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「従弟の尻拭い」の短編集  作者: 紫音


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21/21

【祝福の日 2026】予期せぬ穏やかな日

いつものように本編の進行度は反映しています。

実際の時期は気にしないでお読みくださいw

本編がシリアスなので、こちらで和んでいただければ(;^ω^)

甘い二人と、子どもと戯れるアルヴィスが見たかったんです!!


 今年もこの日が来てしまった。来てしまったと思っているのはエリナだけかもしれない。中庭に置かれたテーブルと椅子。そこに座りながらため息を吐き、芝生の上で寝ころんでいる我が子とそれに付き合っているアルヴィスへと顔を向けた。


「きゃっきゃ」

「お前な……ったく」


 まだ歩くことは当然のこととして、寝転がることしか出来ない赤ん坊。それでも一生懸命に手を伸ばし、覗き込んでいたアルヴィスの前髪を掴んでいた。アルヴィスならばそれを解くことなど簡単だろう。だがそれをせずにされるがままになっている。すねているような言い回しをしながらも、その声色はとても優しかった。

 今日は珍しくアルヴィスは朝から王城に出向くことなく、後宮で過ごしている。戴冠式以降、朝から傍にいるというのは本当に珍しいことだった。


『今日は休養日を貰った、というか休めと言われてな』

『まぁそうなのですね』

『俺が休まないと、他の者たちも休みを取りにくいのはわかっていたんだが……』


 王太子時代から自分が納得するまで動くのがアルヴィスだった。それは国王となってからも変わらない。ただそうはいっても、休む時間は誰であろうとも必要である。この王城で働く者のトップにあるアルヴィスが休む暇なく動き回っていては、それに従う者たちが休みを取りにくい。アルヴィスが気にしなくても、宰相やエドワルド辺りが気にしているのだろう。半ば無理やり取らされた休日ということだ。

 ただ、この日を選んだのは偶然ではないはずだ。この日、祝福の日と呼ばれる日にエリナが何をしているのかなどアルヴィスの傍で仕えている人たちにとっては既知のはずだから。気を利かせてくれたのだということはわかっている。


「エリナ様、どうしたのですか? 陛下がせっかくお休みですのにため息ばかりで」

「サラ……」

「殿下や陛下とご一緒されれば宜しいのではありませんか?」


 そうしたいのは山々だ。だけれどエリナにも事情がある。アルヴィスと共にルトヴィスの傍にいられる時間は貴重だし、エリナとて傍にいたい。だが今日は祝福の日だ。ならばと、エリナはやらなければならないことがある。


「私もアルヴィス様のお傍にいきたいけれど、でも今日は……今年も今日のためにって色々と考えていたのよ。だからルトはミント様とナリスさんにお願いして、少しの時間だけでも厨房に行きたかったのだけれど」

「では今から参りますか?」

「そうしてしまったらルトとアルヴィス様のお姿を見られなくなってしまうじゃないっ」

「……ふふふ、お嬢様ったら」


 小さいながらもそう訴えかければ、サラはぷっと吹き出して笑った。準備をしたいならば向かえばいい。わかっていてもエリナが動かなかったのは、アルヴィスとルトヴィスの二人の姿を見て居たかったから。普段は一緒にいることがないため、こうして明るい場所で父子として触れ合っている姿は貴重なのだ。準備だって、料理が不得手なエリナだから時間がかかってしまうかもしれない。その時間さえも勿体なく思ってしまう。


「アルヴィス様がお休みだと、もっと早く知っていたら昨日のうちに準備したのに」

「まぁ」


 そんな恨み節すら出てきてしまい、余計にサラに笑われてしまった。

 エリナだってもっと手際よく、色々と凝ったものをアルヴィスに渡したいのだ。それなのに、勉強やダンス、作法だって問題なくこなしてきたと言うのに料理だけはどうしても上手くできない。エリナからすれば十分上達した方なのだけれど、大切な人に渡すのだから()()()()では嫌だ。


「エリナ様、お気持ちはわかります。ですがきっと陛下もエリナ様と一緒に過ごしたい。それだけできっととても喜ばれると思いますよ」

「でも毎年贈ってきたのだから、やっぱり――」

「エリナ様だって陛下が傍にいる方が嬉しくありませんか? 内緒で贈り物をというのも嬉しいかもしれませんが、いつも仰っているではありませんか。お会いしたいと」

「それは……そう、だけれど」


 いつも言っているとサラに言われてしまうと、少し気恥ずかしくなってしまう。朝起きた時、夜寝る時、気配は感じてもその姿を目にすることが減った。内緒で執務室を覗きに行ったことだってある。エリナも王妃としての執務を開始しているから、仕事という形では会話だってする。ただそれでも寂しいと思うのは、きっと寛いだ状態のアルヴィスを見ていないから。エリナだけに見せてくれる顔を見せてくれないからなのだろう。


「今回は料理長と私たちで用意しておきますから、エリナ様は陛下の下へ行ってください」

「……えぇ、そうするわ。ありがとう、サラ」


 どちらもを選ぶことが叶わないのであれば、どちらを選ぶか。エリナが言わずともサラにはわかっていたのだろう。サラの言葉にうなずいたエリナは、そのまま立ち上がりアルヴィスの下へと向かった。

