15 密室体温計
前は遅くなってしまったので今日は少し急いで部室に訪れた。いつも通りよりも少し早い時間に部室にたどり着けた僕は発芽先輩いるかな? と思いながら部室に入る。
ちなみに、花咲先輩と軽井はまだ来れないらしい。
ガチャン!
入ってしばらくして、発芽先輩はまだ来ていないのかな? なんて思っていたら後ろから盛大に嫌な音がした。振り返ってみれば発芽先輩がにっこりと立っていた。後ろには明らかに施錠されたドアが。閉じ込められた……?
「おはよう! 後輩君。今日の不便だよ!」
「朝の定番コーナーみたいですね……今日は何ですか? 明らかに閉まってるんですけど」
ささっとドアを調べてみれば、うんともすんともいわない開く様子もなさそうな状態だった。完全に閉じられている。よく見てみなくても取っ手の部分にごつい機械があるのでこれが原因なんだろう。
「全然開かないですよ……これが不便ですか?」
「うん! 体温が上がらないと開かない鍵だよ!」
「金庫の時も思いましたけどセキュリティーとしては正しいのでは? じゃあ、筋トレでもしますか……」
「もちろん私の体温だよ! だから後輩君が筋トレしてもむだだよ!」
「そんな気はしてましたよぉぉぉぉ! 何やってるんですか発芽先輩!」
密室で男女二人という状況で体温を上げるとか変な想像しかできない自分が恨めしいっ……
そもそも発芽先輩は割とこんな状態になってもちゃんと解決策を用意してることが多い。今回も何かしらの解決方法があるのだろう。 というかそうじゃないと困る。主に自分の社会的立場とか(花咲先輩にばれたら殺される気がする)、自制心とかがっ……
でも、別に開き直ればこれはこれで面白いかもしれないなぁ。なんて考えてしまうあたり発芽先輩に染まってるよなぁ。
「まあ、別にいいんですよ。要は発芽先輩の体温を上げるようなことをすればいいんですよね」
「エヘヘ、まああ、そういう事になるかなー」
「どうしましょうか?」
「どうしよっか?」
「……まさかの無計画ですか?」
「……面白そうという事以外考えてなかったよ……」
どうするんだ、これ……
「まあまあ、不便を楽しもうよ!」
「そうですね、悩んでも仕方ないですし……いろいろやってみましょうか」
「いろいろって?」
「……縄跳びとか?」
「ひもがないよ? あやとりならできるけど」
「語感が似てるからって体温が上がらなさそうな遊びを持ち出さないでください……」
本当にどうしようもないじゃないか。あとは筋t……はもういいから!
「そうだ! 何か格好いいこと言ってみてよ!」
「何を言い出してるんですか……」
「ほら、格好いいこと聞いたら胸キュンして体温が上がるかもしれないし!」
「それは誰が言うんですか」
「後輩君以外いないよね!」
「勘弁してくださいよ……格好いい事なんてそんなに思いつかないですよ」
「じゃあ、二人で考えてみない」
「……そうですね、せっかくなのでポットもとってきます」
こうして思わず体温が上がる格好いい言葉を考えるという謎の行動に出ることになった。いろいろ言いたことはあるけど考えた言葉は僕が言わないといけないので手加減してほしい。
ポットを挟んで座ってお互い意見を言っていく事になった。
「まずは、私から! えーっとね……『君は幻想に住まう妖精のようだ』とか?」
「ファンタジックですね、この場で言ったら笑い転げそうな気がします」
耐えろ、キリッとしようとしていた発芽先輩がかわいいとかそれに比べて発言がそれ格好いいというより滑稽だったとかそれらすべて包括してなぜか面白いとか伝わらないようにしなければ……
「じゃあ、言ってみて!」
「言うんですか!? 絶対似合いませんよ」
「いーから!」
「……『君は幻想に住まう妖精のようだ』(キリッ)」
「……フフッ」
「笑わないでください! あーもう恥ずかしい」
「うん、この方針はダメだね」
「分かってましたよ……」
「エヘヘ」
はぁ、とため息を一つ。そりゃそうなるだろう。幻想って何なんだ。それに、
「それに妖精なんかに例えなくても発芽先輩は十分かわいいですよ」
「……ッ! な、なな何を言ってるの、もう! 後輩君……」
「僕の本音ですよ」
「そっ、そそそそそれって」
「……作戦失敗ですね。開いてないですよ」
「……」
「先輩? 真っ赤ですよ?」
「……後輩君のバカァァァァ!」
真っ赤になった発芽先輩はそういうと部室の隅に逃げてしまった。
……ちょうどいい。こんなに真っ赤になった顔を見られたくはない。まさか、本音が口からこぼれてしまうなんて思っても見なかった。とっさに作戦という事にしたけど発芽先輩がいじけてしまった。
いじけるってことは……いやいや、今はそれどころじゃないだろう。何とかして発芽先輩に機嫌を直してもらわないと。
それから、何とか機嫌を直してもらって、今は発芽先輩が僕の膝の上にいる。
……どうしてこうなった!
いや、何でかっていうと簡単なんだ。発芽先輩が膝の上に座らせてくれれば機嫌を直すっていうから! 僕は悪くない! ……まさか、イヤホンの時よりも近くに来る事になるとは思わなかったけど……
「発芽先輩、機嫌は治りましたか?」
「むふー、うん。もう怒ってないよ」
「じゃあ、この方法が確実にドアを開ける方法っていうのはどういうことか教えて下さいよ」
そう、一応僕がこの体勢を了承したのは発芽先輩が確実にドアを開けることが出来ると一押ししたからでもあるのだ。理由は教えてくれなかったけど。
「えー、ないしょだよ。後輩君は自分で考えなさーい」
そんなことを言ってすり寄ってくる先輩。少し赤くなっているあたり体温が上がってそうだ、なんて考える余裕も今の僕にはないんだけれど。それでも、自分も体温が上がっているから分かる。
その、好きだって思う人がくっついて、甘えるように体を寄せてくるんだから、もうね、自制心が大変な事になっている。少し会話したらポットが反応してお湯が沸いたことを教えてくれた。これを気には慣れてくれないかと思ったが発芽先輩が手を伸ばしてポットを止める。膝の上から離れる気はないようだ。
仕方ない、鍵が開くまで我慢するか……そう思ったところ、ドアからガチャンと音がした。どうやら我慢の時間は終わったようだ。
「開きましたね」
「開いたねー」
「紅茶でも飲みますか?」
「……うん。そしたら帰ろっか?」
「そうですね」
紅茶に負けないくらい真っ赤になった僕たちはそのあとのんびりと帰る支度をするのだった。
『君は幻想に住まう妖精のようだ』
書いてて一番笑いそうになった場所です




