【アルヴィスの惚気 2026】アルヴィス視点
ホワイトデー(*´ω`*)ノ
ということでお返し?です。
空に茜色が差す頃、アルヴィスはフードを被った状態で王都のとある場所へ来ていた。王立学園から程近い商店街、その一画にある華やかな外装が施された店。中を覗いてみると、中に客は見当たらなかった。直に閉店する頃合いだからだろう。敢えてその時間帯を狙ったのだが、客がいないのは都合がいい。
扉を開けばカランカランという音が鳴る。その音を聞きつけた青年が奥から現れた。そしてアルヴィスの姿を見るなり固まる。
「えっと……誰、だ?」
「久しぶりだな、ガイ」
被っていたフードを取ってアルヴィスは顔を晒す。ガイの顔が驚愕に染まった。
「お、おまえ! アルっ……じゃなくて、陛下⁉ え……なんでここに⁉」
「ガイ・セアン殿、お静かに願います」
驚き声をあげるガイに、後ろに控えていたエドワルドが前に出て制止する。だが驚きと困惑が最高潮に達している状態のガイには全く効果がなかった。
「いやいや、なんでお前がここにいるんだよ⁉ ここどこか知ってるか⁉ 王都の端にあるしがない菓子店だぜ⁉ のこのこと国王陛下が来ていい場所じゃねぇだろ‼」
「突然来てすまないとは思っている」
「そういうんじゃなくて! あぁーもう」
コックのような長い帽子をかぶっていたのを外すと、ガイは乱雑に頭を掻きだす。腰に手を置きながら、何度かの深呼吸をして気分を落ち着かせてから、再びガイは口を開く。
「ったく、本当にお前はいつだって突然だな。婚約者を連れてきた時といい、今回の時といい」
「悪い。時間が取れるかわからなかったんでな」
「そりゃお忙しいだろうさ。国王様なんだし……って普通に喋るのはまずいか。えっと――」
「外ならばともかく、今は構わない。それよりもお前に頼みがあるんだ」
「……お前はよくても後ろの連中は構うだろう……」
アルヴィスの後ろにはエドワルド、そしてディンとレックスが立っている。それ以外の護衛もいるのだが、店内には入ってきていない。人目につかない場所で待機している状態だ。
王太子だった頃とは違い、どれだけアルヴィスが王都に詳しくとも、護衛をつけないと言う選択肢は存在しない。馴染みの店であってもそれは同じ。ディンとレックスは当然だが、それ以外にも距離を保った状態で近衛隊が見守っていた。
ここがアルヴィスの学園時代の友人の店だということはエドワルドはもちろん、ディンもレックスにも教えている。ただかつての友人だからと護衛の立場からは完全に信用することができない。故にこの場にも同席しているし、アルヴィスもガイと二人だけで話をすることはできなかった。だからこそ閉店間際にここに来たのだから。
「まぁいっか。お前には学園時代に色々と無理を頼んだ仲だし。んで、何の用なんだ? というかわざわざここに来るなんてよほどの頼みなのか?」
「いや、お前に作ってもらいたいものがあるんだ」
「作ってもらいたいもの? 菓子の類だよな?」
「あぁ」
ガイの店では軽食も出しているが、あくまでメインはお菓子類。本人の才能もあるのか、店内には様々な色、形のお菓子類が並べられている。中でも目を引いているのは、クリームが載せられたケーキ類。アルヴィスは滅多に口にしない代物だが、ガイが作っているところは見たことがある。大の甘党であるガイの作るケーキは学園の令嬢たちにも人気で、女性受けする容姿をしていたアルヴィスは良く客引きとして店にも顔を出していた。
以前、そんな話をエリナとしたことがある。エリナはこの店のことは知っていたものの、来たことはなかったと言っていた。あの時はそれほど時間がなかったので、じっくりと色々と食べるようなことはできなかった。けれどエリナの表情がとても嬉しそうだったのを覚えている。
「何を作ってほしいんだ?」
「ケーキを作ってほしい。それほど大きくなくていいんだが……」
「……大きさってこれくらいか? もっと小さめ?」
そういってガイは棚に置いてあった籠をアルヴィスの前へと持ってくる。その大きさは両手の手のひらを合わせたくらいのもの。できればもう少し小さいものがいいと頼むと、もう一回り小さい籠を見せてくれた。型としてはこれが一番小さいサイズになるという。
「ならこれくらいでいい」
「わかった。期限はいつまでだ? 今日がいいってんなら、今から作業にかかるとしても二時間くらいはかかるぜ」
