司がそう言うと、龍彦は額を押さえた。
「だから、実行するのは良いけど制限時間が短すぎる。全員を殺せってわけでもないし、拘束する人間とそうじゃない奴らを分けなきゃならない」
「……それでも一応プランはあるんだろ」
「うまくいけばだよ。人を操ることができないんだから無理な話だよ」
龍彦が脱力したかのように絨毯の上に座り込むと、慶司は紙を見つめて微笑んだ。
「パーティーならできなくもないプランだな」
「どういう意味?」
沙羅が慶司に聞くと、慶司はすっとダイニングにつながる壁を見た。そこから友香とハルカがリビングに入って来た為、慶司は友香を見つめた。
「友香、龍哉と一緒にハルカと昼寝してくれ」
慶司が友香に言うと友香は唖然とした顔を見せた為、慶司はため息をついた。
「初日から遊び過ぎた。疲れただろうからハルカを昼寝させてやってくれ。一人じゃ不安だろうから側にお前と龍哉が居てやってくれって意味だ」
慶司が全て分かるように言うと、友香はハルカを見つめて微笑んだ。
「お昼寝しよう!」
友香がハルカの手を引っ張って隣の部屋に入って行くと、龍哉が慶司を見つめた。その為慶司は龍哉を見つめて口を開いた。
「ハルカにあまり聞いてほしくない会話だ。意味は分かるな?」
「知ってるよ。だから朝から出かけたのか?」
龍哉がそう言うと、慶司は苦笑いを浮かべた。
「陽二からの頼まれ事がなかったとしても出かけてたさ。だから謀ったわけじゃねぇからな」
「……わかったよ。それと今回の依頼、全員の協力が必要になると思う。一人で勝手に行動なんてしたら崩れるよ。気を付けて」
龍哉がそう言って隣の部屋へ入って行くと、龍彦がため息をついた。それを見て慶司は微笑んだ。
「さすが双子だな」
「筒抜けなのも困るんだよ」
「だがお前も龍哉も考える能力に優れてるだろ。俺は互いの能力を尊重してる」
「……まぁいいけど。龍哉の言ったことは正解だよ。頼むから今回だけは互いに協力してくれないとマジで失敗する」
龍彦が真剣な声で言うと、全員の顔が真剣な顔へ変わった為、慶司が持っていた紙をテーブルの上に置き、全員に見えるようにした。
慶司たちがリビングで作戦会議をしている為、友香と龍哉はハルカと一緒にベッドの上に乗った。しかし、ハルカは居心地が悪いのか、困った顔を見せた。
「疲れてない?」
友香がハルカの顔を覗き込んで言うと、ハルカは俯いた。その為友香は微笑んだ。
「何でも話してくれていいのに。私は怖い人じゃないからね」
友香がそう言ってベッドに寝転ぶと、龍哉がハルカを見つめて微笑んだ。
「ここに居ても怒られないから、眠いなら寝ていいんだよ。誰も怒らない」
龍哉がそう言って寝転ぶと、ハルカは二人を見つめていたがコロンと寝転んでみた。しかしそのまますやすやと眠ってしまった為、龍哉が静かにベッドから降り扉を開けた。その為慶司が扉の開く音に気づき見つめると龍哉と目が合った。
「どうした」
「寝たよ」
龍哉がそう言うと、慶司は面白そうに笑いかけた。
「それは良いことだ」
「僕と友香は何してればいいの」
「ハルカを起こさないのならそこに居ればいい。疲れてるなら一緒に寝ればいい。好きにしろ。いつもそうだろ」
慶司が確認するかのように言うと、龍哉は数秒考え込みうなずいた。
「一人にするのも不安だし一緒に居るよ。用がるなら声をかけて」
龍哉がそう言って静かに扉を閉めると、心配そうに見ていた友香に龍哉が気づいた。
「平気だよ。報告」
「そっか」
「僕は起きてるし、友香は寝たら? 早起きしてるんだし」
龍哉がそう言うと友香はうなずき、ハルカと一緒に寝てしまった。その為龍哉はそんな二人を見つめて深いため息をついた。
