結婚式【ベルフィアス家三男視点】
漸く本編で名前が出せたので、こちらに小話を投稿します!
王都の大聖堂内。貴族たちの中に混じって、ソワソワと落ち着かない様子の少年少女がいた。
藍色の髪の少年はその名をヴァレリア・フォン・ベルフィアス、金色の髪の少女はミリアリア・フォン・ベルフィアス。今回の主役の一人であるアルヴィスの弟妹である。本来ならば幼さゆえに祭事に参加することは難しいのだが、特例として許可を得ていた。
ヴァレリアはミリアリアと手を繋ぎながら、入口の扉をじっと見つめる。そこから、異母兄が入ってくるのだと聞いていたからだ。すると、服の袖をぐいぐいと引っ張られる。視線を落とせば、ミリアリアが引っ張っていた。
「ヴァルお兄様、アルお兄様はまだ来られないの?」
「もう少しだから、大人しく待っていてミリー」
まだ10歳のミリアリアは、大聖堂へ来るのは初めてだ。キョロキョロしてはいけないと言われているが、じっとしていることも出来ない。落ち着かないのはヴァレリアとて同じだが、ミリアリアの兄であるという想いがヴァレリアを留めていた。
大人しくしろとヴァレリアに言われればその時は落ち着くミリアリア。だが長くは続かない。それは無理もないとヴァレリアは思う。これから出てくる兄アルヴィスは、ここ三年ほど領地へ帰ってきていない。最後に帰省したのは、学園卒業前だった。卒業後は宿舎へと入ってしまい、王都の屋敷へ帰宅しても一泊程度泊まっただけで帰ってしまう。ヴァレリアたちが王都の屋敷に来るのは、一年に一度あるかないか。兄と会う回数は必然的に少なくなってしまっていた。
今回は、一年以上振りとなる。アルヴィスの生誕祭が行われた時、ヴァレリアたちは参加できなかった。公爵家でもお祝いはしたが、当の本人は不在。誕生日プレゼントは贈ったのでそのお礼の手紙は届いたものの、それだけだ。手紙のやり取りだけで、顔を見てはいない。だから結婚式に参加できると聞いて、ヴァレリアもミリアリアも楽しみにしてきたのだ。
そうこうしていると、扉がゆっくりと開かれた。
「あ」
「兄上……」
「アルお兄様だ‼」
扉が開かれると、正装に身を包んだアルヴィスが現れた。その隣には、白いウエディングドレスを着た女性。アルヴィスの腕に手を絡めて寄り添っている女性は、とても綺麗な人だ。そっとアルヴィスを見上げたかと思うと、アルヴィスもそれに気が付き微笑みを返している。女性も安心したように笑っていた。
「あの人が……兄上の妃になる人」
「お兄様のお嫁さん……きれい」
「うん。そうだな」
これまでヴァレリアは、異母姉であるラナリスが一番綺麗な女性だと思っていた。姉ではあるが、ヴァレリアにとっては初恋の人でもある。そのラナリスも、アルヴィスの婚約者はとても美しい人だと話していた。貴族令嬢としても努力家で、真面目な人だと。その場に同席していたミリアリアはアルヴィスの婚約者の話を聞いて、面白くなかったように頬を膨らませていたが、本人を目の前にそのようなことは忘れてしまったようだ。キラキラと目を輝かせている。
「お兄様も、とてもカッコいい」
ミリアリアの声に返事はしないものの、ヴァレリアも心の中で同意していた。
アルヴィスは身内から見ても整った容姿をしている。長兄のマグリアも紳士でカッコいい部類には入るとは思うが、アルヴィスの方がより整っているだろう。滅多に声を荒げないし、常に穏やかな笑みを浮かべている印象が強い。領地でもアルヴィスのファンは多かった。同じくらい妬んでいる男の人たちもいたらしいが、その辺りは気にするだけ無駄だとマグリアから言われている。
結婚式が進むと、ミリアリアはじっと二人を見つめていた。結婚式に参加するのは初めてではないが、マグリアの時はミリアリアも幼かったのであまり覚えてはいないのだろう。王族の結婚式を基準にしてもらっては困るのだが、憧れるくらいはいいのかもしれない。
「ミリー」
「お兄様、嬉しそうね」
「え?」
「そのくらいミリーにもわかるもの」
「……そうだな。僕もそう思う」
政略結婚だと聞いているが、二人を見ていればわかる。アルヴィスも、そして隣にいる女性も嬉しそうに笑っているのだから。
アルヴィスが王族へ戻らざるを得なかった事情は聞いていた。王家と公爵家の事情にアルヴィスは巻き込まれたのだと。現段階で、アルヴィスが王位継承権第一位。そして、第二位はヴァレリアだ。ただ、父からアルヴィスに息子、すなわち王子が生まれた段階でヴァレリアの継承権は破棄されると言われている。
アルヴィスからすれば、青天霹靂な事態。結婚にすら消極的だったことは、ヴァレリアも知っている。このような日が来るなんて、思ってもみなかった。それでも、今目の前のアルヴィスは笑っている。ならばよかったのだろう。
「兄上……おめでとうございます」
聞こえるはずはないだろうが、一瞬だけアルヴィスがヴァレリアを見た気がした。目を細めて微笑むアルヴィスに、ヴァレリアは釣られるように笑ったのだった。