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不便の発明家  作者: アオニシキ
本編
9/19

9 貸し借り、自動販売機


 部室にて、ある明らかな異物があった。いつも通りに思って部室に入った瞬間にこんなものがあって、あっけにとられて聞くことが出来なかった。


 部室の壁際に、自動販売機が鎮座していた。


「スルー出来ないほどの異物感! どうやって用意したんですか、これ!」

「よかった、気付いてもらえないかと思ったよ!」


 やっぱり聞いてほしかったのか……

椅子に座ってから発芽先輩がしきりにチラチラこちらを見てくるから居心地が悪かったんだよな。言ったら即座に反応してたし、少し涙目だし。


「それで、これはやっぱり自動販売機ですよね」

「うん! そうだけど、何で首をかしげているの?」


 そう言って首をひねる発芽先輩。自分がやってもかわいくはないが、先輩がやると小動物のようでかわいい。それは置いておいて。


「この部活には微妙に合わないかなって思いまして。ただ便利ですよね」

「そうかなー、ポットもあるんだし今更かなって思うけど」

「あれはあれで好きですけど、会話をしないといけないといった不便さがあったじゃないですか」

「それなら安心して! この自販機にもあるから!」

「安心すればいいのか不安がればいいのか……でも、特に今はのど乾いてないですよ」

「残念」


 しゅーんとしないでください。小動物っぽくってこちらに罪悪感がわくんですよ。


「こんちはー」

「軽井君だーのど乾いてない?」


 会話していたら、軽井が出てきた。なんだかんだ言って、軽井はこの活動も楽しんでいて普通になじんでる。そして、自販機に放り込もうとする発芽先輩。そんなに使ってほしいんですか。そうですか。


「愛ちゃん先輩に曽倉だけかー。のどは乾いてないっすよ。お湯を沸かすのには付き合いますけど」

「ごめんね、美稲ちゃんは今日来れないって、涙してた」

「相変わらずなんですね、花咲先輩も」

「って、まってなんか自販機あるじゃないっすか。あーでも今お金持ってねー」

「そっか……残念」


 またしゅーんとなる発芽先輩。……ああ、もう。のど乾いたってことにしよう。


「先輩、のど乾いたんで自販機使ってもいいですか?」

「いいの!? いいよ!」

「おお、すっごい笑顔。曽倉はやっぱりロリコンかー」

「? また何か言った?」

「なーんも言ってないっすよー」


 後半は小声だったけど聞こえてるからな、軽井め。あとで花咲先輩に告げ口してやる。あーでも発芽先輩が聞こえてなかったら意味ないか。あの人発芽先輩のことでしか動かないから……。


 まあいいか。とりあえず財布から百円玉を出して、自販機に入れる。


 チャリン(自販機に百円玉を入れる音)

カラン(自販機の下から百円玉が出てくる音)


 ……カメラの時の花咲先輩の爆笑を思い出した。いやいや、きっと偶然だってもう一回入れれば大丈夫、大丈夫。


 チャリン(自販機に百円玉を入れる音)

カラン(自販機の下から百円玉が出てくる音)


 いやもう、まあ、三度目の正直って言うからね。でも財布から別の百円玉を取り出して。


 チャリン(自販機に百円玉を入れる音)

カラン(自販機の下から百円玉が出てくる音)


 ………………後ろで軽井が笑いをこらえてる気がする。絶対に振り返ってやらん。


 チャリン(自販機に百円玉を入れる音)

カラン(自販機の下から百円玉が出てくる音)

チャリン(自販機に百円玉を入れる音)

カラン(自販機の下から百円玉が出てくる音)


 もう心が折れたよ……さっさと聞こう。それで解決させよう。


「そ、曽倉。ドンマイ。買いますとか言って買えてないけど、ドンマイ」

「うるせーよ、一文無しの軽井」

「変な二つ名付けんな」

「ふっふっふ。コイン投入口をよく見るといいよ!」

「なぜですか」


 そう言いつつ発芽先輩に言われた通りさっきまで百円玉を入れていた場所を見てみる。気にしてはなかったけど十円玉の絵が描いてあった。その横にONLYの文字が、まさかかれは、と思いながら十円玉を取り出す。


 チャリン(無事十円玉が入る音)


 ……………………。


「これは十円玉専用自販機だよ!」

「確かに不便! これは不便だ! 部室に自販機って便利と思ってたのに!」

「ぶはっあはははは」

「文無し軽井は笑ってんじゃねーよ!」

「まあまあ、不便を楽しもう? 十円玉足りるかな?」

「先輩……、まあ、今ので十分のど乾きましたし買いますよ」


 チャリンチャリン、と十円玉を入れていく。確かに不便だ。というかなんで僕はこんなに十円玉持ってたんだろう。

 あ、妖怪イチタリナイが出た。


「あら、あと一枚足りない」

「残念だったな」

「やかましい、お前は財布無いから借りようにも借りれないしな……」

「はい、後輩君。十円玉だよ」

「って、いいんですか?」


 どうしようかと思ってたら小さな手が十円玉を差し出してきた。発芽先輩である。正直先輩にお金借りるのはどうかと思ったので聞かなかったんだけど、差し出してくれたものを押し返すのも失礼かと思って受け取った。


「ありがとうございます。無事に買えました」

「エヘヘ、良いってことよ」

「明日ここで十円返しますね」

「……ありがとうね」

「? お礼を言うのはこっちですよ?」


 まあ、気にせず明日もここに行こう。十円も返さないといけないしね。


「あ、愛ちゃん先輩、俺も明日くるんで!」

「軽井君に言われてもねぇ」

「え、ひどくないっすか!」

「なんの話してるんですか」


 それにここは、とても面白い場所だからね。





何でこいつは十円玉を持ち歩いてるんだろう……


それは、無茶ぶりに答えるためさ!

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