【クリスマス特別編2024】家族三人で『エリナ視点』
今年のクリスマス短編です。
原作の進み具合は反映しておりますが、時系列については気にせずご覧ください!
メリークリスマス!(*´ω`)
「あぅ……」
「うふふ、可愛いわ」
つつくようにその柔らかな頬に指を滑らせる。少しだけ開かれた瞳はエリナと同じ色を持っていた。生まれたばかりの我が子を、エリナは飽きることなく見つめる。
「エリナ様、そろそろお時間は宜しいのですか?」
「サラ」
「王子殿下が可愛らしいのは確かにそうですが、本日は祝福の日ですよ?」
「えぇ、わかっているわ。今年は、アルヴィス様とこの子にプレゼントを用意してあるもの」
祝福の日。恋人や家族と過ごす特別な一日。それをエリナは結婚してから、アルヴィスと過ごしてきた。だが今年は違う。もう一人増えたのだ。大切な家族。二人のためにと、エリナはナリスから教わった編み物で作ったものを用意している。残念ながら、アルヴィスは夕方まで帰宅できないと言われているので、渡すのは食事時になってしまうだろう。
「あと二時間後くらいかしら」
「お聞きしてきますか?」
「ううん、大丈夫よ。もう少し、お父様を待っていましょうね」
まだまだ短い金色の髪に触れながら声を掛ける。意味はわかっていないだろうが、赤ん坊は気持ちがよいのか目を細めていた。まだ目に映る者もはっきりとしていないので、目の前にいるものが誰かなどわかっていないかもしれない。それでもエリナは話しかけていた。
そんな風にのんびり過ごしていると、部屋の外から慌ただしい音が聞こえてくる。何かあったのかと思い、サラに様子を見てくるようにお願いすると、少し経ってからサラが戻ってきた。
「エリナ様、殿下がお帰りになられるそうです」
「アルヴィス様が⁉」
「はい。お出迎えに行きますか?」
エリナは即答した。急ぎストールを羽織って部屋から出ようとすると、大きななき声が響き渡った。誰かなどわかりきっていることだ。ここに一人残していくわけではないが、それでも離れてしまうのが寂しいのだろうか。否、そうではないのだろう。この子は感じ取ったのだ。アルヴィスの気配を、そのマナの力を。
「今日は特別ですからね」
まだ首も座っていない。宮の外に出るわけにはいかないが、エントランスまでならばいいだろう。泣き叫ぶ我が子を腕に抱くと、羽織ったストールが落ちてしまう。すかさずサラがエリナにストールをかけなおしてくれた。
「ありがとう、サラ」
「いいえ。では参りましょう」
「えぇ」
泣き声をあげている子をあやしながらエリナはエントランスへと到着した。アルヴィスの姿がある。とエリナが思った瞬間、腕の中の子が激しく泣き始めた。
「お、おかえりなさいませ、アルヴィス様」
「ただいま……いつになくすごいな」
「先ほどまでは落ち着いていたのですが、今になって急に泣き始めて」
「そうか」
アルヴィスがエリナに近づき、腕の我が子ごと抱きしめてくれた。そしてそっと目元にキスを贈ってくれる。
「アルヴィス様」
「今日くらいは早く帰れって怒られてな」
「まぁ……リティーヌ様ですか?」
「半分当たり。ついでにリヒトもだ」
用事があり、薬剤研究室に顔を出したところで二人に遭遇してしまったらしい。近衛隊士たちの生暖かい視線もあって、今日は切り上げることにしたのだと。そう話をしている間にも、なき声は止んでなかった。
「わかったよ……別にお前を蔑ろにしているわけじゃないんだ」
そういいながら、エリナから子を受け取るアルヴィス。そろそろ泣き止んでくれと懇願すれば、なき声が止む。そのまま指を口に含みながらも、目を閉じていた。
「本当に不思議ですね。アルヴィス様が抱き上げると、大人しくなるなんて」
「それは俺にもわからないが、似ているから安心するだけだろ」
日頃不在が多いのだから、アルヴィスが抱くことで大人しくなるなら大いに利用してくれと言われてしまった。気にすることではない様子だけれど、なんだか腑に落ちないことは確かだ。特にエリナとナリスからしてみれば。
着替えをすると部屋に下がってしまったアルヴィスだが、再び手元にやってきても泣く気配はなかった。構ってもらえて満足したのだろうか。ベビーベッドに寝かせて、ナリスに見守りを頼むと、エリナはアルヴィスと二人で食事にすることにした。少し時間には早いけれど。
食事を終えてサロンで、二人で並んでソファーに座り、食後の休憩を取る。そこでエリナはアルヴィスに袋を手渡す。
「アルヴィス様、これを」
「これは?」
「今年はあの子もいて目が離せないことも多いので、それでも作れるものがいいなと思ったのです。それで、あの……お揃いにしてみたくて」
アルヴィスに渡したプレゼントは、手編みのカーディガンだった。それと同じ色の小さな羽織ケープは我が子のものだ。
「ありがとう、エリナ」
「いいえ、これくらいしかできませんけれど」
公務も出来ず、アルヴィスに負担をかけてばかりだ。だから今年もちゃんと贈り物をしたかった。エリナの我がままでもある。お揃いの姿を見ることができたらという願望もあるけれど。
すると、アルヴィスは懐に手を入れて小さな箱を取り出した。
「アルヴィス様?」
「俺からはこれを」
「……開けても宜しいですか?」
「あぁ」
結ばれているリボンを解き、包装を外して中を開ける。そこに入っていたのは丸い瓶だった。見覚えのある紋章。これはランセル家のものだ。化粧品と呼ばれる類のもの。手荒れを防ぐためのクリームだった。まさかアルヴィスからこのようなものを渡されるとは思わず、エリナは驚いてアルヴィスを見上げた。
「アルヴィス様、これ……」
「シオの伝手を使った。時間もなかったというのは言い訳だが、義姉上もリングが生まれたばかりの頃に、悩んでいたことがあると兄上から聞いていたから」
だから事前にシオディランに頼んでいたという。シオディランならば妹のハーバラに聞いて、エリナに合いそうなものを用意することは可能だ。アルヴィスがこういったことで友人を頼ることが珍しいことは、エリナもよく知っている。自分のためだとしても友人を頼ることに躊躇いを覚える人だ。それをエリナのために使ってくれた。そのこと自体が何よりも嬉しかった。
「ありがとう、ございます。大切に使わせていただきます」
「喜んでくれたならよかった」
心から安堵したという風にアルヴィスが微笑でくれる。エリナの好きな表情だ。はしたないと思いながらも、エリナは隣にいるアルヴィスの首に腕を回し抱きついた。
「私、とても嬉しいです」
「そっか」
お礼にと、エリナからアルヴィスにキスを贈ろうと顔を近づけ、二人の陰が重なろうとするその時だった。
「おぎゃー」
「っ……」
宮内に響き渡る泣き声。どうやら起きてしまったらしい。エリナとアルヴィスは顔を見合わせて笑う。
「あの子のところに行きましょう、アルヴィス様」
「あぁ、そうだな」