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不便の発明家  作者: アオニシキ
本編
7/19

7 軽井の告白


 放課後、外の自動販売機前にて花咲先輩と待ち合わせをした。おそらくそろそろやってくるだろう。上手く発芽先輩をごまかしてこちらに来れるといいけれど……と、そう思っていると廊下をきりっとした先輩が歩いてきた。隣に小さい先輩を連れてないから無事まけたのだろう。


「花咲先輩、すみません急に呼んでしまって」

「ああ、それは問題ない。それより、何の用だ? 曽倉」

「その前に、部活前に時間を取ってもらってありがとうございました」

「そういうのはどうでもいいから、手早く済ませてくれよ。アタシは早く部室に向かって愛でたいのだから」

「誰も見てないからって欲望をさらけ出さないでください……その発芽先輩に危機が迫っているとしたら?」


 この人本当に話が進まない……そう思って発芽先輩をエサにしたら速攻で食いついてきた、というより迫ってきた。


「どういうことだ! いや、何で曽倉はそんなに落ち着いているんだ! 今すぐ助けに行くぞ!」

「待ってください。まだ不確定なんです」

「は!? どういうことだ!」


 発芽先輩とは違った暴走の仕方なので落ち着かせるのも大変だった……といっても癖をつかんだらすぐだったが。具体的には発芽先輩がいるかのように後ろへ呼びかけたらすぐだった。この人発芽先輩のこと好きすぎるだろう。

 とにかく、花咲先輩と初めて会話した後に軽井から先輩を紹介してほしいと頼まれたことを説明する。


「それでアタシにその軽井をどうにかするために相談したわけか」

「そういうわけです。どちらの先輩を紹介して欲しいかは言われてないので花咲先輩の方を紹介する……と見せかけてこちらも奴を見極めようかな、と」

「なるほど、面白い考えだ。アタシも協力さ褪せてもらうぞ」

「お願いします」


 こうして軽井則義かるいのりよし内心調査作戦が始まるのだった。



 ところ変わって、あまり人の寄り付かない校舎裏に軽井を呼んだ。呼びかける時には気が向いたから紹介してやるって言っただけなのに、軽井のやつはすごくうれしそうに忘れられてると思ってた、と言っていた。

 できれば忘れたままにしておきたかったという本音は覆い隠した。さて、お前の内心を調査させてもらおう。


「お前が軽井か。話は曽倉から聞かせてもらっている」

「おおぉっ! 曽倉、お前ほんといい奴だな! しっかりセッティングしてくれるなんてなー、嫌われているかと思ったぜ」

「背中をバシバシ叩くんじゃない」


 引き合わせた途端にこのテンション。もうこういう奴なんだと諦めるしかないか。まあ、このテンションはどうでもいいんだ。こいつの本性を暴くのが目的なのだから。


「改めて、アタシは花咲だ。まあ、よろしく」

「うっす、軽井則義っす! 俺のことは気軽に呼んでくれると嬉しいっす!」

「あ、ああ。軽井だな」

「下の名前も教えてくれると嬉しいっすねー」

「は? お前は何を言っているんだ?」


 思った以上に軽井は花咲先輩にグイグイ行っている。発芽先輩目当てではなかったのだろうか?


「まあまあ、落ち着け、軽井。僕は先輩に引き合わせただけだから、そんなに押すと嫌われるぞ」

「むぅー、それは嫌だな。すんません、俺は距離感を初対面で測るのが苦手で」

「そ、そうか。まあ、アタシはそんなに気にしないさ」

「まあ、そんなわけで、本題に入らせていただきますね」


 本題? こいつは自分から目的を語ってくれるのか?

 軽井は、軽く深呼吸をすると、ここまで浮かべていた笑みをスッと消して真剣な顔になった。


「花咲さん。俺と付き合ってもらえないっすか!」


 唐突に落とされたその爆弾発言に、僕も花咲先輩も一瞬反応が出来なかった。それをいいことに軽井はさらに爆弾を放り込む。


「本当は下の名前で告白したかったっす」

「でも、何か警戒されてるし。もう自分の思いをごまかせそうにないですし」

「ですんで、回答は今じゃなくていいっす。その代わり近くに居させてください」


 この恥ずかしいセリフの数々である。僕は完全に思考が止まってしまった。また、ふと見てみると花咲先輩も予想外だったのか顔が赤くなっている。


「お、お前……恥ずかしくないのか」

「言うなよー、自覚したらめっちゃ恥ずかしいだろうが!」


 軽井の奴……いや、勇者軽井も赤くなっている。何かいたたまれなくなってきた。こいつ思ったより一途だぞ、発芽先輩の技術狙いなんてできそうにない、というか疑ってたこちらがすごく悪い奴のように思えてきた。どうするんだこれ……。


「……軽井、すまない。今はその思いに回答は返せそうにない。その代わりアタシと同じ部活に入れ」

「えっ! いいんすか」

「ちょ! 花咲先輩、混乱してないですか!」


 困惑していると顔はまだ赤いが再起動した花咲先輩が僕にとってさらに爆弾を落とした。花咲先輩が発芽先輩に危険がありそうなことをするわけがない。そもそも僕が発明部に入った時も警戒していたのにそんな花咲先輩が入部を勧めるなんて……


「曽倉、大丈夫だ、アタシは落ち着いているよ。ただ、本気の思いで自分を晒した相手に対してこちらが内面を隠しているままなのはすわりが悪いだけだ」

「……どういう事っすか?」


 軽井は分かってないみたいだけど僕は分かった。そうだよな、花咲先輩の外側に惚れたというなら部活中に発芽先輩を愛でてる姿を見ればがっかりされる、という事か。

 そのついでにいいことを思いついた。あれを乗り越える姿次第で軽井の本気度も見極められるし、軽井を疑った罪悪感を滅ぼす方法も思いついた。言い出したのは花咲先輩なので文句もきっと言われないだろう。


「ならとりあえず、部室に行きますか。きっと先輩も待ってますよ」

「そうだな、軽井も来るか」

「もちろん行くっすよ」


 三人で部室に向かう間、僕は内心これからまた変わっていくあの部室を思って微笑をこぼした。




……恋愛ジャンルなのに、主人公より先にぽっと出の奴が告白し始める不具合

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