ハルカがふと目を覚ますと、隣に誰かが寝ていて、しかも側に人が座っている。そのことに気づき、ハルカは飛び起きた。
「あ、おはよう。目、覚めたんだ」
龍哉がそう言うとハルカは驚いた顔を見せ、そのまま扉に一直線に向かい、押し開けるようにして飛び出した。その為龍哉は唖然となったが、隣の部屋に行かせるわけにはいかないと思い出し後を追った。しかし、ハルカは扉を出たところで身を固めていた。その為龍哉がリビングに居るみんなを見ると、慶司が呆れたという顔をして立ち上がり、ハルカと龍哉の側に来てハルカの前に座った。
「ハルカ、寝ぼけているならそれでいいけどな。俺が誰かわかるか?」
慶司がハルカの顔をしっかりと見て言うとハルカは目を瞬かせ、周りを見てほっとした顔を見せた。
「慶」
ハルカが元気な声で名前を呼ぶと慶司は微笑んだ。その為龍哉が首を傾げた。しかし慶司は目で龍哉に合図をしてそのままハルカの手を握った。
「よく眠ったみたいだな」
「うーん……」
ハルカが首を傾げると、慶司は微笑んだ。
「もうすぐ夕方だ。起きて夜寝られるようにしなきゃな」
「はい」
ハルカがうなずくと慶司が立ち上がり、龍哉を見つめた。
「友香は」
「まだ寝てるよ」
「なら一人にしておいてやれ。用事ができた」
慶司がそう言うと、龍哉は慶司を見つめてうなずいた。
「何」
「龍彦の手伝いしてやってくれ」
慶司がそう言うと、龍哉は怪訝そうな顔を見せたため、慶司はため息をついた。
「行き詰ってるらしい。だからだ」
「まったく。兄さんには困るよ」
龍哉がそう言うとソファに座って頭を抱えている龍彦の側に向かった。その為ハルカはそんな龍哉を見つめていたが、慶司に視線を戻した。
「さてと、何して過ごそうかなぁ……」
慶司がそう呟くとハルカは首を傾げた。
「まぁいい。おいで」
慶司に誘われるままみんなの居るソファまで連れて来られたハルカは、みんなが何をしているのかを見てぽかんと口を開けてしまった。その為その顔を見た慶司が面白そうに笑っていた。
「驚いたか?」
慶司がハルカにそう言うとハルカは力強くうなずいた。
「トランプ……」
ハルカが唖然とした声で言うと、テーブルを囲ってみんながトランプをしていた。その為ハルカは慶司を見つめみんなを指さした。
「トランプ」
ハルカが繰り返してそう言うと慶司はハルカの前に座り、微笑んだ。
「そうだ。暇だから遊んでるんだ。ハルカも遊ぶか」
「うん」
ハルカがうなずくと慶司はソファに座るため立ち上がり、仁の後ろを通ってソファに座った。その為ハルカも後を追い、仁の隣に座ることになった。
「慶、ハルカを混ぜるの?」
沙羅が何かのゲームをしながら言うと、慶司は微笑んだ。
「ああ。遊びたいみたいだ」
「そう……っと、仁! それ私がもらうはずのカードよ!」
沙羅が慶司に返事を返すと、ゲームが進んでいるため、仁にカードを取られた沙羅が怒った。しかし仁は何事もなかったかのようにゲームを進めたため、沙羅はため息をついた。
「でも何して遊ぶの?」
唯香がハルカを見つめて言うと、慶司は上を見上げため息をついた。
「神経衰弱でもするか」
「はぁ……本気で能天気!」
唯香が怒鳴ってカードをテーブルに投げつけるかのように置くと、他のみんながカードをテーブルの上に放り投げるかのように置いた。その為何かのゲームが終わったのだとハルカは気づいた。しかしみんなの表情がどことなく面白そうじゃないためハルカは俯いた。
「さて、ハルカを混ぜて遊ぶぞ」
慶司がそう言うと、ハルカは慶司の服を掴んで頭を横に振った。その為慶司が目を丸くした。
「どうした」
「……」
