【クリスマス特別編2025】アルヴィス視点
本編の進み具合は反映しつつも、時系列は気にせずご覧ください。
クリスマスといえばプレゼント交換だ!というところから思いついたネタです。
MerryChristmas(*´ω`)
「そういえば今年もそろそろじゃないですか?」
「あぁ、そうだな」
書類の束をひとまとめにし、ペンを置く。今日の執務はこれで終わりだ。といっても、既に空は闇色に染まってからかなりの時間を要しているけれど。
大きな窓から見上げる闇色の空。あと三時間もすれば、青白い空色が見えてくることだろう。
「王妃殿下と何か約束でもしていらっしゃるのでは?」
「……」
「アルヴィス様?」
エドワルドの言葉に、アルヴィスは数日前に交わした会話を思い出していた。
あれは珍しくエリナが寝る前に後宮へと戻ることができた日の夜。深夜にほど近かったけれど、エリナはルトヴィスを寝かしつけ終わった直後のようで、ベビーベッドの中を覗き込むようにしていたのだ。寝室へ入った物音で振り返ったエリナの顔は驚きに満ちていた。まさか戻るとは思わなかったのだろう。その後、何も言わずにただ抱き着いてきたエリナをアルヴィスは無言で抱きしめ返した。
しばらくそうした後でどちらかともなく身体を離し、物音を立てないように気をつけながら隣接しているアルヴィスの私室へと移動したのだ。
『おかえりなさいませ、アルヴィス様』
『ただいま、エリナ』
ソファーに座り、改めてエリナと挨拶を交わす。それだけでも随分と久しぶりだった。国王となってしばらくすると、アルヴィスは後宮へと戻らなくなったからだ。今は幾分、落ち着きを取り戻してきたとはいえ、それでも後宮に戻るのは週に二回ほど。それもエリナとルトヴィスの顔を見るだけになっていた。朝も早くでてしまうため、会話をする時間などほとんどなかったのだ。
隣に座ったエリナの顔色を窺いながら、アルヴィスはその手を顔に添える。するとエリナはアルヴィスの手に更に頬を寄せるようにして、アルヴィスの手を更に己の手で覆った。
『疲れてはいないか?』
ルトヴィスの世話を義姉のミントに手伝ってもらうようになり、エリナは王妃の仕事をこなすようになった。日中はミントがルトヴィスを見てくれる。その時間はエリナも王妃としての立場を優先し、朝と夜になればルトヴィスの母親としての姿を取り戻す。二足の草鞋を履いているような状態だ。満足に休めていないのではないのかという意味も含めての問いだったのだが、エリナは首を横に振る。
『大丈夫です。もちろん、王太子妃であった頃よりも大変ではありますけれど、これは私がやるべきことですから』
『そうか』
『それにあの子も以前より夜に泣くことも減ってきているので、私も十分に休むことができているんです』
不思議なもので、エリナが終始傍にいた頃と比較すると、今の方が夜も落ち着いて寝てくれる日が多くなっているらしい。できるだけ夜に寝てくれるようにと、ミントが日中にルトヴィスを遊ばせてくれているのだろうと。
『リング様もいらっしゃるので、もしかしたらそのお陰かもしれません。傍にいるミント様はナリスさんたちは大変でしょうけれど、たくさん遊んだ分だけ疲れて寝てしまうのではないかと仰っていました』
『そういうものか』
『とても親孝行な子です。それに甘えてしまっていて申し訳ないとは思いますが』
『王族として生まれるというのはそういうものだ。そもそも母が傍にいることなど、そう多くはないからな』
『はい、そうですね』
そういう意味ではルトヴィスは恵まれている。けれどいつまでエリナが傍にいられるかなどわからない。この先、王妃としてエリナが動くことは増えてくるだろうから。
『そういえばアルヴィス様、覚えていらっしゃいますか?』
『覚えている? 何を?』
『もうすぐあの日、特別な方と共に過ごす日ですよ』
