【祝福の日2024】エリナと一緒
バレンタインデー恒例の小話です。
今回は、エリナとリティーヌ。ホワイトデーはこの反対にアルヴィスとリヒトになるかと、たぶん(笑)
いつものように、どこの時間軸かは気にせずご覧ください。
ハッピーバレンタイン!!
「エリナ!」
「リティーヌ様!」
今日は好きな相手に贈り物をする日。アルヴィスと婚約してから続けてきたエリナにとっては恒例となりつつある特別な日だ。エリナは今回も何か手作りの物をアルヴィスに渡すつもりだった。その話を聞いたリティーヌが、自分も何かやってみようかなと言い出したのが始まりだった。
後宮侍女から近衛隊士を通じてアルヴィスの下に届けられたそれは、軽い世間話のつもりでエリナにも伝えられた。そうしてエリナからリティーヌに「ならば王太子宮で一緒に作りましょう」と声がかけられたのが、今のこの場である。
「ようこそおいでくださいました」
「割り込みしたみたいになってごめんね」
「いいえ、アルヴィス様からお聞きしていますから」
「ありがとう。でも私、本当にやったことがないから、何から手を付けていいかもわからないのよね」
エリナも最初はそうだった。サラをはじめとして、どれだけ周囲の人たちに迷惑をかけたかわからない。今でも傍でハラハラとしながら、こちらを見ているのは料理長だ。こと料理に関してのエリナの不器用さを知っているからこそ、心配で仕方ないのだろう。それに今回はリティーヌも一緒なのだがら、その心労は計り知れない。
だが料理長の心配をよそに、リティーヌははじめての手付きとは思えない手際の良さを見せた。間違いなくエリナの方が手際が悪い。そんな風に言うと、リティーヌは「研究と似ているから」と言っていた。研究がどういうものか想像することしかできないので、エリナはそういうものかと納得したのだが……。
「出来上がりました!」
「えぇ、我ながら初めてにしてはうまくできたと思うわ」
「とても上手です、リティーヌ様」
最初に比べればエリナも上手になったとは思うが、出来栄えだけを見るとリティーヌが作った方がよほど形がよかった。崩すのがもったいないくらいだ。
「さっそく届けに行きましょうか」
「届けに……どちらに行かれるのですか?」
「もちろんアルヴィス兄様のところ。今日は城にいるってエドから聞いているし、執務室にいるはずよ」
確かに届けられるのならばエリナも届けたいが、このままというのは少々恥ずかしい。もう少し丁寧に包んで、手紙も添えたりしたい。出来栄えに自信がないからこそ、せめてこういったところは凝っておきたいのだ。
「私はお帰りになったところでお渡しできるように準備します。ですから、リティーヌ様はお先にお渡ししてください」
「でも……」
「せっかくですから」
エリナと違い、リティーヌには時間が限られている。そろそろ後宮に戻らなければならない時間だ。リティーヌの前には簡易な箱が二つ。アルヴィスと、おそらくもう一人渡したい相手がいるのだろうということはエリナにもわかっていた。エドワルドではない、別の誰か。それを指摘したりはしないけれど、その相手の下にも行きたいに違いない。
「リティーヌ様、大丈夫ですよ」
「エリナ……そうね、行ってくるわ。先に兄様のところだけれど。何か伝言があれば伝えるわよ?」
「では、早く帰ってきてくださいね、と伝えてもらえますか?」
こんなことを言うのは気恥ずかしいけれども、それがエリナの素直な想いだ。今日は早く帰ってきてほしい。もしかするとアルヴィスは今日という日を忘れているかもしれない。でもリティーヌが向かえば思い出すだろう。伝言という形はずるい気もするけれど、アルヴィスなら笑って許してくれる。
「えぇ、エドにもよーく言い含めてわね」
茶目っ気たっぷりに言うと、リティーヌは部屋を後にした。
******
その日、アルヴィスが帰宅したのは予想以上に早かった。晩餐どころではなく、更に早い時間でエリナもまだ準備をしていたところだったので驚いた。ただ気になるのは、顔色が随分と悪いことだ。
ソファーへと座り込んだアルヴィスの傍にエリナは駆け寄る。
「アルヴィス様⁉ 一体どうされたのですか?」
「エリナ……いや、どうというか……リティのがな」
「リティーヌ様の?」
リティーヌは宣言通りアルヴィスの執務室へ届けに行ったらしい。味見をしてほしいと迫ったらしく、仕方なくアルヴィスはリティーヌが持参したソレを口にした。
「それが一体どうして……?」
「……リティ、一体何を入れたのかわかるか?」
「えぇっと、その私と同じようにとお伝えして、それで」
エリナも間違えないように必死で、リティーヌより早くならないように気を付けているだけで、その手元まで見てはいなかったことに気づく。あまりに手際が良かったこともあって、何も不安に思わなかった。完成品もとても綺麗にできていた。
そのままアルヴィスへ伝えると、アルヴィスはぐったりしてエリナの肩へ頭を置いてきた。
「エリナ……頼む、今度からは自分で味見をするよう、頼んでくれ」
「は、はい。あのアルヴィス様、リティーヌ様はもう御一方には」
もう一人手渡しにいったであろう人物を思い浮かべて、エリナは顔面蒼白になる。まさかとは思うが、このアルヴィスの反応を見て思いとどまったと思いたい。だが、アルヴィスは首を横に振った。
「あぁ、リヒトのところに行ったはずだ……あいつならいい勝負だろう」
「え?」
「毎度、あれの実験台にされてたんだ。たまにはされる側にもなってみればいい……」
「えっと……それは」
「旨いから、そのままリヒトに渡せと言っておいた」
「あはは……」
あえてやめろと言わずに、行けと伝えたらしい。この様子では、リティーヌの前だけ耐えていたのかもしれない。もちろん、王城内を歩くときも。王太子宮へ帰ってきてはじめて態度に出したのだろう。エリナは肩に収まったままのアルヴィスの頭をなでる。
「お疲れ様でした、アルヴィス様」