ハルカが問いかけに対して頭を横に振って答えたため、慶司は目を細めた。
「ハルカ、言いたいことは言うんだ」
慶司が怒ったかのように言うと、ハルカは俯き、頭を横に振った。その様子を見ていたみんなが不安そうな顔を見せた。
「慶……怒ってあげなくても……」
沙羅が心配そうな声を出すと、慶司はため息をついた。
「喋らなくなったんだ。喋らせる方法をとって何が悪い」
「それでも……怖がっているのなら無理よ」
「……甘やかしてもいいことはねぇんだよ」
慶司がそう言うと、ハルカはびくっと強張った。その為仁が慶司とハルカの間に手を入れ、待ってと示した。その為慶司は仁を見つめた。
「仁」
「待った」
「……甘やかして元に戻れるなら戻してみろ。無理な話だけどな」
「慶、ハルカは僕らを思って黙ってるんだ」
仁がそう言うと、慶司はため息をついた。その為仁は慶司がそのことに気づいているがあえて黙っていて、ハルカに言わせなければならないんだと目が訴えかけてきたことに気づきアッとした顔を見せた。
「……今回限りだからな」
慶司が諦めたような声を出すと、仁はしおしおとうなだれた。その為慶司はハルカを見てほっと息を吐いた。
「ハルカ、こいつらが面白くなさそうな顔をしてもお前はお前でいればいい。お前を元に戻す、お前を白に変えることが俺らに与えられた役目である以上、ハルカを混ぜて遊ぶのは仕方ないことだ。面白くないこともしなきゃならない。いちいち気にするな」
慶司が全てを語るかのように言うと、仁を除いたすべての人が唖然となってしまった。その為慶司はハルカの腕を掴み、ぐっと力を込めた。
「ハルカ、お前は俺らの中に居て苦痛かもしれない。怖いのかもしれない。でも、俺らはお前を逃がすわけにはいかないんだ。それに、放棄もできない。面白くなくてもしなきゃならない。子供が気を使うな」
慶司がそう言うと、ハルカは頭を横に振って否定していることは明らかだった。その為慶はハルカの頬に手を添え、顔を上げさせた。
「子供はもっとわがままを言えばいい。何に気を使う。自分の意思を通せ」
「……怒るもん……。ハルカがあれしたい、これしたいって言ったらみんな怒るもん!」
ハルカが初めてと言っていいほど自分の意思を爆発的に露わにすると、慶司は目を細めてうれしそうな顔を見せた。それを見たみんなが唖然となったことは言うまでもない。
「ここはお前が居た世界じゃない。新しい世界に来たんだ。今はわがままでいい。大人を困らせればいいんだ。もうちょっと世界を知ったら、自分のわがままを言わないでおこうということを覚えればいい。今からそんなことをしなくていいんだ」
「でもみんなが楽しくなさそうなんだもん! ハルカがトランプしたらみんな楽しくない。ハルカが楽しくてもみんなが楽しくなかったらハルカ嬉しくないもん! そんなの嫌だ!」
ハルカが怒鳴るように大声で言うと、慶司は微笑んだ。
「じゃみんなが何をしたいか聞けばいいんだ。ハルカのわかる遊びがあればそれをして、みんなで楽しめばいい。今は俺が勝手に決めたことだ。ハルカもしたくなかったかもしれない。そういうことを言ってくれたらいいんだ。わかるな?」
慶司が優しくそう言うと、ハルカはコクンとうなずいた。その為慶司は周りを見て、口を開いた。
「さてと、何して遊ぶ?」
慶がそう言うと、みんながいろいろなおもちゃを部屋へ取りに戻り、一斉に部屋からおもちゃが出てきた。それを見たハルカは面白そうに笑い、みんなで疲れるまで遊びまくった。
