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不便の発明家  作者: アオニシキ
本編
14/19

14 密着イヤホン


自覚させられたり、その恋心をごまかそうとしてみたりしたけど、いつも通り日々は回っていくわけで。僕は今日も発明部の部室に来ている。軽井も花咲先輩もまだ復帰できないみたいで僕はここのところ毎日ここに来ている。

 結局いつも通りに発芽先輩と接するようにって思って、これが案外うまくいってる。ポットを挟んで会話するのも楽しいし、一度『あいうえお』しか喋れなくなる薬の改良版を飲んで『あいるてし』しか喋れなくなったりしたけど、結局思いは変わらずにここに来ている。


 ……解毒薬は準備されてたからよかったよ。本当に。


 まあ、今日も少し不便なものを使ってその不便を楽しもうかな、といった気持ちで部室に入った。


「あ、後輩君! 今日は新しいもの作ってきたんだよ! 待ってたの」

「こんにちは、発芽先輩。その手もとの物ですか?」


 今日の発芽先輩は椅子に座って足をぶらぶらしながら待ってたみたいだ。かわいい。


「いや、違うよ、これはいわゆるただの音楽再生機器で、本命はこれだよ」


 そう言って発芽先輩が掲げたのはひも状の物。音楽とひも状のものと言えば、イヤホンかな? だけどイヤホンにしては明らかに絡まってるというか……


「イヤホン、ですか? すごく絡まってますけど」

「そうだよ! って、うわー! 絡まってたー!」

「ちょっ、落ち着いてください。もっと絡まりますよ!」


 久しぶりに、発芽先輩を落ち着かせて、二人でゆっくり絡まったイヤホンをほどいていった。ただ、すごく絡まってた理由がなんとなくわかってきた。

 イヤホンの音が出てくる場所、普通は右と左の二つのはずだけど今ほどけた目の前にある推定イヤホンには四つついているのだ。

五つのひもがごちゃごちゃになってたから物凄く絡まってたというわけだ。


「確かに不便ですけど! 四つって、使い道がないですよ!」

「二人専用イヤホン! 一人じゃあ音漏れ必須だよ!」

「もしかして、僕を待ってた理由って」

「これを使いたくて!」

「ああ、そうですか……」


 いや、うん。待っててくれたのかという思いはあったんだけど、先輩はいつも通りみたいだ。


「じゃあ、先輩がなにを聞いてるのかも気になりますし、聞いてみますね」

「エヘヘ、ありがとうね」


 そう言って、先輩はこちらに近寄ってきた。もうすでにイヤホンを付けているから、残った二つを手渡そうとしているんだろう、そう思ってた。


「じ、じゃあ、こっちに来て」


 そう言って先輩は照れ臭そうにこちらの手を取って座ってた椅子に踊ろうとする。少し照れてる先輩はかわいいけどそうじゃなくて。


「な、ちょ、なんでですか!」

「イヤホンの長さがね……そんなに長くないの。対面に座ったら届かないよ」

「え、ええ? つまりどういうことですか?」

「だから、いっ……隣に座ってほしいかなって」

「ああ、な、なるほど? じゃあ、椅子取ってきますね」


 なるほど、そういう事なのか。確かにイヤホンの長さてきに対面じゃあ届かないよなぁ。……という事は隣で一つの音楽を聴くのか!

 なんか、嬉しいのと恥ずかしいのが混ざって何とも言えないな……。


「じゃ、じゃあ、はい。後輩君の分」

「あ、ありがとうございます」


 それで、側に来た発芽先輩と一緒に先輩おすすめの恋愛ソングを聞いたりした。先輩は歌詞に出てくる女の子の心情がものすごく好きみたいで、一つの曲が終わるごとに楽しそうにこの部分は……と話してくれる。

 そんな歌の歌詞に夢中な先輩が可愛いなぁ、と思いながら発芽先輩と音楽を楽しんでると、ふいに先輩がこちらに体を預けてきた。


「ちょっ!? せ、先輩?」

「エヘヘ、後輩君はあったかいなぁ」

「ちょっと! 何でくっついてるんですか」

「後輩君は……イヤ?」

「嫌じゃないですけど……」


 じゃあ、もう少しくっつかせてー、と笑う発芽先輩を見て、かわいいからか、ねこのように絡んでくることすら許容してしまう、そんな自分にどんだけ深く惚れてるんだよと、内心で思うのだった。


 あったかい発芽先輩の体温を感じて、恋愛曲の気分を味わうことになったのだった。






こんなイヤホンはいらない(相手がいないので)

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