「そこまで急がなくていい。お前だって他に仕事があるだろ」
「滅多にないアルヴィスからの頼みだ。最優先で聞くに決まってんだろ。他なんて後回しだ。それに、これは贈り物だろ? お前が贈るとなれば、リトアード公爵令嬢……今は王妃殿下か。それ以外にいねぇだろうに」
「あぁ」
その通りだ。これはエリナに贈るためのもの。アルヴィス自身が用意すると言っても、自作できるほどの腕はないし時間もない。だから頼るしかないけれど、できればエリナが喜ぶものがいい。王城の料理人に頼むことだってできる。けれどアルヴィスはガイを頼った。学園時代に来ることが叶わなかったとエリナは言っていた。だから……。
「お前も食べるってんなら、甘くない方がいいんだろうけどよ」
「いやいい。俺はエリナが喜んでくれればそれで十分だから」
「へぇ……」
アルヴィスの言葉を聞いてガイがジト目で口元に弧を描きながら見つめてくる。
「何だよ……」
「お前から惚気を聞くことになるとはね……これは意外なものを見せてもらったな」
「惚気てないだろ」
「それを本気で言っているとしたら、お前も罪な男だな。まぁ今更か。お前が泣かしてきた女の数に比べれば大したことじゃないってか」
「ガイっ」
思わず声を荒げればガイは声をあげて笑い出す。学園時代のことは、特に女性関係については弁解のしようもないことはアルヴィスもわかっていた。すげなくあしらっていたこともあれば、きつい言葉を告げたこともある。泣かせたと言われてしまえば反論できないもの事実だ。けれど、それはあまりエリナには知られたくないことでもある。とはいえ、エリナの傍にはフィラリータがいる。既に知っている可能性もあるだろうが。
「アルヴィス様、そろそろ時間が」
「あぁ。ガイ、悪いが――」
「わかったよ。王妃殿下のイメージでケーキを作ってほしいってんだろ。ちなみにお前からみた王妃殿下のイメージってどんなん?」
「俺から?」
「そう。お前が贈りたいってんなら、それが大事だろ」
エリナのイメージ。改めて言葉にしようとすると難しい。目を伏せてエリナを思い浮かべた。アルヴィスから見たエリナ。強くあろうと努力し、己の弱さも知っていながら前に進もうとしている。可愛らしいものが好きで、意外と言われるがエリナの好きな色は淡色系だ。橙色や黄色、水色といった色を好んでいるように思う。
「芯があるが、時折折れてしまいそうにも見える。努力家だし、よく周りを見ていて、誰かが困っていたら手を差し伸べようとする。そんな優しい女性だな」
「……」
「ガイ?」
目を開きガイを見ると、どこか呆けたようにして顔を赤くしていた。何か変なことを言っただろうかと首を傾げると、ガイは右手で顔面を覆った。
「お前さ、顔がいいんだから余計にそういう顔をすんなよ。こっちまで照れるだろうが」
「はぁ?」
「どんだけ好きなんだっての!」
「普通だろ」
アルヴィスに自覚はない。だがエリナのことを思い浮かべながら話すアルヴィスは、とても優しい顔つきで明らかに愛おしい誰かを想っている様子だった。照れることさえしないから余計に本心なのだとわかってしまい、耐性がないガイには衝撃が強すぎだった。
一方、そんな国王夫妻には慣れているエドワルドやディン、レックスの三人はただ呆れたように見守っているだけだった。
数日後、アルヴィスはエリナにガイが作ってくれた特製ケーキを渡す。
円形を着飾っているのはピンク色のクリームが花の形を模しているもの。辺りにはハートを模した砂糖菓子が散りばめられており、これでもかとハートを振りまいていた。エリナと共にケーキを見たアルヴィスは、思わず苦笑いをする。
「すごいですね、これ。アルヴィス様のご友人の方が作ってくださったのですよね?」
「あぁ。俺がエリナのイメージを伝えたら、こういう形になったらしい」
「アルヴィス様の私のイメージ……なんだか照れてしまいますね」
ハートはすなわち愛情。それがふんだんにということは、それだけガイから見たアルヴィスはエリナを想っているように見えたということになる。当然、アルヴィスもエリナもそのことには気づいてた。
「でも、嬉しいです。アルヴィス様、ありがとうございます。いつかご友人にもお礼を伝えにいきたいです。また連れて行ってくださいますか?」
「……あぁ、また行こう。今度は二人で」
「はい!」
頬を赤く染めながらエリナは嬉しそうに返事をする。そんなエリナを抱き寄せると、アルヴィスはその頬に顔を寄せた。