夕飯を食べる時間になると、智弘がまた夕飯を作りに来て、準備をして出て行った。その為ハルカが目を丸くしていた。しかし説明しても理解できないとして、智弘のことは後回しになった。またどうせ日にちが来れば智弘は一日の食事を作りに来る。料理人の智弘が料理を作りに来るのは決まっていることだからだ。
夕飯をみんなで食べることになるのは言うまでもないが、はやりハルカはじっと待つように椅子に座ってみんなの様子を見ていた。夕飯に手を付ける様子もなかった。しかしそれも教育の一環だとみんなで理解し合い、ハルカが一緒に食べることを望んでいた。しかしハルカはそれから数十分手を付けなかったが、慶司を見つめ慶司が首を傾げたのを見て、ハルカは夕飯に手を付け始めた。ちゃんと食べるハルカを見ればほっとできた。
夕飯を食べ終わると、友香とハルカが片づけを始めたため、沙羅が慶司の腕を掴んだ。
「ちょっと」
「あれも止めさせる。だが急には無理だ。やるなと言えばハルカの中で法律が壊れる」
慶司が沙羅を見て言うと、沙羅は首を傾げて意味が分からないと示した。その為慶司はため息をついた。
「ハルカの中には今、奴隷であった時に主人から決められた法律がある。守らなければならない手順って言えばいいのか。それがあるんだ」
「そりゃそうでしょうね」
沙羅が納得したような声で返事を返すと、慶司はテーブルを拭くハルカを見つめた。
「その手順を一つでも抜かすと、ハルカはまだ罰を下されるという恐怖を思い出すんだ。主人が居ないとしても、ハルカの中には恐怖がある。現実に起こらないとしても、頭の中にある記憶はそう簡単に消えない。習慣づいた行動もすぐには直らない」
「そうね」
「だから徐々にハルカのしていることをしなくていいと教えるしか道はない。子供はしなくていいんだとな。大きくなればできることをさせればいい。それ以外じゃ除外だ」
「……難しいのね」
沙羅が急にそう言うと、慶司はため息をついた。
「奴隷って言うのはな……自分を根こそぎ奪われちまうからな。自我ってものを持つ方が馬鹿だって考えを教え込まれる。言われたことをしていればいいんだという教育が始まるんだよ。それをしていればご褒美を与えてやるとな……。ちっぽけなご褒美だがうれしいんだろうな……従うんだからよ」
慶司が悲しそうな声で言うと、沙羅はハルカを見つめて遣る瀬無さそうな顔を見せた。
「……従うしか命がないならやっちまうんだよ。生きるためってやつだ」
「慶……」
沙羅が驚いた声を出すと、慶司は微笑んだ。
「ハルカには意味のないものになってるから忘れさせる。心配すんな。これでも、俺は結構やるやつだからよ」
慶司はそう言ってダイニングから出て行くと、沙羅がしばらくの間ハルカを見つめていたがダイニングから出て行った。
ハルカが友香と一緒にリビングへ戻ると、みんなが外出の準備をしていることに気づいてハルカは目を丸くした。
「ハルカ、出かけるからお前は友香と龍哉と一緒に居ろ。風呂入って、一緒に寝てろよ」
慶司がハルカの前に座ってそう言うと、ハルカは小さくうなずいた。
「帰ってくる。だから先に寝てろ」
「はい……」
ハルカはうなずくと、慶司は立ち上がった。
「いい子だ」
慶司はそう言うと荷物を持ち、沙羅たちを見つめた。
「準備は良いか」
「OKよ」
「できた」
「準備万端」
「出来上がったよ」
全員が答えると、慶司は友香を見つめた。
「友香、龍哉、後頼むぞ」
「了解」
「わかってるって」
「行ってくる」
二人の返事を聞いた慶司は、みんなと一緒に部屋を出て行った。その様子を見ていたハ
高校生の時に応募しようと思い描いた作品で、諦めていた物です。
独学で小説の書き方さえ知らない者です。
それでももしこの作品を読んでくださった方、目に留めてくださった方、ありがとうございます。