『あぁ、もうそれが来る時期なのか……一年は早いな』
ついこの間、それをやった気がするのに。一年前はまだルトヴィスは生まれていなかった。それからも色々なことがあり、一日一日が過ぎゆくのが本当に早く感じてしまう。
『今年はアルヴィス様もお忙しいとは思いますから、無理にとはいいません。でも贈り物はさせてくださいませ』
『それなら、今年はお互いに欲しいものを贈り合うというのはどうだ?』
『欲しいものを、ですか?』
『いつも俺は受け取っているし、エリナがくれるものは何でも嬉しい。だがたまには欲しいものを強請ってほしいんだ』
エリナが欲しいと望んだものなんて、最初に送った指輪とペンダントくらいだったはずだ。強請ったわけではないにしても、エリナが望んでくれたのはそれくらいしかない。それ以外は、必要に応じて贈ったものが大半。そもそもエリナは何かを望むことはない。アルヴィスほどではないにしても、エリナも物欲は乏しい方だろう。
『アルヴィス様にいただきたいもの、ですか……』
『何でもいい。俺に贈ることができるものになってしまうが』
『……』
そういわれてエリナは少し考える素振りを見せる。すぐに思いつかないのであれば、また日を改めて教えてくれればいいと伝えたのだが、エリナは首を横に振った。
『いいえ、大丈夫です。その、少し無茶なお願いかもしれないのですけれど』
『構わない』
『……でしたらその……アルヴィス様がお使いになっているペンをいただけないでしょうか……?』
特別な日に贈り合うものを決めてから、アルヴィスは戸惑いの中にある。エリナのお願いを聞いてアルヴィスは正直意味がわからなかった。今の今まで使っていたペンをもう一度手に持つ。別になんてことない代物だ。中のインクを取り替えながら使い続けている代物で、学園時代から持っている何本かのうちの一つ。その中の一つが欲しいらしい。学園近くの店で買うことができるし、恐らく同じものを使っている者とて多いだろう。それだけありふれたペンなのだ。それを欲しがる理由が全くわからない。
「それでそのような顔をなさっておられるのですね」
「あぁ」
エリナとのやりとりを説明したエドワルドは呆れたように溜息を吐いた。国王夫妻ともあろうものが何をつまらない話をとでも思っているのだろうか。
「とはいえ女性らしいお願いごとではありますね」
「え?」
「昔からそういうことはあったでしょう。特にアルヴィス様は見に覚えがあるかと思いますが?」
「身に覚え?」
「持ち物を盗まれたことがおありではありませんでしたか?」
それは良くあったことだ。特に学園時代は何度盗まれたかしれない。犯人の多くが令嬢であり、面倒ごとを避けていたので最初は対処さえしなかったものの、対処した時であっても持ち物が戻ることはなかった。誰かが触ったことで嫌悪感が増し、その場で燃やしていたからだ。
「つまりはそういうことなのか?」
「好きな相手の使っているものを、同じものをもっていたいと望むのは女性として不思議なことではありません」
「……」
どうしてなのかを尋ねた時、エリナは顔を真っ赤にしながら王妃としての執務でも使ってみたいのだと言っていた。店で新しいのを買ってくるといっても、アルヴィスが使っていたものがいいのだと譲らなかったのだ。
見知らぬ誰かに使われるのは嫌だ。だがエリナが使うというのであれば別だ。嫌ではない、むしろそれを喜ばしいと思う己がいる。
「アルヴィス様に直接頼む事ができるのは王妃殿下だけですから」
「そうだな」
数本あるうちの中でどれを渡すべきかを考えた時、アルヴィスは机の引き出しの中から一本のペンを取り出す。同じものではあるけれど、これは学園時代に使っていたもの。盗まれることなく、アルヴィスが使い続けており、最初に手に取ったものだった。
「これにするか」
ではアルヴィスは何をエリナにおねだりしたのでしょうね(*´艸`*)