 近づく気配に気づいたアルヴィスが芝生の上に座ったまま顔を上げる。先ほどは前髪をルトヴィスに掴まれていたのだが、それはどうやら右手の指に変わったらしい。小さな指がアルヴィスの指を掴んでいた。


「悩みは終わったのか?」

「っ、わかっていらっしゃったのですか」

「俺とて今日が何の日かは知っている。まぁ気づいたのは朝だったから、休みでもなければ忘れていたかもしれないけどな」

「それはそれでアルヴィス様らしいです」


 すべてわかっていたのかとエリナは肩の力が抜けるのを感じた。ならば意地を張っても仕方がない。アルヴィスの隣に座りこもうとすると、アルヴィスは上着を脱ぎ芝生の上に広げる。侍女らに頼めば敷物くらいは用意してくれるだろう。それでもエリナは変わらず気を遣ってくれるのが嬉しくて、何も言わずにその上に腰を下ろす。


「あー、あー」

「悪い、ルト。わかったからそう騒ぐな」


 上着を脱ぐために指を外してしまったようで、ルトヴィスの機嫌が下がったようだ。すぐにアルヴィスが右手を差し出すと、その人差し指を掴み己の口へと運んだ。あむあむというように口を動かす様子にエリナは笑う。


「はぁ……」

「今日は本当に甘えん坊ですね」

「そろそろ流石に離してもらいたいもんだ」

「あ、もしかしたらお腹が空いているのかもしれません」


 口を動かしていることから可能性として考えられる。エリナはルトヴィスを抱き上げて、アルヴィスの指を外させる。突然奪われたことでルトヴィスの顔がゆがむのが分かった。


「おぎゃぁぁぁ」

「ルト、そろそろお腹が空く時間でしょう」

「エリナ?」


 今日はエリナも休養日。今身に着けているドレスは少し変わったドレスで、胸元が開きやすい作りになっている。そう、母乳をあげるためだ。ここにいる男性はアルヴィスのみ。エリナは迷うことなく胸元を開いて、ルトヴィスに母乳を上げ始めた。やはりお腹が空いていたのか、ルトヴィスは一生懸命に口を動かしている。


「……すっかり母親だな、君も」

「そうだと嬉しいです。でも、先ほどはアルヴィス様もお父様でしたよ」

「あまり構ってやれてないから、こういう時くらいは、な」


 そう話しながらアルヴィスの視線はルトヴィス、そしてエリナの胸元へと注がれていた。不思議なものを見るようにしてアルヴィスに邪な考えがないことはわかる。わかってはいるのだが……。


「あの、アルヴィス様」

「ん?」

「そのように見られると、流石に私も恥ずかしいのですが」

「……あ、悪い」


 恥ずかしいと言えばアルヴィスは視線を外し、明後日の方向へと顔を向けた。その耳が赤くなっているのがわかる。

 ルトヴィスが満足したのを見計らって、エリナはルトヴィスをアルヴィスへと預けるとドレスを着なおした。再びアルヴィスへと向き直れば、満足そうに自分の親指を口に含みながらもごもごしているルトヴィスをじっと見つめている。


「アルヴィス様?」

「……エリナ」


 かと思えば顔を上げ、ルトヴィスを支えていない方の手をエリナの頬に添えてくる。驚く間もなく、アルヴィスの顔が近づき、そのまま唇が重なった。ここは中庭で、侍女たちの目もある中、まさかこのような行動に出るとは思わずエリナは目を見開いたままとなってしまう。顔に熱が集まってくるのがわかった。


「あ、あの……」

「悪い。どうしてもエリナに触れたくなった」

「いえその……嬉しい、のですが」

「気にしなくていい。他の者たちは下がっているから」

「え⁉」

「そういうことを察知することに長けていないと、侍女なんてできないらしい。イースラから聞いた話だけどな」


 空気を読むというか、そういう雰囲気になりそうになったら速やかに場を去る。静かに、悟られずに。アルヴィスからしてみれば、侍女たちが去るのは当然であり、なおかつ気配を読むことも出来るから、既に彼女たちが去っていたのも知っていたということらしい。つまり恥ずかしがっていたのはエリナだけだった。


「ずるいです、アルヴィス様!」

「あはははっ」


 アルヴィスが笑っている。騙されていたみたいで恥ずかしいけれど、だがそれ以上にエリナは声をあげて笑うアルヴィスを久しぶりに見ることができて、嬉しさと入り混じって複雑な心境だった。


 本当はもっと色々なことをやりたかった。祝福の日だからこそ、国王と王妃としてではなく、夫婦としての時間を過ごしたかった。だが今のこの時間がまさにそれだろう。

 それからたわいのない会話をしているところでアルヴィスが横になる。ルトヴィスをその腕に抱きながらも目を閉じてしまった。ルトヴィスは既に夢の世界だ。だがアルヴィスの胸元に顔を寄せると、口を動かしながら再びアルヴィスの指をくわえていた。


「本当に、ルトはお父様が大好きなのね」


 その袖口が汚れてしまいそうだが、それも仕方ないだろう。アルヴィスも笑って許してくれる。

 予定とは違う過ごし方だった。だがこんな日があってもいい。エリナはただ黙って眠るアルヴィスとルトヴィスを眺めていた。






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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます♪ 甘い2人と、ルトと戯れるアルビィス^ - ^ たまらんです( ^∀^)
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